朝晩の涼しさと虫の声に秋の訪れを感じるようになった今日この頃、やや季節外れの感はありますが、水木しげるブームの影響で、妖怪と怪談が気になって仕方がない萱原(かやはら)です。
と、切り出しておいて、妖怪や怪談とは全く関係ないのですが(失礼)、そんな暑さの盛り、お茶の世界で何ともブッ飛んだ動きがあるという情報を入手しました。
その名も「給湯流」。
何でも給湯室で正座、まるで京都の茶室にいる思いこみでお茶を点てて飲むんだとか……。
給湯室で「茶の湯」?「茶道」?
つながるようなつながらないような、何だか不思議な組み合わせですが、活動を伝える記事を読むにつけても、何ともただならぬ決意と勢いを感じます。
日本が気になる年頃の小生としては、これは話を聴きに行くしかない!
ということで、給湯流のお茶会にお邪魔して、、家元(仮)のpingpongdasherさんにいろいろ伺って参りました。
侘び寂びは、実にパンクな文化でした。
――いやぁ、給湯流スゴイですね。
給湯流を最初に知ったとき、ガツンとヤラレた感じがしました。エキセントリックというかエクストリームというか、ただならぬ勢いに「負けた……」と思いました。
それだけの衝撃を受けたわけですが、実は、「給湯流」のことがよく分かっていません。給湯室でお茶を点てて飲む、というのは分かるのですが、それ以上のことが何とも……。
それで何をしようとされているのか?そもそも何でこんなこと(すいません……)を始めたのか?要は、「給湯流」って何なのか?というようなことをお聞かせください。
家元(仮):分かりにくくてすいません(笑)。勢いで突き進んでいるところがありまして……。
どこから話せばいいか……、も悩ましいところですが、まずは給湯流を始めるまでの流れをお話しますね。
そもそも、茶道の世界に興味を持ったのはつい最近のことなんです。
実家は典型的な団塊の世代の家庭で、小学生になるとピアノのお稽古に行くのが何となく当たり前、という感じでした。ですので、茶道はもちろん、日本的なものに触れることもなく育ってしまいました。日本を知らずに育った「ロスト・ジェネレーション」です。今から思えば、「ピアノの前に琴とか尺八を教えてくれよ!」って言いたいですよ。
――それすごく分かります。「日本にしかないものをまず教えてくれよ!」と今にしてホントに思います。で、茶道と縁がなかったのがまたどうして?
家元(仮):きっかけは『へうげもの』(作・山田芳裕、刊・講談社)というマンガです。武将であり茶人でもある古田織部という人が主人公で、お茶や数奇者の世界をユーモラスに描いています。織部は、千利休の弟子でもありました。
その『へうげもの』が私の周りでブームになりまして、それがきっかけでお茶のことが気になるようにました。
――『へうげもの』面白いですよね。僕も好きで読んでいます。
家元(仮):『へうげもの』がきっかけで、お茶のことを調べてみたり、お茶会に参加してみたりするうちに、千利休が作った国宝の茶室「待庵」を観に行くことになりました。素人から見るとすごくボロくて狭くて……。広さは2畳しかないんです。
そういう情報は事前にも知っていましたし、国宝なので上がることもできないんですが、実際に外から見ただけで、とてつもないものを感じたんですね。茶室に利休のガッツ、執着心が宿っているように感じました。
千利休という人は、侘び寂びを広げたいがために、極端にボロく見える狭い茶室を作ったんだと思いますが、それまではお上品に格式に則ってお茶を点てて飲むのがカッコいいとされていたものを、この茶室を作ることで180度ひっくり返そうとしたわけですね。器についても、中国や朝鮮の洗練された器がよいとされていたものを、真っ黒なごつごつした器が美しいと利休が価値観を転換しました。その心意気がパンクというか反骨精神に溢れていてカッコいいと思ったんです。
その利休のパンク精神を現代に再現しようと思って、いろいろ考えていたところ、「まずは利休と同じくボロくて狭いところでやってみよう」、「それなら給湯室がいいんじゃないか」という話になったわけです。
――『へうげもの』から「待庵」を経て、「給湯室」に辿り着いたわけですね(笑)。
家元(仮):とはいえ、私も周りの人間もお茶をまともに習ったことがなかったですし、「お茶のことをまともに知らない人間だけで集まってやっても……」と思っていたら、何と偶然なことに、10年以上茶道をやっている新人ちゃん(註:後編で登場する「cute ryu girl」ことSHIO先生)が会社に入ったんですね。
彼女は彼女で会社に茶道部を作りたかったようなんですが、声を掛けたら意外に乗ってきてくれて、「給湯室でお茶会」を目出度く開くことができました。
何回かお茶会をやるうちに、メンバーの一人が「これって給湯流だよね」とポロッとこぼした言葉にピンときて、それから「給湯流」を名乗り、私も「家元(仮)」になりました(笑)。
――新人さんさまさまですね(笑)。ちなみに「家元(仮)」っていうのは……?
家元(仮):お茶も満足に点てられないのに「家元」は名乗れないと思って、いまは正式な流派の先生についてお茶を習っています。「(仮)」がいつとれるかは分かりません(笑)。
『へうげもの』を読んでみる
「給湯流」に触れてみる
「勝手に日曜美術館」ツアーに参加する