12/19開催!「WEBメディアと編集、その先にある仕事。」

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マンガの新たな楽しみ方とは?内沼晋太郎さんと語る、マンガの未来(前編) [マンガ×ソーシャルデザイン]

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東京・下北沢の書店「B&B」。独自の編集で本やマンガが並ぶ

マンガの発刊数が増え「マンガの海」がどんどん広がるなかで、「どんなマンガを読めばいいのかわからない!」「自分にあうマンガはどこ?」という方も多いのでは?そんな声に答えるため、出版社や書店では、自分にぴったりのマンガと出会えるようなさまざまな工夫を行なっています。

マンガナイト代表の山内康裕さんとの連載「マンガ×ソーシャルデザイン」で、今回お話を伺ったのが、東京・下北沢の書店「B&B」をプロデュースし、マンガ原作の映画をもとにしたリアルなイベントも手がけるブックディレクター・内沼晋太郎さん。出版社による“ウェブマンガ”の新しい取り組み、マンガとリアルの新しい関係など、マンガの新たな側面を聞いてきました。

新作にはウェブで出会う!

山内 「裏サンデー」「WEBイキパラCOMIC」……最近マンガ業界では、大手出版社によるウェブマンガ用サイトの立ち上げが活発です。従来のように既存の紙媒体で発表済みの作品を掲載するのではなく、新作を発表していることが今までにない試みです。内沼さんは何かウェブマンガでおもしろいと思うものはありました?

内沼 「となりのヤングジャンプ」の『ワンパンマン』は超おもしろかったですね。

山内  これって、「無料でウェブ連載&単行本でお金を稼ぐ」という実験に大手が本腰を入れ始めたってことなんですよ。「裏サンデー」や「となりのヤングジャンプ」はその典型例。「裏サンデー」で連載していた『モブサイコ100』は2012年11月に単行本として発売され、堅調な売れ行きで話題になりました。

ウェブでの新作マンガの発表は、紙の媒体に発表できない個人から始まりましたが、メディアファクトリーのエッセイコミックやスクエアエニックスの「ガンガンONLINE」発の作品など、ウェブマンガを事業化するなど動き出していたところ。そこに大手出版社も参入してきたわけです。

マンガナイト代表、山内康裕。

内沼 「週刊少年ジャンプ」は、いま1冊240円ですね。昔からよく言われるのは、同じ厚さのまっさらなノートって、240円で買えるんだっけ?ということ。おそらく買えませんね。

印刷のコストもかかっているのに、240円が紙代にもなっているか怪しい.マンガ雑誌というのが、そもそも単体で利益を出すビジネスモデルではないということは、少し考えれば誰でも想像できます。

小説の場合、それはさらに顕著です。大手出版社の文芸誌というのはほとんど、単体の売上で採算をとることは最初から考えられていません。それは数々の名作を輩出してきた老舗の看板であり、実際は「単行本にするための連載媒体」。作家の執筆ペースを支える存在として、位置づけられています。

ですので、ここ何年かの風潮として、連載がウェブに移行しつつあります。特に文芸誌をもっていなかった出版社で顕著です。

マンガの方も同様に、印刷物よりもウェブにしたほうが、制作コストも安い。単行本販売がメインの収益源だったら、紙の雑誌でなくてもいいかもしれない、という発想になりつつあるということですか?

山内  大手がウェブマンガに乗り出したのは、その狙いがあるのかもしれません。雑誌の売り上げを単行本が抜いたときから、出版社は単行本販売に力を入れざるをえなくなりました。作品のファンでも、単行本の発売を待って読むという人がすごく多いのは事実です。
 
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マンガナイトが編集した「B&B」の本棚。マンガの収益は、単行本売り上げが中心に” title=”「B&B」内のマンガナイトの本棚。古典から新作までマンガ初心者も読みやすい作品中心

メディアが変わることで、新しい表現が生まれる

内沼  僕が学生のときは、「週刊少年ジャンプ」という雑誌を1冊まるごと読んでいました。目当ての作品だけでなく新連載のマンガも読むことで、自然と作品との出会いになっていました。

ひょっとしたら今の人たちにとっては、それがウェブマンガになっているのでしょうか?

山内 そうかもしれません。少なくとも「このヒット作品が載っている雑誌のほかの作品も読んでみよう」とはなりにくいです。それをあらわすのは雑誌の販売部数。 いくら『テルマエ・ロマエ』があれだけ売れても、連載している「コミックビーム」の売れ行きは、そこまで伸びていないんです。

ただウェブマンガへの移行を後押しするのは、紙の雑誌の不振というネガティブな理由だけではありません。メディアが変わることで、新しい表現が生まれる可能性もあります。

たとえば従来の紙のマンガでは「ページを開いたとき、最初に目に留まるのは左側のページの下のコマ」とされてきました。これは製本された紙媒体を見開きで読むことが前提の表現方法です。これをそのままウェブ上で読ませるのは難しいと思います。

最近ウェブや電子書籍でマンガを読む人が増えたのは、パソコンやスマートフォンで読むことを意識して作られた作品が徐々に増えてきたからだと思います。

いろいろなスタイルのものが出ていますが、現状では縦スクロールでコマが続いていくものが、もっとも読みやすいと思っています。4コママンガがずっと続いて話が進むイメージですね。たとえばのスマートフォン向け無料マンガ『ラッキーボーイ』。App Storeでも出るたびランキング上位にランクインしていました。
 
