カンヌ受賞の社会派広告、今日はアウトドア部門のブロンズを獲得したものからご紹介します。けっして派手ではないですが、味わい深い広告ばかりです。ポスターなどの表現は、日本ではとにかく分かりやすいことが求められます。でも、ここで選ばれているものは、ほとんどが立ち止まってじっくり見てみて「なるほど」と思わせるものが多いです。メッセージの送り手が、受け手の知性を信用して挑むような表現。日本にはあまりないアプローチなので、そこを意識して見てみてください。
【BRONZE】
●COMMUTER,OFFICE WORKER,RUNNER
/ MULTIPLE SCLEROSIS WAIKATO
3点のシリーズです。通勤する人、オフィスで仕事する人、走っている人、それぞれが、カプラのような小さな積み木ででかたどられています。こういう積み木って、ちょっと動かすとバラバラと崩れちゃうんですよね。コピーは「多発性硬化症になると、あなたはどこにも行けなくなる。多発性硬化症は、体が突然固まってしまう恐ろしい病気です。Mswaikato.orgのサイトで治療法を調べてください。」あまり知られていない難病のことを、その感覚が伝わるビジュアルとシビアなコピーで鋭く伝えています。
●THIAGO / UNICEFF
笑っている赤ちゃんの写真。とても微笑ましいビジュアルですが、コピーはとてもショッキングです。「チアーゴ本人だけが、そのことを知らない。自分が、18歳まで生きられないということを。彼は、みんなが自分を他とは違う存在として見ているということだけはわかっている。外を歩いていると、みんなが彼に道を譲る。チアーゴは、他の人とどこが違うというのだろう。なぜ、彼には他の子どもたちと同じ権利がないのだろう。答えは簡単。彼はこの写真に写っている子どものような肌の色をしていないのだ。<話し合おう。>」分かりますか?これは人種差別の問題を訴える広告なんです。肌の色が違うというだけで生きていきずらいという問題を、ビジュアルとコピーのギャップで心をえぐるように訴えているんですね。
●PEACE SHADOW PROJECT
/ HIROSHIMA PEACE MEMORIAL MUSEUM
次は日本のピース・シャドウ・プロジェクトです。日本に原爆が落とされてから60年以上たちます。たくさんの命が奪われたこと、そして苦しみを残したことは、人びとの記憶からなくなりつつあります。でも、世界にはまだたくさんの核があります。核のない、平和な世界のために。このプロジェクトは、原爆の光で焼き付けられた影に似たシルエットを、平和への願いとして広めて行くことを目的としています。まず、被爆者の方の影を撮影し、被爆地に置き、戦争のことを考えるきっかけをつくりました。そして、WEBカメラで撮影した自分の写真を影にして平和へのメッッセージにするプログラムをつくりました。その影からは表情はわかりませんが、人間の存在がはっきりと伝わります。悲しみと願いが込められた他にないアートは、言葉を超えた説得力を持ちます。
●SAVE THE BEACH HOTEL / GMODELO EUROPA
世界初の「ゴミホテル」です。なんと12トンものゴミでつくられたリゾートホテル。もちろん、泊まることもできます。これはヨーロッパのビーチで清掃キャンペーンを続けているコロナビールのアクションで、みんながゴミをほったらかしにしていると、楽しいビーチでの休日を象徴するリゾートホテルも、ゴミでつくるしかなくなりますよと訴えているんですね。ビールのブランドらしく、お説教臭くなくユーモラスに、ビーチの楽しさをそのままにメッセージを伝えるユニークな広告ですね。
●COCAINE
/ FOUNDATION AGAINST DRUG CONSUMPTION
美しいですが、よく見るとゾッとする広告です。ジェッコトースターのレール、何やら文字のように見えます。そう「COCAINE」、覚せい剤のコカインの文字になってるんです。そしてその先は、レールが切れてしまっています。いちど乗ってしまえば降りられず、そのまま…。コピーが恐ろしいです。「お楽しみがどうやったら始まるのか知っていても、どうやって終わるのかは分からないんですね。」まるで悪魔のささやきです。
●BABY,PASSION / PETA
こちらも、一見楽しそうなビジュアル。でも、よくみると痛々しい。古き良き時代のサーカスのポスターのようなデザインで、トラックに象が無理矢理押し込められていたり、曲芸をさせるために虐待させられたりしています。コピーは「ようこそ、地球上で最も悲しいショーへ! <リングリングサーカスをボイコットしよう>」私たちのショーのために動物は虐待されているという事実を、ゾッとするようなウィットを効かせた表現で伝えているんですね。
カンヌ2011受賞の社会派広告、まだまだ続きます。
次は、印刷広告のプレス部門の受賞作からご紹介します。
お楽しみに。
※これまでに紹介した以下の部門からの受賞作と重複するものは省いてあります。
・Promo & Activation Lions
・Direct Lions
・PR Lions
・Media Lions
・Outdoor Lions(1)
☆翻訳協力:@t_saori