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「生きることの全てが仕事で、全てが日常!」暮らしのあらゆるシーンをデザインする「graf」 服部滋樹さんインタビュー [ハローライフなひとびと]

8「graf」代表 服部滋樹さん (C)スマスタ

あなたにとって働くことと、生きることは同じことですか?
仕事と暮らしが矛盾なくひとつに重なっていたら、まさに生き生きと生きられる。
そんな気がしませんか?

「しあわせを感じながら働く人が、この場所からたくさん生まれるように」というコンセプトを掲げて、今年5月に大阪・本町にオープンしたお仕事ライブラリー「ハローライフ」とグリーンズがコラボレーションして、仕事と暮らしが重なり合うように生きる人々をインタビューする「ハローライフなひとびと」。

今日ご紹介するのは、大阪に拠点を置くクリエイティブ集団grafの代表・服部滋樹さん。日々の暮らしぶりがどのようにお仕事につながっているのかを伺いました。

クリエイティブ集団と呼ばれる理由

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大阪・中之島にある「graf studio」。1階にカフェとオリジナルプロダクトなどを販売するショップがあり、2階はデザインや内装設計を手掛ける部門のクリエイティブオフィスになっている (C)スマスタ

まずは服部さんが代表を務める「graf」の成り立ちと、お仕事内容を簡単にみてみましょう。「graf」は家具職人、デザイナー、大工、シェフ、アーティストといった異なる分野で活躍する6人が集まり、1998年に結成されました。

「暮らしのための構造」をキーワードに、家具の製造販売、内装設計、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、飲食店の運営、食や音楽、アートなどのイベント企画や企業のブランディングなど手掛ける仕事は実に多岐にわたります。

2002年には国際的な現代アーティスト、草間彌生さんとコラボレーションしたテキスタイルと家具を発表。また同じくアーティスト奈良美智さんの展示会場を設計施工したことなどで、アートの分野でも一躍名を馳せました。

グラフィックやインテリアのデザインを手掛ける会社はたくさんありますが、「graf」はデザインやアート業界からも常に注目を集めるとても特別な存在です。

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江戸時代から続く麻織物の老舗「中川政七商店」では内装、什器デザイン、オリジナルプロダクトの開発を担当(C)下村写真事務所 下村康典

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燕振興工業株式会社からの依頼で誕生したカトラリー。食べる行為が主役の食事のシーンで、目立ちすぎないことを意識してデザインされています(C)SUNAO 下村写真事務所 下村康典

コミュニティづくりをはじめたきっかけ

”もの”のデザインだけではなく、近年では地方での雇用を生み出すコミュニティデザインの分野にも関わるようになった服部さん。きっかけは2010年に、ある雑誌の企画で畑づくりをはじめたことでした。苦戦続きの慣れない農作業に、アドバイスをくれた若手の農家たちと出会ったことで、第一次産業の担い手が抱えているさまざまな問題を知るようにもなりました。

若手農家の親世代は自分達のつくった作物を誰が食べているのわからないような、“生産工場化”した状態でした。一方で若い農家たちは、有機栽培の野菜を求める消費者が増えつつある今、顔の見える範囲の消費者のために、どんな農法で作物をつくり、どうやって販路を持つかということに腐心しています。

そこで僕らがデザインの力で解決できるかもしれないと思い、生産者があらゆる接点を持つような「FANTASTIC MARKET」というイベントをはじめたのです。

今では第一次産業と第二次産業間で約80ものコミュニティが生まれ、彼らがコラボレーションした加工食品などの商品もたくさん生まれました。また販売だけでなく各自で体験型のワークショップを開き、“こと”を伝えるための展開がなされている。“伝える”ことを実践しながら学ぶ場にもなっています。

4関西各地のこだわりある生産者が集う「ファンタスティックマーケット」。毎月1回のペースで「graf」や、ほか大阪市内の商業施設などで開催 (C)FANTASTIC MARKET

“かたち”から発掘する地域資源

また、アートの力で地域活性化をはかる「瀬戸内国際芸術祭2013」では、デザインに長年向き合ってきた「graf」らしい方法でコミュニティデザインを展開しています。

「小豆島カタチラボ」と題されたこの展示作品は、かつて醤油の製造で栄えた小豆島にある「山吉醤油蔵」を舞台に、小豆島由来のあらゆる“もの”を調査し、解体し、検証することで、その土地の特性とそこにしかない魅力を浮きぼりしています。

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「カタチラボ」PRポスター。島に古くから伝わる石割の道具を石膏取りしたり、桶を解体してみたり。さまざまなアプローチで小豆島の暮らしをアート作品に昇華させました (C)graf

すべての“かたち”には理由があるんです。例えば他の場所ではみない“漁具”があったとします。「このかたちで漁なんてできるの?」と思っていると地元の人からは「これじゃないと鯛はとれないんだ」と言われたりする。つまり地域に合った独特の漁の方法があるということなんです。

そうすると鯛を名物として売り出したいと思った時に「小豆島の鯛」ではなく、この漁具のネーミングをつけた鯛としてオリジナルなブランディングができるんです。

実は人の暮らしとは、文献などでも調べられない身近な“かたち”に残されているのです。僕らはそれらを掘り下げていくことで、そこに眠っている輝かしい地域資源を見つけ出したいと思っています。こうして見いだされた地域の資源を、秋には商品開発にまでつなげようと思っています。

