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私は、どう生きる? 「わかやま しごと・くらし体験」で古座川町に滞在し、出会い、はたらき、気づいた28歳の私の解。

就職。
転職。
結婚。
移住。
起業。

いろいろな人生の変化があるけれど、私は周りの人にも恵まれて、そこそこマイペースに生きてきたなぁと思います。

大学には、留学を含めて5年(就職に響くから、4年で卒業するのが王道)。

国立4年制大学で政治学を専攻していたのに、保育士資格を独学で取って保育士として就職した社会人1年目。

仕事や自分のあり方にもやもやして、転職活動もせずに、勢い任せに仕事を退職した社会人4年目の夏(去年の話)。

でも時折、「〇〇歳にもなったくせに…」という心の声が、頭の片隅にふと浮かぶことがあります。28歳になった今、結婚、出産、昇進と、人生のステージがはっきりと変わっていく友人や知人が、周りにはたくさん。

だからこそ、自分が新しい場所やチャンスに恵まれても、どこか拭えない停滞感があるのも事実…

そんなモヤモヤと悩んでいたときに参加を決めたのが、和歌山県への移住を検討する人が、数日間の仕事と暮らしを現地で体験できる「わかやま しごと・くらし体験(以下、しごとくらし体験)」でした。

和歌山県が2018年4月から企画・実施してきたこのプログラムは、参加者が希望する地域での「しごと」を体験しながら、先輩移住者や地域住民の方との交流を通じて「くらし」の体験を行い、地域をより深く知りながら「移住」という選択肢を考えることができます。(以前取材した記事はこちら

海が好きな私が、ずっと興味を持っていた和歌山県へ行けるチャンスだというワクワク感。
そして、「何か気づきが得られるかもしれない…」という漠然とした思い。

ちょっぴり焦燥感に駆られるような気持ちを抱きつつ、和歌山県を訪れました。

海と山に挟まれた町、古座川町

紀伊半島に位置し、奈良と大阪に県境を接している和歌山県。特に関東在住の方は、訪れたことのない人が多い場所かもしれませんが、それもそのはず。私もいざ交通手段を調べてみてびっくりしましたが、関東から行こうとすると、想像以上に遠いんです!

飛行機で南紀白浜空港までアクセスすることはできますが、問題はその先。今回私がしごとくらし体験でお世話になるのは、空港からさらに車で1時間ほど行った古座川(こざがわ)町

新幹線で行こうとすると、名古屋や大阪から先は、特急とローカル線の乗り継ぎのみ。現地での移動手段も考えると車で行くしかない! と、私が今住んでいる千葉県から、日をまたいで10時間以上の大移動を決行しました。

自由を広げてくれた私の相棒ハスラー

大学が茨城県だったこともあり、実家がある名古屋と関東地方間の移動は慣れているのですが、今回は名古屋を通り越したさらに先が目的地。さすがに少し運転に疲れてきたとき、目の前がパッと開け、広がったのは青い海でした。

1人車を走らせる車内で、思わず「綺麗! すごいー!」とはしゃいでしまいました。

和歌山県の森林率は、県土面積のおよそ8割。そんな山と海の狭間に道路がつくられているため、建物に遮られがちな海のすぐ横を車で走ることができちゃうんです!

そんな自然との距離感に感動し、キラキラと色が変化する青いグラデーションを眺めながらドライブするうちに、古座川町へ辿り着きました。

海と川が交わるところに位置する古座川町。昭和で時が止まったような、どこか懐かしい街並みが広がります。

18歳で経営者の道へ

今回お世話になる仕事の体験先は、「株式会社ヒトノハ(以下、ヒトノハ)」。古座川町でデザイン&コンサルティングを行っている会社で、地域にとけこみ盛り上げる一端を担うだけでなく、移住者が増えるきっかけもつくっており、和歌山県でもイチオシの体験先なのだとか。

一見、オフィスがあるとはわからない一軒家のような、でも、どことなくおしゃれな雰囲気がただよう建物が本拠地。ワクワクとドキドキを胸に、扉に手をかけました。

辻本さん&岩倉さん こんにちは。

と落ち着いたトーンで迎え入れてくれたのが、代表の岩倉昂史(いわくら・たかし、以下、岩倉さん)とライターの辻本真貴子さん。お互いに自己紹介をし、ドキドキとは裏腹に、穏やかに体験が始まりました。

