さる4月20日、内閣府で「地球温暖化の中期目標に関する意見交換会」が開催された。そこではどんな人たちが、どんな意見を交わしたのか・・・?いざ報告!
全国5か所で開催されたこの意見交換会。東京会場には、環境大臣、経済産業副大臣、中期目標検討委員会座長、経団連地球環境部会長、日本商工会議所代表、気候ネットワーク代表の浅岡美恵氏が肩を並べた。一般参加者は、ざっと300人。
斉藤環境大臣は冒頭のあいさつの中で、地球温暖化は「疑う余地のない科学的事実」であり、対策には思い切った投資、そして真摯な議論が求められると述べ、参加者に活発な意見交換を呼びかけた。
今回の意見交換会について報告する前に、地球温暖化の中期目標についておさらいしてみよう。
中期目標の位置づけを理解するには、昨年7月に開催された北海道洞爺湖サミットまで時をさかのぼる必要がある。主要8カ国首脳はそのとき、「2050年までに世界全体の温室効果ガスを少なくとも半減する」という長期目標をUNFCCC(国連気候変動枠組条約)の全締約国と共有し、採決を求めることで合意した。少し分かりにくい表現だが、要するに、「2050年までに世界全体の温室効果ガスを半減」という共通の目標を立て、それを達成するための具体的な行動をとることに合意したわけだ。国単位での中期目標設定は、その具体的な行動の一つといえる。
その後、G8各国は中期目標設定を進めてきた。たとえば、EUではすでに、1990年比で20%削減という目標を達成するための法令が承認され、来月には発行される予定だ。
日本では、昨年7月下旬に「2050年までに温室効果ガスの排出量を現状より60から80%削減する」という長期目標が閣議決定されたものの、まだ中期目標は定まっていない。ただ、その選択肢として6つの目標案が挙げられている。 地球温暖化問題に関する懇談会の分科会である中期目標検討委員会によって。
6つの選択肢のうち、最も緩い目標は1990年比プラス4%、対する最も厳しい目標は1990年比マイナス25%。その差は、二酸化炭素量に換算すると、332百万トン 。1年間に国内の森林が吸収する二酸化炭素の4倍に当たる。
政府は、国民の意見を広く求めた上で、6月までに中期目標を決定するとしている。今回の意見交換会の趣旨は、6つの選択肢から1つを選ぶにあたり幅広い意見を聴くこと。
ではここで、そのような場で配布された資料を見てみよう。
1. 世界のCO2排出量
2. 「地球温暖化対策の中期目標」とは?
3. 中期目標の6つの選択肢
4. 必要な対策・政策【①考え方】
5. 必要な対策・政策【②具体案】
6. (温暖化対策の)経済への影響の分析【①経済影響のメカニズム】
7. (温暖化対策の)経済への影響の分析【②分析結果】
8. 他国の排出量との比較
9. 6つの選択肢と長期目標との関係
10. 中期目標について国民的な議論を!
以上は、中期目標検討委員会座長であり、前日本銀行総裁の福井俊彦氏が中期目標について説明した際に使ったプレゼン資料のヘディングをリストアップしたもの。
このリストを見て、「あれ?」と思いませんか?
そう、この資料には、肝心の地球温暖化の経済・社会・環境への影響に関する資料が含まれていない。議論の中心は、温暖化対策の①国際的公平性と②経済・雇用への影響であるかのように見えてしまう。
政府インターネットテレビにアップされている動画『ポスト京都議定書 2020年までの「中期目標」策定へ』の中でも、福井氏は以下のような発言をしている。
私ども検討委員会のメンバーとしては、この先、長い地球経済の育成、そして地球上に住む人々の生活が、安定した経済の成長の上に実現していくと。ここを最大の視点におけば、やはり大変難しい地球環境制約の問題に対して、きちんと、科学的な根拠を持ちながら、その上で、人々の努力で最大限技術の進歩を引き出し、それを実際の企業活動や、生活の場面に適合していくと。そういう地道な下地を作りながら、しかし、最終的には大きな目標を実現できていくようにと。
公平性の原則を、いくつか取り上げながら、世界的にもバランスのとれた努力目標というものに日本の目標がなるように、そうした観点からいくつかの提案を加えている。したがって、努力がどこまでできるかと、もうひとつは国際的な公平性をどういう尺度で見るか。縦横、縦軸横軸、両方からませて、これを政府が踏み台として、どういう形の安を土台にしたほうが、その上に政府が戦略性をこめて、国際交流に臨む場合にもっともリーダーシップを発揮しやすいという案を作って頂きたい。
