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変化の激しい時代を生き抜くために、一人ひとりの本質と向き合うチームをつくる。株式会社行雲の「心の豊かな暮らし」を軸に倉敷美観地区を再創造する仕事 #求人

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「はい、あんこです」

そう言って社内電話の受話器を取る声が聞こえたのは、岡山県倉敷市にある「株式会社行雲(以下、行雲)」の製菓工房。どうやら、この職場ではスタッフ同士がニックネームで呼び合っているようです。こんなにも親近感のわく社内電話を聞いたことありますか?

行雲は、江戸時代の町並みが今も色濃く残る倉敷美観地区を拠点に、古民家や地元の素材・伝統技術などをいかしながら、飲食店やセレクトショップ、宿などを運営している会社です。これまで美観地区または岡山県内で計12の店舗や事業拠点を立ち上げており、どれもたたむことなく事業を継続しているといいます。

「これだけの事業が続いているのは、心豊かに働いているチームのおかげです」と、行雲の代表である犬養拓(いぬかい・たく/ニックネーム:わんさん)さんは話します。

「心の豊かなチーム」とは一体どんなチームなのでしょうか。代表の犬養さんをはじめ、行雲のスタッフとして働く、瀬戸珠実(せと・たまみ/たまちゃん)さん、川井杏瀬(かわい・あんせ/あんこ)さん、小銭綾乃(こぜに・あやの/あぽ)さんに、お話を伺いました。

江戸時代に栄えた倉敷美観地区を“再創造”する

行雲が拠点を構えるのは、岡山県最大の観光地である倉敷美観地区。江戸時代に幕府の直轄地である「天領」に定められ、倉敷川での水上交易や物資輸送の集積地として重要な役割を果たしていました。1930年には日本初の西洋美術・近代美術を展示する大原美術館が建設されたほか、国内の民藝運動との関わりも深い地域です。

通りを歩いていると、まるで時代劇の世界に迷い込んだかのような感覚に

そんな場所で事業を営む行雲が企業理念に掲げるのは、「心の豊かな暮らしを創る」こと。倉敷にあるものの良さをいかしながら、“100年先の豊かさ”を創ることを目指しています。

犬養さん 美観地区は、江戸時代のまちなみが残っている数少ないエリアで、そんな魅力ある場所で事業を営めるのはとても恵まれていることです。その恩恵を地域に還元するために、地元にある特産品や職人の手仕事でつくられたものをいかして商品やサービスをつくることを大切にしています。

かつて民藝運動も盛んであったこのエリアは、当時の世の中にとって新しい考えをいち早く取り込むことで育まれました。僕たちも、古くからここにある伝統の良さをいかしながら、現代の暮らしに寄り添う形に変えることで、美観地区を“再創造”することを目指しています。

母方の実家が倉敷にある関係で、幼い頃からよくこの地を訪れていた犬養さん。「東京出身の自分にとって、倉敷はもう一つの故郷です」と話す

行雲では、地元食材を使ったメニューを味わえる「カフェ有鄰庵」、1日1組限定の宿「暮らしの宿 てまり」、“倉敷の本当にいいもの”と出会えるセレクトショップ「美観堂」、パティシエの手で一つひとつ手づくりされたお菓子を味わえる「はれもけも」など、9年間(※)で10店舗を立ち上げ、その全てを黒字化させることに成功しています。

※行雲は2011年に設立された株式会社有鄰が前身。2016年から有鄰の代表を務めていた犬養さんが2019年に立ち上げた「株式会社行雲」に事業を譲渡した。

「カフェ有鄰庵」では、看板メニューの「たまごかけごはん」や瀬戸内海の新鮮な鯛を使った「鯛のおひつごはんランチ」のほか、行雲が運営するスイーツやお菓子の販売店「はれもけも」のキッチンでつくられた「しあわせプリン」など、築100年以上の趣ある古民家をいかした空間でさまざまな料理を提供

「はれもけも」では、なるべく(※)岡山・倉敷の原材料や非動物性でグルテンフリーの食材を使ったお菓子を販売。※全商品に対する現在の達成度は、岡山・倉敷の原材料使用:90%以上、ヴィーガン対応(非動物性):30~40%、グルテンフリー:100%

