すこし間が空いてしまいましたが、カンヌ受賞の社会派広告、まだまだご紹介します!今回はPR部門からご紹介します。
【GOLD】
●DIGITAL DEATH / KEEP A CHILD ALIVE
これはアフリカとインドでHIV、AIDSと戦う小さな団体の広告です。世界では毎年100万人以上の人がエイズで亡くなっています。でも、最近はエイズについての関心が薄れてきていました。多くの人の関心を高めるために、この団体はハリウッドのセレブたちに働きかけました。というのも、漠然とたくさんの人が死んでいるということより、自分の知っている有名な人が死ぬことのほうが、多くの人にとっては衝撃的だからです。
この取り組みでは、まずセレブたちに「死んで」もらいました。といっても、ネット上での死です。ツイッターやウェブムービーで、セレブたちは自分たちはネット上で死んだこと、そして、100万ドルの寄付が集まらなければ生き返ることはないことを宣言したのです。セレブたちの話題に目がないメディアは飛びつきました。ネット上だけの死は現実の社会でも大きなニュースになり、なんと6日間で100万ドルの寄付を達成したそうです。
●VAC FROM THE SEA / ELECTROLUX
電気機器メーカーのエレクトロラックス社は、リサイクルプラスチックを使った掃除機を製造し、販売しようとしていました。でも、そこで壁にぶち当たりました。再利用できるプラスチックがそれほどないと分かったのです。でも、実は地球上にはたくさん再利用できるプラスチックがあったのです。陸の上ではなく、海に。海には不法投棄されたプラスチックがたくさん漂っていたのです。そこでエレクトロラックス社はNGOと協力して「海からの掃除機」というプロジェクトをスタートさせました。
まず、寄付キャンペーン。掃除機を買うとその売り上げの一部が海のゴミについて調査するNGOに寄付されるキャンペーンを店頭で実施しましたのです。そしてイベント。世界中の海からゴミとなっているプラスチックを集め、それを使った掃除機を試作品としてつくり、世界各国で展示を行いました。海にあふれるゴミの問題について、多くの人に考えさせる機会をつくったこのプロジェクトは消費者から好意をもって受け止められ、エレクトロラックス社の売り上げ拡大につながったということです。
【SILVER】
●GET TESTED PROJECT / AIDS TASK FORCE
エイズの発病を抑える薬が開発されたいま、HIVは早く見つけることができれば死に至る病ではなくなっています。でも、多くの人がHIV検査を行っていません。イスラエルも同じ問題を抱えていて、HIV検査を受ける人を増やす必要がありました。そのためにAIDS TASK FORCEが目をつけたのがラジオでした。イスラエルの若者はよくラジオで音楽を聞いています。
そこで世界エイズデーの日に、国中のラジオ局のDJにライブでHIV検査をしてもらうことにしました。どこの局を聞いても、DJがHIV検査をしているという状況をつくったのです。自分の耳なじみのDJがHIV検査をすることで、より身近なものに思えるようになりますよね。このキャンペーンの結果、なんと前の年の2倍もの人が検査に訪れたということです。
●FAKE IT ALL / BRAND PROTECTION GROUP
レバノンの街には、ブランドの偽造品があふれています。もはや文化というくらい、偽造品は当たり前のものになっていました。偽造品を取り締まる法律はあるにはあるのですが、それが知られていなかったのです。そのために、まずは偽物が身近にあるということに気づかせる必要がありました。そこで偽造品をなくすことを目的とする団体は、メディアを使って徹底的に「それ、偽物かも」と考えさせるキャンペーンを実施しました。それこそほんとうに、ありとあらゆるメディアを使って。
夫が偽物になっているというユーモラスなCMを流す、大手の新聞のロゴをちょっと変えて発行する、ラジオやテレビでは人気キャスターの偽物を使う、フェイスブックでは250人のインフルエンサーの偽ページをつくり友だちリクエストを送りまくる、街では自分の動きを真似する人を派遣する…。それらのアクションは偽物を見つけたら通報する電話番号とセットで伝えられたので、多くの人に偽物が身の回りにいっぱいあるということと、それが犯罪であるということを知らせる結果となりました。
【BRONZE】
●UNDERHEARD IN NEW YORK / HOMELESSNESS AWARENESS
ニューヨークではホームレスの人がどんどん増えていっていました。それに対して、彼らへの援助はまったく足りない状況でした。問題は、多くの人にとってホームレスは見えない存在のようなものになっています。ボランティア活動する人や寄付を増やすためには、多くの人にホームレスの問題を認識させ、同じ人間として安らぎを取り戻したいという気持ちを起こさせることが必要でした。
そこでホームレス援助の団体は、4人のホームレスにプリペイド式の携帯電話を渡しました。そして4人にはツイッターのアカウントを与えられました。携帯電話からホームレスたちの人生経験などをツイートしてもらうようにしたのです。同時に、4人のホームレスを撮影した映像と、それぞれのツイートが読めるサイトもつくりました。彼らのフォロアーは増え続け、1万8000人以上のフォロアーを獲得。団体にはたくさんの支援が集まり、4人は仕事を得たり、家族と再会することができました。このサイトはキャンペーンが終わったあとも寄付の窓口として順調に機能しているようです。
●WOMEN FOR SALE / ATZUM
お次はgreenzでも紹介したイスラエルの人身売買を訴える広告です。イスラエルでは他の国から密輸され強制的に売春を強いられている女性たちがたくさんいます。売春を取り締まる法律の可決を後押しするために、多くの人に人身売買の事実と、それがいかに非人道的か知らせる必要がありました。
そこで売春に反対する団体は、テルアビブの繁華街にあるショッピングセンターの一角で、「Woman To Go」というショップを開き、生きている女性たちを売り物としてディスプレイしました。女性たちが売られているという、陰で行われていることを、表のショッピングの場で公表するというショッキングなキャンペーンは世界的に議論を引き起こし、100カ国以上で報道されることになりました。イスラエルの市民を対象にしたものだったにもかかわらず、世界に問題提起することになったのです。その結果たくさんの署名が集まり、政府は法案の可決の検討に入っているそうです。
次回はメディア部門の受賞作からご紹介します。
まだまだ続きますよ〜。
※これまでに紹介した以下の部門での受賞作は省いています。
・Promo & Activation Lions
・Direct Lions
☆翻訳協力: @t_saori