アクセスが便利で医療施設が集まりがちな都市部に比べ、地方の不十分な医療体制はアフリカでも深刻な課題になっている。その一例がケニアのLaikipiaやSamburu。首都ナイロビから200km以上も離れたこれらの村には30万人の遊牧民が生活しているが、病院や医師が不足しているため、多くの人々が十分な医療を受けられず疫病などに苦しんでいる。そこで、この課題の解決に向け、ラクダと太陽光を使った往診サービスの取り組みが始まった。
僻地への往診には、医師の同行のみならず、医療サービスに必要な機器や医薬品を運ぶ必要がある。しかしながら、LaikipiaやSamburuといった地域は地形が複雑で、道路網も整備されておらず、移動が困難という課題があった。そこで、アフリカ遊牧民の支援団体「Nomadic Communities Trust」では1999年からラクダを活用した往診サービスをスタート。ラクダは暑さや乾燥に耐える生理機能を持つため、砂漠地域やアップダウンが激しい道のりを長距離にわたって移動する際、効率的な手段であることがわかったそうだ。
しかし、この”移動式病院”にはもうひとつクリアすべき課題があった。それは、冷蔵が必要な医薬品やワクチンを、コストをかけずに安全に運ぶことだ。2005年、「Nomadic Communities Trust」は米カリフォルニアのデザイン専門大学「Art Center College of Design」の「Designmatters」や米プリンストン大学(Princeton University)の「Institute of Science and Technology of Materials(PRISM)」と協力し、太陽光で動く冷蔵庫を開発し、これをラクダに背負わせて移動する方法を考えた。このために設計された専用サドルは竹製で、ラクダに負担がかからないよう軽量化されつつ、耐久性に優れたものになっている。また、太陽光パネルはラクダの背中に乗せて発電でき、ここで発電されたエネルギーは冷蔵庫の動力のみならず往診先での医療機器の動力源にも活用する仕組みだ。この取り組みは僻地医療のカタチとして世界で注目されており、2007年、世界銀行(World Bank)の「Development Marketplace competition」では2900通の応募の中から最終選考のひとつに選ばれている。
ケニアのみならずアフリカの他の地域やアジアの内陸部など、交通網が未発達でアクセスが難しく、乾燥や暑さの厳しい地域において、この“ラクダの移動病院”は、有効な医療サービスのひとつになるだろう。また、交通網がマヒしやすい災害時においても、医療支援などの分野で応用できるかもしれない。この取り組みは現在テスト段階だが、資金のメドが立ち次第、2010年内に本格始動する方針だとか。ラクダさん、これからもガンバッテ!
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