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日本の教育は3周遅れ!? 「ティール組織」の第一人者・嘉村賢州さんに聞く、未来の働き方に向けたこれからの学び(前編)

あなたは『ティール組織』という本を知っていますか?
日本語版は2018年に発売され、全部で592ページという分厚い本にもかかわらず、瞬く間にベストセラーになりました。

「そういえば書店でよく見かけたな」という印象のある人もいれば、買ったものの最後まで読みきれなかったという人もいるでしょう。あるいは、「進化型(ティール)組織」という存在を知って、驚きと興奮とともに読み切ったけれど、結局自分の身の回りには何も変化がなかったという人もいるかもしれません。


※『ティール組織』については、greenz.jpでもこちらの記事で紹介しました。

さとのば大学信岡良亮さんが対談案内人となって「学び3.0」について考える対談シリーズの第二弾となる今回は、その『ティール組織』の日本版で解説を執筆している嘉村賢州さんをお迎えして、組織論から学びにアプローチしていきます。

信岡さんは、組織の発達理論の向こう側に、働き方とか学び方の話もあるのではと考えているのだそう。

本編に入る前に、まずは信岡さんが提唱している「学び3.0」について軽くおさらいしておきましょう。

ここでいう「学び3.0」とは、OSをアップデートするかのように、学びのアップデートをしようという視座のこと。個人ではなく、チームとしての学びを通して社会接続できるのが、学び3.0の社会であると信岡さんは考えています。

少しだけ具体的に見ていくと……

学び1.0は従来の学校教育に代表されるような学びで、教える側と教えられる側が存在し、学び手がどうあるかは関係なく、学びを提供する側の意図によって進められる学びです。

学び2.0は探究学習のような学びです。教える側・教えられる側は存在しつつも関係性はフラット。学び手が自主的に学びたいことについて、学びを提供する側はチューターとしてサポートします。

学び3.0は、たとえていうなら学園祭です。学園祭で模擬店を成功させるという共通の目的のために、ある人は経営を学び、ある人はマーケティングを学び、ある人は調理を極めるというようなイメージです。学び手の学習目的と、学びの場全体の進みたい方向性が一致していて、個人のための学びと全体のための学びを行き来している状態を指します。

信岡さんが学びをこのように考るに至ったベースには、前回の対談記事で紹介した複雑系の科学の考え方や、今回の記事で取り上げる「ティール組織」の考え方があったのだといいます。

信岡さんと嘉村さんとの対話は、「進化型(ティール)」とはどんなものかというところから始まり、徐々に「これからの学び」の話へと進んでいきました。

嘉村賢州(かむら・けんしゅう)
場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome’s vi代表理事。コクリ!プロジェクトディレクター(研究・実証実験)。京都市未来まちづくり100人委員会元運営事務局長。集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、脳科学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外問わず研究を続けている。実践現場は、まちづくりや教育などの非営利分野や、営利組織のおける組織開発やイノベーション支援など、分野を問わず展開し、ファシリテーターとして年に100回以上のワークショップを行っている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する。その中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ(ORG LAB)」を設立、現在に至る。

信岡良亮(のぶおか・りょうすけ)
1982年生まれ。関西で生まれ育ち同志社大学卒業後、東京でITベンチャー企業に就職。 Webのディレクターとして働きながら大きすぎる経済の成長の先に幸せな未来があるイメージが湧かなくなり、2007年6月に退社。小さな経済でこそ持続可能な未来が見えるのではないかと、島根県隠岐諸島の中ノ島・海士町という人口2400人弱の島に移住し、2008年に株式会社巡の環を仲間と共に起業(現在は非常勤取締役)。6年半の島生活を経て、地域活性化というワードではなく、過疎を地方側だけの問題ではなく全てのつながりの関係性を良くしていくという次のステップに進むため、東京に活動拠点を移し、2015年5月に株式会社アスノオトを創業。「地域共創カレッジ」主催のほか、さとのば大学の発起人。

進化型(ティール)組織ってどんなもの?

信岡さん 僕が学びを1.0から3.0に分けたのは、嘉村さんが日本版の解説を書かれていた『ティール組織』からヒントを得ています。

組織のあり方を、衝動型(レッド)・順応型(アンバー)・達成型(オレンジ)・多元型(グリーン)・進化型(ティール)の5段階に分けて説明しているのを参考にして、学びの世界を言語化してみようと思いついたんです。

