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讃岐うどんを止めるな! コロナショックに苦しむうどん店を応援する「SAVE THE UDON」は、どのように地域文化をつなぎとめるか?

香川県は「うどん県」。

2011年より香川県観光協会がそう宣言しているほど、讃岐うどんは県民に愛され、また観光PRの目玉としてなくてはならないものです。実際、全国でうどん店の店舗数堂々1位、うどん用小麦粉使用量と関連支出金額も第1位を誇っています。(出典元

しかし新型コロナウイルス流行による全国的な外出自粛要請は、香川の讃岐うどん店にも大きな影響を与えはじめました。そんななか、「愛するうどん店を救いたい!」とスタートした「SAVE THE UDON」プロジェクト。

小さな経済圏を守ることが、その土地の文化を守ることにつながる。そして、香川県民にとって、うどんは日常生活になくてはならないもの。うどん愛からはじまった主宰者・森田桂治さんと仲間たちの取り組みについてご紹介します。

森田桂治(もりた・けいじ)

森田桂治(もりた・けいじ)

1969年香川県生まれ。株式会社ゴーフィールド代表取締役会長・NPO法人アーキペラゴ 副理事長・一般社団かがわガイド協会理事・事務局長。
大学卒業後、日立製作所・外資系メーカーに勤務し活躍していたが、2000年に心機一転故郷に戻りウェブ制作会社を起業。会社経営のほか、里海づくり活動のNPOや香川の自然を楽しむガイドを束ねるガイド協会の社団法人を兼任し、地域課題を解決する活動を行っている。一週間に6.5日はうどんを食べるほどのうどん好きで、「SAVE THE UDON」プロジェクトの発起人となった。

仲間との連携で、猛スピードでプロジェクトが始動

「SAVE THE UDON」は、香川の多様な讃岐うどん店の味や歴史、文化の多様性を守ろうと立ち上がったプロジェクトです。具体的には、うどん券という各店の前売りチケットの代理販売を行うことで、その売上のうち、決済手数料、振込手数料をのぞいた全額をうどん店にお渡しする前払いチケットの販売を行っています。

約2週間でシステムをつくり上げた「SAVE THE UDON」ウェブサイト。「ウドンレンジャー」がかわいくPR。

森田さんがいつも行く大好きなうどん店の異変に気づいたのは、3月初旬でした。

香川県では、ほぼ毎日うどんを食べているおじさんがたくさんいて、そういう人たちが地元のうどん屋さんを支えてるんですが、僕も3月に入ってからお店のお客さんが明らかに減ってるなあというのがわかってたわけです。最初は直接「どう?」とは聞けなかったんですが、下旬にはうどん店の大将たちが「ちょっと売り上げが厳しい」と言いはじめて。

4月に入ると全国で緊急事態宣言が発令され、高松市も土日の外出自粛をインターネット上で告知。当時、テレビなどのマスメディアでは報道は少ない限定的な広報ではあったものの、やはりうどん店への客足はますます減ることに。

でも、うどん屋さんはウェブの告知はあまり見てないから、「なんでこんなに減ったんだろうと?」と。僕もかなり危機感が上がりました。それで、Twitterの自分のアカウントでつぶやいたんです。「うどん屋さんが500円×10枚チケットとかやってくれたら買うのになあ」と。

森田さんのつぶやきは、あくまでうどん屋さんが自主的にやってほしいという思いでのことでした。

そしたらそれがすごく拡散されて。知り合いの経営者とかが「手伝いますよ」みたいなことを言ってきて。ただ外野で応援するつもりの言葉だったんですが、盛り上がっちゃって、引くに引けずで、「じゃあちょっとやろうか」ということになりました。

そこからのプロジェクト始動のスピードは、経営者やNPOなどの組織を率いてきた森田さんの人脈とリーダーシップがなせる技。多くの人の知力が集結し、ありえないスピード感でプロジェクトがスタートしていったのです。

仲間のひとり、プロジェクトトップページでひと際目立つ存在のうどんキャラ、香川県のマスコットキャラクター「うどん脳」をつくったイラストレーターの岡谷敏明(オカピデザイン)さんや、うどんタクシーを運営している地元のバス会社のメンバーなど、うどん愛が強すぎる人たち(森田さん談)があっという間に集まり、骨子を固めていきました。

2日後にはチケットデザインが完成、実際に困っているうどん屋さんへの実地でのヒアリングも、うどん店に機械を卸している人を見つけ出し、その人に回ってもらうなど、さまざまな人的ネットワークを駆使して行われたそう。