「美観堂」には、岡山各地の選び抜かれた商品のほか、岡山の特産を使った「黄ニラしょうゆ」や、果実を丸ごと使用してつくるジュース「そのままの桃」「そのままの葡萄」など、行雲のオリジナル商品も販売

「暮らしの宿 てまり」では、つくり手の想いが詰まった「もの」が主役。今回の取材は、この場所で行った

全ての事業において大切にしているポイントは、「ローカル」「クラフト」「クリエイティブ」の三つ。倉敷のゆかりある食材や伝統工芸をクリエイティブの力で現代の暮らしにフィットする形に変え、前時代的な大量生産でもなく、ごく限られた人にしか届かない一点ものでもない、“高品質な中量生産”で届ける。そんな事業への想いの裏側には、倉敷美観地区に対する「良い会社が地域を良くする」という犬養さんの考えがあります。

犬養さん かつてこそ、美観地区は大原美術館の建設や民藝運動の拠点になるなど日本の中でも世界の最先端を取り入れてきたまちでした。しかし、最近では地元で地元の資源を使いながら商品やサービスを提供するクリエイティブなプレイヤーが少なく、この地域も緩やかな衰退が始まっています。

地域を良くするためには、地域に良い会社が増えることが大切だと思うんです。ここでいう“良い会社”とは、今の社会に求められる価値を提供し、会社が成長することでスタッフが増え、その地域に住む人・関わる人を増やせるような会社のこと。そんな会社がサステナブルな状態で事業を続けることが、地域の衰退を食い止める手がかりになると考えています。

まずはスタッフの心の豊かな暮らしを創ることから

気になるのは、10店舗もの事業を立ち上げていながら、一つもたたむことなく続けてきた秘訣。ところが聞いてみると、「しっかりとした事業計画を立てたことはありません」と犬養さん。

犬養さん 長期的な事業計画は立てたことがなくて、その時会社にいるスタッフの適性や空いている物件などの条件を照らし合わせて事業を組み立ててきました。

企業理念でもある「心の豊かな暮らしを創る」ためには、まずは会社にとって一番身近な存在であるスタッフ一人ひとりの心が豊かであることが欠かせません。高い質の商品やサービスをつくるだけでは事業は続かなくて、チームが心身ともに健やかに働けているからここまで続けることができたと考えています。

世の中には、働くことそのものや、会社という組織にネガティブなイメージを抱く人もいます。しかし、働く時間は人生の多くを占める時間。犬養さんの中には、スタッフにとって行雲で働く時間が心満たされる時間になってほしいという想いがあります。

犬養さん 最近、日本では「夢を持とう」とか「独立しよう」という風潮がありますが、僕はこのことに少し疑問を抱いていて。夢を持ったり独立したりすることが、あたかも全員が目指すべきゴールのように謳われ、そのせいで特にやりたいこともないのに無理に夢を持とうとして苦労する若者が増えているように感じます。明確な目標がなくても、人生を地道にじっくり歩みながら心豊かな日々を過ごせることの方が大切だと思います。

どんなに些細なことでも共有する、フラットなチームづくり

行雲のスタッフは、「クルー」「チーフ」「マネージャー」という3つの役職に分かれており、クルーからチーフ、マネージャーと昇格するにつれて、業務内容や給与が変化します。役職の違いはあれど、関係性はあくまでもフラットな行雲のチーム。スタッフ一人ひとりに担当店舗が割り当てられた上で、全員が他の業務を兼務しながら仕事を回しているといいます。

犬養さん 仕事を分業しすぎると、他の部署が何をやっているかわからない縦割りの組織になってしまう傾向があります。行雲はあくまでフラットなチームにしたいので、社員もアルバイトもいろいろな店舗の業務に関わってもらいます。

