地域で活動するクラフト作家やアーティストを中心にした“作り手”たちと、セレクトショップやカフェなどがイベント会場となって、その地のクリエイティブを広く発信するイベント「ash Satsuma Design and Craft Fair」が鹿児島にはあります。
今年で6回目を迎え、40組の作り手と32店舗が参加。鹿児島県内に点在するこれらの会場を、マップを片手に巡り、ショップやクリエイターはもちろん、地域の新しい風景にも巡り会う、秋恒例のフェアです。
タイトルの「ash」(アッシュ)は、ご存知のとおり「灰」。鹿児島と言えば、日々噴煙を上げる桜島のダイナミックな姿が特徴ですが、それに値するほど、この地には、作品づくりに熱い“作り手”が多いのです。
また、会場となるショップやカフェも地元をこよなく愛するところばかり。そして、今回のash Satsuma Design and Craft Fair(以下、ash)は、「Hand is best tool」(手は最高の道具である)というフレーズを掲げ、作り手の創造する力に焦点を当てました。
ashに参加する会場は、紹介する作家も、またそのテーマもそれぞれ、作家とともに各々で決めます。(また作家が会場を見つけて行くことも。)普段は、コーヒーを楽しむカフェや、雑貨を販売するショップが、作家と組んで企画、それらが期間中に32カ所もあるとなると、県内の会場や作家が網の目のようにつながっていることに。
また作家同士が、陶芸、木工、アクセサリーなど、ジャンルを超えて横の繋がりを作り、地域のクリエイティブな力を発信。普段は普通のショップやカフェがイベント会場となり、あらゆる分野で活動する作家が一同に集結する、それがこのイベントの特徴です。
使い手の気持ちをじっくり考えた、作り手の想いが詰まった作品が集結。
鹿児島市から桜島を臨む海側にあるカフェとギャラリーが併設されたショップ「GOOD NEIGHBORS」。美味しいコーヒーと食事、音楽を楽しむカフェ、それに地元作家を中心に集めたデザイン性の高いプロダクトやインテリアを扱うショップ、ギャラリーがあり、“善き隣人”(= GOOD NEIGHBORS)が集まる場所です。
今年のashでは地元の作家3名をセレクト。企画を担当した福留 剛さんにお話を聞きました。
GOOD NEIGHBORS 福留 剛さん
鹿児島を拠点にしながら県外での活動が多く、地元ではなかなか作品を見られない山口利枝、実際の使った方に評判の良い地元作家のRoam。もっと彼らの活動を紹介したい。
GOOD NEIGHBORS 外観と1Fカフェからショップを臨む
2Fギャラリーでは「食卓」をテーマに、陶芸家の山口利枝さんと、木と鉄を素材にした家具を作るRoam(ローム)の2組の作品を紹介しました。山口の日常使いできるぬくもりある器が200点ほど、また、使い込むほど味の出るRoamのインテリアがテーブル、ベンチ、シェルフ等と揃い、あたたかな食の空間を提案。さらに、二人のコラボレーションで、Roamの木と鉄で作るアイテムが山口利枝さんのテーブルウェアの一部にもなりました。
上:山口利枝 作品 、下:Roam 作品(ともに参考作品)
山口利枝 × Roam 展示の様子
ONE KILN 城戸さんの作品は実際にカフェで使用していると、どれも使い心地がいいと評判。
また、1Fショップでは、ONE KILN CERAMICS(ワンキルンセラミックス)を紹介。主宰で陶芸家の城戸雄介さんによる作品は、スタイリッシュなフォルムでありながら、手にしたときのなじむ感覚と使いやすさに定評があり、このGOOD NEIGHBORSのカフェでも取り入れています。桜島の灰を調合した釉薬を使った作品もあり、地域の素材を使う作家の気持ちが伝わってきます。
また、地元写真家のコセリエ、GOOD NEIGHBORS カフェスタッフの久保静香さんと、作家の作品を日常に取り込む楽しさや豊かさを映像化しました。
ONE KILN CERAMICS作品
クリエイターが集まるビルだからこそできる、ジャンルを超えたオリジナリティ溢れる企画。
鹿児島市の新たなカルチャースポットになりつつある名山堀地域の複合ビル「レトロフト」では、住人とビルに縁のある人々が集合する「レトロフト千歳ビル展」と、イラストレーター 江夏潤一によるビルの軒下を使った掘建て小屋のプロジェクト、それに加えてデザイナー・イラストレーターの中原みおの版画展を行いました。
レトロフト外観
ブックパッサージュ 内観
レトロフトは、鹿児島の繁華街の東にある築47年の味わいのあるビル。建物の老朽化が進むなか、オーナーの永井明弘さん、友美恵さんが少しずつリノベーションしています。
1〜2Fはショップやカフェ、ギャラリー「レトロフトMuseo」があり、3F〜5Fは自由にリフォームできる賃貸アパート。住人はアーティストやイラストレーター、キュレーターなどの作り手がほとんどで、自由な空気に満ちあふれた場所です。
1Fには各地の展覧会カタログや哲学書、装丁の美しい絵本や文学書等、絶妙なセレクションの古本屋「ブックパッサージュ」もあり、地域のクリエイティブな人々のたまり場としても機能しています。これら、オリジナリティ溢れるスペースのあり方を維持し、活動を続けるのは、オーナーのお二人が、地元作家を応援したいと、おおらかに彼らを受け入れているから。
オーナーの永井明弘さん、友美恵さん。ご夫妻はギャラリー「レトロフト Museo」で年間数本の企画を行っており、今年の冬には、フィンランドの絵本と作家を特集する企画を進行中。
2Fの空間をギャラリースペースにしたのは、ashに初めて参加したとき、若い作り手たちに発表の場を提供したい、と思ったのがきっかけです。
今回の「レトロフト千歳ビル展」では、レトロフトに集まる作家がジャンルを超えて勢揃いしました。書道家の福元瑞恵や美術家の平川 渚、また烏賊を題材にした作品を描く“イカ画家”の宮内裕賀らの他、オーガニックレストラン「農園食堂『森の家族』」の園山小雪が農園の野菜を“出品”。これらを、謎のキュレーター・クリスティーヌ(実は日本人!)がキュレーションしました。
レトロフト千歳ビル展の会場風景。インスタレーションや、建築図面、油彩画、イラストレーションなど様々なジャンルの作品を一望。
イラストレーター江夏潤一は、ビルの軒下に、ホームセンターで買った木材で掘建て小屋のプロジェクトを実施。地元に古くから伝わるお菓子「がじゃ豆」にお気に入りフレーバーをつけ、現代風に。さらに自分のイラストをラベルにして商品を販売。
その他にも、会場と作家が取り組む盛りだくさんの企画が県内に点在し、アクセサリー、切り絵、手漉き和紙、食など数えきれないジャンルの作家の活動を見て、地域の創造力が感じられる10日間でした。
会期中、地元作家の作品を見に会場を訪ねて歩くと、なかなか行くことのなかった街角に入り込み、これまで知らなかったお店へとたどり着くこともしばしば。そして、ついつい店主や作家と長話をして、街の人々のあたたかさにも触れました。
ashは、イベントのための特設スペースではなく、既存のスペースを会場とすることで、コストをかけない上に、その町で生活をする人々と気さくに会話し、交流をすることができるのが魅力です。
人、場所、景色—、地域の豊かな資源を、わたしたちに教えてくれる、ash Satsuma Design and Craft Fair。来年はどんな作家や場所、コラボレーションと出会えるか、楽しみです。
Text:四元朝子(favlica 広報・PR)