同時に、うどん券を買ってくれる人にPRするためSNSでグループ「讃岐うどんを絶対守る会」を立ち上げると、あっという間に1000人くらいが参加。立ち上げとしては十分です。4月22日にサービスイン。プロジェクトのアイデアが出てからたった2週間でのことでした。

うどんタクシーとのコラボも実現。うどんタクシーで運転手さんの案内付きでうどん券を使った店巡りが可能 

プロジェクト協力者同士の距離感が近いのが地方のメリット

その実現スピードに、地方独特のメリットも感じたと森田さんは話します。

めちゃくちゃ協力者が近いんですよね。実は最初の準備段階でうどん券という金券を販売するには資金決済法という法律の規制があることがわかり、簡単ではなかった。

プロジェクトについてNHK香川放送局がサービス開始前に取材に来てくれたのですが、経済部の人から指摘が入りました。それで、近くに四国の財務局があるんですが、そこの若手官僚とつながって、彼に相談してみようということになったんです。

そしたらその彼、実は実家がうどん屋で、「ぜひやりましょう!」となって(笑) 財務官僚と知り合いになろうと思ったらすぐなれる。関係する人との距離が近い。それが地方のメリットじゃないかな。

その後、弁護士にも相談。金券となるうどん券の契約方法なども念入りにチェックし、サービスがスタートしました。

ところが4月末には、うどん店の状況が更に悪化していきます。

香川県の自粛要請で、普通の食堂とかは開いてるのに、うどん店のうち人気店は閉めてくださいという要請が出たんです。「うちの店が人気店かどうか」というのは誰もわからない。結局うどん屋さん全部が閉めることになってしまった。

そこでプロジェクトでは、組織の運営費をグッズ販売で賄う予定でしたが、手ぬぐいなどのグッズの値段を少し高くして売上の3割はうどん店に還元するように設計し直しました。2020年6月中旬の段階で、28店舗が参加し、支援者は延べ1000人を超える大きなプロジェクトとして運営が続いています。

「SAVE THE UDON」プロジェクトの支援スキーム

香川はなぜ「うどん県」になった? 小麦文化と製麺所の深い関係

ところで、香川県はどうしてうどん文化が盛んなのでしょうか? 個性的なうどん店はなぜたくさんあるのか? 森田さんにその疑問をぶつけてみました。

香川県というのは水不足な土地でお米が取れにくい。なので、昔から小麦の生産が盛んだったんです。農家で取れた小麦は粉にしないといけないんですが、昔は水車小屋を持っている製粉所が近所にあり、そこで粉にしてもらうために、小麦を製麺所に持っていくということをやっていました。

さらに森田さんは話を続けます。

農家は1年間に取れた小麦粉を製麺所に預けておくんです。で、製粉の代金は「うどんでもらう」んですね。製麺所は安く粉を仕入れて、農家は現物でうどんをもらうわけです。そういう文化、歴史がある。家の近くで小麦をとって近くの製麺所に行く。

そのうち製麺所で「もうめんどくさいからこれに入れて」と、持ってきたどんぶりにうどんを入れてもらって、そのまま自分で持ってきた醤油をかけてその場で食べる人が続出しはじめたんです。「じゃあ、椅子も置きましょうか、醤油も七味も」、さらに料理が上手な製麺所の奥さんが、「じゃあだしもつくっておきましょか」って。やがて飲食の許可も取って、うどん屋ができ上がっていったという背景があります。

森田さんは「諸説ありますが」と断りながら、香川とうどんの歴史を詳しく話してくださいました。ため池が多く、夏に渇水報道がされる水が不足しがちな土地なのは知識としてありましたが、そこから小麦栽培がはじまり、独自のうどん文化が育まれていたとは! 説明を聞くことで、よりうどん文化を身近に感じることができました。

三嶋製麺所の「冷たい醤油うどん」。卓上の味の素と醤油でいただきます。元々醤油うどんと言えばこれ。粗挽き唐辛子がたまらない!(森田さん談)

支援相手のお互いの顔とメッセージが見えることで喜びも増す

サービス開始から1ヶ月以上が経った現在、プロジェクトを立ち上げたことで、支援を受ける側、する側のコミュニケーションのあり方に変化がみえてきました。

うどん券のこだわりのひとつは、チケットの裏側にうどん店が実際にスタンプを押す場所をつくったことです。そのスタンプをお店の方がすごく丁寧に押すんですよ。券に手書きのメッセージを入れてるところすらありました。

また、うどん券購入の際に、支援者側からの応援メッセージを書く欄を設けたところ、予想よりはるかに多くの方が熱いメッセージを送ってくれたそう。メッセージは「SAVE THE UDON」 プロジェクトのページに掲載されており、誰でも読むことができるように工夫もされています。

プロジェクトサイトには現在200近い応援メッセージが掲載され、随時更新されています

支援を受けるうどん店の反応はどうだったのでしょうか?

