東日本大震災からもうすぐ3年がたとうとしている今。時が癒すことができないトラウマやつらい記憶、重度のストレスなどを抱えた人たちが大勢います。
このような東日本大震災の被災者、および被災者を支援されている人たちの”心の復興”のために活動しているのが、ボランティア組織「ハートサークル」です。
被災地のみなさん、そして誰もが心から笑顔になれる社会を目指すハートサークルの活動について、事務局長の下田屋寛子さんにお話を伺いました。
ハートサークルの「つぼトントンセラピー」とは?
ハートサークルでは、東日本大震災復興支援メンタルケアプロジェクトとして、経験豊富なセラピストを派遣し、重度のストレスやトラウマ、つらい記憶にまつわるネガティブな感情の解消などに効果的な「つぼトントンセラピー」の体験会、セルフケア講習会、およびセラピスト養成コースを提供しています。
「つぼトントンセラピー」とは、正式には「Emotional Freedom Technique(感情解放のテクニック/EFT)」のこと。ネガティブな感情に意識を集中させながら、顔、胸周辺、手など14個所のつぼを軽くタッピング(刺激)をしていきます。
この動作によってネガティブな感情が解消されるとともに、物事や出来事に対する考え方や見方が自然とポジティブなものへと変化します。トラウマから、日常のストレス、肩こり、頭痛といった身体症状に対しても使うことができ、誰でも簡単に覚えることができるセラピーテクニックです。
指を使ってつぼをトントンと叩くことから、ハートサークルでは覚えやすいように「つぼトントンセラピー」と呼んでいます。
問題を解決する力を、自分の力として身に付けて
ハートサークル事務局長の下田屋寛子さん
ハートサークル事務局長の下田屋寛子さんは、ハートサークル立ち上げ人の一人であり、被災地に足を運んでいるカウンセラーでもあります。普段はロンドンにお住まいで、ご自身のパニック障害の経験を生かして、パニック障害、不安症、恐怖症で悩む人たちのためにセッションを提供しています。
下田屋さんがイギリスの大学院でカウンセリングを学んだ後、「より実践的で、クライアントさん自身が変化を感じられるセッションを提供したい」と出会ったのが、EFTに代表される感情に働きかけるセラピーのテクニックとカウンセリングを融合した手法でした。溝口あゆかさんのもとで学んだ後、恩師とともに被災地のためにできることをと立ち上げたのが、ハートサークルでした。
ハートサークル代表の溝口あゆかさん
震災から3年がたとうとして、多くの人が「被災地での心のケアが重要課題である」と認識しつつも、ではどんな方法が効果的であるのかといった点に関しては、なかなか決め手がないというのが現状です。
リラクゼーションやマッサージなどで一時的なストレスや心の痛手は軽減されても、日常に戻ると、やはり、つらさやストレスが戻ってきてしまいます。かといって心療内科を訪れるのは敷居が高かったりしますよね。
一過性に終わらないものを、また、トラウマの解消やストレスを軽減することに有用なものを被災地で根付かせたいと思ったとき、つぼトントンセラピー(EFT)なら、と思いました。
EFTは、すでに世界では、ハリケーンカテリーナ、ハイチ地震などの自然災害やルワンダ大虐殺の犠牲者にも使用され、高い効果を出しています。イギリスでは、一部の病院でも取り入れられ、PTSDや恐怖症、不眠、うつなど、さまざまな身体的、精神的な症状の軽減に役立てられています。
EFTは、一旦覚えれば誰でも使うことができて、副作用もないですから、安心で安全なテクニックなんです。震災時のトラウマはもちろん、震災後の生活環境や人間関係の変化によるストレス、大切な人や財産を失ったことによる悲しみなど、さまざまな問題にまつわる感情に向き合い、自分でケアができるツールとしてEFTが有益だと考えました。
トントン…と出てきたのは、日頃から抑えていた感情
