山崎亮さんにお話を伺いました!
コミュニティデザインという仕事。まちづくりに関心のある方なら、一度は耳にしたことがあると思います。
大きなくくりでは、社会や地域のコミュニティが抱える様々な問題を解決するために、ワークショップやフィールドワークなどを通してコミュニティのなかから解決策やアイデアを発見し、よりよい暮らしの持続を目指す取り組み、といえるでしょうか。
コミュニティデザイナーとして全国で約80ものプロジェクトを進めているのが、「studio-L」の山崎亮さんです。「人と人をつなぐ」コミュニティデザインの仕事は、コミュニティのある土地や地域の暮らしと密接に結びついています。
一方で山崎さん自身やstudio-Lのスタッフのみなさんは、普段どんな暮らし方を選び、それは仕事とどのようにつながっているのでしょうか。次の日から広島のプロジェクトに向かう予定という山崎さんに、兵庫県西宮市でお話をうかがいました。
全国にプロジェクトを持つ人の住まい選び。
東 まずは、どのような経緯でコミュニティデザインを始められたのか、教えていただけますか?
山崎 以前は設計事務所に務めていてランドスケープや建築の仕事をしていました。あるとき、公園に来てもらうためのプログラムを公園自ら考えて運営していく仕組みをつくる、有馬富士公園のパークマネジメントにかかわるようになりました。
それは建物や公園という「ハード」の物理的なデザインを変えるよりも、その場所を利用し自ら運営していくコミュニティ=「ソフト」をマネジメントしていく仕事でした。このコミュニティの力こそが状況を変えていく鍵になるのではないかと感じたのがきっかけです。
東 今進んでいるプロジェクトをいくつか教えてください。
山崎 福井まち担い手づくりプロジェクトや、三重県伊賀市の穂積製材所プロジェクト、福山市中心市街地賑わい創出活動支援事業など全国に約80ほど動いています。
伊賀事務所が一緒にプロジェクトを進めている穂積製材所
東 他にも全国にプロジェクトをお持ちですが、山崎さんご自身はどちらにお住まいなんですか?
山崎 芦屋に住んで8年になります。事務所を立ち上げたときに芦屋に引っ越したんです。関西で芦屋といえば高級住宅街のイメージが強いので、社長になったら芦屋に住むのか、と言われたりもしましたけれど実際は当時もお金があまりなくて、大阪市の家賃補助を受け10万円の家を実質6万円で借りて暮らしていました。ところが、その補助が切れることになって、これはやばいなと。
東 それで芦屋に?
山崎 最初は子どもの頃の想い出がある西宮で探したんですが、当時の西宮界隈はマンションの建設ラッシュでいっきに人口が増えていた頃で、小学校でも仮設のプレハブを建てて子どもを受け入れていたような状況でした。
ちょうど、息子が小学校に上がるときだったので、プレハブで授業を受けさせるのは可哀想だなと思って西宮から東に行くか、西に行くかで芦屋を選びました。探してみると意外と安い物件もあったんですよね。
六甲山から望む芦屋市街 Some rights reserved by double-h
東 物件はどう探したんですか?
山崎 いわゆる地元の駅前の不動産屋さんで探しました。おっちゃんが1人でやっているようなところだったんですが、一生懸命だったんですね。データベースから検索するんじゃなくて、ファイルをめくって1件1件探すんですよ。かえってなんだか信用できるなと思って。
東 山崎さんならではのこだわり条件がありそうですね。
山崎 そこまではないんですけど、仕事で一人こもることも多いので書斎はほしかった。家賃は前より下げないといけないし、当然なかなか物件があるわけなくて、おっちゃんも「それは…ちょっと難しいなあ…」という感じで、待てど暮らせど全く物件の連絡がこないんですよね。大阪市の家ももう期限が切れるし大丈夫かなと思ったんですが、3週間くらいして「見つかりました!」と連絡がきて、そこに決めました。
東 ただ、これだけプロジェクトがあると、ほとんど家にいらっしゃらないのでは?
山崎 月に4日、2週間に1回は家にいます。それでも息子たちとすれ違っているという感じはないですね。親はいないほうが子は育つというか、親がいることで子どもに押しつけてしまうこともあるだろうし、かえってのびのび育っています。
コミュニティデザインの仕事をなんとなくわかってきたのか、七夕の短冊に「みんなが幸せに暮らせますように」って書いてあったんです。小学3年生で(笑)。ちょっとできすぎですよね。
「よそ者」だから、できること。
東 ところで、芦屋のコミュニティにも関わられていますか?
山崎 住民としては関わっています。自治会にも出ているんですよ。先日も、息子が合唱会の合宿に行っていて、それをお父さん仲間と見に行きました。
東 自治会の地域作りにもアドバイスをしたり?
山崎 いえ、それはしないです。自分の地域は誰か別のコミュニティデザイナーがやって欲しいですね。こういう仕事をしているのは知られているから、どうしても利害関係のある目で見られてしまいますから。これはstudio-Lのプロジェクトでも一緒です。僕らは「よそ者」として地域に入っていくんです。
たとえば、僕らが福井の街に入って街が活性しても、僕たちが恩恵を受けるわけではありません。その何の利害もない関係性のなかで提案をするから、地域の人も認めてくれるようになるのだと思います。こいつら信用できるな、と。もちろん自治会の仕組みなどは芦屋で自分で体験することでわかることもありますが。
東 仕事でも地域に住み込んで進めることはないのでしょうか?
