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そのコピー用紙、森林破壊してない?リサイクルと印刷の現場から伝えたい、紙のサステナビリティについて。サスカレ番外編「紙談義」レポート

読んでいる雑誌や本、トイレットペーパー、郵便物を守る段ボール、スーパーのチラシ……。使わない日はないんじゃないかと思うほど、紙は私たちにとって身近な存在です。

しかし、私たちが何気なく使う紙の大半は、どこかの国の森林を伐採し、長い長い輸送時間を経て私たちの手元まで届いています。

今回は、グリーンズとmorning after cutting my hairが共同運営する「Sustainability College(通称:サスカレ)」の番外編として開催された、オンラインイベント「紙談義」の様子をレポート!

普段から紙に関わる印刷会社、古紙回収社、リサイクル業社で働いている3名のサスカレ生に登場いただき、現場にいるからこそ気づける紙業界の課題など、ニッチでディープな質問が参加者から寄せられました!

悪気なく使う紙が森林破壊・生物多様性の損失・人権侵害につながっている

私たちが普段、何気なく使っている紙。ペーパーレス化が進んでいるとはいえ、世界全体で見るとその消費量は増加傾向。2013年で3.93億トンだった消費量が、2017年時点では4.11億トンに増えています。

紙はそもそも木の繊維(バージンパルプ)からつくられるもの。持続可能な森林管理の拡大の動きがある一方、依然として、森林破壊や生物多様性の損失、そこに暮らす住民の生活を脅かす人権侵害など、企業が紙の原料を調達するための犠牲はあとを絶ちません。

そんな製紙産業の問題に声を上げ続けるレインフォレストネットワーク(RAN)というNGOがあります。サスカレでは、RANの代表・川上豊幸さんにお越しいただき、紙業界の課題を教えていただきました。

大手製紙メーカーが、紙の原料を調達する植林地開発のためにインドネシアのスマトラ島とカリマンタン島で森林破壊を長年にわたっておこない、熱帯林の多くが失われたことが明らかになっています。

競争の激しい紙業界。森林破壊はなぜ止まらない?

ーーー 紙を扱うお仕事をされているみなさんが普段感じている課題を教えてください。

新井遼一(あらい・りょういち)
新井紙材株式会社 取締役副社長 循環思考メディア「環境と人」編集長 / 1985年東京生まれ。2013年までミュージシャンとして活動し、2014年家業の古紙リサイクル業に転身。2020年中央大学大学院にてMBA取得。2021年よりメディア事業部を立ち上げ、WEBメディア運営やマーケティング支援を行う。@araiarairyoichi

新井さん まず簡単に、紙業界がどんな課題を抱えているのかをお伝えすると……。紙をつくるための原料は、バージンパルプと再生紙の2種類あります。バージンパルプは木を伐採して調達するものなので、森林破壊につながっていると指摘されています。

新井さん 紙をつくるときってこんなに巨大な機械を動かしているんです。200メートルくらいあって、24時間ずっと回っている。すごいお金をかけて最初にこの機械を仕入れるものだから、あとは「いかに原料を安く仕入れて効率よく稼働させていくか」が非常に重要なビジネスです。

新井さん こちらは、世界の製紙メーカーランキングです。グローバル展開する製紙メーカーは厳しい競争の中でしのぎを削っているというのが僕の見解です。

仲川文隆(なかがわ・ふみたか)
伸和印刷株式会社 代表取締役。早稲田大学大学院統計・データサイエンス修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社に6年勤務。2012年伸和印刷株式会社の3代目代表取締役就任。「印刷しないことも提案する印刷会社」をモットーとし、必要以上の資源を使わない情報発信設計や印刷方法を提案しつづける。@hitonakagawa

仲川さん 『Regeneration リジェネレーション 再生 気候危機を今の世代で終わらせる』という本によると、カナダのオンタリオ州での伐採状況の調査をおこなったところ、オンタリオ州の北方林で毎年約21,700 haが森林伐採されていることが初めて報告されました。この数字は、「カナダ全土の林業による森林破壊の報告値」の7倍に相当するそうです。

川上さんが「森林破壊のリスクのある製紙メーカーの紙は買わないように」「インドネシア産って書いてあるものは要注意」とおっしゃっていて、それは本当にその通りなのですが、じゃあ製紙メーカーのトップ10に名を連ねている、欧米、北欧ではどうなんだろうと。全てを知ることは難しいですが、ユーザー側が自分がよく使っているメーカーについて調べてみるのも大事なのではないかと感じています。

なぜ再生紙は広まらない?真っ白な紙を求める日本人の傾向

ーーー 「新しい紙(バージンパルプ)よりも、再生紙を選ぶ」「再生紙の中でもなるべく古紙100%のものを選ぶ」。シンプルで生活者にもわかりやすいですよね。実際、再生紙ってどのくらい使われているものなんですか?

