あなたは今、自分の仕事にわくわくしながら取り組んでいますか?
もし「何か物足りない…」「ほんとうは別の仕事がしたかった」と思っているなら、「仕事旅行」に出かけてみてはいかがでしょうか。
仕事旅行とは、憧れの職業を体験できるサービスです。たとえば「雑貨屋になる旅」を選んで日程を決めたら、実際に雑貨屋を訪問。オープン準備の手伝いから仕入れ雑貨の値付け・ディスプレイ、お店に来るお客さんとのやりとりまで、雑貨屋店主の一日を体感することができるのです。
店主から直々に仕事の醍醐味や経営ノウハウを聞けるので、「将来雑貨屋を開きたい」と思っている人にとっては大きな学びになることでしょう。価格は1万円程度、日帰り旅行気分で楽しめるのがポイントです。
「眼鏡職人になる旅」「伝統技術ディレクターになる旅」「旅行家になる旅」など、2013年4月現在、サイト上には63の多彩な旅が掲載されていて、眺めているだけで「どんな仕事なんだろう」と想像が広がります。
冗談が飛び交い、突然合唱が始まるオフィス
このサービスは、仕事旅行社の代表を務める田中翼さんの「仕事はもっと自由でいいんじゃないか」という疑問から始まったといいます。
新卒で金融業界に入ったのですが、4〜5年経った頃から、「ずっとこの仕事でいいのかな」と思うようになりました。異業種交流会や勉強会に出席して他の選択肢を探っているうちにソウ・エクスペリエンスという会社に出会ったんです。オフィスを訪問して、衝撃を受けました。
ソウ・エクスペリエンスはモノではなく体験を贈るカタログギフトを販売している企業です。オフィスでは、カジュアルな服装のスタッフが笑いながら冗談を交わし合い、誰かが歌い始めるとみんなも加わり大合唱になるなど、自由極まりない雰囲気。しかし、雑談の中からもしっかりとアイデアを出し、仕事に取り入れていたと言います。
本を読んでそういう社風の企業があることは知っていたんですが、実際に目の当たりにして、「こんなに楽しく仕事できるんだ」と世界が広がった気がしました。現実のものとして噛み砕けたというか…。実際にその場に行く、体験することってすごく重要なんだと思いました。
もともと“人の可能性を広げる仕事”がしたかったという田中さんは「この体験を仕組み化できたら」と考えるように。海外にはお金を払って1〜3日間別の仕事を体験できるサービスが普通にあると知り、現在の仕事旅行社の構想が出来上がってきました。
でも、普通の会社員だったのでなかなか起業に向けて踏ん切りがつかず、2年くらいうだうだと妄想していました。その間にいま一緒に共同代表をしている内田と出会って、「面白そうですね。やってみましょうよ」と言ってもらえたんです。内田は行動派なのでどんどん形になっていって、知り合いベースで3つ体験先を集めてスタートしました。
最初の3か月は申込みが0で不安な日々が続いたと言いますが、メディアに取り上げられるようになって認知度が上がり、サービス開始から2年が経った今では、月に200人が仕事旅行に旅立っているそうです。
旅行のような気楽さ、なのに学びがある
女の子の憧れ、「花屋になる旅」
「人生を変える旅になりました。こんな素敵な仕事があるんですね」「もう絶対にこの仕事をやる!って決めました」仕事旅行社には、参加者からのこんな嬉しい声が日々届いているそうです。
反対に、「なんとなく自分のお店をやりたいと思っていたけど、こんなに大変だったとは」と思って諦めるケースも。それも決してネガティブなことではないと田中さんは考えています。
自分で何かを始めるとお客さんが来なければその日の収入は0だけど、会社にいればお給料はちゃんともらえる。当たり前だと思っていた環境が、実はとても恵まれていることに気づいた。それだけでも、大きな収穫じゃないかなと。その後の仕事に対する意識が大きく変わりますよね。
仕事旅行に参加する動機やきっかけは人によってさまざま。3割が「単純に楽しそうだから参加する人」、3割が「仕事に対してモヤモヤを抱えている人」、3割が「真剣にその仕事に就くことを考えている人」だそうです。
