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地域の課題解決に、「外の人」を頼る。福島県田人町の暮らしを未来につなげるワークキャンプの可能性。

人口1300人。福島県いわき市の山間部にある田人町は、豊かな自然と里山の景観が美しい小さな町です。

田人町は、20年ほど前から積極的に移住者を受け入れ、最盛期には約50世帯が移り住み、賑わいが生まれつつありました。しかし、「これから!」という矢先に東日本大震災と原発事故が発生。その1ヵ月後には田人町を震源地とする震度6弱の余震が起こります。

移住者や若い世代は町を離れ、10年間で人口は約35%減少。学校の統廃合が進むなど、地域課題は山積しています。

そんな田人町に2019年より地域おこし協力隊として着任し、新しい町の循環を生み出そうと奮闘するご夫婦がいます。

それが、神奈川県出身の下條真輝(しもじょう・まさき)さんです。関東で仕事を続けていた福島県出身の妻・由美子(ゆみこ)さんも2020年に合流。二人は田人町の魅力に惹かれ、「田人ワークキャンプ・ビレッジ」プロジェクトを始動させました。

地域に住む中の人と外から来る人、自然と子どもをつなぐ「場」で、町の人たちが大切にしてきた伝統的な暮らしや景観を未来へ残していこうという活動です。

里山の風景と暮らしを未来につなぐ
「ワークキャンプ」

ワークキャンプという言葉をご存知ですか?

「福島でワークキャンプがしたいんです」。

由美子さんに初めてお会いしたとき、こんな言葉を聞き「新しいキャンプでも始めるのかな?」と、とんちんかんな発想をした筆者です。

ワークキャンプとは、日常をはなれて共同生活をしながら、現地の人と交流し、その場のニーズに合った地域活動に取り組む「合宿型のボランティア」のこと。各地域の消滅危機にある文化や豊かな自然と、忙しく生きる都会の人たちが結びつくことで、どちらにも良い効果が生まれ、地域の未来につながるのだとか。

例えば、地域の人にとって日常にある畑仕事や山仕事も、都会の人にとっては新鮮な体験だったりしますよね。みんなで協力して行えば、それはもう楽しいイベントです。

人手が足りない地域にとっては、「外」から来た人の楽しい体験が、貴重な労働力になります。そして、楽しく体験をしてくれる姿に接することが刺激となり、より良い地域づくりのきっかけになるかもしれません。

耕耘機を使ってはじめての畑しごと。おいしい野菜をつくるために土をふかふかにします

下條夫妻が準備を進めている「田人ワークキャンプ・ビレッジ」プロジェクトは、地域の人たちが大切に守ってきた里山の風景と暮らしを“未来”に残していくことを目的に、町全体を巻き込んでワークキャンプを行う作戦です。宿泊・滞在できる基地では、森林整備や畑しごとのボランティアを受け入れるほかに、子ども自然キャンプやこんにゃくづくりなどのワークショップを行う予定だそう。

下條夫妻は人と人が交流してつくり上げる豊かな社会の入口のような、未来に希望が持てる取り組みによって、過疎化が進む町に新しい風を吹き込もうとしています。

田人ワークキャンプ・ビレッジの未来図

つながりをデザインして
未来をつくりたい

由美子さんがこのワークキャンプを「福島でやりたい!」と思ったきっかけは、地元・福島で起きた東日本大震災でした。

由美子さん 私は大学でデザインを学んでいたのですが、在学中に震災が起きたことを機に、自分にも何かできることはないかと模索するようになりました。

でも、ちっぽけな自分で復興の役に立つような自信はなくて…、できることから動き出してみようと、福島県内にあるNPO法人で、3週間ほどの復興インターンに参加したんです。

そのときに、デザインが地域に活かせる場面があるということに気づきました。それで、人と人とのつながりをデザインするコミュニティデザインからまちづくりに興味を持つようになり、将来の目標となっていました。

「まちづくり」を行っていくために、「外」からの視点も必要だと感じた由美子さんは、大学卒業後にNPO法人NICEが主催する国際ワークキャンプに参加。フィンランドやバングラデシュ、タイに長期滞在し、世界中から集まったメンバーと共同生活しながらボランティアを通して様々な経験をしたそうです。