カフェ有鄰庵で働くスタッフのみなさん。みんなでわいわい雑談しながら締め作業を行っている様子が印象的

ほかにも、行雲にはフラットなチームづくりのための工夫がたくさん。その一つが、月一回実施している「コミュニケーションミーティング」。部署ごとの売上や採用に関する情報など、社内のさまざまな情報が犬養さんから細かく共有され、話す内容はその時のチームの状態に合わせてアレンジしているといいます。

犬養さん チームをフラットにするためにも、スタッフに自主的に動いてもらうためにも、会社の情報はできるだけ細かく共有します。同じことを伝えても人によって印象に残るポイントは違うので、情報は共有してもしすぎることはないと思います。

共有するのは実務に関する情報だけではありません。現在「暮らしの宿 てまり」を中心とする3店舗のマネージャー業務と、自然との調和をコンセプトにしたレストラン「然味 -sami-」のホールスタッフとして働く瀬戸さんは、毎月のコミュニケーションミーティングで気持ちや考えを共有する時間を設けていると話します。

瀬戸さん 面白かった本の内容を共有したり、部署間の悩みを聞いてもらったりしています。もともと私は何かを人と共有することが苦手だったんですが、自分の言葉で伝える練習の場として2年前くらいから始めました。

前職ではオーストラリアで働いていた瀬戸さん。日本への帰国をきっかけに地元である倉敷の仕事を探していた折に、たまたま行雲を見つけて応募。「初めは気軽な気持ちで入社しましたが、マネージャーという立場になった入社7年目の今は、他のスタッフが楽しく働いている様子を見ることも一つの喜びです」と話す

また、「はれもけも」の製造・販売スタッフとして働く川井さんは、前職での苦い経験を踏まえ、会社のあらゆる情報を共有してもらえる行雲の社内文化をありがたく感じているといいます。

川井さん 以前は和菓子屋さんで働いていたのですが、業務に関わる大事な情報があまり共有されず、仕事を終えて帰ろうとしている時に突然果物の仕込みを頼まれるようなこともありました。一方で、行雲では「こんな果物を使いたいんだけど、いい仕入れのルート知らない?」と、かなり手前の段階から共有してもらえるので、仕事の段取りがしやすいです。

「はれもけも」のキッチンでプリンをつくる川井さん。前職を退社後、転職のための資格勉強中にアルバイトとして行雲で働きはじめたが、自分の望む働き方ができていると感じ、社員に。「気づいた時には『はれもけも』の厨房でプリンをつくっていました。今は楽しく働けている実感があって、自分はラッキーだなって思います」と話す

ミーティングの場だけでなく、行雲ではスタッフ同士の日頃の雑談も大切にしています。社内のコミュニケーションツールとして使っているSlackにも雑談のチャンネルがあり、同じ趣味を持つスタッフ同志で盛り上がったり、子育て中のスタッフの情報共有の場になったりしているといいます。

「カフェ有鄰庵」の締め作業中、別店舗の仕事帰りに立ち寄りスタッフと雑談する小銭さんと川井さん

犬養さん 雑談をすると、自己開示と他者理解が同時に促進されるので、良いこと尽くしです。スタッフには、仕事上で感じたことや違和感はどんなに些細なことでも言ってほしいと伝えていて、新入社員向けのオリエンテーションではもうこれしか言わないくらいです。

行雲は、人が育つ学び場のような場所

行雲が大切にしたい会社のあり方は、学校と会社の間の“学び場”のような場所。犬養さんは、スタッフの自立と学びを第一に考えています。

犬養さん 変化の激しい時代を生き抜くには、言われたことをただやるだけの人材ではいけないですし、そのような働き方では仕事が嫌になってしまいます。

行雲は学び場のような会社として、ちょっと背伸びをしたら手が届くくらいの目標設定を繰り返すこと、そして失敗を奨励することを大切にしています。

川井さん 会社にいろんな仕事が転がっているので、将来の明確な目標がない私でもできることが着実に増えていく感覚が楽しいです。「失敗しても大丈夫」と思えているので、やったことがない仕事にも挑戦できます。