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スマートフォンで読むことを前提にしたマンガも出てきた

内沼  僕も、ブクログが運営する「パブー」で発表された『西遊少女』に注目しています。この作品も縦スクロール形式で、コマや色味の使い方が従来のマンガの枠組みを超えています。ウェブマンガだからこそできる表現を徹底的に追求していると思います。

山内  縦スクロールも含め、ウェブ時代の新しいマンガ表現がどんどん生まれることに期待してしまいますね。その生まれたものは最早マンガという枠組みでない新し い何かかもしれませんが。

マンガ、リアルの場に拡張

山内  新しいマンガとの出会いはウェブサイトだけじゃない。もうね、マンガっていろんな方法で楽しむことができるんですよ。久保ミツロウさんの『モテキ』では、「大根仁裁判」っていうリアルなイベントもありましたしね。

内沼  ありがとうございます。これはTSUTAYAさんの企画で、実はぼくも少しお手伝いさせていただいたものです。映画のDVD発売に合わせて行いました。

そもそも映画『モテキ』は、それまでまったくモテなかった男性が、いきなり4人の女の子と接触をもつことになって、そのうち誰と恋愛に発展するか、という話のマンガが原作。そして映画には、実在する音楽ニュースサイトの「ナタリー」、雑誌の「アイスクリーム」、野外フェスの「センスオブワンダー」がそれぞれ出てきます。

つまり、それぞれのモデルとなった人物がいるわけですね。しかも、作中に出てきた色々なエピソードが、その方々の実話が元ネタになっていました。しかも彼らはその事実を劇場で見て初めて知ったらしい、という話を聞いたんです。

そこから、半ば「勝手にネタにされた」実在のモデルたちを一同に集め大根仁監督を糾弾するという、「大根裁判」のアイデアが生まれました。

また同時に、主人公の部屋の本棚を、期間限定で実際の売り場とウェブ上のコンテンツとして再現するという試みを行いました。主人公はいわゆるサブカル男子。映画に映りこんだセットの本棚を拡大して、ひたすらそこからタイトルを拾っていくという地道な作業を行いました。

マンガが映画になって、その映画のモデルになった実在の人物を呼んだイベントする。さらにその世界観をリアルな場所で再現。起点はマンガだけど、いろんなところに派生しています。

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ブックディレクター・内沼晋太郎さん。リアルとつなげることで本やマンガはもっと楽しめると考える

山内  『モテキ』の拡張は、すごくよくできていました。“マンガを拡張する”というと、一般的にはアニメーションになりやすいけれど、「大根裁判」や主人公の本棚再現は、マンガの世界を追体験できる場がバーチャルの世界ではなくてリアルの中にあったというのがすごく面白いと思う。

現実での追体験で、マンガとの 出会いは格段に増えますよ。リアルでの体験はコミュニティ形成にもつながりやすいですしね。

内沼  ここ10年ぐらい、マンガ家が、「拡張」を想定する傾向があるのかもしれないと思っていて。たとえば特定の職業をテーマにしたマンガ。ネタ元がいるなら、 その人を呼んでトークイベントをするのも面白い。

今のマンガはその気になればどんな作品でも拡張させることが可能な気がする。書き手がどこまで意識してい るのかはわからないけれど。 出版社もサイン会やトークショーを積極的に全国で開催している。最近「初のサイン会開催」が増えた気がします。

(対談ここまで)



ウェ ブマンガはいま 中堅出版社運営から、大手出版社の男性向け、男女両方向けと広がりつつあります。ウェブマンガがかつての雑誌の役割である「新しい作品との出会い」の一端を担うようになるのは間違いなさそうです。折しも タブレット型端末の流行で、ウェブサイトは「いつでもどこでもみられる」メディアになりつつあります。

そして、リアルな場での追体験、追体験の共有……マンガ業界は、読者との接点を増やそうとしています。 メディアの壁をこえ、マンガと読者、そして漫画家とのつながりをどうデザインできるか。「マンガが好き!」という読者といかにコミュニティを形成するかが、これからのマンガのあり方のキーとなりそうですよね。

後編では、そんな変化するマンガを取り巻く環境や読者とのつながりから、新たなマネタイズの仕組みをどう生み出すのかをお伝えします!次回も乞うご期待!

(Text:マンガナイト・bookish)

山内康裕
マンガナイト/Rainbowbird.inc代表。
1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科を修了。
仕事や勉強のかたわら20歳からマンガ業界の研究を始め、2009年にマンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成、各種イベントを実施。マンガナイトの活動から派生するかたちで、Rainbowbird.incを設立し、マンガ関連の販促企画・場のプロデュース・戦略立案事業、選書・執筆(『このマンガがすごい!』など)も手がける。

内沼晋太郎
numabooks代表/ブック・コーディネイター/クリエイティブ・ディレクター
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。
ブック・コーディネイターとして、書籍売り場やライブラリのプロデュース、本にまつわるプロジェクト企画や作品制作、書店や出版社のコンサルティング、電子書籍関連のプロデュースなどを手がける。 2003年本と人との出会いを提供するブックユニット「book pick orchestra」を設立、2006年末まで代表をつとめる(現代表:川上洋平)。平行して自身の「本とアイデア」のレーベル「numabooks」を設立。

2011年から読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」(株式会社ディスクユニオン)プロデューサー。 2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業した。