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サフィア・ミニー 人間らしい社会を創りたい

新しい貿易のカタチ、フェアトレードの仕掛け人へのインタビュー!
アナタはお店に入って商品を買うとき、その商品がどこで、誰によって、どのように作られたかということまで考えたことがあるだろうか?そんな裏側のストーリーを消費者に伝えるべく、社会と環境に配慮した新しい貿易のスタイルとして、ブランド「ピープル・ツリー」を立ち上げたフェアトレードカンパニー代表サフィア・ミニーさんに、お話をうかがった。

――フェアトレードに興味を持ち始めたのは、何かきっかけがあったのですか?

私は、1964年、モーリシャス出身のインド人の父とスイス人の母の間にイギリスで生まれました。当時は、階級社会で白人でないと差別される厳しい社会でした。7歳の時、父親が癌で亡くなり、母親は私を育てる傍ら、熱心なキリスト教徒でしたからさまざまなボランティア活動もしていました。そんな母のそばにいて、社会が抱えているさまざまな問題を実際に肌で感じることが出来たし、自分の世界観も広がったんですよね。

例えば、ボランティア活動で障害を持つ人たちと食事したり、アフリカ難民の受け入れ先をイギリスで見つけたりするなかで、社会ではどんなことが実際に起きているのか、幼い頃から感覚としてわかるようになっていました。そして、自分でも企画をたてて募金活動をはじめてみたんです。当然子どものやることですから失敗も多くありましたが、母は新しいことにチャレンジすることをいつも応援してくれて、今思えば、自分で何かをするというビジネスセンスもこの頃から身についていたのかもしれません。

イギリスでは出版業界に就職し、働き始めたのですが、くだらないものを宣伝するのにあまりにも多くの創造力や資源が無駄にされていて、そこで浪費される莫大な広告費に次第に疑問を感じ、もっと有効的なお金の使い道はないのだろうかと考えはじめました。そして、17年前にイギリスから日本に来て東京の中心、六本木に住んで、人から見れば羨むような贅沢な生活をおくっていましたが、東京の空気は汚いし、水もおいしくないし、人も温かくない。全然、人間らしくない生活をおくっていたんですよね。それに、ちょうどバブルがはじけたころで、ものすごく無駄を感じました。お金の無駄遣い、資源の無駄遣いにびっくりしました。このとき、もし、このまま世界中の先進国が日本と同じように資源を無駄にしたら、経済は発展しても、環境は悪化し、アンバランスになっていくと思ったのです。そこで、もっと人間らしい生活、社会作りとして環境と共存できる公正な新しい貿易のカタチ=フェアトレードをはじめたのです。

――ピープル・ツリーの活動についておしえてください

ピープル・ツリーでは、アジアやアフリカ、中南米などの農村地域や都市のスラムなどに暮らす人々に仕事の機会を提供することで、貧しい人々が自らの力で暮らしを向上させることを支援しています。このような仕組みをフェアトレードといい、これは貧困のない公正な社会をつくるための、対話と透明性、互いの敬意に基づいた新しいカタチの貿易といえますね。

通常の貿易では、生産地の労働環境、働く人たちの賃金形態、その地域の環境汚染といった商品ができるまでの課程、裏側の話は、消費者に伝わらないことが多いですよね。つまり、消費者は商品を買うという行動を通じて、間接的にですが、どこかの国で、誰かが苦しんでいる貧困問題や環境破壊といった実態を支援してしまう、という構図ができてしまいます。でも、フェアトレードを支援するということは、そうした問題の解決に自分が参加できる、ということを意味しています。

私たちの組織、フェアトレードカンパニーでは、年2回、生産者と一緒につくりあげた商品を、通販カタログ「ピープル・ツリー」で紹介しています。カタログは会員への送付や書店販売(約1万部)、全国350店の取扱店を通じて約6万人の手に渡ります。紹介する商品は、生産地で豊富に採れる原料や、現地の伝統的な手工芸の技術を活かした、環境を害さない持続的な生産方法で作られたものばかりですが、日本の市場に受け入れられるよう、デザインを工夫しています。いまでは、世界20か国、60か所の生産地とパートナーシップを結んでいます。また、商品販売だけでなく、環境問題、貧困問題を知ってもらい、意識を向上させるキャンペーンも展開しています。

――人間らしい社会作りのために、フェアトレードの波及に世界中を飛び回っていてイギリスでもピープル・ツリーを展開されていますね。イギリスと日本のフェアトレードで違う点はありますか?

