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全国に約849万戸。深刻化する空き家問題には、実はビジネスチャンスが潜んでいる? LIFULLの「空き家相談員育成講座」が応用編を始める理由。

「空き家問題」と言われて、ピンとくる方はあまりいないかもしれません。しかし、最新の住宅土地統計調査によると、全国にある空き家は約849万戸。さらに近い将来、3軒に1軒が空き家になるとも言われているのだそう!

それは日本人のほとんどすべてが、空き家に関わらざるを得なくなることを意味しています。たとえば、田舎で一人暮らしをしているおじいちゃんやおばあちゃんが老人ホームに入ったら、そこに空き家が生まれ、それを管理するのはあなたの両親やあなた自身になるかもしれないのです。

一方で、働き方や生き方の多様化によって、空き家が様々な形で活用される事例も多く見られるようになっています。移住者の住まいになったり、カフェや宿泊施設になったり、はたまたセカンドハウスになったり、そこに使える家があることで新たな営みが生まれる可能性があるのです。

そんな空き家問題の解決に取り組んでいるのが、株式会社LIFULLLIFULLが「LIFULL HOME’S空き家バンク」を活用しながら、空き家相談の担い手を育成する講座を開講したことは以前にお伝えしました。

この「空き家の相談員育成講座」は2019年5月に開始し、半年で100人以上の受講者が集まりました。その受講者の約7割は自治体関係者だったそうで、多くの自治体が空き家問題を抱え、その解決のために相談員の育成を必要としていることがうかがえます。

新たに基礎講座に加えて応用編となる「空き家の課題解決応用講座」が開講されることに。応用編を開講することでどのような人材が生まれ、空き家からどのような可能性が生まれようとしているのか、株式会社LIFULLの渡辺昌宏さんと、講師を務める森久純さんに話を聞きました。

(左)渡辺昌宏(わたなべ・まさひろ)
株式会社LIFULL 地方創生推進部
地方創生推進部にて空き家対策に関わり全国の自治体や地域を飛び回る日々。
(右)森久純(もり・ひさずみ)
日本空き家サポート運営会社 株式会社L&F代表取締役社長
野村證券株式会社にて法人/個人向けセールス、IPO支援業務に10年間従事。2003年より日本管理センター株式会社(東証一部上場)の創業期メンバーとして入社し、営業及び戦略企画担当取締役を歴任。2007年4月、株式会社L&Fを設立し代表取締役就任。管理レポートの動画配信を可能にする、クラウド型「空き家管理システム(特許取得)」を独自開発し、空き家の管理、売却等をトータルでサポートする全国ネットワーク「日本空き家サポート」事業の普及に力を注ぐ(空き家管理専門事業者として唯一、47都道府県対応)。空き家所有者、不動産事業者等向けの空き家に関するセミナー講演は、年100回を超える。
公認 不動産コンサルティングマスター/宅地建物取引士/家族信託コーディネーター

増え続ける空き家を活用できる人材を育てたい

まずは渡辺さんに今回、応用編を始めるに至った経緯をお話しいただきました。そもそもなぜ「空き家相談員」の育成が必要なのでしょうか。

渡辺さん 全国では急速に空き家が増えています。平成27年に「空き家対策の推進に関する特別措置法」が施行され、行政を中心とした空き家対策が進められるようになりました。一部の市町村では一定の効果が出てきていますが、人口減少の影響もあり、いまだに空き家の数は増え続けています。

平成30年度に行われた総務省・国土交通省による「空き家対策に関する実態調査」によると、空き家対策に取り組む市町村から「事務負担が大きい」「担当職員が足りない」などが空き家対策の課題として挙げられています。

今後空き家が増えていく中で、地方行政の効率化や、深刻な人材不足により、市町村担当職員による空き家対策には限界があると感じています。必要なのは、行政だけに頼らない地域の仕組みづくりとその継続です。

空き家対策に取り組むためには、所有者や地域特性に寄り添い、丁寧に空き家にまつわる相談を解きほぐすことが必要不可欠です。

育成講座は、全国に広がる空き家の発生防止、利活用を進めるための地域のコーディネーター役を目指すとともに地域に新しい価値を提供し、地域資源を有効活用して活躍する人材を育成することを目的としています。