お金が入ってくる喜びもありますが、「こんなに応援してくれてる人がたくさんいるのがわかったのがうれしい」とみなさんおっしゃいます。今回、店の常連さんの枠を超えて、チケットを買ってくれてるんですよね、県外の方なんてまさにそうです。状況が落ち着き始めた今でも売上が1〜3割くらいは落ちてるようですが、それでも全然がんばれるって言ってくれてますね。お互いメッセージが伝わってるな、というのがわかってよかったと思います。

お店の経営者と消費者であるお客との関係性は、その規模が大きくなればなるほど、お互い見えにくくなっているように思います。きちんとお互いの声が届く、動きが可視化される制度設計をしたことも、支援の輪が大きく広がる理由になったようにも思われます。

ウェブ上で支援を求めるうどん店も店主の顔を見せることでお互いの信頼感を高める工夫も

個人単位の小さな想いが、地方の文化をかたちづくっていく

森田さんが当初予想していたよりも、香川という一地域の枠を越え、支援が広がった背景には、個々のうどん店の支援より「讃岐うどんの文化を守りたい」という声が大きかったことが挙げられます。

ただ森田さん自身は、香川のうどん文化を守りたいという思いは強く持ちつつも、プロジェクト発足の動機は個人的な理由から生まれたものだと言います。

行列のできる人気うどん店で撮影に興じる森田さん

僕は、全部の讃岐うどん店を守りたいと思ってるわけではなくて。自分は10店舗くらいの贔屓の店がありますが、通常は2〜3店舗なんですね。行きつけの1店舗と、そこが休みのときのサブと、両方休みのときに備えた3店舗目くらいしかない。それをぐるぐるまわってる。その特定の人たちが毎日来て食べてるのが、香川のうどん屋なんです。

うどん屋はその常連の人たちに合わせた店づくりになっていて、特殊な進化をしてるんですね。だからひとつひとつのうどん店が全部違うんです。「このだし変わっとるなー」「なにこのやわらかいうどん」とか「この汚い感じがええよね」という個性的に進化している。僕らはそれを守りたい。

チェーン化した最大公約数的な味を追求した店ではなく、香川には多種多様な個性的なうどん店が残されていることが、観光資源としての讃岐うどん店めぐりにもつながっている。それぞれ個人の日常のふつうの一杯を守ることが、文化としての讃岐うどん全体を守ることにつながる、と森田さんは指摘します。

ふる里うどんの「季節限定へべすうどん」。宮崎の柑橘へべすは酢橘より優しい感じで爽やか、夏を感じる一杯。(森田さん談)

池内うどん店の「アベックあったかいん玉子」。うどん店だけど蕎麦が大人気。どちらも食べたい人は「アベック」。別々に違う食感を楽しみつつ、同時に口に入れると新しい世界が。(森田さん談)

活動が広まるにつれ、「これはうどん店を潰す」だとか、「借金を増やさせている」と反対意見が届くこともありました。でも、それについては情報発信しかないと思って。プロジェクトの内容や自分の考えを、包み隠さず全部、「こういうことになってます」と、毎日SNSなどに投稿をしました。とにかく論理的にも、義理人情的にも、後ろ指を刺されないようなことはやっていこう、と。

森田さんは、矢面に立って「これは俺がやるしかない」と最初に腹を括ったと言います。個人の熱い一途な情熱が、人を動かす原動力になり、結果的にものごとを大きく動かしていったのです。

取材はオンラインで編集部立会いのもと5月下旬に行いました

プロジェクト開始で知ったうどん店経営の今後の課題

うどん券を購入する賛同者だけでなく、このプロジェクトに関わるうどん店もまた、森田さんの想いに賛同し、乗ってきてくれたという部分もありそうです。

うどん店の中には、本当に困っているけれど、悩みをひとりで抱えてらっしゃる人も多い。経営者とは腹を割ってぶっちゃけで話をしていますね。商工会議所とか役所が音頭を取ってやるのとは温度感が違うかもしれません。

今の讃岐うどん業界は、経営者も世代交代が進んでいて、うどん券のプロジェクトに参加してくれてるお店もほとんど経営者が30〜40代です。老舗の後継者というのはそもそも少なくて、脱サラした元銀行員、公務員なんて人や移住者も多いんです。

森田さんが経営者や地元NPOの主宰者として地域に広く知られ、また幅広い視野を持っているからこそ、顧客と若手経営者の架け橋のような存在となり、プロジェクトが進行しているのでしょう。