でも、「楽しそうだから」というだけで参加してもいいのでしょうか。
もちろんです。むしろ、それくらい気軽に体験してほしいんです。だって、旅行だから。旅行って、明確な目的がなくて行ったとしても、必ず何か発見や刺激があるじゃないですか。なんとなく楽しそうだから行ったら、結果的に学びになった。それでいいと思っています。
実際、田中さん自身もさまざまな職場を訪問し、その度に新たな学びを得ているそう。
たとえば「手話&筆談カフェで働く旅」で知ったのは、僕たちが普段話している言葉と手話の文法が違うこと。同じ日本語なのに、不思議ですよね。だから手話で話していることを口で説明しようとすると、頭の中で同時通訳をしているような感じで凄く疲れるそうです。今まで知らなかった世界で、「そうなんだ!」って驚きました。
研修をきっかけに「上の世代」の意識が変わる
「乗馬クラブで働く旅」で馬の移動の仕方を教わっているところ
最近では、企業が社員研修の一環として仕事旅行のサービスを使うケースも増えているそうです。福利厚生の一環として取り入れることもあれば、自社商品やサービスに関連する分野への理解を深める目的で活用することも。
体験後に社員同士で振り返りをされるケースが多いのですが、自分の仕事に真剣に取り組んでいる人は、異分野の仕事を体験しても何かしら今の仕事につながるヒントを得るものだと思います。
また、「特殊メイクアーティストになる旅」に団体で参加した企業の皆さんが、お互いにゾンビのメイクを施してそのまま飲みに行っちゃうなんてことも。親睦が深まるし、あとあとまで話題になりますよね。それによって社内の雰囲気が前より少しでも楽しくなったら嬉しいです。
一つの業界、一つの企業に長くいると、専門知識は深くなるものの、どうしても外部の動きには疎くなりがち。若手社員の中には、時代の流れを反映した新しい企画を立てても中堅どころの上司に意図をわかってもらえず、歯がゆい想いをしている方もいるのではないでしょうか。そういった“少し上の年齢層の方”が仕事旅行をすると、新しい視点を得られて面白いかもしれませんね。
普段の仕事旅行社の客層は20〜30代で情報感度が高い人たちがメインですが、「研修」という括りだとより広い層に体験してもらえるのがありがたいところ。若手社員から見ると少し頭の固そうなイメージの部長さんが意外と一番楽しんじゃう、ということもあるんですよ。50〜60代の豊かな知識と経験に、新たな視点と若い発想力が加わったら怖いものナシですよね。そういう風に、仕事旅行を上手に活用してもらえたら嬉しいです。
組織全体の考え方が柔軟になり、イノベーションが生まれやすくなる。「仕事旅行」でそうした効果が生まれたら、わくわくしますね。
「仕事とはこうあるべき」という枠を取り除きたい
「ネイチャーガイドになる旅」のテスト体験をする田中さん
2年前まで普通の会社員だった田中さん。仕事旅行社の経営を通してたくさんの職場や人生を知り、仕事に対する考え方はどう変わったのでしょうか。
仕事って、ほんとうに自由だなと思いました。
ある人は社会をよくするためというモチベーションで頑張っている。
ある人は自分の好きなことをやり続けるために仕事をしている。
ある人は大好きな自然に囲まれてのんびり働くことを生きがいにしている。
ある人はお金を稼ぐことに夢中になっている。
ある人は一緒に働く仲間と協力して会社を大きくしていくことにやりがいを感じている。みんなそれぞれのモチベーションで働いているけれど、そこに共通することは仕事自体を楽しんでいるということ。
社会起業もいいし、お金を儲けることを第一義にしてもいい。「今の時代はコレが正解」とか「こんな会社はブラック」とか、世間は色々な常識やフィルターで覆われているけど、そういう枠を取り除きたい。
仕事ってもっと楽しいし、もっと自由なものだよねって言いたいです。
いつもと違う仕事を体験することで、視野が広がり見える景色が変わる。もしあなたが何か悩みを抱えているなら、一歩枠の外へ踏み出してみてはいかがでしょうか。もしかすると、「仕事が楽しくてしかたない」未来が待っているかもしれませんよ。