仲川さん 再生紙の利用先にもいろんな種類があるのですが、「印刷情報用紙」って書いてあるのが、書籍や雑誌、オフィスで使われるコピー用紙のことを指しています。

再生紙の利用率は全体ではとても高いのですが、「印刷情報用紙」ではまだ20%ほどしか使われていないんですよ。ここを増やしたいと個人的には思っているんですが、矢野経済研究所の経済産業省委託調査古紙利用率向上の可能性に関する調査報告書には、「印刷情報用紙」で再生紙が広がらないのは、より白色度の高い紙をユーザーが求めているからと言われています。世界的にみても、日本人は特に真っ白な紙を求める傾向があります。


参照:日本は白い紙が好きすぎる?世界の中質紙利用率比較,SHINWA PRINTING,2020年1月31日

新井さん いくら白くしようとしても、再生紙だと限界がありますね。カラー印刷が主流になったことも起因しているかもしれません。白い紙のほうが色がきれいに出るので。でも、その資料って本当にカラーである必要あるんだっけと疑問に思うこともありますね……。

仲川さん 再生紙って少し汚れて見えるけど、それが味というか、ブランディングとして「環境に配慮した紙を使ってるほうがかっこいいじゃん」っていう風潮がつくれたらいいですよね。

寺井正幸(てらい・まさゆき)
株式会社浜田 経営企画室 課長。一般社団法人環境アライアンス2F4K 代表理事。
兵庫県立大学環境人間学部後、株式会社浜田に入社し、産業廃棄物処理を中心とした営業を行う。株式会社浜田と特定非営利活動法人「ザ・ピープル」との協業で「いわきリサイクルコットンプロジェクト」を開始。他、Facebookでコミュニティ「ごみの学校」を運営中。 @teraisdgs

寺井さん 僕がよく再生紙の例に挙げるのが「週刊少年ジャンプ」です。硬くて色も濁ってるし、結構独特じゃないですか。でもそれがアイデンティティになっているし、小さい頃からマンガ読めてたんだから再生紙で十分じゃない?って。

仲川さん コスト面でもあれはかなり安いですね。長い時間持っておくと変色してくるので保存性の面ではおすすめできないんですけど。

寺井さん 仕事で使う提案書や会議用の資料も一瞬で捨てられるものが大半だと思います。別に真っ白なきれいな紙じゃなくてもいいし、なんでそんなに白にこだわる必要があるんだっけって。かっこよくておしゃれな冊子に再生紙が使われているとか、もっと当たり前に日常に溶け込む存在になってほしいですよね。

どうリサイクルするかを考える前に、そもそもつくる量をどう減らせるか

ーーー 再生紙を選んだほうがいいのはもちろんなのですが、「どうしても白い紙を使わなくてはならない」場合は、何か工夫できることはありますか?

仲川さん バージンパルプの紙を使うにしても、できることはたくさんあると思っています。紙はよく「kg」で表現されるのですが、あれは紙1,000枚集めた時の重さを表しています。135kgの紙よりも、110kgの紙の方が薄くて軽いということです。


木から紙への加工の分量について、単純化した計算イメージ。正確にはパルプ以外に入れる薬品などの分量もあるので、上記の数値とは異なります。

例えば、135キロの紙をつくるには、単純計算で135キロのバージンパルプが必要です。その135キロのバージンパルプをつくるには、大体倍の量の木が必要と言われているので270キロくらい。同じ量のバージンパルプ、同じ量の木だとしても、薄い紙のほうがたくさんつくれるんですね。

