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尼崎のまちづくりコンサルタント・若狭健作さん流、暮らしの延長上にある仕事 [ハローライフなひとびと]

ガイドツアー

みなさんは自分が暮している街に対して、どんな思いを持っていますか?「もっとこうなったらいいのに」「こんなことができたらいいのに」そんな思いを形にするために、日々動いている人たちがいます。

今回お話を聞いた若狭健作さんもその一人。彼は、兵庫県尼崎市を拠点に活動を行うまちづくりコンサルタントです。 中山間地から大阪都市部まで、さまざまな場所に入りながら、地域の”これから”を計画にまとめたり、町内会の”体力づくり”をサポートしたり、地域がにぎわうイベントの企画運営や情報発信をしたり、幅広い仕事に携わっています。

中小企業から大企業までたくさんの工場があり、ものづくりが盛んな尼崎。住んでいる人たちの個性があまりにも強いせいか、イメージだけで「ガラが悪い」と言われてしまいがちな街。そんな尼崎が若狭さんの拠点です。

まちづくりのプロフェッショナルである若狭さんが、自分の住んでいる尼崎とどう関わっているのか、お話をうかがいました。

尼崎のまちづくりコンサルタント

若狭さん_1
若狭健作さん

さまざまな地域に入り込む若狭さんが、尼崎という街にこだわった活動が「尼崎南部再生研究室」通称「あまけん」です。

2001年に誕生した「あまけん」は、もともと尼崎の大気汚染訴訟の和解金を財源とした10年間の時限的なまちづくり団体。公害患者さんや家族の会の人たちのバトンを受け継ぎ、さまざまな活動をしてきました。

『南部再生』
フリーペーパー『南部再生』45号「だんじり男子」特集

そのうちのひとつが『南部再生』というフリーペーパー。「祭り」「銭湯」「ギャンブル」「野球」など、尼崎という街をさまざまなテーマで掘り下げていく冊子で、現在45号まで刊行されています。

また、2003年から始まった「メイドインアマガサキ」も見逃せません。こちらは商店街とのコラボレーションで、尼崎生まれの商品を品評するプロジェクト。湯たんぽ、天ぷら、ポン酢などなど、今までに249の商品を紹介し、現在ではアンテナショップまで設置されたり、二冊の書籍が発行されたりなど、広がりを見せています。

メイドインアマガサキ
冊子『メイドインアマガサキ総選挙開幕』より

今では、フリーペーパーもイベントも、定期購読料や参加費で賄うなど、自律的な活動ができてきました。活動が10年を超え、街の人や行政にも認知されてきたように思います。

市のプロモーションを一緒にやることもあるのですが、勝手にやってきた活動に、役所もバックアップしてくれるのは大きいですよね。民間と行政がうまく伴走できるようになってきたという意味では、とても手応えを感じています。

尼崎という「都市問題のデパート」

若狭さんが代表を務めている「地域環境計画研究所」の事務所は、尼崎市武庫之荘にあります。自宅はそこから歩いて20分ほど。大阪出身の若狭さんが、どうして尼崎を選んだのか、そのきっかけは大学生のころにありました。

大学では「都市政策コース」というまちづくりを勉強するクラスにいた若狭さん。商店街の中に研究室があるような、変わった教授のもとにいたそうです。ちょうどそのとき「尼崎の地域資源を探すことを、学生の力でやってほしい」と尼崎市から委託があり、その研究を若狭さんが中心となって進めることになりました。そこで、だんだんと尼崎の面白さに気づきはじめたそうです。

僕の地元である大阪からすると、尼崎って独特の立ち位置にいるんです。大阪でもなく、兵庫でもなく、みんな自分のことを「アマ」と言う。「ガラが悪い」「イメージが悪い」「ヤンキーが多い」などいろいろ言われますが、ホントに個性がすごすぎるんですよ。

みんな自分のことを「アマ」と言う一方で、「どうせアマやし」とも言う。それは自分が暮らす街に自信を持てていないのではないか、という疑問が、先の「メイドインアマガサキ」へと結実していきました。

大学で教わったのは、「尼崎は都市問題のデパートや!」ということだったんです。「残っている都市問題がないくらいだ」と。人口、貧困、教育、公害、中心市街地の空洞化、市内の人口偏在、地域内格差。それに加えて、自治体の財政状況も悪い。そんだけ揃っているのなら、逆に「これは面白いんじゃないか」と思うようになりました。

事務所メンバーと
左から若狭さん、所員の香山明子さん、共同代表の綱本武雄さん

普段当たり前にすごしている街を掘り下げる

魅力的なのにイメージが悪い。そんな尼崎という街への理解を深めるきっかけとなったのが『イメージAMAGASAKI』という本でした。なんと「尼崎のイメージはなんで悪いのか」という疑問をいろんな角度から考える「衝撃的な一冊」だったのです。

イメージあまがさき
あまがさき未来協会『イメージAMAGASAKI』

特に面白かったのが「尼崎のイメージの悪さを増長しているのはマスコミなのでは?」という問題提起でした。「芦屋令嬢がさらわれた。犯人は尼崎」といった地名が入ることがありますが、それを報道する側が意図的にしているんじゃないか?と、実際にテレビ局に取材に行ったこともあったみたいです。そういうパンチの効いた調査がたくさん載っていました。