岩倉さん

ヒトノハでは、しごとくらし体験に来た人の希望や、やりたいこと、そのときに進行中の業務などを加味しながら、体験内容を決めるんだそう。そこで私は、岩倉さんをはじめ、古座川で暮らす人たちへのインタビューと記事の作成を中心に、打ち合わせへの同行などをさせていただきました。

ヒトノハのオフィスでの一枚。1階に、岩倉さんが取締役を務める古座MORIのコワーキングスペース、2階にヒトノハのオフィスがあります。

まずお話を伺ったのは、岩倉さん自身とヒトノハについて。

もともと京都に住んでいた岩倉さんが和歌山にやってきたのは、2015年。知り合いの人づてに訪れたのが最初ですが、和歌山でデザイン会社をつくろうと初めから計画していたわけではありませんでした。

18歳のときに、カフェの経営をすることになって。

え、カフェの経営? 18歳で?

「なんのためにお金を使うのか?」というのをよく考えていて。自分が納得したもの、意味があると思ったものにお金を使いたかったんです。

そんな経緯で、高校卒業後、大学へは進まず、当時住んでいたシェアハウスがオープンするカフェの経営を担うことになった岩倉さん。もちろん、高校を卒業したばかりで何の経験もなかったといいますが、内装のDIYや、料理、経営を少しずつ手探りで身につけていったそうです。

コンクリート打ちっぱなしのスペースにDIYで空間をつくるところから、カフェの経営がスタートしました。

料理をつくるのは好きだったし、経営も面白かったけど、カフェの仕事は、自分にとっては「できること」。

「自分はどう生きていきたいのか?」というのを考えていました。

そこで、岩倉さんが思い出したのが、デザインやアートへの憧れ。もともとデザインが好きだったこともあり、自分でカフェのフライヤーやホームページをつくったりしていましたが、勉強をしたことがなかったため、デザインの学校へ行くことも考え始めたんだそう。

そんなとき、尊敬する社長で芸大出身の方の「現場で求められるデザインと、学校は違う」というアドバイスを聞き、「現場で働かせてください!」とお願いし、その方の会社で働きながらデザインの基礎を学んでいきました。

その後、独立を経験したのち、縁あってソーシャル系の会社に移り、デザインの力で障がいなどの課題解決を支援する業務に従事。そのなかで、障がいなどのわかりやすい課題を抱えている人だけでなく「みんなが心地よく生きるには? そんな場所をつくるためには?」と考えるようになったと、岩倉さんは言います。

またその頃、生活費のために働き、働くストレス解消のために消費を繰り返すというサイクルから抜け出す可能性を模索し、衣食住にお金がかかりにくい地方へ目を向けるようになり、たどり着いたのが古座川でした。

山と川と海に囲まれた自然豊かな古座川町。

ヒトノハをとおして広がる和歌山の魅力

ヒトノハが受ける仕事は多岐に渡ります。デザイン会社とはいえ、「デザイン」という言葉からイメージされるようなパッケージやロゴ、Webサイトの制作に限らず、企業のブランディングや、地域のイベントなど、設計の「デザイン」にも関わっています。

勝浦から東京へマグロを運送する会社のHP。「社員に、華山運送で働いていることを誇りに思ってほしい」という想いを汲み取り、HPのデザインや、動画、コンセプトなどをかたちにしていったそう。

最初は一移住者として和歌山へやってきた岩倉さんですが、和歌山の良さを体感し、自分なりの生き方を模索する中で、その輪が広がっているのか、岩倉さんの周りには、和歌山への移住を決めた人が何人もいます。

写真中央の湯川さんは、しごとくらし体験をきっかけに和歌山へ移住し、ヒトノハで働いています。写真左がライターの辻本さん。

古座川は大都市ではないため、上映中の映画を観に行こうとすると、新宮市や和歌山市など近隣の市まで1〜2時間ほどかけて出かけないといけなかったり、ご飯を食べに行こうとしても、近場には選択肢が少ないことも。

また進学を機に地元を離れる若い人が多く、過疎化や高齢化がすすんでいたり、働き口が少なかったりするのも大きな課題です。

今回のしごとくらし体験でインタビューさせていただいた道の駅monolith の経営者、田堀穣也さん(たほり・じょうやさん、以下、田堀さん)は、だからこそ、古座川に居たいと思う人たちが働ける場所を増やしていきたいと意気込みます。