厚い紙のほうが高級感あって好まれるんですが、その高級感って本当に重要なことですか、と。普通紙を使うにしても、できるだけ薄い紙で、できるだけ少ない枚数で。新しい紙を一切使うなとは言いませんが、「本当に真っ白で厚い紙である必要があるのか」は、お客さんに問いかけるようにしています。

寺井さん プラスチックに関しては、軽量化がよく言われていますよね。ラベルレスにするとか。一方、紙はまだその選択肢を知られてない気がしています。「リサイクル率を上げたい」と相談されることが多いんですけど、本来はリサイクルしにくいものを無理やりリサイクルしようとするよりも、そもそも使う量、つくる量を減らす努力ができるんじゃないのって思いますね。

社内コミュニケーションを強化するだけでも、無駄は減らせる

ーーー 古紙回収の現場で感じる課題にはどんなものがありますか?

新井さん 僕がよく悩まされているのが紙袋の持ち手です。紙であればリサイクルできるんですけど、持ち手がプラスチックだと一つひとつ手作業で外すわけにはいかないので、焼却せざるをえません。リサイクル業者がやり取りしているのって、つくり手ではなく総務部の方が多いんですね。担当者には、費用削減という命題が課されていて、焼却しちゃったほうが安く済んじゃうみたいな……。

その一方で、同じ会社のサステナビリティ推進室には潤沢な予算がついている。サステナビリティをテーマにした新規事業を始める前に、もっと減らせる無駄があるはずなんですど、違う部署だから課題が共有されないんですよね。

仲川さん 大事なのは、会社全体での環境負荷を一度洗い出すこと。大きな会社ほどブラックボックスになりがちなので、費用面と合わせてまずそれを整理してあげるだけでも、ぐっと環境負荷を減らせる可能性がありますよね。

竹やバナナ。木を使わない素材も「なぜそれを使うのか」はしっかり問われるべき

ーーー 最近では、竹やバナナからできた紙など、木以外の紙が見られるようになりました。この傾向をどのように見ていますか?

新井さん 森林伐採しないという意味ではいい面ももちろんあります。ただ、リサイクルする立場からすると、取扱注意って感じですかね……。

同じ素材、例えばバナナからできた紙はそれだけで回収してくれるインフラが整っていればいいんですけど、そこまで考えているメーカーは少ないと思います。

生活者からすると見た目には他の紙との違いがわからないから、古紙と混ぜて捨ててしまいますよね。業者が混ざっていることに気がつかず出荷してしまうと、最悪、製紙マシンが止まり大幅な損害となります。それが起きないよう、自分たちの手でよく見て触って確かめているんです。だから、新素材を導入するときは、どう回収するのかまで慎重に考えてもらいたいのが本音ですね。

寺井さん 包装容器など、そもそも汚れちゃってリサイクルできない前提のものに、こういった新素材が使われることに関しては、個人的にはとても興味深いなって思っています。

例えば、たこ焼きを入れるときに使われている台紙はソースまみれになるので、リサイクルは難しいと思うんです。そうした「そもそもリサイクルしづらい用途に使われる紙」の場合、代替素材を活用して製造時の環境負荷を減らすのも有効かと思います。

一方で紙袋とかカタログみたいに、本来リサイクルできていたものを新素材に置き換えてしまうと、それらはリサイクルする際に“異物”として扱われてしまいます。先ほど新井さんが言っていたように、リスクをもたらす存在になりかねません。

わかりやすい企業アピールになるからと、回収まで考えずに新素材が使われてしまう。「環境負荷を減らすために、なぜその素材を使うべきなのか」きちんと議論することが大切だなと改めて思いました。

プラから紙へ。代替品によって生まれる別の懸念

ーーー 海外だと脱プラの動きが盛んですが、日本での紙製品の可能性はどのように考えていますか?

新井さん プラスチックを全部紙に変えればいいかっていうと、輸送で発生するCO2の排出量を考えると一概にそれがいいとは言い切れないんですよね。

プラスチックより紙の方が圧倒的に重いんです。例えば、プラスチックの袋を100枚運べるところ、紙だと60枚くらいしか運べない。運べる量が限られることで、プラスチックだったら1回で済んだところ、紙だと往復しなきゃいけないとなると、物流コストが高くなるんです。

寺井さん なるほど。一概にプラスチックから紙に変えるって議論よりも、輸送コストなど環境に与える影響を全体で評価していく必要がありますね。

でも、日本の場合、まだまだ過剰包装が多い状況なので、紙だろうがプラスチックだろうが、そもそも使い捨てやめようよっていう論点をやっぱり飛ばしちゃいけないなって僕は思います。

身近なものから再生紙に。企業や個人が今日からでいること

ーーー 最後に、読者一人ひとりができるアクションを教えていただけますか?

