毎年恒例のカンヌの社会派広告、今年もgreenzでは何回かの連載で、たくさんの受賞作をご紹介します。まず去年まで行なわれていた「カンヌ国際広告祭」は、名前が変わりました。去年までは「Cannes Lions International Advertising Festival」だったのですが、今年から「The Cannes Lions International Festival of Creativity」つまり、「カンヌ国際クリエイティブ祭」と、「広告」という表記がなくなったんです。
これまでのマスメディア中心の広告の枠に留まらない表現が増えてきているという現実と、そしてこれからはそっちの方が主流になることを見据えての名称変更です。審査の基準も変わり、表現的な面白さだけでなく、根本的な発想が新しいかどうかが問われる賞になっていると思います。では、新しくなったカンヌの社会派広告、スタートは商品やサービスの即効性ある動きを狙った広告を評価する「プロモ&アクティビティ」部門の受賞作から。
【GOLD】
●SAVE AS WWF / WWF
デジタル化が進んで、FAXの代わりにPDFファイルをやりとりすることが多くなりました。もともとPDFは紙を使わずに書類をやりとりするためのものなのですが、実際はプリントアウトされることが多くなっています。そこでドイツのWWFは、新しい書類の保存形式「WWF 」をつくりました。WWF形式で保存されたファイルはプリントアウトしようとすると「SAVE AS WWF,SAVE A TREE.(WWFで保存して、木を守ろう。)」というコピーが書かれたダイアログが現れるようになっています。
もちろんプリントアウトはできません。WWF形式はたくさんの企業や団体で使われました。WWF保存はソフトを入れると誰でもできるようになっているので、普通の人にもどんどん広まっていきました。WWF形式のソフトはいまでも公開されています。興味のある方はぜひ。
【SILVER】
●DRUNK VALET / BAR AURORA & BOTECO FERRAZ
ブラジルのバーで実施された飲酒運転防止のアクションです。バーの駐車場に車を入れようとすると、ベロンベロンに酔っ払った係りの人が声をかけてきて、鍵をあずけて自分に移動させるように言います。怖いですよね。まず断りますよね。で、強引に車に乗り込もうとする係りの人をふりはらおうとすると、一枚の紙を渡されます。そこに書いてあるのはこんなコピー。
「酔っ払いに運転させてはいけない。たとえ運転者があなた自身であっても。」そのときに、あ、この危ない人は自分なんだ、ということに気づかされるんですね。このアクションの結果、このバーに車で来る人はいなくなりました。そして、ソーシャルメディアや報道で広がることで、バーの知名度も上がったそうです。陽気なブラジルらしい、マジメな日本人には通じないようなキツいユーモアのアプローチですね。
●SPREAD THE TED / TEDX BUENOS AIRES
日本でも話題になっているTEDですが、ラテンアメリカではあまり知名度がありませんでした。そこでTEDがメディアとして活用したのは、なんとタクシードライバーでした。カンファレンスに50人のタクシードライバーを招待し、その体験を乗客に語ってもらったのです。
1週間の乗客は7000人。彼らの口コミはやがてソーシャルメディアにも広がっていき、なんと観客が7倍にもなったということです。TEDではこの結果を受け、次は美容師を使った口コミ作戦を考えているそうです。日本でもTEDはインターネットを使う一部の人にしか知られていないですが、より多くの人に広めていくためにもこうした手法は効くかも知れませんね。
●THE MISSING CHILD / INNTIATIVE VERMISSTE KINDER
ドイツでは年に10万人もの子どもや女性が行方不明になっているそうです。ミッシング・チルドレン・イニシアチブは「Deuthschland findet euch(ドイツは君を見つける)」というキャンペーンをスタートさせました。そのキャンペーンはフェイスブックページを立ち上げ子どもについての情報を発信することから始まりました。そこまではよくあるキャンペーンなのですが、次の動きがスゴかった。
全ドイツ人が注目するサッカーのFCバイエルン・ミュンヘンとレアル・マドリッドの試合で、いつもなら試合の始めに全選手がエスコート・キッズと手をつないで入場するところ、FCバイエルン・ミュンヘンのキャプテンはひとりで現れたのです。子どもと手をつなぐ代わりに、彼が手にもっていたのはあるポスターでした。そこには、行方不明になった少女の写真が貼られ、フェイスブックページのURLが書かれていました。スタジアムで、テレビで。この一回のチャンスで、ヨーロッパ中の人たちがこのキャンペーンのことを知ることになったのです。
●A NEW WARRIR / GREENPEACE
