ISSUE☆連載 マンガ × ソーシャルデザイン

3 years ago - 2013.03.26

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マンガを使った新しいマネタイズとは?内沼晋太郎さんと語る、マンガの未来(後編)

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「B&B」内のマンガナイトの本棚

マンガナイト代表の山内康裕さんとの連載「マンガ×ソーシャルデザイン」としてお届けしている、ブックディレクター・内沼晋太郎さんとの対談。前回の記事ではウェブマンガの広がりや、出版社やマンガ家の取り組みの一部をご紹介しましたが、リアルなイベントやTwitterの活用など、出版社やマンガ家が読者との新たなつながりをデザインしようとする試みはどんどん増えています。

しかし新たな作品の創造にはお金がかかることも事実。新しいつながりのなかで、作品を発表する側はどのように収益を得ればいいのでしょうか。後編ではマンガナイト代表・山内康裕が、マンガを使った新しいマネタイズ(資金化)の方法を「B&B」をプロデュースした内沼晋太郎さんと語りました。

単行本の次のマネタイズは?

山内 マンガ業界にとってマネタイズは非常に重要です。たとえば、作品を発表したり、イベントをやったりといった活動を続けるには、やっぱり金銭的な裏付けが必要なんですよね。ただ、それがとても難しいが現状なのかなと。

内沼  一般的にはマンガのマネタイズというと、まずは単行本ですよね。で、そのうちのうまくいったものがアニメ化され、フィギュア等様々なグッズが販売されます。だけどもっと違う道もあるのではないでしょうか。

たとえば2012年10月に、講談社で「宇宙兄弟」などを担当していた編集者の佐渡島康平さんが「コルク」という作家エージェンシー組織を立ち上げました。これはまさにマンガ家と一緒にマネタイズを考えていく存在ですよね。

山内  コルクの新しいところは、編集者や出版社ではなくマンガ家と同じ側でリスクをとり、作品の色々な方面への拡張を支援していこうというところだと思います。

最近はマンガ家の側もいろいろな雑誌で描いているから、一人の編集者や出版社だけでそのマンガ家さんの全作品をPRしたりすることは難しい。一方でマンガ家さんからすると、出版市場全体が伸び悩んでいるなかで、マンガをいままで以上に売ることを考えたときに、複数のマンガ家を担当する編集者にはそこまで頼り切れない、と。

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山内  また、『ラブひな』を描いたマンガ家の赤松健さんの「JコミFANディング」も注目しています。赤松さんのブログなどによると、基本は50万円など一定の目標額を設定し、作品の単行本に作者による特典をつけて限定部数を販売するという形です。単行本はコピー自由なPDFデータで配布しているから、紙の書籍のような所有欲を満足させているところもポイントですね。

マンガ家がギャラリーで絵画販売?

内沼  マンガを売るという場合、書店で単行本が売れていくとか、映画やアニメのグッズが売れていくとか、基本的に商品はマスプロダクトですよね。一方、同じ平面におけるビジュアル表現ということでいうと、美術のマーケットがあります。ギャラリーやアートフェアが中心となったマーケットがあって、基本的には1点モノ、もしくは限られたエディションのついた作品が売買されています。
 
たとえば京都の寺院で親鸞の屏風絵を描いた『SLUMDUNK』の井上雄彦先生。井上先生ぐらいなら、どこか現代美術のギャラリーに所属して、そこで1枚いくらで絵を売ったほうが儲かるんじゃないか、という考え方もあり得ますよね。そういうマンガ家さんは、すでにいらっしゃるのでしょうか?

山内  実は少しずつ出てきてます。たとえばタイ人のマンガ家のウィスット・ポンニミットくん(タムくん)は、日本でマンガ作品を出版しつつ、ギャラリーで原画の販売もしています。2012年は、「MY DAY 似顔絵 2012」というプロジェクトを実施しました。Skypeのビデオ通話を通じて、タムくんがバンコクの家から、日本に住む人の似顔絵を描くというものです。似顔絵は1枚3500円でした。

内沼 もちろんマンガとアートは同じビジュアル表現であるといっても、村上隆さんの登場以前/以後でだいぶ状況は異なっていると思います。
 
一般的に日本のアニメやフィギュアなどオタクカルチャーをモチーフにした村上さんと、日本のマンガシーンとは、それほど太い線で繋がってはいないと思われます。とはいえ、少なくとも海外の美術好きの人から見たら、ひとつの線で繋がって見えます。
 
素人考えで恐縮ですが、井上雄彦先生に限らずとも、世界で売れているマンガ家の方ならば、実は既にそちらでも収入を得られるようになっていたりするのでは。雑誌では儲からない、コミックスもひょっとしたら売れなくなるかもしれない、という環境でマンガ表現を流通させるというとき、原画にはもっと大きな可能性があるのかもしれません。

マンガ家はギャラリーと出版社の両方と付き合う。原画はギャラリーが1点モノの作品として取り扱い、その複製であるところの雑誌やコミックスは出版社が販売する。たとえ雑誌やコミックスの市場が小さくなったとしても、根強いファンが支えて盛り上がっているマンガは、原画の価値も上がっていく。マンガ家はその両軸の収入で生活できる。そんな世界も訪れうるのかなって。

マンガ家の佐藤秀峰氏は「ブラックジャックによろしく」の原画展で複製原画を販売した(東京・中野のギャラリー「pixiv Zingaro」)
マンガ家の佐藤秀峰氏は「ブラックジャックによろしく」の原画展で複製原画を販売した(東京・中野のギャラリー「pixiv Zingaro」)