田堀さん 川も海も山も綺麗で、すぐそこにある。それが古座川のいいところでもありますが、働ける場所がなければ、若い人たちがここでの暮らしを諦めてしまうのも仕方がないことです。

だからこそ、古座川でも仕事があって、お金が稼げて、暮らせる! と思える『古座川ドリーム』が必要なんです(笑)

みんなが働いて暮らせる場所を古座川でつくっていきたいと思っています。

古座川LOVERの田堀さん(写真中央、緑のパーカーの方)。大好きな古座川を盛り上げたい!という一心で、教師から消防士、道の駅の経営へと転身しているエネルギッシュな明るいお兄さん。

町から街への移動距離の多さや、選択肢の制限といった不便さはありながら、目の前に広がる雄大な自然と、そこに集まる人の面白さ、そしてたくさましさに私は強く惹かれました。

岩倉さんをはじめ、和歌山の南のエリアを盛り上げたい!という方が集まって毎日投稿している写真団体「紀南フィルム」のインスタグラム。和歌山への愛あるまなざしが垣間見えます。

本島から橋で海を越えないと行けない不便なところにありながら、三重や大阪など他県からも人が集まるほど人気のパン屋さん兼カフェ。仕事を辞めて30代でパン屋さんになった店主から、「これから、なんでもできるよ」という一言をいただいたのが印象的でした。

選択肢が少ないこと、不便であることを言い訳にせず、そこにあるものを存分に楽しみ、仕事をつくり、工夫とDIYの精神で暮らしている人たち。

便利であることを優先するのであれば、都会に住むのが一番かもしれません。でも、生活のために手間ひまかけて時間を使い、人とつながり、山のすぐ麓、海のすぐ隣で生きる。そんな古座川で暮らす人たちを見ていると、「こうならないといけない」という柵から離れ「今ここに生きている私」に、すっと目線を合わせられるような気がしました。

自分はどんなふうに生きていきたい?

まさに、十人十色。三者三様。2泊3日という短い時間の中で、それぞれの生き方を実践するさまざまな方と出会い、図らずも「私はどんなふうに生きていきたいんだろう?」という問いと向き合うことになりました。

高校生の頃、ただただ一緒に勉強し、遊んでいた友達が、いつの間にか母になっている。
カフェを開くのがずっと夢だった友達が、地元で念願のカフェをオープンさせている。
移住し、地域に溶け込みながら、仕事をつくっている人たちがいる。

結婚、出産、転職。着実にステップを進んでいる周囲に比べ、どうにも宙ぶらりんに感じる私。自分がどうしていきたいのか、点と点が散らばっているようで漠然としていて、大学生の頃から一向に進歩せず、自分だけが取り残されていくようなモヤモヤと劣等感がチラリとよぎることもあります。

でも、自分なりのペースで、自分なりの選択を重ね、悩んでいくしか、「自分がどんなふうに生きていきたいか」の答えにたどり着く方法はないのかもしれないと今回の旅で実感しました。

打ち合わせに同行させていただき、地平線が望める本州の端、潮岬へもお邪魔しました。

「面白い」「好き!」と自分が思っていることは、みんなもきっとそう感じているから、特別なことじゃない。決め手には、ならない。何かを始めるには、もっと論理的な理由づけが必要。

今回のしごとくらし体験で重ねたインタビューで、そんなふうに、ついつい自分で自分のブレーキをかけてしまうことがたくさんあったことに気づき、「面白い」「好き」が行動を起こす原動力でもいいんじゃないかと、肩の力が抜けたような気がします。

思い返せば、私のライターとしての仕事も、ひよっこながら始まったのは、「面白そう!!」と感じた直感と勢いで応募したグリーンズのライターインターンがきっかけ。

そんなふうに、いいなと感じるなら、まずそこへ飛び込んでみることでしか得られないこと、見えない景色はあるのかもしれないなぁと、目が覚めるような思いにもおそわれました。

とはいえ、いきなり仕事を辞めたり、知らない土地へ飛び込むのは、なかなかできるものじゃないし…と思っているそこのあなた。そんな方にこそ、「わかやま しごと・くらし体験」は、ぴったりなんじゃないかと思います。

自分が抱えているモヤモヤを、飛び込んでみて、やってみて、考える。そんなきっかけに、あなたもぜひ出会ってみてください!

– INFORMATION –


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