気仙沼で開催された、つぼトントンセラピー(EFT)セルフケア講習会
昨年、気仙沼と仙台市で開催された、つぼトントンセラピー(EFT)の体験会、セルフケア講習会はどのような様子だったのでしょうか。
昨年11月に、認定NPO法人女子教育奨励会(JKSK)さんのご協力のもと、体験会、セルフケア講習会を気仙沼にて(参加者延べ100名)、また仙台市では体験会を2回(参加者計約30名)開催しました。
参加者からのアンケートでは、96%の方に「以前よりも楽になった」という回答をいただきました。また、つぼトントンセラピー(EFT)については、「こんなに手軽に感情が解放できるなんて、驚きました」とおっしゃる方もいらっしゃいました。
トントンとタッピングすることによって、普段、抑え込んだり、感じないようにしている感情が出てきたそうですね。
私たちは、「みんなも大変なんだから」とか「自分の精神力が弱いからだ」とか「時間がたてばなんとかなるだろう」と考えがちです。しかしながら、心の傷やストレスは、解放されない限り留まる一方です。
例えば、参加者の中で、震災後、「周りはもう前を向いているのに、いつまでもメソメソしている自分が嫌だ」とおっしゃる方がいらっしゃいました。一方で、震災のことを考えると涙が止まらなくなることもあり、「自分の中がぐちゃぐちゃな感じ」ともおっしゃっていました。
つぼトントンセラピー(EFT)では、感じる感情やでてきた感情ひとつひとつに対して、言葉を使いながら、つぼを刺激していきます。この方の場合、悲しみ、焦りの気持ち、自分への怒り、孤独感といった感情を解放していきました。最後には、「ぐちゃぐちゃな感じが、今はスーッとした」「自分のペースで進んで行ってもいい感じがする。今はまだ泣きたい時に泣いていてもいいのかも」という風におっしゃっていました。
このように、複雑な状況やどこから手をつけていいのかわからないような心の状態にあっても、どんな風に感じた(ているのか)に焦点をあてることで、感情が解放され、さらに、自然と違った見方やポジティブな考え方ができるようになるんです。
トントンと叩くほどに、溜めていた感情を表に出して、ちゃんと扱ってあげるような感じですね。
つぼトントンセラピー(EFT)の良いところは、シンプルな方法で、自分で自分の感情をキャッチして、寄り添い、解放していくことができるところだと思います。アンケートの中でも「自分の感情に気づくことができ、抑えていたものがパーっと解放されたように思います」という声をいただきました。
みんながみんなのセラピストに
講習会を終えて笑顔を見せる参加者の皆さん
セルフケア講習会の参加者たちからは「周りの人にやってあげたい」という声もあがったそうですが、被災地でのセラピストの養成について、今後どのような予定なのでしょうか?
ハートサークルは、将来的に、現地で、現地のセラピストから継続的につぼトントンセラピー(EFT)が受けられるような場づくり、人づくりを目指しています。セラピスト養成コースでは、3日間のコース受講により、一定のレベルまで習得ができます。
セルフケア講習会、養成コースともにいえることですが、受講後も、つぼトントンセラピー(EFT)を繰り返し使いこなして、自分をケアしていくことで、次に家族や友人、身の回りの人たちに対してもよいセラピーをしていただけるようになると考えています。
今後、被災地でセラピストが増えて、子どもから大人まで多くの方に、トラウマの解消や、ストレスの緩和に役立つつぼトントンセラピー(EFT)を活用してもらいたいと思っています。
ハートサークルの体験会、セルフケア講習会は、今年は4月に石巻といわき市にて、また秋には南三陸でも開催が予定されています。
これまで参加された方の表情が日に日に変わっていくのを目の当たりにして、改めて、つぼトントンセラピー(EFT)の効果の早さ、高さを感じました。これからもより多くの笑顔に出会えること、その笑顔が広がっていくことを楽しみにしています。