(左)江口晋太朗さん(右)関治之さん
もうすぐ東日本大震災から3年。当時を振り返ってみると、ボランティアや物資支援だけでなく、テクノロジーを通じた課題解決やマッチング支援などを目にすることがありました。
その代表的な動きの一つである「sinsai.info」を創設した関治之さんも、テクノロジーやオープンソースの力で社会課題の解決を目指して活動する1人です。
今回、昨年立ち上がった「Code for Japan」の代表も務める関さんと、全国のコミュニティデザイン事例を紹介するウェブマガジン「マチノコト」を運営する江口晋太朗さんに、テクノロジーとこれからの地域コミュニティの形についてお話を伺いました。
位置情報は人々の生活の役に立つことができる
佐藤 関さんは、震災後「sinsai.info」の取り組み、現在ではCode for Japan代表として活動をされています。ご自身のこれまでについて教えてください。
関さん 一番最初は、システムインテグレーター(SIer)として、金融系の情報システムをつくっていました。その後、ネット証券が流行し、とある企業の日本法人立ち上げに関わり、インターネットがビジネスに変わることを実感したんです。
そして、2000年頃のその企業の撤退を機に、当時の先輩が「スポーツナビゲーション」という会社に誘ってくれました。そこでは、スポーツのポータルサイトを立ち上げ、オリンピックの中継などを行っていました。とはいってもそのころはいつも誘われてばっかりだったので、そろそろ自分で方向性を決めようと思ったんです。
佐藤 そうだったんですね。
関さん もともと音楽をやっていたこともあり、最初は「インターネット×音楽」で何かできないかと考えていました。そこで着メロ事業を手がける会社に入社したんですが、モバイルが面白いと実感したと同時に、音楽コンテンツ業界に少し限界も見えてしまって。その後、携帯電話向けの位置連動広告を展開していた「シリウステクノロジーズ」という会社に転職しました。
「モバイル×GPS」が生活を変えると感じ、それからかれこれ10年ほど位置情報関連のフィールドにいます。
佐藤 位置情報のどんなところに惹かれたんですか?
関さん 位置情報は人々の生活に直接的にかかわり、役に立つことができると思ったんです。シリウステクノロジーズで働きながら「Georepublic Japan」という会社を立ち上げました。その後、シリウステクノロジーズがヤフーに買収され、同社で働いていた時に震災が起きたんです。
震災前からオープンソースコミュニティに参加したり、「ジオメディアサミット」というイベントを開催したり、コミュニティ活動は好きでした。
そんなこともあり、「OpenStreetMap Japan」というコミュニティにも参加していて、震災時には「ウシャヒディ(Ushahidi)」というオープンソースを活用して、声を集めていました。立ちあげた方が、声集めより地図作りに注力できると思い、僕が引き受けることになり、「sinsai.info」を立ち上げたんです。
OpenStreetMap Japan
必然がずっとつながってきている
江口 関さんのお話の中で、「コミュニティ活動」という言葉が自然と出てきましたが、そのモチベーションは何だったのでしょうか?
関 最初は、オープンソース系のコミュニティに参加者として楽しんでいたので、オーガナイズしたりという考えはなかったんです。変化のきっかけは「ジオメディアサミット」ですね。
7年ほど前にシリウステクノロジーズで研究所の所長になった際、位置情報がまだまだビジネスとして摸索されている時に、位置情報が好きな人たちを集めてみたんです。緯度経度の話や地図のデザインでお酒が飲めるくらい、ニッチなコミュニティです(笑)
その集まりで新年会を行ったのですが、30人ほどの会場に入りきらないほど参加してくれて。そこから派生して、勉強会なども行うようになったんです。
江口 会社としても個人としても、リンクしていたということですか?
関 まあ、むりやり結びつけたようなところもありますね(笑)濃いコミュニティができ、ジオメディア業界を一緒に盛り上げて広げていこうということになり、コミュニティの3原則を定めました。それが「オープン」「中立」「交流重視」というものです。
「ジオメディアサミット」では、登壇者も主催者もボランティアで、ジオメディア業界を広げていこうという思いが共通していました。すると、1回目も2回目も評判が良く、開催するたびに「参加して良かった」「超楽しかった」といってもらって、それが虜になってコミュニティ活動に楽しみを見いだすようになったのかもしれません。
自分自身も勉強にやるし、感謝もされる。また、コミュニティの中心にいることで情報も最初に入ってくるので、いいことばかりです。そこで「OpenStreetMap」に関わったことから、オープンデータやオープンガバメントを推進する「Open Knowledge Foundation Japan」に参加するきっかけになる出会いもあり、世界の地図作りやジオメディアの事例を知る機会になりました。
そうやって、「これがやりたかったことなんだ!」と確信していたときに、地震が起きたんです。意識することはなかったんですが、必然がずっとつながってきている感じがします。
sinsai.infoではレポートを読むことができます
ボランティア活動の課題となる「持続性」
江口 そんな中、関さんは「sinsai.info」の活動をスタートして評価も受けた一方で、どのような課題が残ったと感じていますか?