タイの村で3ヶ月間の中長期ボランティア。山の中に家を建てて自給自足を目指す家族との出会いが、今の暮らしを目指すきっかけになったのだとか

由美子さん 参加してみると、ワークキャンプの素晴らしさは、ボランティアで「支援する側・される側」という関係性がつくられるのではなく、お互いが同じ目的に向かって取り組んでいくことにあると実感しました。

この取り組みは、復興という文脈で役には立てなくても、福島の未来のために役立てるかもしれないと考え、「いつか地元で…」という想いを温め続けてきました。

タイの都市部の学生たちと一緒に土を運ぶためのバケツリレー。どんな作業も協力することで楽しさに変わると実感

日本に戻った由美子さんは、自身をボランティアとして派遣してくれたNPO法人NICEの職員となり、国内ボランティアでの外国人受け入れやコーディネートを担当。ワークキャンプのノウハウを約4年間学びました。

学生時代からお付き合いしていた真輝さんとは2018年に結婚。2020年には、福島へUターンし、ワークキャンプを実現させるために動き始めました。

現代の子どもたちには
挑戦できる「場所」が足りない

神奈川県出身の夫・真輝さんは、2019年、由美子さんよりも先に単身で地域おこし協力隊として福島県いわき市の田人町に移住しました。

移住を決断したきっかけは、由美子さんに誘われて子ども自然キャンプのボランティアに参加したことだったそうです。

真輝さん 私は横浜市で習いごと教室の講師をしていました。仕事にやりがいを感じる反面、一方的に「教える」だけの子どもたちとの関係に、本当にこれでいいのかというモヤモヤを抱えていました。

現代の子どもたちは、遊べる場がすごく限られていて、YouTubeやゲームの中で満足せざるを得ない現状があります。そんな子どもたちに、挑戦させる機会や遊びから学べる機会をつくってあげることはできないだろうかと模索していたんです。

そんな時、真輝さんは、由美子さんから福島県鮫川村の「あぶくまエヌエスネット」が行う子ども自然キャンプに参加してみないかと誘われます。

真輝さん そこでの光景が衝撃的だったんです。ケンカは子ども同士が納得するまでさせるから大人が止めたりしないし、危険だからという理由で遊びをやめさせたりしない。自然の中で子どもたちは本当にイキイキとしていました。そこに、自分が本当にやりたいと思う子どもとの関わり方があったんです。

2018年はじめて子ども自然キャンプ「ぽんた山元気楽校」に参加したとき。あぶくまエヌエスネットでは、子どもと自然が交わるさまざまな取り組みを行なっている

自然の中で自由に遊べて、学び合い、挑戦できる場を用意してあげることの方が、机上で導くよりも子どもたちの未来につながるのではないだろうか。そう考えた真輝さんは、由美子さんの夢であるワークキャンプと、自然の中で子どもが学べる場所を掛け合わせた場づくりへ踏み出しました。

未来へ里山の暮らしと
景観を残すために

真輝さんは何度も移住相談に足を運び、小学生の放課後預かりを募集していた田人町の地域おこし協力隊を見つけ、移住を決意。由美子さんより一足先に、縁もゆかりもない土地へ単身で転居しました。

真輝さん 温かい人柄の田人町の方たちのおかげで、わりとすぐに溶け込むことができましたね。休日になると、野菜直売所なんかへ赴いて、住人の方に地域の困りごとや足りないことなど聞いて、自分の役割を探しました。

会話のなかから、過疎化が進む現状を何とかしたいという思いを持つ人が多いことに気づいた真輝さんは、町で小さなイベントを企画したり、行事を率先して行なったりと、地域が活気づくために自ら先頭に立って行動を起こします。

子どもたちには「しもさん」と呼ばれ、町のお兄ちゃん的な存在に

地元の子どもたちと川遊びイベント。「将来的には関東圏の子どもたちにも体験させてあげたい」と真輝さん

一年後には由美子さんが合流し、二人は自分たちを温かく受け入れてくれた田人町の暮らしや自然を守っていきくことを決意。そして、この地で自分たちの想いを実現するため、地域住民と協力して田人里山再生委員会を設立し「田人ワークキャンプ・ビレッジ」を建設するために動き始めました。

