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違っている私たちがいっしょに生きていくこととは。20の国籍、24名の生徒の多文化学級を追ったドキュメンタリー映画『バベルの学校』

異文化、多様性…よく聞くけれど、自分にはそんなに身近ではない、と思っている人も多いかもしれません。しかし東京の区内では、結婚するカップルの10組に1組が国際結婚という時代。身近に異なる国籍や文化を持つ人がいることは、めずらしいことでもなんでもなくなりつつあります。

映画『バベルの学校』に出てくるのは、フランス、パリ市内の中学校のあるクラスに集まった、フランスに移住して来たばかりの24人の生徒たちです。アイルランド、セネガル、ブラジル、モロッコ、中国… 20の異なる国籍を持つ彼らは、宗教や文化の違いを越えて、友情を育むことができるのでしょうか?
 

11歳から15歳までの子どもたちにはそれぞれの事情がある

日本ではこういった環境は、あまりなじみがないかもしれません。しかし、フランスには毎年3万5千人から4万人の子どもたちが移民・難民としてやってきます。

紛争や経済的な理由などで自国を離れざるを得なかった子どもたちは、はじめはフランス語もできないため、「適応クラス」という学級でフランス語を学び、必要な勉強をしてから通常の学級に入ります。この映画は、ある適応クラスの一年間を追ったドキュメンタリーです。

異文化に葛藤する子どもたち

ジュリー・ベルトゥチェリ(以下、ジュリー監督)は、毎週2~3回クラスに通い、1年間ずっと生徒たちと過ごしながら映画を撮っていきました。

「もし自分が子どもで、突然言葉もわからない海外で暮らすことになったら?」と考えてみてください。誰かに助けてもらわなければ生きられません。彼らをはじめて見たときに、「ここは世界のシアターだ」と思ったのです。

ひとつの舞台の上に異なる個性の役者がいるように、子どもたち一人ひとりが違っている。でも、勝手がわからない舞台で突然演じられないように、フランスでいきなり生活をはじめるのはとても大変なことです。

遠い国で困っている人を助けることも大切だけれど、私はまず隣人に手をさしのべたい、そういう思いから、フランスの中の「世界」である子どもたちにフォーカスした映画を撮ろうと決めました。

フランス語もままならない子どもたちは、慣れない環境の中で違う文化をもつクラスメイトと切磋琢磨しながら、少しずつフランスと自分自身、そして異文化を知っていきます。映画ではその葛藤や、彼らの成長がありのままに描かれています。
 

右がジュリー・ベルトゥチェリ監督、左がブリジット・セルヴォーニ先生

生徒たちを教えるブリジット・セルヴォーニ(以下、ブリジット先生)自身も、14年間の海外生活を経験しているそうです。ハンガリー、チェコ、ギリシャなどで教師をしながら生活した体験を活かしたいと、この適応クラスの先生になりました。映画では、その経験が感じられるシーンがいくつも出てきます。

例えば、生徒たちが自分たちの宗教について、議論をするシーンがあります。同じ宗教でも、国や地域によって考え方が異なることもあり、あいさつの解釈ひとつとっても、生徒の間では意見が分かれます。

「そうじゃないでしょ?」「私の国のことよ。あなたになにがわかるの?」と激しい言い合いになる様子も映し出されます。

フランスでは、一般的に宗教のことを学校に持ちこんではいけないとされています。でも、ブリジット先生は生徒たちが宗教について話しはじめたときに、止めることはしません。

どうして話させるかというと、生徒たち自身が話し合うことで、「自分とこの子とは違うんだ、でも違ったままでいっしょに生きていけるんだ」ということがわかるからです。

それを先生の言葉や教科書で「宗教はこういうものだ」と押しつけてもわかりません。自分たちの体験から学んでいくことを大切にしています。


フランス語が流暢でない分、ストレートな会話が交わされていく

映画には、話し合うシーンがたくさん出てきます。生徒同士、生徒と先生、先生と親…。親が「中国では、女の子が自分の意見をいう文化がないので、この子は自分のことを話すことになれていないんです」と先生にいうシーンがあります。それに対して、先生は「ここはフランスなので、なれていかないといけません」といいます。

日本人なら、この中国人の女の子に共感する気持ちが強いかもしれません。一方、ヨーロッパ人がこれを見たら、「なぜあの女の子はあんなにおとなしいのだろう?」と思うかもしれません。

「バベルの学校」は、ひとつの答えを提示するのではなく、あくまでも生徒たちの日常を切りとることで、私たちに様々な問いを投げかけ、その問いこそが私たちの文化的バックグラウンドからきていることに気づかせてくれます。

移民に対する見方が変わる

この映画はフランス国内でも話題になりました。移民の多いフランスですが、フランス人でもこのような適応クラスのことを知らない人も多く、この映画ではじめてこうした移民受入の政策を知った人もかなりいたようです。

また、メディアが移民の子どもが起こした事件を大きく報道するので、「移民の子どもは犯罪に走りやすい」というイメージがありました。しかし、ほとんどの子どもたちは自国で勉強ができる環境になかったので、学びたい意欲がとても強いのです。

そういう姿を映画で観たことで、「移民の子どもたちへの見方が変わった」、「社会への希望が感じられる」、という人がたくさんいました。この映画は、一人ひとりの生徒の成長物語であると同時に、フランスという国の姿勢を強く打ち出しているといえるでしょう。
 

教室の中の子どもたちの姿から、フランスに来た背景も見えてくる

その後の生徒たち

2012年に撮影された「バベルの学校」ですが、2年経って生徒たちはどうしているのでしょうか?ジュリー監督に聞いてみました。

生徒たちは全員高校生になり、今も連絡を取りあっています。今ではフランス語もすっかりうまくなり、フランス社会にも溶けこんでいます。

映画で、当時がんばっていた自分の姿を見ることで、自分自身を誇りに思っているようです。さまざまな理由で、自分の国に帰った子も3人います。「輝く個性を持つ彼らの10年後の姿をまた映画にしてみたい」とも思っているんですよ。

フランスの中の「世界の縮図」を描いたこの作品には、誰もがはっとするさまざまな気付きがあります。異文化や異なる意見を尊重しあい、ともに生きていくことは、どこでも必要なこと。そしてこれからますます求められていくことではないでしょうか。

「バベルの学校」は、日本では2015年1月31日に公開されます。子どもたちの姿をぜひ観てみてください。
 

– INFORMATION –

 
「バベルの学校」
2015.1.31(土)新宿武蔵野館・渋谷アップリンクで劇場公開!
http://unitedpeople.jp/babel/

東京:新宿武蔵野館 2015年1月31日(土)~
東京:渋谷アップリンク 2015年1月31日(土)~
神奈川:横浜シネマ・ジャック&ベティ 2015年3月7日(土)~
大阪:シネ・リーブル梅田 2015年3月予定
福岡:中洲大洋映画劇場 2015年2月14日(土)~2月27日(金)