基礎講座では、これまで「どこに相談していいかわからない」「どうしていいかわからない」状態で活用が促進できなかった空き家の課題を解決します。相談員は空き家の見える化からマッチングまでをONE STOPで対応し、地域に新たな価値をもたらすハブとして活躍する人材の育成とマニュアルの共有を行います。

新講座である「空き家の課題解決応用講座」では、「空き家の相談員」が取り扱う空き家にまつわる課題の解決方法の幅を広げるため、空き家の「適正管理」「家財整理」「サブリース」を行う3社と連携し、相談員向けに新たな相談対応知識とプロセスの習得を目的としています。

「空き家相談員育成講座」で相談員は空き家問題の相談に対応できる体制をつくることができるわけですが、問題の解決にはまだ必要なことがあるといいます。それは、空き家を活用することです。

渡辺さん 僕たちは、空き家の再生を軸として、日本に新しいライフスタイルを提案しているんです。

空き家バンク成約事例では、居住用としての農地つき空き家、趣味のためのアトリエ、共通の趣味をかなえるシェアハウスなど多様な活用が生まれています。自分好みにリフォームすることも可能だし、選び方によっては、自然豊かな環境で子育てをしたい、農業をしながら暮らしたいといった、理想の生き方をかなえることもできます。

このような体験をより多くの方にも感じていただきたい。そのためにも僕たちは、より自分に合った情報を取捨選択できるような仕組みの提供に加えて、活用可能な空き家をできる限り公開することが必要だと考えています。

一方で、相談員がスキルアップするための機会がまだまだ少ない。手探りで行っている人もいる。また、スキルやマニュアルがないことで物件の課題について対応できず未解決となることも多い。

そのため、相談員がより踏み込んで空き家の課題解決をすすめ、活用可能な空き家を増やすことで地域の活力につなげられるよう、応用編では森さんから「空き家の管理業務」についてのノウハウをうかがうほか、「メモリーズ」の横尾将臣さんから「空き家の片づけ・遺品整理」について、空き家コンシェルジュの有江正太さんからは「空き家のサブリース」についてお話していただきます。

空き家の相談に来る人の多くは「何をしたらいいかわからない」人たちだそう。相談員はその人たちにまず何をしたらいいのか助言をします。それで何をすればいいかわかったとしても、空き家が空き家である限りはまた問題が生じてしまいます。それを防ぐために何をすればいいのか、それを学ぶのが応用編なのです。

空き家管理がビジネスになることの意味

(写真提供: 株式会社LIFULL)

放置された空き家を増やさないためにまず必要なのは、空き家を適切に管理すること。空き家問題の解決のためには、空き家管理についての知識と空き家管理サービスとの連携が重要になりそうです。森さんが携わる空き家管理業務とはどのようなものなのでしょうか。

森さん 空き家には、新築で誰も住んだことないものあれば、築100年でも非常に状態がいいものもあり、本当にボロボロのものもあります。空き家管理業務とは、空き家を使える状態で維持する業務です。具体的には定期的に巡回して、郵便物を回収したり簡単な清掃を行ったり、建物や庭木の状態を確認したりします。

管理する空き家の多くは相続に絡んで生まれる空き家で、お客さまも相続人世代の50代後半が中心になります。

相続によって生じる空き家が放置状態にならないようにすることが、森さんの役割ということのようですが、そもそもなぜ空き家管理業務を始めたのでしょうか。

森さん 前職も不動産業界だったのですが、空き家は容易に売却ができる優良な物件でない限り管理するメリットがありませんでした。売れない空き家は所有者にとってメンテナンスコストがかかるだけのマイナスの資産であると同時に、周辺の住環境の悪化を招く負のインフラにもなってしまいます。なので、これから空き家が増えていく中で空き家を守らないと大変なことになるんじゃないかと思ったんです。

それで十数年前に、空き家管理業をやっているところを調べたらまったくないんです。ちょうど空き家が問題になってきた頃で、2010年には所沢市が「空き家条例」をつくって空き家を管理しろと言い始めました。その後「空き家対策特措法」をつくろうという話も出てきたので、今始めればメインプレイヤーになれると思いました。