1978年から世界各地の環境を守るためにグリーンピースのクルーとともに戦い続けてきた船、虹の戦士号は、そろそろ世代交代を迫られていました。そこでグリーンピースは、サポーターとともに新たな虹の戦士号をつくるキャンペーンを実施しました。ただお金を集めるだけではありません。船のパーツを40万個にわけ、Eコマースサイトのような体裁でつくられたウェブサイトで、パーツを1ドルから7千ユーロの値段で買ってもらうようにしたのです。
ウェブサイトでは船内のようすや冒険を3Dムービーで体験できるようになっていて、完成に向けてのワクワク感を演出。そしてパーツ代を寄付した人には、新しい虹の戦士号のオーナー証明書がWEBで贈られる仕組みになっていました。証明書を持った人の多くはソーシャルメディアでそれを公表するなどの効果もあり、結果として過去10年間で最も成功した寄付キャンペーンとなりました。寄付した人を「戦士」として参加の実感を高め、大きな物語の一員としたんですね。
【BRONZE】
●DONATED SONGS / SALVATION ARMY
福祉団体の救世軍は、毎年冬に街頭でクリスマスキャロルを演奏し、歌う活動をしてきました。これはこの団体の伝統なのですが、若い人たちにはそれがダサく見えるため敬遠され、寄付が集まりにくくなっていました。危機感を感じたスイスの救世軍は、国内のスターにヒット曲の寄付をお願いしました。どういうことかというと、クリスマスキャロルのかわりに演奏する許可を求めたんですね。その呼びかけにミュージシャンたちは応え、街角ではロックやラップが流れることになりました。伝統と格式にこだわる救世軍がヒット曲を演奏したことはニュースになり、多くの人から注目と寄付を集めることに成功しました。
●CHOPSTICK,NOT CHOP-TREES
/ CHINA ENVIRONMENTAL PROTECTION FOUDATION
中国でもあちこちで使われるようになっている割り箸。毎年中国では45億膳もの割り箸が作られ、そのために2500万本もの木が切られているといわれています。このままいけば、中国の森林はわずか20年でなくなってしまうことになります。この事実に注目させるために、まず集められたのは3万本膳の割り箸。そしてその割り箸を使って、ボキっと折れた大木をイメージさせる立体物を作ったのです。この立体物は上海の繁華街に展示され、多くの人に衝撃を持って受け止められました。そしてこの立体物は、国立美術館も展示されることになったそうです。
●THE PIRATE RADIO EXPERIMENT
/INTERNATIONAL SOCIETY FOR HUMAN RIGHTS
世界には無実の罪で迫害されている人がたくさんいることを伝える、という難しいミッションに、ドイツの人権団体が挑みました。まず、ベルリンのメジャーな5つのラジオ局のハックできる装置を積んだバンをつくり、街を走らせました。そして、車内や店内のラジオの電波に割り込みのアナウンスを入れます。例えば、「重要な声明のためにラジオの電波をブロックさせてもらいます。警察はいま、危険なテロリストを捜しています。その男は黒いワーゲンを運転しています。
ナンバープレートはOHV-GT580…」と、ラジオを聞きながら車を運転していると、突然自分がテロリストとして指名手配されていることを知らされるのです。「え!何もしていないのに!」と慌てたところで、車を止められ、趣旨を説明されます。引っかかった人たちは、無実の罪で追われる恐怖を味わうんですね。ほとんど悪い冗談ですが、世界には冗談で済まないくらいひどい迫害を受けている人がいると思うと、やり過ぎだとはいえないような気がします。
●WHAT A PERSON CAN MISS A MACHINE WILL FIND
/ THE POLISH FEDERATION CANCER SURVIVORS
ポーランドでは乳がんで亡くなる女性が多く、その数は交通事故死を上回るほどでした。女性たちは乳がんの予防は自己診断で十分だと思っていて、マンモグラフィーの受診率は低いままだったのです。乳がんを減らすためには、自己診断よりも精度の高いマンモグラフィーの受診を高めることが課題でした。そこでがんを減らすことをめざす団体は、アパレルショップのH&Mに協力を求めました。ポーランドではH&Mはティーンから60代まで、幅広い女性に支持をされているのです。
団体は万引き防止のゲートで音が鳴るタグを用意しました。H&Mでブラジャーを買うと、レジの人がそのタグをこっそりバッグに忍ばせます。で、ブラジャーを買った人がバッグを持って外に出ようとするとけたたましく警報音が鳴ります。そこで店員さんが駆け寄り、これがマンモグラフィー受診を啓蒙するキャペーンだということを伝えます。「機械は見逃すことがないんです。乳がんもいっしょ。マンモグラフィー検査を受けてください」と。これもいたずらですが、命にかかわることですから、怒るよりも考えさせられてしまいますね。
次回はダイレクト部門の受賞作をご紹介します。お楽しみに。
☆翻訳協力:@t_saori