普段当たり前に過ごしている尼崎を、興味深い切り口から掘り下げること。これはまさに「あまけん」が『南部再生』で行っているアプローチに通じています。

街への思いからはじまる仕事

大学時代、「尼崎のことを研究しているのに、尼崎に住んでいないのはまずい」と思っていた若狭さん。関西では他の鉄道路線に比べて阪神電車沿線になぜか「下町」イメージが強いのですが、若狭さんはそうした阪神尼崎駅界隈のような「すごくディープなところに住みたかった」とのこと。最終的には、事務所や街の中心地からも近く、割とのどかな武庫之荘という場所を選ぶことに。

武庫之荘
武庫之荘の風景

走るのが趣味で武庫川沿いをよく走るんですけど、上流と下流で住んでいる人の雰囲気が変わっていくのが面白いですね。南の方に行くとおばちゃんらがお地蔵さんの周りでラジオ体操していたり、めっちゃディープな街やなって実感できます。

ことば蔵
「ことば蔵」ミーティングの様子

若狭さんがいま手がけているのが、伊丹図書館「ことば蔵」の一階部分にある、交流スペースの企画コーディネーションです。

新しくできる図書館を中心市街地のにぎわいづくりに活かしたいと、オープン前に市役所の方から相談を受けた若狭さん。そこで地域の住民を集めて「ここをどうしよう?」というワークショップを開催したのです。

とはいえ「ことば蔵の件は、仕事のつもりはなかったんです。家の近所だから、何かしたかった」と若狭さんは言います。

もちろん正式に委託された仕事であって、国の専門家派遣制度のもと、アドバイザーとして派遣されています。ですが、まちづくりのプロフェッショナルの心を動かしたのは、「自分の暮らす近所の図書館が面白くなればいいな」という街への思いだったのでした。

「コミュニティの芽」をつくる

運河クルーズ
イベント「運河クルーズ」の風景

とはいえ、「僕が住んでいるところではコミュニティ活動ができていない」と若狭さん。このあたりはもともと田んぼと畑しかなく、町内会組織がないのだそう。

そこで若狭さんが提案したのが「武庫之荘バル」です。

町内会と同じく、新しい街である武庫之荘には既存の商店街組織のようなディープなつながりがなかったため、ユニークな飲食店はあるのに地域の連携があまりありませんでした。そこで、若狭さんは地域のお店を巡る”飲み歩きイベント”「武庫之荘バル」を企画。現在では71軒が参加し、横のつながりを生み出すことに成功しました。

武庫之荘バル
冊子『武庫之荘読本』より「武庫之荘バル」と武庫之荘駅南側の噴水

このイベントをきっかけに街の店主と仲良くなったことで、新たなコミュニティ活動が生まれました。それが噴水の掃除です。

駅の南側にガウディの建築みたいな大きな噴水があるんですが、ボロボロなんですよ。市役所に「これ直す予算あるの?」と聞いたら「半世紀くらい予算がついていない」と。じゃあどうしようとなったときに、武庫之荘バルでいくらか収益が出てきたので、ファンドみたいなものをつくろうということになったんです。

「分配しよう」ではなく「街のために使う」。さすがに噴水の改修費には満たないのですが、まずは毎週土曜日に掃除することからはじめました。僕も最近さぼりがちですが、たまに早起きして、30分くらい掃除します。その後飲食店の人たちと近くの喫茶店でモーニングを食べながら、阪神や政治についてダベるんですが、それがすごく面白いんです(笑)。

武庫之荘バルがきっかけでみんなで掃除して、それが大きくなって噴水が綺麗になったら、そんないいことないな、と思っています。

「まだ本当にはじめたばかりで、どれくらい続くか分からない」とは言うものの、こうした取り組みのスタートこそがコミュニティの芽となっていくはず。あらかじめ組織として成立している「町内会」のような形ではない、街への思いの詰まったプロトタイプが生まれています。

プレイヤーとプランナーという二足のわらじ

若狭さん_2

専門家の意見だけに固執するのではなく、一方で生活者の意見だけを鵜呑みにするのでもない。仕事と暮らしとの中でそのバランスを、若狭さんは「プレイヤーとプランナーの二足のわらじ」と表現します。

プレイヤーであるときは自分の好きなようにすればいい。でも、プランナーであるときは、プレイヤーの人たちが動きやすいようにプランニングしなければいけません。

イベントで出た利益をファンド化して噴水を直そう。でもいきなりは無理だからまずは掃除からはじめよう。そんな取り組みは、まさに地域において地域のために活動する「プレイヤー」の活動です。一方で伊丹図書館の交流スペース運営などは、一歩引いた目線から、その図書館を利用する地域の「プレイヤー」たちが行いたいことを行える舞台を整えるような「プランナー」の仕事。

若狭さんの暮らしと仕事はあたかも連続しているかのように見えてきますが、その理由は、まさにこの「プレイヤー」と「プランナー」の視点が分け難く結びついているからなのかもしれません。

ワークショップ風景
ワークショップ風景。一人で大人数の声を聞くこともあるそう

その街のプレイヤーにたくさん会って、その人たちが思っていることや夢、希望というものを形にすることが私の仕事です。ですから、人の話を聞くというのが大切なんです。

日々暮らしの中で起こる疑問や感動に対して正直に耳を傾けること。街をより魅力的にする取り組みは、こういうシンプルな姿勢から生まれてくるのだと、若狭さんのお話をうかがいながら感じます。

もちろん、こうしたアクションは必ずしも専門家だけのものではないはずです。みなさんも、ご自身にとって大切な街のための取り組みをはじめてみてはいかがでしょうか?

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