二人は「田人ワークキャンプ・ビレッジ」を始動して、どのようなまちの未来を描いているのでしょうか。

由美子さん ワークキャンプ自体が、日本全体で進む少子高齢化を止める術ではないと思っています。ただ、人口が減っていくことは前提としても、昔の人たちが紡いできた考え方や価値観まで失われていくのは悲しいなと思うんです。

今は一つの場所にこだわらず多拠点で生活している人も多くいるので、そういう人たちを巻き込みつつ、ワークキャンプを通じて町に関わってくれる人が増えれば、町のアイデンティティは繋げていけるかもしれないと考えています。

実際に田人町に来てみると、おじいちゃん、おばあちゃんたちから学ぶことってたくさんあるんですよね。それを受け継いで、自分たちを通してここの暮らしや考え方を残し、実践していく場が「田人ワークキャンプ・ビレッジ」です。そこから、田人町を好きになってくれる人が広がっていくと信じています。

真輝さん 今、太陽光ソーラーだらけの山になっている光景をよく目にしますよね。子どもたちを豊かな自然の中に招待したいのに、ソーラーだらけの山になってしまっては悲しすぎます。

僕は田人町に来てから、人手不足で山の管理が行き届かなくなっている現状を知りました。だからこそ、ワークキャンプで外の人たちの手を借りながら、管理ができる仕組みをつくり、この美しい景観を未来に残していきたいと思っています。

一人ひとりの力が
未来を変える力に

拠点となる基地づくりは、地元の大工や設計士の力を借りながらセルフビルドで行います。

「より多くの人に関わってほしい」との想いから、基地づくりの過程を楽しめる企画や体験を散りばめて、多くの人から愛される場所を目指すのだとか。

その第一弾で行ったイベントが「ヒノキ丸太の皮剥ぎ体験」です。真輝さん自ら伐採してきたヒノキの丸太を、小学生たちが皮剥ぎし、基地の居間を支える大事な柱をつくりました。

地元の子どもたちでも木の皮を剥ぐという体験は初めて。「道具は何を使うの?」「長く剥けたときが気持ちいい!」という楽しげな声と、好奇心や探究心をフル稼働させる姿がありました。

6家族15名の親子が参加したヒノキの皮剥ぎ体験

建設中の基地の真ん中には、子どもたちが皮剥ぎをした丸太が立派な柱に!

田人ワークキャンプ・ビレッジの活動は、地域の人たちのほかにも、たくさんの人が賛同し、クラウドファンディングでは目標金額を達成。来年2月には基地が完成し、春から本格的にワークキャンプや子ども自然キャンプをスタートさせる予定です。

思い描いたとおりに順調にプロジェクトを進めるお二人ですが、不安や迷いは常について回ると言います。

真輝さん ワークキャンプも子どもの自然体験もお金を生む事業ではないんですよね。どうやって自分たちの生活費を稼ごうかというのが一番の課題です。

やり方はいろいろあるのかなと思うけど、それを見い出せていない段階ですね。民泊をしたり、野菜を育てたり、いろいろなことを掛け合わせながらやって行きたいです。さまざまな角度からまだ完成形は見えていないんですけど、だからこそ多くの人の手を借りて協力しながら、楽しんでいければと思っています。

「収入が不安」と漏らしつつも、お二人の姿はどこか楽しげです。それは、あるもので工夫しながら営む暮らしとコミュニティの豊かさから来るのかもしれません。

山間部にある山積みの課題を楽しみに変えて解決していこうというお二人。「田人ワークキャンプ・ビレッジ」プロジェクトは、まだ動き出したばかりですが、確実に地域に明るい光が差し込んでいる希望を感じます。

緑溢れる豊かな自然と子どもたちが元気に駆け回る姿、この先何十年も続いてほしいと願う一人ひとりの行動が、未来を変えていく力になるのかもしれません。

(Text:奥村サヤ)