続いて意見を表明した日本経団連、そして日本商工会議所も、やはり国際的公平性、実現可能性、経済や雇用への影響に焦点を当て、好ましい中期目標は1990年比プラス4%だと結論づけた。一般参加者のうち、原子力や石油などのエネルギー業界や鉄鋼業、製造業に属する人たち、そして家計を担う主婦にも、そのような意見が目立った。「なぜこれまでがんばってきた日本がこれ以上努力を強いられなければいけないのか?」という意見も繰り返された。
でも、そもそもなぜ二酸化炭素排出量の中期目標を設定するに至ったのか、と考えると、いま議論すべきは、「温暖化対策にいくら費やすべきか?」ではなく、「どの程度の温暖化緩和が必要とされているのか?」ということであるように思う。
たとえば、IPCCは、気候変動による被害を最小限にとどめるためには気温上昇を2 度以内に抑える必要があり、そのためには先進国は2020 年までに1990 年比マイナス25%~40%を達成しなければならない、と警告している。
それが達成できない場合、どうなるのか。
2006年に「スターン・レビュー」を発表したスターン博士によると、温暖化による経済への悪影響(食糧生産性の低下、水資源減少、洪水、健康被害、異常気象、環境破壊等)は、GDPの5%から20%に達してしまうそうだ。同レポートには、この10年から20年の間にきちんとした対策をとることができれば、温暖化防止対策コストは世界のGDPの約1%に抑えることができるとも記載されていたが、昨年それは2%に上方修正された。スターン博士は、当初予測されていたより速いスピードで温暖化が進行していると警告し、より早急な対策を呼びかけた。
できるだけ早い段階で、温暖化防止対策を実施することは、環境面、経済面ともに好ましいということだ。
意見交換会のパネリストの一人、気候ネットワーク代表の浅岡美恵氏は、IPCCやスターン博士の警告を受け止めている一人だ。彼女は、最も厳しい目標である1990年比マイナス25%をさらに上回る30%削減を提言した。
浅岡氏はまた、今回提示された選択肢において、温暖化対策の経済へのプラスの影響(エネルギーコスト削減、エネルギー自立、貿易収支の改善など)がきちんと評価されていない点や、低コストの温暖化対策が考慮されていない点について言及した。
浅井氏の発表の中で、私が特に興味をそそられたのは、国内における二酸化炭素排出量の7割近くが発電施設や工場であることを示すデータが発表されているにも関わらず、二酸化炭素排出量削減の対策の焦点は主に家庭や運輸分野に置かれているという点だ。確かに、説明資料に記載されている温暖化対策・政策具体案には、消費者の行動や負担が伴うものが主で、産業界からの排出量を減らすものが含まれていない。
by 内閣官房
地球温暖化の中期目標に関する意見交換会で配布された説明資料に記載されている温暖化対策・政策具体案
1990年から2006年にかけて、日本における二酸化炭素排出量は約11%も増えてしまった。そう考えると、1990年比で25%の削減という中期目標は厳しく、反対意見が多いのも当たり前かもしれない。
でも、そもそも二酸化炭素排出量を削減するための国際的枠組みはなぜ築かれたのか。そして日本は何のために「2050年までに温室効果ガスの排出量を現状より60から80%削減する」という厳しい長期目標を設定したのか。そうしなければ、今の生活を維持できなくなるほどの気候変動が起きる、という危機にさらされたからではないのか。そう振り返ってみると、まずは科学的根拠に基づいて目標を設置して、その目標を達成するために、太陽光発電やエコカーや省エネ住宅の普及に限らず、広範囲にわたる対策のアイデアを採用していくことが必要だと思う。
先日、環境省は、「地方公共団体の環境配慮契約に関するアンケート」調査の集計結果を発表した。一昨年に環境配慮契約法が施行されて、地方公共団体には低環境負荷の経済社会構築のための取組みが求められるようになった。しかし今回の調査結果で、その法律の内容を知っているのは、全国の地方公共団体の27.2%であることがわかった。契約方針を策定していると回答したのは、たったの2.3%だ。
たとえば、この法律を改定して、地方公共団体の取組を徹底する。そして、地球温暖化対策推進法を同様に改正し、さらに、温室効果ガスの排出削減を義務化した上で、取り組みが足りない企業の名は公表することとする。それだけでも、環境に配慮しない企業は淘汰されて、産業界の二酸化炭素排出量はだいぶ削減されるのではないだろうか。
政府インターネットテレビにアップされている動画「ポスト京都議定書 2020年までの「中期目標」策定へ」を観て中期目標の6つの選択について考える
気候ネットワークが政府に提出した「地球温暖化の中期目標についての意見」を読む
地球温暖化の中期目標に関する意見交換会で配布された説明資料を読む