イギリスでは最近、Ethical Fashion (エシカル=倫理的ファッション)とFair Trade Fashion(フェアトレードファッション)が地球温暖化と貧困問題の解決策として注目されています。特に若い世代にむけて、ファッションという切り口はわかりやすく、いろいろな問題の解決策として、フェアトレードがキーワードになっています。Ethicalとは、倫理的という意味ですが、消費者として公正な倫理観に基づいて、透明性のある取引を選択し、フェアトレードというファッションを身にまとうことで、生産者の経済的自立や地域発展、地域貢献に役立とうとする人が増えています。

例えば、イギリスの家庭内でもフェアトレードは浸透していて、みんなとても積極的です。10代の子が「お母さん、なんでうちはフェアトレードのコーヒー買わないの?」といった感じで、人口の約半分はフェアトレードを認知していて、もはや無視できないムーブメントになっています。ピープル・ツリーとしても、昨年2月からロンドンのTOP SHOP (日本ではラフォーレ原宿に店舗をもつ人気ファッションブランド)と組んでフェアトレードによるオーガニックコットン製品のコレクションを特設コーナーで展示したところ、とても好評で、今はその頃より3倍の広さになっています。今年は、一緒にプライベートブランドを立ち上げて売り出していきます(ラフォーレ原宿のTOP SHOPでも今春より販売予定)。

おもしろいことに、日本のフェアトレードではファッションは以前から重要な位置を占めてきましたが、イギリスの場合、もともとは食品が圧倒的に多くて、ファッションが人気になったのは最近のことなんです。ただ、イギリスの場合、服はとにかくセクシーじゃないと売れない。だから、デザインとファッション性を重視した商品が多いのが特徴的です。でも、実際、小規模の生産者と自然素材で商品開発するのもとても時間のかかることで、大変なことです。その点、日本人のデザイナーは我慢強くて、生産者と密に関係を作りながら、信頼を構築していき、長い目でいい商品開発ができていますね。ちなみに、フェアトレードの洋服を扱っているブランドで一番規模が大きいのは、ピープル・ツリーなんですよ!

――すごいです
ね。でも、色々苦労や大変なこともあると思うのですが・・・

日本でフェアトレードを始めたばかりのころは、4〜5年間無給で輸入しつづけました。幸い、その間の生活費は、イギリスの持ち家の家賃収入、貯金とパートナーである銀行員の夫の収入でまかなえましたけど、大変でしたね。

いまでも、ピープル・ツリーでは、イギリスのほかのフェアトレード組織と違って助成金をもらっていません。通常は、これぐらいの規模になると自治体や各支援団体から助成金があるのが普通ですが、日本はまだ遅れています。また、多くの商品が手作りのため、納期に時間がかかり、生産者へは商品を発注するときに発注金額の50%を必要な材料の調達や賃金などの運転資金として前払いしなければならないので、いつもお金のやりくりは、正直大変です。でも、イギリスのフェアトレード専門の融資機関や日本のap bank から支援を頂いているのでとても助かっていますね。

――では、サフィアさんが考える「人間らしい生活」とはどのような感じでしょうか?

ものを買うとき、誰が、どこで、どうやってその商品を作っているかを実際に現地にいって、自分の目で確かめて、作っている人と会話してから買うことがベストですね。例えば、卵やにんじん、じゃがいもなら生産している農家まで出掛けていって、その人から直接買うことができますね。でも、残念ながら、現代のグローバル経済は、それを妨げる場合があります。例えば、服を買いたい場合。日本の衣服の多くは、海外で生産、縫製されて輸入されています。それでも、私たち消費者は、どんな生産者が作っているのか、ちゃんとした環境で商品が作られているのか、労働者は搾取されていないか、労働者が正当な賃金を得ているか、児童労働はないか、そういった最低限の確認は行うべきですね。Social and Environmental Justice(=社会的、環境的に正しいこと)、つまり社会的にも環境的にも公正な取引によって作られた商品を選ぶことが大事なんです。

