齢三十を過ぎて、とかく日本のことが気になって仕方がない萱原(かやはら)です。
今日は、最近個人的にお気に入りの「出光美術館」にやって参りました。
映画『アバター』で3Dに一躍注目が集まったのはほんの半年前こと。今や、3D映画が続々と上映され、3D映像が楽しめるテレビも登場しています。3D、恐るべし……。
ですが、映画もテレビもなかった時代に、昔の日本人は3Dの文化を楽しんでいたのだそうです。それが「屏風」です。
「出光美術館」にやって来たのは他でもありません。ここではいま、「屏風の世界―その変遷と展開―」と題した屏風の企画展を開催しているのです。屏風のすごさ、面白さを探るべく、出光美術館の学芸員で、屏風展の企画を担当された、出光佐千子さんにお話を伺って参りました。
元祖3D!?屏風は飛び出る平面画
――まず、この企画展の見どころと、この企画をやろうと思われたきっかけを教えてください。
出光さん 日頃、所蔵品に触れている中で、屏風の立体感が面白いと思っていました。折り曲げ方や見る角度によって見え方が変わったり、描かれている対象が飛び出してくるように見えたりするんです。
通常、美術館で屏風を展示するときは、折らずに1枚の大きな絵のようにすることが多く、屏風の立体的な面白さを実感していただく機会が少ないと思いまして、当館で、屏風のそうした面白さを伝えたいと、今回の企画を考えました。
最近は、映画やテレビで3Dが話題になっていますが、映画もテレビもなかった時代に、平面画を立体的に楽しむ文化があったということを知っていただきたいと思っています。
――なるほど。屏風は元祖3Dというわけなのですね。
出光さん そのことを学術的に裏付けるのは大変難しいのですが、私や当館の学芸員の実感からは、そのように見たらもっと面白いと、願望も込めて推測しています。
屏風の制作は、大まかに言うと、絵師が描いた絵を表具師が屏風に貼り付けるという工程をとります。その際、絵師がどこまで屏風の折れ目を意識していたかは定かではありません。「そんなことはありえない」という見解が多いのも事実です。
ですが、数々の屏風を実際に見ていると、風景画では山の図様がちょうど折れ目のところに描かれていて、屏風を折り曲げると山が飛び出してくるような感じがしたり(写真上)、屏風を折り曲げると角度によっては見えない部分も生まれますが、それでも絵がつながっているように見えたり(写真下)、立体感や視覚効果を意識して構図を練ったとしか思えないような作品も多くあります。
また、観る側も屏風の立体感を楽しんでいたことを窺わせるものに、画中画があります。画中画とは、絵の中に描かれた絵のことですが、そうした作品の中では、コの字型に屏風を折り曲げたり、大胆にジグザグに折り曲げたりしている様子が描かれています(写真下)。
今回は、展示スペースの限界から、実際に大胆に屏風を動かすことは残念ながらできませんが、その代わりに、展示パネルやカタログで写真をふんだんに使っています。展示品とそれらをあわせて、屏風の立体感、描かれた主題の躍動感を感じ取っていただければと思います。
――カタログの表紙やポスターにも使われている「南蛮屏風」(桃山時代、ページトップの写真)には不思議な秘密があって、NHKの『日曜美術館』でも紹介されたとうかがいましたが……。
出光さん 屏風に向かって左手から右前方に斜めに歩きながら見ると、南蛮船が陸に迫ってくるように見えます。この屏風では、描かれているキャラクターも愛嬌がありますし、当時の外国との交流の様子を感じることができて、人気のある作品の一つになっています。是非、屏風の前で実際に歩いてみていただきたいですね。
<後編につづく>
プロフィール
出光佐千子(出光美術館学芸員)
慶應義塾大学大学院(美学美術史)修了。博士(美術史)。
主に江戸時代の絵画史、とくに日本文人画が専門。池大雅から小杉放菴まで、近世から近代までの文人画(南画)を担当。
・期間:2010年6月12日(土)~7月25日(日)
・開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
毎週金曜日は午後7時まで(入館は午後6時30分まで)
・休館日:毎週月曜日(ただし、7月19日は開館します)
・入館料:一般1,000円/高・大生700円(団体20名以上各200円引)
中学生以下無料 (ただし保護者の同伴が必要です)
※障害者手帳をお持ちの方は200円引、その介護者1名は無料です。
・電話:ハローダイヤル03-5777-8600(展覧会案内)