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未来の被害を減らしたい。被災地から自然災害への備えを啓蒙する「onagawa fish」

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ものづくりからはじまる復興の物語」は、東日本大震災後、東北で0からはじまったものづくりを紹介する連載企画です。「もの」の背景にある人々の営みや想いを掘り下げ、伝えていきたいと思います。

あなたは、自然災害に備えて何らかの防災・減災対策をしていますか?

東日本大震災により、誰もが「災害はいつどこで起きるかわからない」と痛感したことと思います。でも、時が経つにつれてその意識が弱まり、防災対策もしなくなってしまった、という人は多いのではないでしょうか。

宮城県牡鹿郡女川町では、震災後仕事を失った方たちが「onagawa fish」という、魚の形をした木製のキーホルダーをつくりはじめました。キーホルダーにしたのは、「いつもそばに置いて、思い出してほしい」という想いがあったからです。被災地のことを?いいえ、「自分も災害に見舞われるかもしれない」ということを、です。

このキーホルダーを企画・製作している「小さな復興プロジェクト」代表の湯浅輝樹さんにお話を伺いました。

被災した人のための仕事をつくりたい

湯浅さんがこのプロジェクトを始めたのは、震災後すぐのことでした。仙台を拠点に地域活性化の仕事をしていて震災前から女川と関わりがあった湯浅さんは、お世話になった方々が心配で、震災から一ヶ月後に女川を訪問。そのあまりの惨状に言葉を失ったといいます。

見渡す限り瓦礫の山で、あちこち車がひっくり返っていました。避難所にいた方々の目は虚ろで、何もすることがなく、ただ炊き出しを待っているだけ。その状態は、ものすごくストレスだろうと思いました。

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「小さな復興プロジェクト」代表の湯浅さん

女川町では、町の7割の建物が流され、漁港や水産加工施設も壊滅状態になりました。まちの主幹産業だった漁業が大きな被害を受けたことで、たくさんの人が職を失ったといいます。

しかし、そういった状況でも携帯を使えば携帯代がかかるし、引き落としの日は否応無しにやってきます。震災直後はどういった支援が入るのかわからず、誰もが不安を抱えていました。

女川には当時一緒に仕事をしていた家具職人と一緒に訪れたんですが、彼と相談し、「製作工程を簡素化した木工品を開発し、それを被災した人たちの仕事にできないか」と考えました。

震災前からつながりのあった女川町の観光物産施設「マリンバル女川」の山田さんに相談すると、賛同して流されずに残った倉庫を工房として貸してくれることに。湯浅さんと家具職人はさっそく試作品をつくりはじめました。

女川といえば、漁業が盛んなまちです。だから、魚の形をしたキーホルダーにしました。ストラップにはお魚のマークと「.onagawa(ドットオナガワ)」という文字を刻印。「お魚がどっととれる女川に戻りますように」という想いを込めました。
 
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2011年5月に販売を始めると、いくつものメディアに取り上げられ、話題の商品に。ぞくぞく注文が入り、商品の発送が一ヶ月待ち、二ヶ月待ちの状態になったといいます。

漁業以外の産業を育てる必要がある

「onagawa fish」の特徴は、ずっと触っていたくなるようなすべすべした木肌。この触り心地を出すためには、ベルトサンダーで木片を魚の形に削ったあと、粗さの違う3種類のサンドペーパーで何度も磨き上げ、濡れタオルで拭いて毛羽立たせてから乾かしたものをまた磨き、天然オイルを塗る、といった幾重にも渡る工程を必要とします。
 
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家具職人が、妥協を許さなかったんです。「被災者と支援者の間には物理的に距離があるから、直接手をつなぐことはできない。でも、この製品を通して手をつなぐことはできる。だからしっかりつくりましょう」と。

つくり手の女性たちは、震災前は木工なんてしたことがなかったといいますが、製品に向かう真剣な眼差しと手慣れた動作は、職人の域に達しています。
 
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男の人には土木関係の力仕事や漁業があるけど、水産加工場がまだ建っていないので、牡蠣の殻むきとかサンマの加工品づくりといった、それまで女性が担ってきた仕事がないんです。だから、onagawa fishのつくり手さんは主婦が多いですね。子どもを一緒に作業場に連れてくるので、とても賑やかですよ。

女性たちは商品開発にも意欲的で、どんどんアイディアを出して製品化しています。忙しい湯浅さんに代わって、営業や経理も担当しているそう。それぞれ得意な分野で才能を発揮し、活き活きと働いています。

女川は自然に恵まれているから、漁業とそれに付随する水産加工業に従事する人ばかりでした。でも、みんな同じことをしていると、こういう災害時にパタリと全部倒れてしまう。まち全体のことを考えたら、こうしたものづくりもひとつの産業として確立させる必要があると思っています。

自分たちが経験したことを教訓にしてもらえたら

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こうして被災者のやりがいや新たな収入源になっている「onagawa fish」ですが、もうひとつ、大事な役割を持っています。それは、商品を全国へ届けることで、「自然災害への備えを啓蒙する」こと。

「onagawa fish」をキーホルダーにしたのは、いつも手元に置いておくものだからです。そうすれば、見る度に思い出してもらえるでしょう。突然災害に見舞われた地域があるっていうことを。

いま僕たちがいるところは「被災地」と呼ばれているけど、次はまた違うところが被災地になるかもしれません。可能性は0じゃないんです。だから、みんなが防災意識を持たなくちゃいけない。

電気がない、水がない、ガスがない。衛生状況はどんどん悪くなり、情報を知りたくてもラジオは電池切れ。開くかもしれないガソリンスタンドに並んで、1日が終わってしまう。そうした恐怖や焦燥感を味わった湯浅さんは、災害に備える大切さを訴えます。

水や非常食、電池を普段から備蓄しておくこと。災害時には、忘れ物を取りに行ったりせずすぐに安全な場所へ逃げること。「自分の身を自分で守る」という意識を持ってもらえたらと思います。

自分たちが経験したことを教訓にしてもらい、少しでも未来の災害における悲劇を減らしたい。湯浅さんの言葉からは、そうした強い想いが伝わってきました。
 
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忙しい日々を送っていると、防災・減災対策はつい後回しにしてしまいがちです。でも、いざというとき「対策しておけばよかった」なんて後悔したくないですよね。

内閣府がまとめた「減災のてびき」には、市町村役場や公民館などで配布されている「防災マップ」を手に入れ確認しておくこと、家具の固定や配置の見直しをすること、「171災害用伝言ダイヤル」などの利用方法を確認し家族との連絡方法を決めておくことなど、いますぐできそうな対策が載っています。

東日本大震災から3年。この節目に、「防災対策をしてこなかった」人も、「防災対策はしていたけど、最近はおろそかになっていた」人も、改めて対策をしませんか?