東日本大震災からもうすぐ3年が経ちます。小学6年生だった子どもは、中学校を卒業する年。そんな子どもたちは今、どんなふうに過ごしているのだろう?みなさんの中には、ふとした折にそんなことが頭をよぎる方もいるのではないでしょうか。
津波の被害を受けた岩手県大槌町に、「コラボ・スクール大槌臨学舎」という放課後学校があります。「被災した子どもたちのために安心して学べる場をつくり、東北復興を担うリーダーに育てる」という目的で、さまざまな取り組みを進めています。
スタッフの金森俊一さんに、臨学舎の活動と子どもたちの成長の様子を伺いました。
子どもたちが落ち着いて勉強できる場所を
「NPO法人カタリバ」が運営するコラボ・スクールは、震災後、塾に通えなくなった子や、狭くて壁の薄い仮設住宅で落ち着いて勉強ができないという子どもたちのために、学習機会を確保する目的で作られました。大槌臨学舎は、宮城県女川町の「女川向学館」(2011年7月開設)に続き、全国2校目のスクールです。
大槌町は岩手県の沿岸部にあります。震災前は15,994人が住んでいましたが、津波の被害などで1,284人が亡くなったり、行方不明になったりしました。住宅の倒壊率も64.6%と高く、今も仮設住宅に暮らす人が大勢います。
臨学舎の生徒は地元の中学2,3年生の計約120人。開設当初は町の公民館を借り、生徒も3年生のみの約80人でしたが、2年生の受け入れも始めたことで生徒が倍増。2013年10月に町内に校舎を新設しました。授業料は月5,000円からと、一般の塾に比べて手頃な料金に設定されています。
子どもたちは学校が終わった後、週に2,3度、臨学舎にやってきます。習熟度の違いによって3つのクラスに分けられ、英語や数学などの教科を学び、教職の経験がある人や、教員を目指して勉強しているスタッフが先生役を務めるという仕組みです。「卒業生」である高校生も、20人ほど自習をしに通っているそうです。
基礎学力を身に付けさせることを第一にしています。数学でも英語でも、勉強すれば結果が出ます。小さな理解の積み重ねが自信や誇りにつながり、これからの人生に役立つはずです。
と金森さんは言います。
大槌臨学舎の金森俊一さん
「試練を越えた子どもは誰よりも強くなる」
学力の向上に力を入れるコラボ・スクールですが、塾とは大きく異なります。「東北の復興を担うリーダーを育てること」を目的に掲げている点です。
金森さんは、コラボ・スクールを開設したカタリバ代表理事の今村久美さんの思いを、次のように話してくれました。
今村は震災後、宮城県の被災地を訪れ、アスファルトの上で勉強している子どもを見ました。このままでは震災のせいで夢をあきらめたと悔やむ子どもが出てくる。そんな悲しいことはさせたくないと考え、コラボ・スクールをつくりました。
試練を乗り越えた子は、誰よりも強く優しくなれる。その子どもたちの中から、10年後の東北を担うリーダーが生まれると信じて、今村も私たちも子どもたちに向き合っています。
子どもたちが自分の力で課題や解決策を考えられるようになってほしいと、勉強以外の活動に力を入れています。たとえば、生徒が地元の人たちから町のなりたちや歴史、魅力を聞き取り、町外から訪れるお客さんを案内する「ガイド・プロジェクト」があります。
高校生による「マイプロジェクト」は、最もコラボ・スクールらしい活動と言えるかもしれません。一人一人が町の課題を探り、解決策を考えていこうというプロジェクトです。
ある生徒は、100年、1000年後に生きる人々に震災の教訓を伝えたいと言い、木碑を建てることを提案しました。よくある石碑では、作っただけで満足し、やがて忘れられてしまうからです。木を使うことで定期的に作り直す機会を作り、振り返るきっかけにしました。木碑の文面も地元の住民と一緒に考え、「地震が来たら、戻らず高台へ」と刻みました。
木碑は2013年3月、地域の力を借りて町内に建てられたそうです。子どもたちは「悲しみを強さに変えてほしい」というスタッフの願いを受け止め、成長を続けています。
大槌臨学舎ワークショップ
効率ではなく、周囲を良くする仕事を
コラボ・スクールの立ち上げから運営まで奔走してきた金森さんですが、元々はまったく別の業界で働いていました。大学を卒業後は、地元・千葉の精密機械メーカーに就職。製造プログラムを開発したり、現場の作業効率を改善させたりという仕事をしていましたが、次第に疑問を抱くようになります。