山崎 基本的にどんなに遠いところでも通いから始めます。プロジェクトが大きくなって長期的になれば例外的に居住して進めることもありますが、まずは、やはり「よそ者」として通います。地域にもともとある人間関係やしがらみから距離を置くことで客観的に問題を把握したいのと、一時的にサポートする人たちという気持ちを持ってもらわないと、結局はその地域の人たちの自立心を奪ってしまいかねませんから。
旅するように働き、生きる。
東 通いでプロジェクトを渡り歩いて、まるで旅しながら働いているようですね。
山崎 そうですね。仕事の気分転換はいつするの?と聞かれることも多いですが、旅するように地域から地域へ移動して、またまったく違う土地の人と会って話して、土地のものを食べて、ときには温泉にもつかり、また別の土地へ移動する。少し仕事で上手くいかないことがあっても、次の地域の人の意気込みを目の当たりにすると、俺は何をくよくよしているんだ!と切りかえられるんです。あとは家にいるときはだいたい、寝てますね(笑)
伊賀事務所のスタッフとインターン
東 それはstudio-Lのスタッフも同じ働き方なんでしょうか?
山崎 仕事を初めて2、3年して現場の最前線を回るようになってくるとみんな同じですね。そうなれば仕事が楽しくなるし、収入もついてくる。責任はすごく重いですが、みんな日々旅行しながら生きているようなものです(笑)
東 スタッフ間の打ち合わせや共有などは難しくなりませんか?
山崎 これはスカイプやグーグルハングアウトなどのクラウドが進歩したことが大きいです。どこにいても会議や資料を見ながら話ができるようになりました。僕らの仕事はクラウドで成り立っているようなものです。もちろん、ここぞというときは会って話しますが、滞在先のホテルから四国と岩手をつないで話すこともできますし、大阪のスタッフと資料を確認することもできます。
ただ、それでも伝わり方はよく考えないとニュアンスで誤解が起こることもあるので、コミュニケーションスキルは鍛えられているんじゃないでしょうか。実は、僕は人と関わるのは好きでも、群れたくない性格で家にいるときはほとんどしゃべらないこともあるくらいです(笑)
個が、組織の先をゆく働き方を。
遠方のプロジェクトもスタートは通いでの関係づくりから
東 旅するように全員が働くとなると個人の力が一層試されますね。
山崎 日本はもともと組織より個が先にあった文化だと思うんです。俸給をもらえる武士なんて人口の1パーセントほどしかいなかったわけです。そこに西洋のカンパニーという概念が入ってきた。同じパンを食べる、つまり日本語でいうところの同じ釜のめしを食うという考えです。拡大生産の時代はそれでよかったと思います。組織にぶらさがっていれば仕事ができたし、仕事があった。
ただ、これからの時代は新しい価値で新しい仕事をつくりだしていかなければならないと思います。既存の仕組みでは上手くいかないものがあることがわかってきましたから。そのためには組織のスピードよりも個のスピード感、決断力、実行力が重要になります。
東 それでstudio-Lも個人事業主の集まりに近いのでしょうか。
山崎 山崎亮やstudio-Lとしてこれから取り組んでいきたいことよりも、個々の取り組みや関心事が先を行っていることがよくあります。たとえば、社会福祉や社会教育の分野に取り組もうと考えたとき、すでにスタッフの誰かが個人の関心事として公民館活動に関わり小さな事例を持っていたりします。
それは、お金にすれば謝礼程度の仕事かもしれませんが、そういう動き方を身軽にとれるのも個として自立しているからです。あとから組織が追いつく。新しい価値の新しい仕事の仕方はそこから生まれていくものではないでしょうか。
東 最後に山崎さんの理想の働き方とは?
山崎 今は、先ほど言ったように旅するように働くのが理想です。たまたま僕が一番年長者だから、このスタイルがどこまで続けられるのか試している向きもあります。今30代、40代ではできるし、仕事の進め方にも合っている、けれど、50歳になったときはどうか?移動自体が苦痛になるのだろうか?それをスタッフより先に体感して、やっぱり日本全国をまわって仕事するのがいいと思えば、続けていきたいですね。
山崎さんは暮らし方と働き方、すべてにおいてほどよい距離感を大切にされている。お話しを通してそんな印象を受けました。
親と子、地元地域と仕事、プロジェクトの土地とコミュニティデザイン、山崎亮とスタッフ。それぞれに「距離感」があるからこそ、何を大切にしていくべきかを見失わず、明確に見えてくるのではないでしょうか。ほどよい距離感とは、お互いにとっての最良の関係性。「人と人をひとつ」にするのではなく、「人と人をつなぐ」と掲げられたstudio-Lの考え方にも通じるものがあります。
また、ほどよい距離感も人によってそれぞれ違うものだとも思います。みなさんの仕事と暮らし方と自分の距離感はどのくらいが理想なのか、振り返ってみてはいかがでしょう。その距離感の取り方が、新しい働き方、暮らし方の「単位」になるのかもしれません。