主にビジネスの観点から空き家管理業を始めたわけですが、ビジネスとしてやってこそ、空き家管理に社会的意義が生まれてくるのだと森さんは言います。

森さん 従来の不動産業は売却時の手数料で利益を上げるビジネスモデルなので、高く売れる物件でなければ管理するモチベーションはあまり起きません。

空き家管理をビジネスにすることで実現できるのは、従来の不動産業では扱わなかったであろう空き家を管理することで、収益の多様化を図ることです。

資産価値のある空き家でも、様々な理由ですぐに売却できないケースは数多く存在します。そのような空き家もいずれは朽ち果て、資産価値がなくなってしまいます。そういった物件の資産価値維持のための空き家管理サービスは、将来の売却・リフォームなどのビジネスの仕入れにもつながっていくんです。

もちろん、当初から売却困難な空き家も増加の一途ですが、今はそういった空き家の新しい活用スキームも数多く生まれてきていて、そのような空き家所有者とつながりが持てる空き家管理サービスの提供は、社会的意義だけでなくビジネス面からも重要になってくると思うんです。

ただ、潜在顧客をつかまえるために管理業を安くやろうとする業者もいるんですが、そうすると続かないんです。途中で投げ出したら空き家の状態を維持するという社会的な意義は生まれません。だから、管理自体から利益を得られるビジネスにしなければいけないんです。

空き家管理業務をビジネスとして行う森さんが、空き家相談員の育成に関わろうという理由とはどのようなものなのでしょうか。

森さん うちのサービスでは、倒壊の危険があったり衛生上問題があったりする空き家は、それらの問題を解消していただかないと管理できません。

でも、空き家の所有者にはその判断はできませんよね。そこは自治体が総合診療窓口的な働きをして、これは遺品整理からやったほうがいいとか、空き家管理を入れたほうがいいとか、これは共有で揉めてるので司法書士に頼んだほうがいいなどハンドリングしていただけると、空き家の所有者が何をすればいいか判断できるようになります。

どこか1社だけが日本の空き家問題をすべて解決することは不可能です。なので力を合わせるためにも、自治体がハブになっていろいろな会社と連携して対応し続けることが必要なんです。今回の講座ではそのような相談員の方に空き家管理のことを知っていただきたいと思っています。

森さんは空き家管理業をビジネスとして継続させることで空き家問題の解決に貢献したいと考えているわけですが、自分たちの力だけでは空き家問題は解決できないというのがプレイヤーに共通する考えでもあるようです。

その中で空き家相談員は、どのような役割を担う必要があるのでしょうか。

渡辺さん 空き家の課題は多数存在します。

複雑な要因が重なり管理不全となった空き家や、活用可能にもかかわらず放置されている空き家に対して、予防・管理・売買・リフォーム・荷物整理などの対処方法を総合的に提案することで、所有者に安心感を与えると共に空き家利用希望者・空き家が存在する地域住民・市町村職員・各専門家と連携し空き家の課題解決をサポートする必要があります。

空き家の課題解決の幅を広げるために必要なマッチングや維持管理は相談員だけではできません。そこで、相談員と他の空き家ビジネスとの連携が重要になるといいます。

渡辺さん 「空き家の課題解決応用講座」では、講師になっていただく森さん、横尾さん、有江さんは、みなさまそれぞれの分野で空き家をビジネスにされている第一人者の方たちです。

そして、基礎講座を受講いただいたみなさまや、地域で空き家の課題解決に取り組んでいらっしゃる方々からも学び会える場がほしいという声を頂いています。育成講座がそのような場としても機能するといいと思っています。

地域地域で取り組んでいらっしゃる方々の課題や解決法を持ち寄っていただくことで、ノウハウの蓄積・共有、空き家の課題解決に取り組むみなさまのつながりから解決の幅が広がっていくと思うんです。

空き家が増え、自治体の負担が増していく中で、相談員を育成し相談業務を効率化することは重要だと思いますが、森さんの話を考え合わせると、相談員の業務自体がビジネスになったほうが継続性を持つように思うのですが、今回の講座を通してそのような見込みを立てているのでしょうか。

森さん 僕は自治体がフィーを払って相談員を雇うのがいいと思っています。空き家が増えていく中で自治体職員が片手間でやるのは無理ですし、専従の職員さんをつけられるならいいですが、それができないなら、中立なNPOなどに委託してやってもらえばいい。

相談員が仲介業になって管理業務や遺品整理の業者を紹介したら手数料をもらえるというようなビジネスモデルだと、どうしても手数料が動機になりすぎてうまくいかなくなったりする。自治体から給料をもらえるのであれば公平にきちんと仕事ができるし、相応の成果が出ると思うんです。

渡辺さん それは、素晴らしいアイデアだと思います。それに近いひとつの事例として、地域おこし協力隊の制度をうまく活用し専従の相談員として活躍され、僕たちとうまく連携しながら課題解決に取り組んでいる地域も少しずつ増えてきています。

空き家が増えていく中で、たとえば過疎化が進む地方などでは専従のプロフェッショナルな相談員の存在が必要だと言うことはわかります。しかし、地方都市を含めそこまで空き家問題が顕在化していない都会でも相談員が不可欠な状況にそんなにすぐなるのでしょうか?

