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違和感に、クリエイティビティで対抗する。ゆがめたキャラクターのケーキでEUの著作権法に抗う「Copyright Proof Cakes」

上の部分が大人気キャラクター「ミニオン」の画像になっているケーキ。可愛らしいですね。

しかしみなさんは、こちらの画像の違和感にお気付きでしょうか? 実はよく見てみると、キャラクターがゆがんでいるのです!

大人気キャラクター「ミニオン」をゆがめたケーキ

このちょっと不思議なケーキをつくったのは、イタリアのグラフィックデザイナーであるFabian Mosele(以下、ファビアンさん)。特定のアルゴリズムで、ケーキの上の画像を加工することにより、著作権侵害に当たらないのです。

実は今年(2019年)の3月にEUでは、YouTubeやFacebookなどのプラットフォームにおいて、著作権で保護された素材の無許可使用の規制を強化する、著作権法の改正案が可決されました。これに伴い、2021年までに各国で独自の法律をつくり、実際に規制するまでのシステムなどを整備する必要が出ています。

この法整備により、著作権を持っているクリエイターやアーティストは公正な報酬を受け取ることができると歓迎していますが、一方ユーザーが発信するコンテンツに対して厳しい状況をつくるとして、批判したり不安を訴えたりする人も。

たとえば、子どもの誕生日にキャラクターをモチーフにしたケーキを贈ったとき、その使用許可がなければ写真や動画をインターネット上に投稿することができなくなってのです。

この状況に対して、ファビアンさんはユニークに、スマートにアンチテーゼを唱えるプロジェクトを始めました。その名も「Copyright Proof Cakes(著作権検査済みのケーキ)」

ファビアンさんは、ウェブ上で最も高度な著作権を検出するためのアルゴリズムの1つ、「Content ID」を分析しました。これはYouTubeによって構築されたアルゴリズムで、著作権所有者がアップロードした動画や作品をデータベースとして蓄積し、新しく動画がアップロードされた際に、データベースにある動画と比較することで、著作権を侵害していないかチェックできる仕組みです。

仮に、著作権の侵害があった場合、YouTubeはその動画にフラッグを立て、著作権所有者に、動画のアップロードをブロックするかどうか? など選択肢を提示します。

しかし、ここで最も問題となっていることがあります。それが「Content ID」の不正確性です。ファビアンさんは、米国ビジネス誌の「FAST COMPANY」にメールで次のように伝えました。

このアルゴリズム(Content ID)は、著作権を侵害していない動画に誤ってフラッグを立ててしまうことがあり、YouTubeコミュニティから批判されています。彼らの収入を奪い、チャンネルをブロックすることもあります。この状況は、いかにContent IDが正確な判断ができていないかを示しているのです。

そこでファビアンさんは、アニメのキャラクターをゆがめたデザインのバースデーケーキを作成しました。どれも「Content ID」が認識できないくらい十分にゆがめてあります。しかし、おもしろいことに、画像がかなり抽象的であっても、まだ私たち人間には何のキャラクターか識別することができるのです!

今回ファビアンさんが行ったプロジェクトは、「Content ID」の不正確性に対して単に批判するのではなく、その不正確性を活かしてユニークな作品を生み出しました。

ファビアンさんは、こう話します。

これは、不確実性に対する解決策ではなく、新たな常識を受け入れることや適応することに対するアイデアです。私たちインターネット中の人々は、様々な手法で適応し、著作権を侵害しない限界を理解しようとしますが、この急進的な改正から逃れることはできないのです。

ディズニーキャラクター「カーズ」の画像をゆがめたケーキ

私たちは、何か問題が発生した際、SNSを通して批判したり、抗議を唱えたくなるかもしれません。でも、攻撃性の高い批判や抗議は、応援や参加がしづらい面がありますよね。

そんななかで「Copyright Proof Cakes」が気づかせてくれたのは、「その違和感や課題をどうすれば面白く訴えられるのか?」という視点。みなさんも、私たちのまちや社会の課題をユニークな目線で観察し、面白くすることを考えてみませんか? 一緒に楽しんで、気が付いたら応援してくれている人が増えるかもしれません。

[via FAST COMPANY, Fabian Mosele]

(Text: 田中絃正)