「全てが仕事で全てが日常」

服部さんは日本各地を飛びまわるため、拠点である大阪には週に2日程度しかいません。「仕事とプライベートの切り分けがまったくなくて、全てが仕事で全てが日常」といいます。10年前から変わらずに住んでいる街は、大阪・中之島にある「graf studio」から徒歩10分圏内のエリア。

趣味はずばり「考えること」という服部さんにとって、事務所を出てから家に着くまでの間は、仕事のあれこれを楽しく想像するひととき。道すがら立ち寄るバーやレストランは「プライベートバーやプライベートキッチンのように、そこに集う仲間から刺激を受けつつ、長い廊下を歩くように街を歩きやがて家に帰る」そうです。まるで住む街全体を”家”と見立てたような大胆な発想ですね。

僕はものづくりをするがゆえに「すべてが道具」だと思っています。暮らす場所を選ぶというのも、“道具”を選ぶのと同じだと思うのです。“道具”は自分をステップアップさせてくれるもの。

自分は確実にこうありたいと思ったときに、それに適した”道具”を選ぶことができればステップアップしていくだろうし。言い換えると自分にフィットしている“道具”が何なのか、自分は確実にどうありたいのかをもっと知らないといけないということ。

例えば「石垣島にいけば1週間でこれくらいのことを考えられるのかな」といった具合に場所を選ぶと面白いと思います。まるで登頂するためのキャンプのように。

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ヒッピーコミューンのために編纂されたもの・こと事典『Whole Earth Catalogue』が数あるバイブルのひとつ。「この本から『良き道具と出会うことから生きていく方法を考える』ことを学びました」(C)スマスタ

「ものを持たない」ことからはじまるデザイン

「生きることはサバイバルだと思っている」と服部さん。探検家が少ない道具でサバイバルするように、実生活ではものが少ない暮らしを営んでいます。

「graf」を始めたとき創業メンバーと部屋をシェアしていたんですけど、暖房器具と布団しかないというぐらい、極端にものがない状態でした。タバコに火をつけたくてもガスが止められているから公園に行って石を拾って火をつけようと考えたり。

すると、ものが必要になる根本理由にまで到達できる。その思考過程が面白くて。「ものがない」状態がヒントになってようやく「必要なかたち」が想像できるのです。

2011年に発表した家具シリーズ「TROPE」も「なるべくものを持たない」というライフスタイルに端を発しています。

こちらはテーブルの天板や足の部分はバラバラのパーツとして販売されているので、天板部分だけを購入して足の部分は使い手が分厚い本を重ねて代用する、といったカスタマイズも可能。ユーザーが自分で考えて家具の機能をつくるという、「使い手の感覚を育む学びのツール」でもあります。

いったいどうしてこのユニークな家具がうまれたのでしょうか?

ものがたくさんあって、全てが便利につくられている今日では、不便さを感じないから生活で智恵を使う機会があまりない。

たとえば昔だったら野菜ひとつ買うのにも、値切り交渉をしながら料理のレシピまで聞き出すという、ちょっとしたコミュニケーションが必要で、生活のあらゆる側面が学びにもつながっていたのです。

それがなくなってしまったので、智恵を使わなければ使えないような家具を僕らが用意しようと思ったのです。不便な生活の中でこそ、人は工夫し学び成長する生き物なのですから

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ユーザーが用途を考え、自由に使うことで家具として完成する (C)TROPEシリーズ

シェアし、手放すことで次につながる

「持ち物は少ない」とはいえど、自分の肥やしになるものは購入する。たとえばアート作品もそう。服部さんは、毎年数点は必ずアート作品を買うようにしているといいます。

「graf」ではこれまで服部さんやスタッフが出会ったアーティストたちと作品展を企画・販売してきました。「農家でもアーティストでも、面白いと思った人や、すごいと思った人をみんなにも伝えたいと強く思う」と服部さん。

出会った作家の作品は、ショップで販売する前に必ず自分でも使用して手元に置くものの、コレクションせずにどんどん他の誰かにそのバトンを渡していくのだとか。こんな生き方から、新たなビジネスの方法が見えてきそうです。

15年前に僕らの家具を買ってくれた人が、結婚して家族が増えたので、もっとフカッとしたソファが欲しいというリクエストをもらったのです。

そこで当時買ってもらった家具を引き受けて、作家とコラボレーションして別のかたちに生まれ変わらせ、上代の数十パーセントの価格で、別の若い世代のお客さんにバトンすることも考えています。その際に家具を手放すお客さんには「graf割引券」を発券して、その券をもとにまたここで新しい家具を買ってもらえたら良いなと。

これってコミュニティ通貨をつくるみたいなものだなと思っていて。そのうち物々交換が可能になったら面白いな。

民族学者に夢中だった少年時代

「子どもの頃は100円を握りしめて、近所にあった国立民族博物館に毎週通っていた」という服部さん。世界のあらゆる民族が、各地でどのように独自のコミュニティをつくってきたのかを記録したビデオがお目当てだったとか。

“コミュニティ”や“暮らし”は服部さんが少年時代から大切に温めているテーマのひとつだったのです。「graf」をいつも満たしている、“洗練”と“親しみやすさ”が解け合った空気感の謎を解くヒントは、人々の暮らしを敬い見つめる服部さんの真摯な姿勢にありました。

「僕の暮らしにオンとオフの切りかえがないのは、いつでも良い“もの・こと”に出会いたいし、そこから刺激を得て暮らしの道具をつくりだしたいと思って生きているから」という服部さんは、きっと今日も日本のあちこちを駆け巡っているはず。

これからも「graf」は、新たな出会いを味方につけてめくるめく未来を描いていく。
そんな楽しい予感がしました。

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