働く上で悩んだら、犬養さんとスタッフで1on1ミーティングを実施する文化がある行雲。瀬戸さんは、仕事でつまずいたら犬養さんと話すことで解消していると話します。

瀬戸さん マネージャーという立場になった今、やはり仕事の成果が重視されるので、そこに対するフィードバックをもらう機会が増えました。努力と成果は切り分けて考えないといけないので、成果が出ていない時はちゃんと「ぬるいよ」ってわんさんに指摘してもらっています。仕事の成果は会社の働きやすさとはまた別の問題なので、きちんと向き合うことが大切です。

1on1ミーティングでは、業務上の相談だけでなく、性格や価値観など、一人ひとりの本質的な部分に迫る話をすることも。より深い部分でスタッフ同士が互いを理解していることが窺えます。

犬養さん 仕事のスキルだけでなく、一人ひとりの資質面も大切にしていて、人事評価でも重視しています。

例えば、現在あんこ(川井さん)が次のステップへ進めるかどうかの評価基準になっているのは、仕事のスキルではなく、資質面です。仕事中にストレスがかかった時、ネガティブな感情を外に出さないこと。これは役職にかかわらず重視していることで、その点であんこにはあと一声頑張ってほしいという想いがあります。

「わんさんとの1on1は、毎回しっかりダメージをくらいます。けれど、フィードバックをもらえること自体がありがたいですし、言ってもらえて良かったといつも思います」と、川井さん

さまざまな会社を経験した後に38歳で行雲に転職した小銭さんにとって、行雲の社内文化は驚きが多かったと話します。

小銭さん 入社前にわんさんと何度かランチをして話した時、行雲の取り組みには驚くことや興味が湧くことが多かったです。1on1ミーティングの数も私が経験した他社と比べてダントツで多いですし、「そんなことまで共有してくれるの?」と思うほどに情報共有は綿密です。

わんさんの仕事に対する考え方や視点は、きっと他の経営者や働く人にとっても面白い内容だと思い、「その話、ポッドキャストにして発信しませんか?」と提案したんです。その会話をきっかけに『人とマネジメントの身もフタもない話』というタイトルで、広報としてわんさんとポッドキャストをやっています。

チームらしい組織で働きたい気持ちから行雲に入社を決めた小銭さん。はじめは「カフェ有鄰庵」のスタッフとして働く予定だったものの、ポッドキャストの提案をきっかけに広報に転身。柔軟に役割を変えられる点にも、行雲の“人ありき”なマネジメントが垣間見える

全員が兼務しながら働く行雲では、できないことにつまずく瞬間もきっと多いはず。人が成長するために必要なことは、他者の言葉を素直に受け入れることが大切だと犬養さんは考えます。

犬養さん スタッフの中には、過去の職場では1年以上働き続けられなかったのに、行雲の1on1ミーティングや日々の雑談でコミュニケーションを重ねることで少しずつ考え方やスキルが変化し、長く働いてくれている人もいます。世の中には他の人から言われたことを素直に受け入れられる人と、自分の価値観に固執して言葉を跳ね除けてしまう人がいますが、行雲でいいチームをつくっていけるのは、前者のタイプでしょうね。

空を流れる雲のように、じっくりと着実に。

遠くの目標ばかりを見つめて足元を疎かにすると、思わぬところから綻びが生まれるものです。岡山や倉敷へ貢献することを目線の先には置きながら、会社にとって一番近い存在であるスタッフを大切にしてきたからこそ、まさに空を流れる雲のように、行雲はじっくり着実に事業を育ててきたのだと感じました。

美観地区の通りを歩いて帰宅する川井さんと小銭さん。これから二人は一緒に晩ご飯を食べにいくようだ

時には日常にあったなんでもないような雑談をし、時にはチームで一丸となって成果を追い求めて切磋琢磨する。先の見えない時代を生き抜くために、名ばかりではない、変化に強いしなやかなチームが行雲にはありました。変化を厭わないチームには、分野を問わずさまざまなことに関心を持てる人や、他者の言葉を素直に受け入れて前向きに変化していける人がフィットするように感じます。あなたもそんなチームの一員となり、倉敷美観地区を“再創造”してみませんか。

(撮影:藤田温)
(編集:村崎恭子)

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