製造業全体に元気がなかったことに加えて、効率を追い求める仕事で、このままでいいのかと考えるようになりました。もっと周囲の人に良い影響を与える仕事をしたいと思ったんです。
2011年2月に退職した直後、震災が発生。自分にできることは何かと考えていた同年9月、グリーンズが主催する「green school Tokyo」のコミュニティデザイン学科に通い始めました。
震災の影響や復興、過疎地の活性化などを考えたとき、コミュニティデザインの力が重要になると考えました。勉強というよりも、自分にとって大切なことや働き方、社会との関わり方などについて考えさせられる、貴重な機会でした。
この時、ゲスト講師として来ていたカタリバの今村亮さん(今村久美さんのパートナー)に出会います。コラボ・スクール開設の話を聞かされ、直観的に「自分ごととして取り組める、大事な仕事」と感じた金森さん。直後の2012年1月、単身大槌町に向かっていました。
地域の人々に支えられて
立ち上げに無我夢中だった金森さんが壁にぶつかったのは、その年の4月でした。受験まで間があるためか、新しく中学3年生に進級した生徒たちはモチベーションが高くありません。「自分のスキルが低いせいか」と悩む金森さんを支えてくれたのは、学校の先生や地域の人、保護者の方々でした。
仮設住宅などに住んでバラバラになった子どもたちが、安心して心の拠り所にできる場所。毎日開いていて、友達やスタッフがいる。子どもたちにとって放課後の居場所としてとても大切だと言ってもらいました。無事に運営していくことだけでも意義があるんだと思えるようになり、また頑張れるようになりました。
大槌臨学舎の授業風景
運営に当たっては、常勤のスタッフを確保することも大きな問題でした。
全国に求人を出しましたが、縁のない人にとって東北で働くことはハードルが高い。求人情報を出すだけでは来てもらえないのが当然です。就職希望者とのマッチングイベントなど、直接会って話ができる機会を多くつくるようにしました。臨学舎で働くことで、数年後にどんなキャリアを考えられるか説明することも大切です。他の組織では得られない経験やチャレンジに巡り合えると話しています。
努力が実り、臨学舎で働く常勤スタッフは10人に増えました。元カメラマンや元銀行員など異業種から飛び込んできた人も多く勤務しています。教職経験のあるスタッフがカリキュラムを考え、ほかのスタッフに指導するなど授業の質を高めるための努力も続けています。
資金を確保できなければ、継続的な運営はできません。これまではカタリバへの寄付や助成金などでまかなってきましたが、地元の人や保護者に、授業料を払うだけの価値を認めてもらわなければいけないと思っています。経営努力に加えて臨学舎の活動や趣旨をもっと伝えていくことも重要でしょう。
コラボ・スクールのような活動は、被災地だけでなく、日本各地で求められているように思います。いずれは、女川や大槌以外の場所でも展開していくことになるかもしれませんね。失敗するかもしれませんが、どきどきするようなことにこそチャレンジしていきたいです。
大槌臨学舎の授業風景
子どもたちの成長が自らの成長に
金森さんは最近、嬉しかったことがあります。マイプロジェクトとして「100人フォトプロジェクト」という活動に取り組んだ女子高校生が、全国的な賞を受けたことです。
笑顔の写真には、人を元気にする力がある。そう考えた生徒が、地域の100人の笑顔を撮影するという企画でした。印刷会社が協力してくれて写真集にまとめ、撮影に協力してくれた住民に配布したんです。
引っ込み思案な子でしたが、企画を通じて多くの人と交流し、自信を付けていく様子が分かりました。受賞の際は出会ったころからは想像できないほど堂々としていて。臨学舎が彼女を少しでも支えることができたのかと思うと、本当に幸せです。
子どもの成長を自分のことのように喜ぶ金森さん。その顔は先生というよりも、家族や親戚といった印象です。
そんな生徒たちへ、金森さんは最後にメッセージを寄せてくれました。
君たちは、自分自身で未来を切り拓いていける大人になれると信じています。そして遠くから応援しています。
子どもたちには震災に負けずに、強く、優しく成長してほしい。誰もがそう願っているのではないでしょうか。そのために私たち大人が果たすべき役割を考えていきたいですね。