パッパライライの魅力を伝えるのは難しい。
古民家を改装したレストランやカフェは今やどこにでもある。外は日本家屋、中はモダンなインテリアという組み合わせも、特に目新しいものでもない。ランチに野菜たっぷりのサラダや、ヘルシーで見た目も美しい料理を出していたり、そこにデザートやドリンクが付けられるのも、カフェでは当たり前のこと。
パッパライライは、言葉にするとそんなどこにでもあるお店と同じ要素がたくさんある。だけど、一歩足を踏み入れると、一口サラダを食べると、どこにも無いセンスや心地良さを感じる。
今回は、そんな一言では伝えきれない魅力のあるカフェ&レストラン「パッパライライ」のオーナー、山西理恵さんにお話を伺ってきました。
山西理恵さん
パッパライライができるまで
インテリアの専門学校に行っていた山西さんは、卒業後に販売で働いたこともありますが、その後は飲食業界に。いくつかの飲食店での経験を経て、2011年にパッパライライをオープンしました。
パッパライライをオープンする直前に、アパートの一室で、妹さんがパン教室で山西さんが喫茶という形態のお店を3年半ほどやっていました。そこが手狭になったために、移転先を探していたところ、当時のお客さんの紹介で、今のパッパライライがある日本家屋に出会います。
そのアパートが古かったから、移転先は日本家屋とかじゃなくて、事務所や倉庫みたいなところを探してたんですけど、本当になかなか見つからなくて。日本家屋は考えてなかったけど、とりあえず場所が良かったので見に来てみたら、見に来たその日に決めてしまいました。
直感だからうまく言えないけど、玄関を入ってからの印象が良かったんです。古いお家だし、入った時に嫌な感じがあったらやめようと思ってたんだけど、入ったら“気”が良いというか。ここならできると思って。
荒れていて手入れは大変そうでしたが、庭があったというのも決め手でした。それに、物件を探している時から、カウンターと床は絶対にコンクリートにしたいというイメージがあり、確認をしたところその改装もOKでした。
こうやって、日本家屋の中にコンクリートとガラスという無機質な素材、そこに野菜や果物、花などのオーガニック(有機)なものが彩りを添え、クールにも甘くもなり過ぎない、心地良いバランスの空間ができあがりました。
コンクリートのカウンター
ウェイティングルームとして使っている2階の部屋
2階からの眺め
メインディッシュみたいなサラダ
お店のシグニチャーでもあるサラダの写真を撮るために、というのはこじつけでもあり、言い訳でもあり、とにかくパッパライライのサラダが食べたくて、お話を伺う前にランチタイムにお邪魔しました。
山西さんに「平日でも予約をされた方が確実です」と言われていた通り、何でもない平日にも関わらず、店内はすぐに満席に。
パッパライライのサラダは、いわゆるサラダと聞いて想像するものよりもうんと華やかで、野菜の種類もボリュームもたっぷり。野菜のメインディッシュと呼んだ方がよさそうです。
料理は、やっぱり季節のものを入れるようにしているのと、冬は温野菜を増やしたり、夏は少しマリネしたり、フレッシュなものを入れたりしています。でも、冷たいものばっかりじゃ体が冷えちゃうから、少し温かいもの、今日だったらたまねぎを蒸したのを入れたり。
野菜の仕入れは、福岡、熊本、鹿児島あたりのものを複数の八百屋さんから。当然ながら季節によってサラダの中身は変わります。
最初は、サラダの野菜は何種類以上入れると決めていましたが、それもどんどん増えて、今では常に10種類以上は入っているそう。食感を活かすために、野菜によって下ごしらえも変えています。
昔から手を動かすのが好きな山西さんは、サラダの盛り付けも色合せがすごく楽しいと言います。同じような感覚で、ブーケをつくったり、花を束ねたりするのも好きなので、最近は店先で花屋さんもやろうかと思案中。
夜、お店を開けない理由
パッパライライは、昔は夜もお店を開けていたことがありますが、今はランチとカフェタイムのみの営業。2階建てのゆったりとした空間や、ランチタイムの人気ぶりを考えると、今でも夜の営業を望む声は多いようです。
「夜お店開けないのはもったいない」ってよく言われるけど、でも夜に店を開けたらいつ遊ぶんだろう?って(笑)何のために仕事してるのか分からなくなっちゃう。
