当たり前のようにあった電気というエネルギーの存在を、3.11以降、あらためて考え直した人も多いのではないでしょうか。太陽光、水力、風力、地熱…何がいいのかよく分からない、という人も多いかもしれませんが、今回のgreen drinks BOSOのイベントは、一歩進んで、“自然エネルギーを自分でつくろう”というもの。エネルギーを私たちの手に取り戻そう、そんな活動が全国で広がっています。
6月23日に開催された、持って帰れる「ミニ太陽光発電システム」をつくるワークショップ with 藤野電力の様子をご紹介します。
撮影:荒川真一(D-KNOTS)
会場の「のうそんカフェnora」は、太平洋・九十九里浜に面した長生村にある、農作業サポート付き会員制農園「FARM CAMPUS」が運営するカフェ。澄み渡るような空に心地よさを感じつつ到着すると、水溜まりから顔を出す小さな蛙たちが出迎えてくれました。
今回講師をつとめるのは、「藤野電力」エネルギー戦略企画室室長の小田嶋 電哲さん。旧藤野町へ移住後、会社勤務の傍らトランジションタウン活動に参加されていましたが、震災後に藤野電力へ参加し、太陽光発電のワークショップや各種イベントへの電力供給、市民発電所の建設などに取り組んでいます。
さぁ、自分で電気をつくってみよう
太陽光発電というと、一戸建て住宅の屋根に載せるもので、費用もかかる…というイメージ。目の前に置かれた太陽光発電システムの制作キットは、それほど大きくないし、パーツはこれだけ?という印象。これならマンションやアパートのベランダにも十分に設置できそうです。ちなみに、材料一式(制作指導つき)で42,800円。自分には縁遠いことだと思っていた太陽光発電が、ぐっと身近に感じられました。
具体的には、以下の内容が含まれています。
・ ソーラーパネル 50W(電気をつくる装置)
・ バッテリー 20Wh/5Hr(電気をためる装置)
・ チャージコントローラー(電気を逆流させない、過充電にならないようにする装置)
・ インバーター 最大300W(電気を使うための装置:一般的な電気製品の交流用)
・ シガーソケット分配器(電気を使うための装置:車内などの直流用)
・ 接続ケーブル
この内容で、一日の発電量はおおむね200Whくらい。ノートパソコンなら4時間、液晶テレビ(たとえば28インチ程度)なら5時間程度の電気が使えるのだそうです。
“ミニ”太陽光発電ですから、野菜づくりに例えれば、自分で食べる分くらいは自分でつくる、という程度。贅沢はできないけど、そもそも電気の贅沢なんてする必要はないのだから、このくらいがちょうどいいのかな、と思いました。
太陽光発電の仕組みは、聞いてみればとてもシンプルなものでした。発電をして蓄電池に溜め、そのときに電流が逆流したり過充電されないように間にコントローラーを入れる。さらに、蓄電池から電気を取り出すための器具を取り付ければ完成です。
それぞれの機器を接続ケーブルでつないでいくのですが、専用の工具でケーブルの被膜を向いて、中の導線に端子を圧着させて…。小田嶋さんがひとつずつ確認しながら一緒に作業してくれるので、迷ったりすることなく、着実に作業が進んでいきました。
房総の太陽の下、みんなで外ご飯
ワークショップは途中ですが、お腹も減ってきたところで、ひと休み。「のうそんカフェnora」の外ご飯は、おにぎりも野菜も、とにかく美味しい!
庭に設置された「ソーラークッカー」は、太陽光発電で得られた電気でBBQを楽しむためのもの。やや丸い形状の反射板をつけて太陽光を1点に集約することで、太陽光のパワーをより強くするという仕組みで、「RA -energy design-」のデザイナー・田口和典さんのオリジナル装置なのだそう。とある途上国での野外イベントで、電力供給量が不十分な状況でソーラーバッテリーを使用したのがきっかけで、ソーラーの活用を本格的に始めたそうです。
お腹も満たされたところで、「太陽光サウンドシステム音質比較大会!」。普通の電気を使ってスピーカーから聞こえてくる音と、太陽光発電で、たった今発電した電気を使ってスピーカーから聞こえてくる音を聞き比べしてみよう、という企画です。
これが驚くことに、まったく異なる音質でした。ふつうの電気を使った音に比べて、太陽光発電で得られた電気を使った音は、柔らかく、音が体を抜けていくような感覚。RA -energy design-のメンバー村上 智章さんも言っていましたが、これはぜひ、みなさん自身の耳で体験してみてほしいです!
「RA -energy design-」のサウンドエンジニアである藤田 晃司さんいわく、通常のコンセントから取り出した電気の波(交流電流)のなかにはノイズが入っていて、ソーラー電源は、そのノイズと縁のない “きれい”な状態なのだとか。クリーンなエネルギーからは、クリーンな音が出てくる、ということですね。電気にも“質”があって、音質まで変えてしまう。湧き水で珈琲を淹れるようなものだ、と説明してくれました。
ふつうの電気は、発電所(直流)→送電線(交流)→各家庭(直流)といった具合に、送電線で電気を運ぶために電気を変換する必要があり、その度にエネルギーのロスがあります。
今回のソーラークッカーや、音質比較大会で使われた電気は、発電したその場で使うのでエネルギーのロスがない、まさに“自給自足”の電気ということですね。
さらに、歌手であり、即興音楽家、さらに実験者という淺野 牧子さん(木歌(Mocca))によるライブも!カリンバひとつと、ボイスループマシーンを用いた即興ライブは、なんともエネルギーに満ちあふれていて、房総の空の下、のどかで気持ちのいい時間が流れていきました。
各機器がつながって、締めくくりは点灯式!
再会された午後のワークショップでは、端子をつなぐ作業が続けられ、最後はバッテリーに取り付けます。
ソーラーパネルから電気が来ていることが確認できたら、LED電球をつないで点灯式。ぱっと電気がつくと、「おー!ついたついた!」という感じ。意外と簡単に、自分の手で電気がつくれるなんて、と感動してしまいました。
今回のワークショップに参加された方からは、「難しそうだと思っていたけど、遊び感覚でできた」「1台でつくる電気量は少なくても、日時を決めてみんなで集まればソーラーイベントができるね」といった声も。
このキットを設計したきっかけは、3.11の停電だったんです。情報もなく、状況が分からないなか、とにかく不安でしょうがない。このキットで発電できる電気量は、今の何でもできるという恵まれた状況から考えると、これしかできないという程度かもしれないけど、携帯電話の充電ができれば人と連絡がとれるし、LED電球で灯りも点せるわけです。
最低限これだけあれば、なんとかなる。身の丈レベルの電力からは、いろいろな気づきを得られますよ。(小田嶋さん)
当たり前に存在するけど、太陽ってとてもありがたい。今回のワークショップで、あらためて太陽のありがたさに気づきました。また、電気というと、どうしても自分には縁遠いというか、他人事として考えがちですが、実際につくってみたことで、完全に“自分事”に。こうして、エネルギーも自給自足の時代へと向かい始めているんですね。
自分の手で、自分が使う分だけ電気をつくってみる。そんなワークショップに、ぜひみなさんも参加してみませんか?