衝動型(レッド)は狼の群れのような、力で支配されている組織。マフィアなどがこれにあたる。順応型(アンバー)は軍隊のような、権力や階級といった身分を重んじる組織。学校や教会がこれにあたる。達成型(オレンジ)はひとつの正解を細部まで広げる機械のような組織。グローバル企業がこれにあたる。多元型(グリーン)は家族のような、成果よりも主体性や多様性を大切にする組織。NPO法人がこれに近いとされる。進化型(ティール)は、ひとつの生命体のようにフラットな関係性のもと、権限や責任を任される組織のこと。ある程度の秩序があり、メンバーは同じ方向を向いているが、それぞれの創造性は担保されるという特徴がある。

信岡さん 実は、最初に本を読んだとき、「進化型(ティール)」っていうのがよくわからなかったんですよ。達成型(オレンジ)から多元型(グリーン)は全く違うパラダイムだなっていうところまではわかるんだけど、多元型(グリーン)と進化型(ティール)の違いがよくわからなかった。

日本では2018年に出版されベストセラーとなった。もともと「ティール」は表紙の色のような青緑色のことを指す言葉

信岡さん そんなときに、ホラクラシー(※)の研修を受けてなるほどと思ったことがあって。ホラクラシーって、役割ベースで区分けしていくことによって”権力”と”人間”を切り離しているんだなっていう感じを受けたんです。
(※)組織内の透明性を高め、上下関係をなくして、個々人の主体的な動きを促していく組織運営方法のひとつ。

力って集まらないと前に進むエネルギーにならない一方で、いつも同じ人に集まっていると腐敗していく。

達成型(オレンジ)までは、トップの人間に力が”集中”する形態をとっていたわけですよね。多元的(グリーン)では、逆に”分散”の方向に向かった。それらに対して、権力の”集中”と”分散”というのを”新陳代謝”という仕組みとして埋め込んだのが進化型(ティール)なんじゃないかなって思うようになったんです。

嘉村さん それはティールのある側面を捉えているという感じがします。

ティール組織には3つの特徴があって、今の信岡さんの話は、そのうちのひとつである「自主経営(セルフ・マネジメント)」の部分ですね。新しい組織構造の中で、人が人を支配したり力の奪い合いをしたりする「パワーオーバー」の関係から、あなたが本領発揮すれば私もできることがもっと増えるという「パワーウィズ」の関係になっていく。その組織構造の部分です。

進化型(ティール)の3つの特徴のうち、残りのふたつは「全体性(ホールネス)」と「存在目的(エボリューショナリー・パーパス)」。

・全体性(ホールネス)
人が持っているありのままの状態。仕事をしているときの自分、家庭にいるときの自分というように分断されるのではなく、ありのままの自分も含めて最大限に表現すること。

・存在目的(エボリューショナリー・パーパス)
一人ひとりが何のためにこの場で働いているのか、みんながここに集まっているのはどんな使命からなのかというのが存在目的。それらを常に考え、更新し続けることで、組織は進化し続けることができる。

権力の分散が必要なのはなぜ?

嘉村さん 権力の分散という話が出ましたが、権力の分散は”何のために行うのか?”というのが大事なところなんです。

信岡さん どういうことですか?

嘉村さん ひとつには、 “目的を取り戻す”ということがあります。

今の組織は、目的が「最大化」と「生存」になってしまっている。どう成長するかということと、どう生き残るかっていうことが経営判断の軸になっているんですね。でも、進化型(ティール)では、自分たちが集まることで世の中に何を表現したいのだろうとか、自分たちの組織には何が求められているんだろうっていう組織としてのギフトに目を向けて、個々人も探求していき、組織としても探求していくことになります。

『ティール組織』の著者であるフレデリック・ラルー(FREDERIC LALOUX)さんは、

今は目的が手段として使われ過ぎだ。

と言っています。

フレデリック・ラルーさん ©Eiji Press, Inc.

嘉村さん 縁があってこのメンバーが集まったことで、世の中に対して何ができるんだろうっていうことを探求し続けている状態。それこそが存在目的だというんです。

信岡さん ブランディングのためとか、人を集めるためとか、メンバーをまとめるためとか、そうやって手段として目的を使うのではないということですね。

嘉村さん 権力を分散させるもうひとつの目的は、”人”というものを無視しないようにすることです。

達成型(オレンジ)までの組織では、権力が集中することで、その組織を構成する一人ひとりよりも組織のことが優先されてきました。

でも、本当はかけがえのない一人ひとりが集まっているのが組織ですよね。だから人を犠牲にするやり方は違うんじゃないのかと。人の上に人が立つということは本来おかしなことで、人によって権限が違うというのも変だし、人が自分の目的に沿って生きることを犠牲にしなければならない組織構造は間違っているんじゃないのかということなんです。

その流れを経て、多元型(グリーン)のパラダイムが登場したことによって、「多様性を認め合おう」という世界が現れました。今まで抑圧されてきた多様な価値観を表に出してもいいとされる社会です。