新井さん オフィスでできることとしては、機密書類処理サービスの利用です。機密書類を捨てる専用ボックスが届くので、そこに入れてもらえさえすれば、機密は守られたまま業者が処分してくれます。捨てる際は、ホチキスやクリップはそのままでOK。シュレッダーよりも捨てる手間がなく、リサイクル率も高いのでおすすめです。

また、白い紙から手を加えるほどリサイクルはしにくくなっていきます。DMやノベルティをつくるときは、できるだけ単一素材を使った装飾のないものだとありがたいです。例えば、濃い色で印刷したり、コーティング、金銀ラミネート、ビニール包装などは、リサイクルできず焼却される可能性が高いです。

とはいえ、素敵なバースデーカードがない世界も寂しいので、装飾が必要な場面とそうでない場面をうまく使い分けられるといいですよね。

仲川さん 僕は、身近なものから再生紙に切り替えてみることが、最初の一歩かなと。オフィスや自宅で使っているプリンター用紙がどんなものか調べてみましょう。トイレットペーパーを再生紙100%のものに置き換えるのもいいですね。

寺井さん 今日お話ししてみて、やっぱり僕はプロにフィードバックをもらうのが大切だなって思いました。例えば、仲川さんの知恵を借りて、オフィスで使われている紙はどのくらいか具体的に数字で出してもらい、それを社員みんなに共有して徐々に数字を減らす努力をしてみる。新井さんのような古紙回収会社に、自社のごみの捨て方に対してアドバイスをもらうのもいいと思います。アドバイザーとして入ってもらって、自社に一番フィットする形を共に探っていけるといいですよね。

何をどこまで回収してくれるかは、地域や業者によって違ったりして、わかりにくく感じる方も多いと思うんです。実際に、僕が主催しているオンラインコミュニティ「ごみの学校」でも、よくそういった声が寄せられます。僕らのようなリサイクルや廃棄の現場にいる人と、企業や生活者の距離が近くなるだけで、今まで見えなかった改善策が見えてくる

ディープなことも何でも答えたいのがこの三人の共通項だと思っているので(笑)一人じゃどうしていいかわからないという方は、ぜひ気軽に相談してもらいたいです。

(対談ここまで)

「これがいい・これはダメ」と白黒つけることが難しい紙の問題。

地球に良いことをしているつもりでも、サプライチェーン全体、ビジネス全体、長い時間軸など、広い視点でとらえないと、前に進んでいるようで、実は新しい問題を引き起こしている場合もあります。

まずは、リサイクルや廃棄の現場にいる人たちの声に耳をすませて、課題を多角的に把握する。その上で、自分や自社にとってのベストアンサーに近づけることが大切だと感じました。

サスカレは、サステナビリティの実践者たちが集まる場所です。個人や自社でできることを模索中の方、ぜひ参加を検討してみてはいかがでしょうか?

(編集:植原正太郎)

2022年7月8日に公開しました本記事ですが、一部誤解を生じる記述があるとご指摘をいただいたため、論旨を損なわない範囲で、本文の修正をさせていただきました。 (2022年7月29日 greenz.jp編集部)

– INFORMATION –

NPOグリーンズとmorning after cutting my hair,Inc.が共同運営するサステナビリティ×ビジネスの実践者によるラーニングコミュニティ「Sustainability College(通称:サスカレ)」。今回の座談会でお話いただいたお三方を含め、現在の約70名の受講生が共に学んでいます。

そんなサスカレは現在6期生のメンバーを募集中です! 2022年8月の講義回から参加となります。8〜11月の講師も豪華な顔ぶれです。

入学後は、過去のゲスト講義回の動画もすべてアーカイブ視聴が可能です。気になる方はサスカレの公式サイトをご覧の上、奮ってご応募ください! 〆切は7月18日(月)23:59まで!

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