2013年12月10日(火)東京・代官山AITルームにて
皆さんは「東京」というと、何を思い浮かべますか?参加者と共に東京についてさまざまな角度から語る、世界で唯一のオンライン映像事典「東京事典」は、立ち上げから3年目を迎えました。これまで研究者や芸術家など、50名を超えるゲストが東京を語り、その様子を映像で記録、公開してきました。
2013年12月10日、2020年の東京オリンピック開催が決まったことを受けて、東京・代官山AITルームにてラウンドテーブル「Towards a Spectacular Criticality?-東京、ダイジョウブ?-」が開催されました。
「東京事典」のこれまでの歩みを振り返り、東京の今と未来に考えを巡らせた当日の様子をレポートします。
無秩序な知のプラットフォーム
「東京事典」は2011年の震災後から2013年度まで「東京アートポイント計画」の一環として、現代アートの教育やアートを通した交流の場を提供するNPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ(AIT/エイト)と東京都、東京文化発信プロジェクト室により実施されたプロジェクトです。現在はAITが運営し、プレゼンテーション映像は不定期に更新される予定です。
主に、代官山のAITルームで行われる公開収録では、多様なゲストが「東京」をテーマに自由に15分間のプレゼンテーションを行い、その様子を撮影。続いてオーディエンスを交えて議論を交わす、というスタイルで行われてきました。ゲストのプレゼンテーション映像はすべてインターネットに無料で公開されており、事典としてアーカイブ化されています。
今回のラウンドテーブルの第一部では、仕掛け人のキュレーターらがこうした「東京事典」の構想とこれまでの歩みを振り返りました。
AITキュレーターのロジャー・マクドナルドさん(左)、小澤慶介さん(中央)、堀内奈穂子さん(右)
東京はフィジカルな場所、ハードであると同時に、いろんな言葉で形作られていくというソフトな面もありますよね。例えば「おもてなし」とか。発信していくワードでインフラが築かれていきます。
こう語ったのはAITキュレーターのロジャー・マクドナルドさん。「東京事典」ではこれまで、東京が「クリエイティヴ都市」「文化発信」「アーキテクチャ」など、多様なキーワードで語られてきました。
事典といえば通常、AからZまでに整理された一つの秩序に沿って構成されます。しかし、「東京事典」のアーカイブはプレゼンテーションのキーワードやプレゼンターの名前、肩書などの多数のタグの一覧でハイパーリンク状にアーカイブされています。
オンライン映像事典「東京事典」
見れば見るほど、東京についてわからなくなりますよね(笑)
とAITキュレーターの小澤慶介さんが語るように、「東京事典」はひとつに集約しない、多様な東京像を映し出します。
また、事典といえば一般的には言葉だけですが、映像にすることでプレゼンテーターの表情、言葉遣い、間(ま)や汗といった身体表現とともに、「今、ここ」での語りをより生々しく伝えます。
こうした独特のスタイルを持った「東京事典」は、東京について語る世界唯一のオンライン映像事典であると同時に、東京をさまざまな角度から映し、東京について考えるための知のプラットフォームだと言えます。
ダイジョウブじゃない「東京」
第二部では、これまで「東京事典」に登場した毛利嘉孝さん(東京芸術大学音楽学部音楽環境創造科准教授/社会学者)、アンドリュー・マークルさん(エディター)、兼松芽永さん(芸術の人類学)の3名を迎え、参加者も交えたトークセッションが行われました。
ゲスト3名を迎えたトークセッション
はじめに「行動する社会学者」の名を持つ毛利さんは、2020年東京オリンピック開催決定の効果で、長期的な視点で東京を考えるようになってきたのではないか、グローバル都市として発展する東京は今、アジアのグローバル都市に目が行き、国内の都市との繋がりが希薄化しているのではないかといった、現在の東京の社会的な構造変化を指摘しました。
そこに、新潟県十日町市松代地域に住みながら、越後妻有アートトリエンナーレをはじめとする地域の諸活動や事物の連関を人類学的な立場から研究する兼松さんが地方都市の視点を絡め、「ART iT」インターナショナル版副編集長を務めるアンドリューさんが芸術やメディアの視点を加えていきました。
アンドリュー・マークルさん(左)、兼松芽永さん(中央)、毛利嘉孝さん(右)
次第に「東京」を考える時間軸と空間軸が立ち現れてきたと同時に、効率化の行き過ぎや歴史とのつながりの欠如といった、“ダイジョウブじゃない「東京」”の姿も浮かんできました。
こうした現在のダイジョウブじゃない東京の現状から脱するために、分断された私たちをつなぐ「コレクティヴィティ」、資本主義などすでに取り込まれている体制に対する「クリティカリティー(批評性、批判性)の回復」などのキーワードが出ました。
この白熱の議論は、「東京事典」のYouTubeチャンネルで観ることができます。
コレクティブな軸から“次の何か”が見つかる
2時間にわたるトークセッションを終え、AITキュレーターの小澤さん、ロジャーさんは「東京事典とは何なのか」について、こんな風にまとめました。
小澤さん 東京というまちに対するクリティカリティ(批判的視点)を回復していくとか、新たに獲得していくきっかけとして、「東京事典」というのは、とにかく数多くの人たちがさまざまな視点や考えを提供している。
それを、見る人が自在に、例えばこのプレゼンテーションとあのプレゼンテーションがつながる、というように考えを膨らませて新しいものにしていけるようになっている。つまり、ある意味、知の運動体のようなもの。
ロジャーさん そうだね。あと、カタリストだよね。いわゆる引き金的な、何かこれまで語られてはいたもののあまり知られていなかった考えを提示して、人々の思考欲の引き金を引くというような。
小澤さん そう。だから、結論は見つからないかもしれないんだけど、そこに行くと何か次の方向性が見つかる。
ロジャーさん そうなんだよね。結論ではない。もっとモヤモヤしている。
小澤さん いろいろ知って、考えて、動いて、確かめてみるということをさせる。
ロジャーさん そうかもね。動くっていうのはいいかもね。
小澤さん というわけで、「東京事典」はこれからも、少しずつ、不定期ですが、いろいろな視点を盛り込んで東京が多様であることを知らせていきたいと思っています。ぜひ、ご期待ください。
「東京事典」を主催するNPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ(AIT/エイト)は、こうしたプロジェクトの他にも、現代アートの学校MAD(Making Art Different-アートを変えよう、違った角度で見てみよう)や、海外から芸術家やキュレーターを招へいするアーティスト・イン・レジデンスなどの多様な事業を行っています。
MADは、4月から新学期がスタートします。ラウンドテーブルのゲスト、アンドリュー・マークルさん、毛利嘉孝さんはMAD2014の講師でもあり、社会のさまざまな読み解き方を受講生とともに考えます。
皆さんも「東京事典」やスクーリングを通して、2020年に向かって動き出しませんか?