多様性を”認める”から”いかす”へ

信岡さん 「多様性」という言葉がよく聞かれるようになったのは、2010年前後でしょうか。

嘉村さん その頃、アメリカ西海岸を中心として、オバマ政権やEUもそうだと思うし、日本も含めて、世の中の潮流が、多様性を認め合おうという方向になりました。

そのときにやってしまったのが、あらゆる人に「これからは多様性を認め合う時代だ」と押しつけてしまったということです。

人間って自分とは違うものに脅威を感じるので、たとえば肌の色が違うとか目の色が違うとか、そういったことに本能的にちょっとだけ違和感を覚えたり、距離を置きたいと一瞬だけ思ったりしてしまうのは仕方のないことだと思うんです。大切なのは、その後にどう行動するかで。

それなのに、その一瞬湧き上がる小さな違和感を覚えることすらダメなんだとしてしまったんですね。教育現場でも、そう教え込もうとした。

本来なら、多様性への興味はそれぞれの内側からわき上がるものなのに、それを待たずに多様性を認め合うことを押しつけた結果、“他人の価値観を認める”という段階になかった人々に、ものすごいストレスをかけてしまったんじゃないかと思います。それがトランプ政権に熱狂する人たちを生むことにつながった可能性がある。

今は、その揺り戻しで、”多様性が化学反応を起こす時代”に入る手前にいるという感じがしています。

信岡さん ”多様性が化学反応を起こす”とは、どういうことですか?

嘉村さん お互いの多様性を認め合うところから一歩進んだ段階ですね。自分の多様性が、相手の中にある自分にないものと結びつくことで、新しいものが生まれるというイメージです。

多元的(グリーン)の段階での、「あなたの多様性を認めます」ということは、「私の多様性も認めてください」ということでもあります。そこで生まれたのが「あなたはあなた、私は私」という相対主義でした。でも、それでは何も生み出せなかったんです。

信岡さん 多様性を認め合った先に、多様な価値観でものごとをつくっていく難しさが現れたと。

嘉村さん 多元型(グリーン)まではお互いの段階を批判し合うんです。達成型(オレンジ)は多元型(グリーン)に対して「グリーンは仲良しクラブで、何もできないでしょ」って言うし、多元型(グリーン)は達成型(オレンジ)に対して「目的達成すれば何をやってもいいってわけじゃないよね」とか。順応型(アンバー)に対しては「ルールとプロセスにこだわりすぎだよ」とか。

嘉村さん それに対して、進化型(ティール)のパラダイムにいる人は、どの段階にも価値を認めて、尊敬し、自分にないものがどう噛み合っていくかという多様性の調和に対してベクトルが向いています。多様性を認める多元型(グリーン)の状態から、多様性がいかされるっていうところへ向かうのが、進化型(ティール)のチャレンジといえると思います。

今の教育は3周遅れ!?

嘉村さん 『ティール組織』の著者であるフレデリック・ラルーさんが影響を受けている人に、アメリカの教育的思想家のパーカー・パーマー(Parker.J.Palmer)という人がいます。

パーカー・パーマーさんによれば、教育学は従来のパラダイムのままだというんですね。

たとえば、生物学ではかつて世界を弱肉強食の生態ピラミッドとして捉えていたけれど、今では菌類も含めて全部がつながって影響を及ぼしあって循環しているという捉え方になっている。生物学はそうやって発展してきている。

教育学も「この複雑な世界の中で、一人ひとりが多様性を認め合いながら生きる力を育む」などと言ってはいても、実際にやっていることは、「一人でも生きていけるようにサバイバル能力をつけなさい」ということだと。

学校の授業は誰が見ても正しいと思える外側の事実を学ぶことに偏っているのではないかというんです。だから、”Who am I ?”を探究する機会を取り戻さなければならないというのがパーカー・パーマーさんの考えです。

本来、意見の違いは喜ぶべきもので、違う意見を言い合って、学べば学ぶほど人は絆が生まれるはずなのに、今の教育は学べば学ぶほど分断されて、同調の方にいっている。でも、本当は人と人との関わりの中に面白さがあるし、それこそが生きるということで、本来は共同体が大事なんだよっていうことを、パーカー・パーマーさんは30年以上前から言っています。

信岡さん 30年以上前からっていうのがすごい!

嘉村さん ティール組織の観点からいうと、現在の日本の教育は3周遅れな感じがします。今、イノベーションを起こせる人材をいかに育成するかというところを一生懸命やっている段階で、それは達成型(オレンジ)に向けた学びということになる。

信岡さん 進化型(ティール)どころか、多元型(グリーン)にまでも到達していないってことですね。進化型(ティール)は、まだまだ遠い……。

(後編につづく)