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電気と火が一切使えない24時間。バリ島の新年「ニュピ」を体験して変わった、エネルギーについての考え方とは。

車や自転車が一台も通らない。
人がひとりも歩いていない。
機械音が一切しない。

そんな人間の営みが完全に停止した街をみたことがありますか?

これは、インドネシア・バリ島の「ニュピ(静寂)の日」のお話。

ニュピとは、バリ・ヒンドゥー教の新年にあたる新月の日で、朝6時から次の日の朝6時までの24時間、「火や電気を使わない」「外出をしない」「仕事をしない」「殺生をしない」と定められているのです。

空港や道路は閉鎖され、テレビやラジオ、最近ではインターネット回線も切断されます。細かいルールは村ごとによって異なるのですが、バリ島にいる限り、バリ・ヒンドゥー教ではない人や観光客もこのルールに従わなければいけません。クタなどの都会では、警察が日中も夜も厳しく街を取り締まります。

今年(2022年)は7年ぶりに全国で節電要請が行われることになった日本。わたしたちの我慢が必要になる時期が迫っています。国の方針ですべてのライフラインが切断されるニュピから学べることはないか。今回はバリに住むわたしが、自分自身の経験も交えてご紹介します。

(記事の最後に感想フォームをご用意しました。あなたの声をぜひ届けてください。)

「神と人」「人と人」「人と自然」の調和を重視する哲学

ニュピは、バリ・ヒンドゥー教にとって、悪霊から島を守るための大切な儀式。人々は24時間かけて、バリ島には「生命が一切いない」ふりをして、島から悪霊が去るのを待つのです。

精霊や悪霊を信じるこのバリ・ヒンドゥー教独自の宗教観は、ジャワ島から伝わったヒンドゥー教ともともとバリ島に土着していたアニミズム(※)や祖先崇拝が融合したもの。

(※)海や木などの自然物に悪霊や精霊が宿るといった考えの精霊信仰。日本でも古来、神道では天照大御神(あまてらすおおみかみ)や氏神様といった八百万の神(やよろずのかみ)が存在し、森羅万象に精霊が宿っていると信じられていました。

そして、他の島や国からの侵略を受け続けてきた歴史とともに、バリ・ヒンドゥー教は「神と人」「人と人」「人と自然」の調和を重視することで、人々は幸せに過ごし喜びを感じることができるという考え方「トゥリ・ヒタ・カラナ」という哲学を確立させます。

2012年に世界遺産に登録された、バリ島のスバック(水利組合)と棚田の景観は「トゥリ・ヒタ・カラナ」の「神と人」「人と人」「人と自然」の調和を重視する哲学をベースに運営されています。

約1,000年前にできた、このひとつの用水路を複数のコミュニティで分け合うシステムですが、なんと、バリ島では今まで一度も水についての争いが起きたことがないのだそう。お互いを認め、神に感謝し、自然を大切にする精神が、バリの人たちの心には刻まれているのです。

バリ・ヒンドゥー教の「トリ・ヒタ・カラナ」哲学を象徴する「スバック・システム(水利組合)」

子どもたちと体験したニュピの昼・夜・朝

わたしは3年前からバリ島に住んでいて、今まで2度、息子たちとニュピを体験しました。

1回目のニュピは自宅で、2回目はリゾート地・クタから4時間離れた田舎の村で過ごしたのですが、バリの人は電気が使えないからといって、全く困っている様子はありませんでした。

もともと普段からバリの人はかなりの早寝早起き。さらに、冷蔵庫のない家庭もまだ多くあり、普段からあまり電気を使わない生活をしているのです。

面白いことに、わたしが滞在した村では、外出はOK。さらにニュピだけ火遊びも賭博もOK。子どもたちは火で焼いたソーセージをお腹いっぱい食べて、ココナッツにガソリンをつけて火だるまサッカーをやる始末。電気やWi-Fiがなくても、子どもたちは一日中キャッキャッと楽しそうに過ごしていました。

街の灯りも月明かりもない暗黒の夜には、無数の星たちが「これでもか」と浮かび上がります。

普段見えていない星がこんなにもたくさんあったのか!
自然に対して申し訳ないような気持ちになることも。

そして迎えた朝。普段は車やバイクの排気ガスと野焼きの煙で汚れている空気が、ニュピの日はピーンと澄みきっています。聞こえるのは、草木が風で揺れる音。鳥や犬の声。心なしか、それらは普段より大きく聞こえ、島全体が人間の営みから解放されて、喜んでいるように感じます。

「人」中心のエネルギーからの解放

電気やガスといったエネルギーは、「人と人」、つまり人間の経済や社会活動には欠かせないものかもしれません。しかし、「人」中心の考えだけでは地球が壊れていくのは明白です。

「自然」や「地球を超える大きなものの存在(神など)」を感じた時、わたしたちは「他の動物たちと同じように、地球に住まわせてもらっているんだ」と実感し、「人」中心の考えから脱却できるのではないでしょうか。

エネルギーだってそう。人間が電子機器に使うための電気、料理するためのガスだけがエネルギーなのではなく、太陽や星のまたたき、食物や動物たちの音、月の満ち欠け、海の満ち引きも自然や宇宙の持つエネルギー。

ニュピという日は、島全体が「人間中心のエネルギー」から解放され、「自然のエネルギー」を溜め込み、”島が回復する”ための休息の日なのです。

「人間中心のエネルギー」としての電気、ガスから解放され、「自然のエネルギー」を補充するという考えは、とても前向きで、地球上の一生命としての人間であるという感覚は今の時代だからこそ大切にしたいと気づかされました。

今当たり前に消費しているものは本当に必要なのか、一度考え意識することも、エネルギー問題を自分ごとにする具体的な行動の一歩となるのではないでしょうか。

(Text: 生団連)

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(編集校正:greenz challengers community)