関 普通の人の課題で言うと、「テクノロジーがまだまだ遠い」ということです。例えば被災者の方がネットを使うことができなければ、「sinsai.info」を利用することすらできません。もちろん、外から支援に行く人たちが現状把握のために利用してくれたので、一定の役割は果たしましたが。
また、団体の運営に関していうと、やはり持続性の問題があります。活動自体がボランティアなので、続かないということですね。「sinsai.info」では、Twitter上で流れている情報を地図上に再マッピングしていくことをメインに行っていました。
ハッシュタグを絞って、担当者がマッピング、さらには真偽の確認という淡々とした作業です。しかし、ボランティアでの作業は続きませんでしたね。量が膨大だったことと、作業に対してのフィードバックがあまりなかったことが主な要因だと思っています。つまり、それが役に立っているのかという直接的な実感がなかなか得られなかったんです。
江口 フィードバックがないというのは、仕事においてもボランティアにおいても、やはり大変ですよね。
関 延べ人数でエンジニア150人、ツイート収集150人ほどのボランティアが集まりましたが、手探りでの活動ということもあり、持続可能性については厳しいものがありました。
マチノコト
技術は手段にしかすぎない
江口 震災から3年近くが経ちますが、僕も関わっている「マチノコト」の前身は、防災情報を届けるメディア「スタンバイ」でした。
ただ防災について意識を保つのは難しいこともあり、防災だけにとどまらず、まちづくりをはじめとするコミュニティデザインの事例を通じて、地域コミュニティ作りを支援するための情報を発信するウェブマガジンにシフトすることになったんです。
この点はCode for Japanにもつながるかもしれませんが、技術を持っている人だけでなく、実際にそれを生かす市民の人たちの役に立っているというフィードバックがないことや、使われている実感がないことが活動の持続可能性に関わってくると感じます。
そのようなこともあり、Code for Japanの意義としては、市民が主役となって自分たちの町の課題を考えて取り組むときに、テクノロジーを使うことでより解決のスピードが速くなったり、楽になることを知り、実際に生かしてもらうことが大切になるんだと思います。
関 その通りだと思います。ぼくもいろんな活動を通じて、「技術は手段にしかすぎない」と考えるようになりました。やはり大事なのは、課題をどのような人たちと見つけるのかということと、その解決策をどのように持続的にしていくのかだと思います。そのプロセスの中で、ITは有効だろうというスタンスです。
江口 位置情報もそうですよね。プライバシーと考えてしまうとネガティブに考えがちですが、「FixMyStreet」のように地域の課題を共有したりと、使い方次第では色んな視点がありますよね。
関 例えば「ジオメディアサミット」でも、一度「fin.dar」さんとコラボして、「地域メディアの可能性」をテーマに、位置情報がどう使われるべきかを考えるイベントを開催したこともありました。
※参考記事:古くて新しい「地域メディアの可能性」- 第10回ジオメディアサミット
sinsai.infoの時に感じたのは、普段使わないツールは緊急時にも役に立たないことが多いということ。そこで、伊豆大島では「伊豆大島ジオパーク・データミュージアム」という地元の人でも自由に地図付きの記事を書き込めるWiki形式の観光情報サイトを立ち上げました。
これは、火山噴火などの災害の際にも情報を入れることができるようにと、気象庁の人なども交えて設計したものです。実際、台風が発生したときにも利用されていたので、普段から使っているものは緊急時にも活用されるんだと実感しました。
Code for Japan
これまでの問題意識の延長線上にあるCode for Japan
江口 普段から、日常から、というのは「Code for Japan」でも一つのテーマかもしれませんね。
改めて、「ともに考え、ともにつくる」を掲げて、地域課題を解決するための市民によるITコミュニティや公共サービスの開発・運営支援を行っていくCode for Japanについて、詳しく話をしましょうか。
関 Code for Japanは、Hack for Japanやsinsai.infoやってきた問題意識の延長線上にあります。Hack for Japanも震災後に始まったプロジェクトで、IT系の人たちが集まってハッカソンをやっていたコミュニティです。被災地でハッカソンを実施したりもしたのですが、生まれたアプリなどが実際それほど喜ばれなかったこともあったんです。
一方、ボランティアで行って、一番喜ばれたのはウェブサイトのリニューアルでしたね。このようなハッカソンの反省もあり、Code for Japanの活動につなげていこうと思っているんです。ハッカソンというのは、素晴らしいアプリを生むためではなく、人々をつなげるものだったり、課題を発見するためだったり、何がうまく行っていないのかを発見する場と捉えています。
Hack for Japanでは、震災のために何かしようと思いボランティアで運営していましたが、自治体やNPO、市民との連携がそれほどなかったこともあり、うまくいきませんでした。そのような時にCode for Americaの存在を知ったんです。
詳しく知ってみると「Brigade(ブリゲード)」という仕組みがありました。簡単に言うと、各地域でのローカルコミュニティである「Code for 〇〇」のことで、ワークショップなどを開催しながら地方での活動をスケールさせていくんです。震災前から、藤沢烈さんが日本版をやると言っていたんですが、震災後、彼はRCF復興支援チームの活動に注力することになり、僕の方で立ち上げたいということを伝え、日本版がスタートしました。
One Voice Campaign
地域の寺子屋的な「ブリゲード」の仕組み
江口 僕は昨年、選挙にネットが使えないことを変えたいと思い、仲間たち一緒に「One Voice Campaign」を立ち上げました。ネット選挙解禁を目標にしながらも、「One Voice」という市民一人ひとりが声を挙げることが大事だということを掲げた結果、法律も変わりましたし、少しずつ政治家のインターネット活用が進んでいると思います。
継続性という面について、選挙は非日常ですが、もっと市民の人たちがインターネットやテクノロジーを活用できる場づくりがしたいと思っていた時に、Code for Japanが立ち上がるということで、参加しました。結局のところ、主体的な市民参加に関しては、一人ひとりの普段のマインドを変えていくことが大事になってくるんだなと感じました。
関 そうですよね。普段から興味を持っていないと、いきなり選挙の日だけ投票しようと思っても、それ以降は無関心ということもあるじゃないですか。それよりは、地域の生活に目を向けていきたいですよね。
江口 Code for Japanの活動において、一般市民が参加できる活動というと「ブリゲード」になりますが、これについてはどのように考えていますか?
