梅雨の前、丸々とした実をつける梅の木。梅酒や梅シロップ、梅干しなど、毎年「梅仕事」を楽しむ人もいる一方で、人手不足などの要因により、手付かずの梅の木を見掛けることも少なくありません。
疲労回復、消化促進、免疫力向上など、健康効果の高さで知られる梅が活かされないのは、実にもったいない。古来から伝わる「梅肉エキス」をつくり、自分や身近な人たちをケアするのはどうでしょうか。
梅肉エキス。
それは古くから伝わる民間薬
梅肉エキスとは、青梅の果汁だけを煮詰めて濃縮したエキスのこと。古代から民間療法の一環に用いられてきた、伝統的な保存食であり健康食品です。ほんのひとさじ(小指の爪先ほどの量が目安)で整腸作用があり、疲労回復や食中毒の予防、胸やけや血圧調整に効果があると伝承されてきました。
梅雨の頃につくり、夏の猛暑を乗り切るという、見事な自然のサイクル。各地を旅したことで知られる二宮尊徳をはじめ、江戸の武士や大名家も、旅の常備薬として梅肉エキスとほぼ同様のものを携帯していたんだとか。
何かの病気を治すような薬ではありませんが、不調になる前に、夏バテや食あたりの予防として使われてきた梅肉エキスは、庭や台所から健康を守る医食同源のひとつです。「少し食べ過ぎたかも」「今日は疲れたな」「明日はスッキリ目覚めたい」。そんな時に備えて、自分で自分を救う“百薬の長”をつくっておきましょう。
梅1キロから
たったスプーン1杯
梅肉エキスの原材料は、青梅だけ。しかし1キロの青梅からつくられる梅肉エキスは、大さじ1〜2杯ほどしかありません。初めは無理のない量でつくるのがおすすめです。
材料
・青梅 (無理のない量で)
下準備:水で洗い、余分な水分を拭き取ってヘタを取り除く。
道具類
・フードプロセッサー
・梅割り器(または、包丁とまな板)
・濾し布(または、果汁絞り器)
・土鍋(または、ホーロー鍋。梅は酸性のため金属製の鍋は避けます)
・ゴムベラ
・保存容器(熱湯やアルコールで消毒しておく)

仕上がりが少量なので梅が多い方がたくさんつくれますが、所要時間も比例します。手軽につくりたい場合は1〜2キロがおすすめ(写真は7キロ)
梅肉エキスをつくる手順はいたってシンプルです。
1. 青梅をすりおろし、
2. 果汁を絞り出して、
3. 土鍋で煮詰める
完成までの全工程は、この3ステップのみ。しかし、まずこの「すりおろす」が非常に大変なため、21世紀を生きる私たちは潔くフードプロセッサーを使います(昔ながらの手法に沿ってつくりたい方は、もちろん止めません。1キロを擦るのにおおよそ1〜1.5時間ほどを要し、梅の酸で指先がシワシワになると思いますが、挑戦されたらぜひ感想を教えてください)。
1. (すりおろす代わりに)青梅のタネを外し、果肉だけにする
フードプロセッサーに入れる前に、タネを外して果肉だけにする準備が必要です。青梅の果肉とタネはしっかりくっついているため、割ってタネを取り除くか、包丁で果肉を切り取ります。

テコの原理で梅を割る道具、梅割り器を使うとタネがきれいに取れる。割り器の代用として、厚手のジップ袋に適量の梅を入れ、木製の麺棒などで叩いて割る方法も

または、写真右のように包丁で果肉を切り出す。写真中央の小ボウルは、取り出したタネ。(焼酎は容器の消毒に使っています)
2. 果汁を絞る
工程1でできた青梅の果肉をフードプロセッサーで細かくし、梅の水分だけを絞り出します。けっこう腕力が必要なので、果汁を絞る機械がある人は活用してください。

果肉を細かくして(写真左。写真は途中の様子。もっと細かくした方が水分が出ます)、濾し布で水分を絞る(右)。搾りかすの果肉は、お砂糖と水を足してジャムにするなどして使い切る

青梅7キロの果汁は土鍋いっぱい
3. 果汁を煮詰める
工程2の果汁を、弱火でひたすら煮詰めます。目指すゴールは、色が緑から黒っぽくなり、ゴムベラの跡が鍋底につくくらい。飴状まではいかない、軽い粘度があるくらいが目安です。

途中アクのようなものが出てきますが、大丈夫。そのまま焦がさないよう、ごく弱火で、底から混ぜながら、気長に煮詰めます。誰かとのおしゃべりや音声コンテンツを聞くなど、この時間を楽しみましょう

あと少し。忙しい時は一旦作業を止めて、翌日に続きをしても良い。江戸時代は太陽光でつくっていたため、数日間掛けて煮詰めたそう

完成。土鍋は余熱があるので、容器に移してから冷ます。7キロの梅から200gほどの梅肉エキスになりました。ちなみに鍋肌に残った梅肉エキスは水で薄めて冷蔵保存すれば無駄がありません。薄めても酸っぱいので、同じ時期につくれるミントシロップなど甘味と合わせると飲みやすくなります
市販薬のような用法・用量はありませんが、おおよそ1日1回。就寝前や起床時、もしくは消化不良や疲労を感じた時など、前述のように少量で十分です。きれいなお箸の先などに少しだけ取り、クエン酸が凝縮したすっぱい梅肉エキスを舌の上でゆっくり溶かす。あるいは、お湯などで溶かして飲めば簡単です。
身近な植物の力と、先人の智慧を借りて、猛暑も健やかに過ごせますように。