お金は必要だけど、バランスが大事というか。夜も営業すれば収入は上がるかもしれないけど、時間が無かったら他に何もできないし。そういう気持ちの余裕が無いと、お店に立っててもギスギスしちゃう気がして。
以前、夜の営業をしていた時に無理をして体調を崩し、キツイだけで全然楽しくなくなったことがありました。それからは、基本的に無理はしません。それに、暮らしのことが好きなので、家に帰って料理をつくったり、友だちの家で料理をしたり、他にもやりたいこともあります。
お店以外にやりたいこと
やりたいことというのは、例えばバイヤーの阿比留拓志さんとやっているプロジェクト「LA/BO」。自分たちの考える“ラボっぽいもの”をセレクトした、海外のキオスクのようなイメージのショップです。福岡の「COCTEAU」や東京・青山の「doinel」で展示会的にやりました。
山西さんは、ハニーナッツや季節のジャムなど瓶詰めのものをつくる、LA/BOのプロダクト担当。ハニーナッツは人気があったので、これからも定期的にイベントなどで販売する予定です。(パッパライライでは販売していません)
人気のハニーナッツ
また、福岡のショップ「TERCEIRO」のオーナー浅岡陽子さんと、不定期の料理教室「DISHES」もやっています。会場のTERCEIROにはキッチンが無いので、小さな洗い場と持参したカセットコンロ2つを使い、それでできる範囲の料理をつくります。必ずスープとデザートは入れて大体5品ほど。
DISHES
人から声をかけてもらうのもあるけど、自分でも興味があることは、お店以外のことも色々やってみたいんです。今は好きなバーが近くにあって、そこでバイトさせてくださいとお願いしてて。オーナーさんが、休みたい日に連絡するって言ってくれてます。
自分でもお店を持っているのに、空いた時間に他のお店でバイトとはこれいかに。
自分のお店ばっかりになると、好きなことも嫌になるでしょ。好きなことでも、ずっとやってると飽きるから、色んなことを新鮮な気持ちでやりたいんだと思う。
だから、お店は夜は営業できない(笑)。
確かに、好きなことでも長く続けていれば飽きることがあります。飽きっぽいという自分の性格が分かっているからこそ、常に新鮮な気持ちを保つために、営業時間を短くしたり、空いた時間に仕事みたいなプロジェクトをやっている、ということなのです。
パッパライライという店名には、一度聞いたら忘れられない面白い響きがあります。きっと由来も面白いに違いない、と意気込んで聞いていみたものの、答えは意外とあっさりとしたものでした。
友だちがスウェーデンでパッパライライというお店に行ったんです。現地の言葉で「ライ家のお父さん」という意味らしくて、お父さんのお陰でこうやってお店をやっていくことができているから、この名前にしてるんだよって。
そのエピソードが素敵だったし、響きもいいなと思って、そのままお店の名前にしました。
店名はお店の顔のようなものです。それなのに、自分で行ったことがないお店の名前を付けるというのは、何だか不思議な気もしましたが、店名の付け方ひとつとっても、山西さんの人柄が出ているようにも思えました。
古いアパートのお店から移転する時の理由は、手狭になったから。夜の営業をやめたのは、他にやりたいことがあるから。理由はいつもシンプルで、常に自分が居心地の良い選択をしています。それがお店の空気となって、来ているお客さんも居心地良く感じるのでしょう。
最初に「パッパライライの魅力を伝えるのは難しい」と書いたけれど、それはこのお店が山西理恵さん自身を表しているからかもしれません。
ずっと変わらないところもあれば、すぐに変わるところもある。見た目は女性らしいのに、中身は意外と男性的。でも気遣いの細やかさはやはり女性的だったり。パッパライライの魅力はそんな人間的なところにあるのです。
– INFORMATION –
Papparayray
福岡市中央区赤坂2-2-22
092-406-9361
営業時間: 11:30-18:00 (ランチタイム11:30-15:00 [OS] )
定休日: 木・金
URL: http://papparayray.petit.cc/
*11:30-12:00ご入店のご予約は受付けております。