山内 『ブラックジャックによろしく』の作者、佐藤秀峰先生は中野のギャラリーで展示会をやったとき、原画の販売をしたんです。5〜6作品のカラー原画のオークション販売や、原稿の製版用マスターデジタルデータの販売でした。
原画オークションは、結果的に結構な値が付いたようで、佐藤先生いわく「1ヶ月は作品書かなくても生活できる」と。そういう動きは今後増えると思います。

「デジタルネイティブ」より前の世代を中心に、目に見えないものにお金を払いたくないと思う人がたくさんいます。そういう人に対価を払ってもらうには、何か「モノ」 を提供する必要があります。それはギャラリーで販売するような原画だったりイベントやトークショーへの参加だったりするのかもしれません。

内沼 音楽も、CDやダウンロード販売などのソフト市場が小さくなったとき、ライブ演奏中心のマネタイズに移行していきました。
 
マンガ家の方々にとって、そのライブにあたるのがまさに「生」原稿、すなわち原画を販売したり、あるいは昔の宮廷画家のようにお金持ちの個人の似顔絵を描いたりといったことになるのでしょうか。少なくとも小説家など活字表現をしている人と比較すると、そういった拡張の可能性はありそうですね。

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内沼晋太郎さん

内沼  でも、そうした色々な試みを行うにしても、マンガ家ご本人が現実的に、どれだけそれに時間を割けるのかが気になります。たとえばイベントに参加したり、コミュニティづくりに関わったりする余裕は、実際に皆さんおありなのでしょうか?

山内 週刊誌で連載しているマンガ家は、あまりにも労働負荷が高すぎます。なかなか出てこれないとも思います。

内沼 月刊誌の方はどうでしょうか?現状ではまだ、どんどん出ているという人が少ないような気がするのですが。

山内 あくまで僕の私見なのですが、マンガ家はほかの分野に比べて、人前で話したりパフォーマンスをしたりする人は少ないように思います。出版社や業界としてそもそもマンガ家を全面に出すということをやっていませんでした。

井上雄彦先生は最近、表現者としての思いが強くなったことで「自分も表現のひとつとしてだしていくという」側面が強くなりました。だから雑誌の取材に答えたりテレビ番組にでたりしています。しかし『SLUM DUNK』などを週刊誌で描いていたころは、「マンガ家の顔や言葉じゃなくて、マンガ作品でみてくれよ」というイメージでした。

内沼 なるほど。作品を重視するために、作家本人は黒子に徹したいということですね。

山内 そうです。ただ一方でTwitterをうまく使って読者との関係を築く連載中のマンガ家も増えてきました。Twitterは、マンガ家が積極的に読者やほかのマンガ家とつながりをつくるための重要なきっかけになったと思っています。これまでマンガ家と読者の接点は、ファンレターやアンケート、サイン会など非常に限られた機会しかなかったんです。

ツイッターで情報発信するマンガ家も増えている
ツイッターで情報発信するマンガ家も増えている

山内 Twitterによって、マンガ家は自分から情報を発信したり、読者と直接やりとりしたりできるようになり、読者も、今までは想像上のものでしかなかったマンガ家の日常を垣間見れるようになりました。ベテランのマンガ家では『キン肉マン』の嶋田隆司先生、若手ではカレー沢薫先生などがうまくTwitterを使っていらっしゃるなと思います。

さらに、Twitterによってマンガ家同士のコミュニケーションも密になってきました。2012年の手塚治虫先生の命日には、様々なマンガ家が、手塚作品のキャラを思い思いに描き、Twitter上で公開するというちょっとしたイベントもありました。これは、ソーシャルメディアの発達によって生まれたデザインのひとつだと思います。マンガ家がソーシャルメディアを使うことで生まれるソーシャルデザイン。可能性は今後も広がっていくと思います。

(対談ここまで)

マンガカルチャーが今後も自立した分野であり続けるためには、どのように収益基盤を構築すればいいのか、読者とどのような関係性を築いていくべきなのか。マンガのマーケットが変化していくには、様々なステークホルダーの関係性を再構築するソーシャルデザインがキーワードとなりそうです。次回の連載をお楽しみに!

(Text:マンガナイト・bookish)

山内康裕
マンガナイト/Rainbowbird.inc代表。
1979年生。法政大学イノベーションマネジメント研究科を修了。仕事や勉強のかたわら、20歳からマンガ業界の研究を始める。2009年、マンガを介したコミュニケーションを生み出すユニット「マンガナイト」を結成、各種イベントを実施。マンガナイトの活動から派生するかたちで、Rainbowbird.incを設立し、マンガ関連の販促企画・場のプロデュース・戦略立案事業、選書・執筆(『このマンガがすごい!など)も手がける。

内沼晋太郎
numabooks代表/ブック・コーディネイター/クリエイティブ・ディレクター
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。ブック・コーディネーターとして、書籍売り場やライブラリーのプロデュース、本にまつわるプロジェクト企画や、書店や出版社のコンサルティング、電子書籍のプロデュースなどを手がける。2003年、本と人との出会いを提供するブックユニット「book pick orchestra」を設立、2006年末まで代表を務める(現代表:川上洋平)。並行して自身の「本とアイデア」のレーベル「numabooks」を設立。2011年から読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」(株式会社ディスクユニオン)プロデューサー。 2012年、下北沢に本屋「B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業した。

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