私は昔から日本の商店街の雰囲気が大好きで、そこでは地元のおばちゃんたちが一生懸命、自分の商品を売り込んできますね。なぜその商品なのか、なぜ売っているのか、どうやって作ったのか、きちんと説明してくれる。そこには売る側と買う側にコミュニケーションがあって、人間の温かさがある。日本の商店街にこそ、人間らしい生活、社会があると思いました。

――でも、今は日本だけでなく、世界中で人間らしくない社会に向かって世の中が進んでいるように思いますが、それはなぜでしょうか?

私たちが当たり前と思っている法律、基準、価値観は発展途上国ではきれいごとに過ぎず、無視されがちで、そこには過酷な労働環境が現実としてあります。私たちの消費行為が彼らにもたらす経済効果は、結果として、その国の資源を奪い、環境汚染に拍車をかけてしまっています。そこには、対話がないのです。

現代人は、いつも時間に追われているため、一番足りないのは実はお金ではなく、時間なんですね。だから、それをどうやったら乗り越えられるかみなで考えて、時間を取り戻して、意味のあるコミュニケーションをみんなととることが一番重要じゃないかな。それが、人間らしさ、人間らしい社会づくりのために必要なことだと思います。

――「もっと人間らしい社会」を作りたいという思いからフェアトレードに関わり始めたと思いますが、フェアトレードをさらに広めるためにはどうすればいいのでしょうか?これからの夢を教えてください。

今年は大きな変化がある面白い一年になると思います。

現在、ファッション業界の中心にいる国際的なデザイナーとコラボするプロジェクトも進行しているので楽しみにしていてください。日本でも、ファッション分野でのパートナーシップは積極的に結んでいきたいですし、すべての街にフェアトレードのお店があって、みんなが参加できるような仕組みを作って、もっとみんなに知ってもらいたいですね。そのために、特に、日本の若いデザイナー、メディアにはフェアトレードの魅力を素敵にデザインして消費者へアピールしてほしい。グローバル・ヴィレッジ(1991年に発足したフェアトレードカンパニーの母体となっている環境・国際協力NGO)が主催するエコデザインのコンペに参加したりして、社会を変えるデザインを創るのも有効的ですよね。そういう意味で、社会におけるデザイナーの役割は重要だと思っています。

実は、昨年11月、スウェーデンで開催された“The Design Of Prosperity”(豊かさのデザイン)というシンポジウムにスピーカーとして招かれて講演してきました。テーマは、デザイナーがいかに創造性を活かして、世界に蔓延する重要な問題、すなわち、気候変動、貧困、社会的孤立などに向けた解決策を推し広げていくことができるかということでした。同席者の中には、テクノロジーと科学が経済と環境に及ぼす影響に関した著述で知られる文明評論家ジェレミー・リフキン(The Foundation on Economic Trendsの代表)や死の床にあるエイズ患者や白人の赤ちゃんを抱く黒人の母親の写真といった、センセーショナルな写真で話題となった、ベネトンの宣伝キャンペーンを手がけた写真家オリヴィエロ・トスカーニがいて、とても刺激的でした。いまや、デザインで、社会を大きく変えることができるし、大きなインパクトを与え得ることは実証されています。素敵にデザインされたフェアトレード商品を通して社会を変えていきたいですね。

――最後に日本の消費者にメッセージをください

フェアトレードを支援するということは、フェアトレードの商品を買うこと。商品が買う人が増えれば、生産者の労働意欲の向上につながり、種類もデザインも質も向上していきます。そして、彼らの経済的自立につながり、子どもが学校へいけるようになり、学力が向上し、貧困からの脱却に一歩近づきます。

It’s really easy to make a difference to environmental issues and poverty issues. All you have to do is buy Fair Trade and introduce Fair Trade to your friends, PLEASE.

(環境問題や貧困問題を解決するために、身近にできることが実はあるんです。それは、フェアトレードの商品を買うこと、そして、フェアトレードを友達にも勧めること、それだけですよ。ね、簡単でし