ただ、プロジェクト参加店舗のうち1店舗は、残念ながらこの間に閉店を決めました。閉店の理由はやはり資金繰りの問題が占めるようです。

今って、実はお金自体は借りやすい状況になってるんです。事業継続を考えるなら資金を借りることもできるんですが、結局「借りないと継続できないけれど、融資を受けても返す自信がない」ということで辞められる。おじいちゃんおばあちゃんが二人で郊外でやってる創業40年、みたいなところは全然大丈夫なんですが。

経営的に苦しいのは、主に複数店舗を持ち従業員を多く抱えて展開しているところと、脱サラした若手経営者の店だそう。こうした店舗は比較的楽観的予想に基づく経営計画でスタートしていて、家賃以外の開業前資金の借り入れが多く、資金繰りが厳しくなりやすい。プロジェクトを進めるうちに、こうした讃岐うどん店業界全体の経営における財務状況の脆弱さという問題点も浮き彫りになってきました。

地域経済を守り、うどん券を受け取る人にも支援が届くように。
プロジェクトは次の段階へ

6月に入り、店舗の営業自粛要請はほぼ解消したものの、まだ観光客の往来などは少なく、今後の見通しは明るいとは言えない状況が続いています。「SAVE THE UDON」 PROJECTの動きは今後どうなっていくのでしょうか?

終わり方は難しいのですが、ただ第二波に備えてのプラットフォームとして、グッズ販売やチケット販売は、少なくとも向こう1年くらいは残しておこうと思ってます。1日の売上は0でもいいから、新しいうどん店に対しても新規受付をOKにしています。

うどん券自体も、代理者が資金を提供する第三者発行型は半年以上の有効期限が取れないため、うどん店自体が権限を持つ自家発行型とし、2年間有効のチケットにしたのもそのあらわれです。今後、長く展開していってもまだ使えるものになっていることで、息の長い活動になっていきそうです。

また、6月中旬からは、うどん店を守る取り組みだけでなく、うどん一杯も気軽に子供たちに食べさせられない「ひとり親支援」へとプロジェクトが発展しています。うどん券を購入&支援することにより、うどん店とひとり親家庭を同時に応援することが可能となります。

郷土料理を通じて、地域や社会課題が自分ごとになっていく。支援をする側にとっても、受ける側にとっても、強い発信力とともに、親しみやすさや共感のしやすさで大きく広がっていきそうです

「個性あふれるうどん店を守りたい」。そんな森田さんの小さな想いからスタートした「SAVE THE UDON」ですが、実は彼にはもうひとつ、このプロジェクトに取り組む大きなきっかけがありました。

実は昨年末に、自分にとって一番大事なお店が廃業したんです。じゃあそのとき、うどん券みたいなのがあったら救えたのか? というと全然救えない。うどん屋にとって大事な機械が5つのうち4つが壊れたからもうやめる、と。今回も参加のうち1店舗は救えなかったこともあり、うどんファンドのようなものをつくらなあかん、と思ったりもします。

「森田、それお前がやるんか?」ってなると、躊躇するところもあります。でも、地方の食文化を守る、となったらそこまで考えないとだめだというのは痛感しました。

まだ構想中だそうですが、うどん店の資金繰り支援など、金融、資本的、経営アドバイスも含めたファンド組織になりそうとのこと。

ちょうど森田さんが経営する会社が20周年を迎え、今後ご自身は第一線を退き、新たなチャレンジを始めようとしているのだとか。これから、このプロジェクトがどのように進化していくのか? 森田さんの挑戦がどう発展していくのか? 今後の展開にも目が離せません。

うどん店をハシゴするマラソン大会なども運営する森田さん。うどん県公式キャラクターうどん脳くんとともにこれからも走り抜けてください!

おまけ: 森田さんおすすめの讃岐うどん店と一押しメニューはこれだ!

讃岐うどんを愛してやまない森田さんに、おすすめうどん店とご贔屓メニューを教えていただきました。どれもユニークかつ美味しそうでたまりません! 文中に登場する3つのうどん店とともに、香川に行った際にはぜひ「うどん券」持参で食べに行ってみてください。


店名: 純手打うどん よしや
おすすめメニュー: 讃岐もち豚ぶっかけ
特徴: 肉の旨味とさっぱりレモン。残ったぶっかけ出汁ももちろんゴクゴク飲み干します。


店名: おうどん 瀬戸晴れ
おすすめメニュー: しょうゆうどん(そのまま)
特徴: 温でも冷でもなく、「そのまま」と注文します。すると人肌ぐらいの艶めかしい麺が到着。人類がこれまで味わったことのない感覚かも。