渡辺さん 総務省が発表した「平成30年住宅土地・統計調査(概数集計)」によると、東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県の空き家数合計は現在でも約200万戸存在します。

森さん ここまで空き家が増えてしまったら、全国規模である一定レベルまで底上げをすることが重要です。それぞれのエリアで職人肌の方が各々やっているのも素晴らしいですが、それでは限界があるので、そういう方たちにも学んでもらいつつ事例も提供していただいて、これから空き家が増える地域でも対応できるようにしていかないといけないと思います。

渡辺さん 僕たちもそう考えています。スキルやマニュアルがないことで未解決となることをできる限り防ぎ、より踏み込んだサポートを行うために、全国の相談内容や解決方法をデータベース化し類似の相談に対する回答や窓口運営のノウハウを整理して共有していくプラットフォームを提供しています。これは解決策の一つになると考えています。

森さん あとは2020年以降、相続登記の義務化に向けた法改正などが進めば、今以上に色々な問題が白日のもとにさらされていきます。それで関係ないと思ってる人でも否が応でも関係者にさせられていく。

たとえば、相続した実家を売ろうとしたら三代前から相続登記をしてなくて、登記をするために承諾を得なければならない相続人が数十人もいて、その人たちの了承を得るだけで大変な手間もお金もかかる、とか。そこに巻き込まれる可能性だってあります。

さらに、今後、空き家対策特措法の見直しの議論が始まって、今後は罰則ができる可能性もあります。そうしたらみんな相談員さんに相談しないといけなくなる。ほとんどの人が空き家問題に関わらざるを得なくなります。

しかも完全な処方箋というのはないので、本当にみんなで課題解決に取り組まないと大変なことになる。恐ろしいですよ。

空き家というと宿泊施設や飲食店にリノベーションして地域の活性化につながる取り組みなどが多く目に付き、悪いことばかりではないという気がしていました。実際、そのような活用事例を渡辺さんも森さんも歓迎していて、取り組みとしては素晴らしいものだと思います。

特にインバウンド需要を取り組めるような事例は、人口が減り空き家を利用する人が国内で減っていく中で非常に有効な方法だといいます。相談員の仕事はそのような事例も含め、空き家を使って今あるニーズにどう答えていくかを考える仕事だとお二人の話を聞いて感じました。

空き家問題の深刻さはましていく一方ですが、それは新しいビジネスが生まれるチャンスでもあるということです。森さんが空き家管理ビジネスに可能性を見出したように、今は空き家相談員に可能性があるのかもしれない。それも金儲けという意味ではなく、社会課題を解決する仕事として。そんなことも思いました。

そして、どうせ空き家問題に巻き込まれるなら解決する側に回ったほうがポジティブに問題に向き合うことができるはず。それなら空き家相談員になるのも悪くないかもしれません。

今、空き家問題に取り組んでいる方はもちろん、これから空き家問題に巻き込まれてしまうかもしれないと危惧している方も、ぜひ空き家相談員としての知識を身に着けて、みんなで力をあわせて問題を解決していきましょう!

(写真: Shinichi Arakawa)
(トップ写真提供: 株式会社LIFULL)

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– INFORMATION –

空き家の適切な管理から、具体的な活用手法まで幅広くカバー
「空き家の課題解決応用講座」


【開講期間】
2020年2月20日(木)13:00~17:00
2020年2月21日(金)9:30~17:30
※全2日間のカリキュラムです。
※初日受講後に交流会を開催いたします。(任意参加)
※「空き家の相談員育成講座」の受講がなくてもご参加いただけます。

【開講場所】
株式会社LIFULL 本社8Fセミナールーム
東京都千代田区麹町1-4-4

【募集人数】
30名

【受講費用】
75,000円/人(税抜)

【申込締切】
2020年2月18日(火) 23:55

【申込み先】
https://local.lifull.jp/ikusei/madoguchi/ouyou/