関 やっぱり、普通の人が参加できるのはイベントだと思うんです。メーリスに登録して情報が回ってくるだけだと面白くないので、リアルな場所をつくるということですよね。市役所の中だったり、古民家の中だったり、足を運ぶと必ず仲間がいる、そんな場所をつくっていきたいです。
ITじゃなくても、住んでいるまちの課題を出し合ったり、自治体の職員が行っている取り組みを紹介する場をつくるだけでも、成り立つと思っています。各ブリゲイドにおける場づくりやイベントを積極的に支援をしていきたいと思いますね。
僕たちが全国でイベント開いていくのは難しいので、ブリゲードキャプテンを設けて、キャプテンの思いでイベントを開催したり、キャプテン同士を集めたり、色んな形の地域コミュニティづくりをしていきたいと思います。
江口 「ブリゲード」って、地域の寺子屋のようにそこに行けば誰かがいて、まちの課題を話し合ったり、ワークショップを開催したり、アイデアソンを開催したり。そこで実装できそうなアイデアが生まれたら、ハッカソンを通じてアプリつくろう、みたいないろんなレイヤーがありますよね。
関 各地域での状況に合わせて、行政と一緒に課題解決を進めていきたいですね。なので、Code for Japanのキャッチコピーの「ともに考え、ともにつくる」のつくるの部分があることが重要だと思います。その際に、課題解決をするとともに、それを持続可能なスケールする仕組みを考えるアントレプレナーシップを持った人がいることが大事だと考えています。
小さな成功体験を積み重ねていくことが大事
江口 今後、地域はどのようになっていったらいいと考えていますか?
関 いろんなバリアがなくなっていたらいいなと思います。自治体と市民のバリア、自治体の中の縦割りのバリア、市と県のバリア、さらには県と国とのバリアなど多くのバリアがありますよね。Code for Japanの活動で自治体やNPO、市民との連携を通じて、垣根のない状態で話ができるように少しずつバリアをとっていきたいです。
江口 今って、自分たちの暮らしを、自分たちの手でどのように良くしていくのか考える、転換期だと思います。改めて、市民一人ひとりが、自治体って何だろう、自分の住む町ってなんだろう、暮らしや働き方ってなんだろうと考え、行動していくことで、少しずつ変化が起きていくんだと思います。
関 小さなことでも実現されたら嬉しいですよね。やっぱり、小さな成功体験を積み重ねていくことが大事になると思うので、国や社会までいかなくてもいいので、身近なところから考えて動いていきたいですよね。
江口 市民側も行政サービスは与えられるのが当然ということから、自分たちでも改善できる部分を発見したり、考えたり、提案したりと参加意識を持つようになると、それが居心地のよい社会につながっていくんだと思います。
“身近な問い”が主体的な市民参加の第一歩
居心地のよい社会に向けて、これからみなさんは何をしていきますか?自分の暮らすまちの現状や課題について考えることが第一歩だと思います。市民が主体となったまちづくりの形に向けて、昨年立ち上がったCode for Japanは活動を展開していく予定です。
1月24日には、第1回目となる「Code for Japan Brigadeワークショップ」が開催されました。今後、全国各地に「Code for ◯◯」が誕生し、地域課題を解決するためのITコミュニティが形成されていくことでしょう。
また、自分の住むまちの現状を考えるときに、他の地域を見ることも大事だと思います。そんなときは、国内外の地域コミュニティにおける取り組みを紹介している「マチノコト」を読むことが良いきっかけになりそうです。
みなさんが住むまちの良いところはなんですか? なにか困っていることがありますか?まずは、身近な問いから考えてみること。それが主体的な市民参加につながり、居心地のよい社会づくりへと向かっていくのではないでしょうか。