みなさんは普段どんな仕事をしているのか、家族や友達、ご近所さんと話しますか?職業名だけなく、どんな想いを抱き、どんな未来を描いて取り組んでいるのか。そんな深いところまで語り合う機会は、なかなかないかもしれません。
ロンドンの環境NPOに勤め、サステナブルな未来のために熱意を燃やすAnna Birney(アンナ・バーニー)とLouise Armstrong(ルイーズ・アームストロング)も、同じ悩みを抱えていました。
同僚であり隣人でもある、この二人の女性がひらめいたこと。それは、地元で手づくり展覧会を開催して、みんなを招待することでした。二人がつくった展覧会「Focus Out」のレポートを、アート部門を担当したルイーズさんのインタビューとともにお届けします。
壁いっぱいに「未来へのメッセージ」
開催場所は、ロンドン南東部キャンバーウェルにある「House Gallery 」。一階はカフェ、地下はレンタルギャラリーで、週替わりで展示やイベントが催されています。
ロンドン南東部キャンバーウェルにあるカフェ&ギャラリー「House Gallery」
2013年7月15日~23日の約一週間、ウィンドウに飾られた真っ白な封筒を目印に「Focus Out」は開催されました。準備の段階からブログやTwitterで進捗を共有し、みんなが見守るなかでのスタートです。
展示作品は壁3面にそれぞれひとつずつ。参加者が便箋に未来へのメッセージを書き、壁一面の空の封筒をいっぱいにしていくインスタレーション「Message to the Future」。壁に貼られた紙に、参加者の理想の未来をドローイングする作品。そして、宇宙飛行士が撮影した地球の映像「Overview from Planetary Collective 」の上映が行われました。
理想の未来を描く参加者
ご近所さんと地元を食べる、未来を語る
期間中、スペシャルイベントも開催されました。18日はカフェスペースを使って、地元の料理を囲んだ食事会。仕事帰りのアンナさん、ルイーズさんと、二人の両親や親戚、学生時代からの友達、そしてカフェの近くに住む好奇心旺盛なご近所さんたちが勢ぞろい。「このお店のチーズ、おいしいよね」「アンナとルイーズとは、どこで知り合ったの?」といった会話で賑わいました。
メニュー表には、前菜やメインディッシュの説明だけでなく、こんなメッセージも。
「旬の食材や地産の食材は、二酸化炭素の排出量を減らすと思いますか?」
食事を囲みながら各テーブルで話し合ってほしい、アンナさんとルイーズさんからの”問いかけ”なのです。ワインをつぎあい、お皿をまわしながら語り合います。
途中、サプライズメニューとして「昆虫食」も登場。肉に代わるサステナブルなプロテインの宝庫として、ロンドンでは話題の食品なんだとか…。テーブルは一斉に、世界の飢餓や未来の食料問題の議論で盛り上がりました。
ミールワームのからあげ(右)。アボカドディップを沿えてメキシコ風にアレンジ。
最終日は、家族と親戚だけのプライベートツアーが開催されました。
アート部門担当のルイーズさんにインタビュー
アンナさんとルイーズさんは、ロンドンを拠点とする環境NPO「Forum for the Future」に勤めています。マネージャーを務めるアンナさんは、本企画のマネジメントと広報を担当。毎週末ギャラリー巡りをして過ごすというルイーズさんは、アート作品の構想や準備を担当しました。
アート部門を担当したルイーズさん(中央左)
なぜNPOでのお仕事に加えて、この展覧会を企画・開催したのでしょう?
アプローチを変えてみたかったんです。仕事では、わたしもアンナも大企業や政府などの大きな組織とのコンセプトワークが多いですね。でも、わたしたちの仕事は、未来に関するとても大切なことだから、すべての人に一緒に考えてほしいと願っています。家族や友達、隣人とも一緒に考えてみたかったけど、機会がありませんでした。
忙しいお二人だと思いますが、なぜこのタイミングで実現させることができたのでしょうか。
はじめはアンナが企画していたのですが、彼女はフルタイムの仕事に加えて、小さい子どもが二人いて、大学院に通いながら、さらに本も執筆しているという非常に多忙な女性です。もう何年も構想はあったそうですが、なかなか実現できなかったと言っていました。
でも最近、ライフコーチと一緒に、本当にやってみたかったことに1日30分、30日間だけ取り組む「30日間チャレンジ」というプログラムを始めたそうです。近所のカフェでお茶をしたとき、アンナがこの企画に取り組み始めたことを話してくれて、意気投合しました。
同僚であり、地元を愛する隣人であり、そして同じ志を持っていることに改めて気が付いたと語るルイーズさん。役割を分担して、それから実現までは約1カ月と、本当に早かったそうです。
参加型のアート作品を中心にした理由をたずねてみると、
専門に勉強したことはないんですが、わたしはアートが好きで、仕事の帰りや週末はギャラリーをいくつも巡っています。アートには、あらゆる人を”考える”ことに巻き込む力があると感じています。アートを使って参加者と一緒に未来を考えるようなことを、ずっとやってみたくて、手帳にアイデアやラフをいつも描いていました。
わたしはいつもサステナブルな未来をつくるために熱意を持って仕事をしていますが、周りの人に急に話しても、「わたしには関係ない」と思われてしまうことがあります。それに、まだ興味を持っていない人に、自分の話ばかりするのはよくないと思うんです(笑)。アートだったら、みんなが楽しめるでしょう?
一方的ではなく、楽しみながら一緒に考えるアプローチとして、アートがぴったりだったようです。
イベントにはご近所さんやご家族、幼なじみ、同僚の皆さんなどが来ていましたが、反響はどうだったのでしょうか。
「楽しかった」とか「いい機会をくれてありがとう」と言ってもらえました。両親なんかは「何十年も一緒にいたのに、お互いの知らなかった面を知ったよ」と言っていて、後でもう少し詳しく聞いてみようと思います(笑)。
また、食事会の料理にもこだわったようです。
メニューは隣人のフォトグラファーで、月に一度だけレストランを開くトムさんと相談しながら作りました。ロンドンでは「Pop-up(ポップ・アップ・ショップ)」という、毎週入れ替わったり、週末や月に数回だけ開かれたりするショップがあり、こうした場を使って、街でもうひとつの顔を持つ人が増えてきています。彼もその一人なんです。
今回は一週間という期間限定でしたが、今後の予定についても聞いてみました。
実は、9月にロンドンで開催される「FutureFest」というイベントでも、「Message to the Future」を展示することになったんです。NPOの同僚からも、「オフィスでも展示したら?」と声をかけてもらいました。わたしたちの所属するNPOでは、月に一度、半日を自分の好きな活動に使っていいことになっています。その時間を使ってやってみようかな。
ちなみにルイーズさんは「なぜか不思議なくらい日本人の友達が多い」そう。アンナさんも以前、世界を旅していたときに日本に滞在したことがあり、大好きな国の一つなんだそうです。
わたしたちは同じ未来を目指しているのかもしれませんね。この記事を読んで、わたしたちの活動が日本の誰かにとってのきっかけになったら、すごくうれしいです。
あなたの未来へのメッセージは?
壁一面の空の封筒が、未来へのメッセージでいっぱいに!
最終日には、壁一面の空の封筒のなかは未来へのメッセージでいっぱいに!アンナさんもルイーズさんも、「やって良かった!」と笑顔を浮かべ、とても満足そうでした。
みなさんも、日々の仕事への想い、そしてどんな理想の未来を想い描いているか。身近な人と語り合う機会をつくってみてはいかがでしょうか。