\1500部 突破/「beの肩書き」本、好評販売中!

greenz people ロゴ

社会とではなく、自然と同期する。針が一つだけの不便な時計アプリ「Circa Solar」が気づかせてくれること。

最近、忙しすぎて、時計ばっかり見てしまっている方はいませんか?

「あと5分で電車が行ってしまう!」
「9時からの打ち合わせ間に合わない!!」

私も朝にあわてて駅まで走る、なんてことがしばしばあります。

時計に「標準時」が世界的に導入されてから、今年で135年(日本時計協会)。私たちは、当たり前のように標準化された時間と生きています。

そんな中、イギリスを拠点とするデザイナー、Ted Hunt(以下、テッドさん)がちょっと変わった時計アプリを開発しました。まずは、こちらのディスプレイを見てみてください!

時計アプリ「Circa Solar」

よく見ると、針が一つだけ。そして、数字表記もありません! 「Circa Solar(サーカ・ソーラー)」と呼ばれるこの新しい時計は、なんと従来の12時間表記のディスプレイでの時刻を教えてくれないのです。

ただこの時計は、自然のリズムを教えてくれます。「Circa Solar」は、昼間と夜間を表す時計。季節と着用者の地理的位置によって変わる背景と、針は太陽が出ている時間に対して、自分が今どのあたりにいるのかを指し示します。

左:太陽が出ている時間を表す。 右:季節によって変動する背景。白は昼間、黒は夜間を表す。

つまり、正確な時間を表すことはできません。なので、たとえば「9時の会議まであと何分あるか?」といったことは、このアプリではわからないのです。「そんな時計、不便だなぁ」と思われたかもしれません。

私たちが使っている時計って本当に便利ですよね。時計は、“時刻を指示する計時装置”(日本時計協会)とされ、各地の標準時を指し示します。また、「協定世界時」と呼ばれる時系列で国際的に同調された時刻があるため、日本にいてもイギリスの時刻がわかります。

ではなぜ、テッドさんはこのなんとも不思議な、正確な時刻が分からない時計アプリを開発したのでしょうか? そこには、「サーカディアンリズム(概日リズム)」や「体内時計」が大きく関係します。

「約(サーカ)1日(ディアン)」という言葉の通り、私たちの体内には約24時間周期の生体リズムがあり、細胞やホルモンなど多くの生命活動に影響します。これはなにも人間だけのものではなく、動物や植物、菌類などほぼ全ての生物の中にも同様に約24時間周期の生体リズムがあります。

むしろ、私たち以外のほぼ全ての生物は「標準時」ではなくこの「サーカディアンリズム(概日リズム)」で生活をしているのです!

イギリスでハウスボート(居住できるボート)に暮らすのテッドさんは、“人間によって標準化された時間”で生活をしていることに疑問を持ちました。

「何時ですか?」という質問は、時間は絶対的であり常に単一の正しい答えが存在するという前提があります。これは、非常に人間中心の時間観であるだけなく、西洋化され、工業化された考え方でもあります。

とテッドさんは話します。

日本に「標準時」が導入されたのは1888年、今から131年前(日本時計協会)。それまでは独自の時計を使用していましたが、それでも私たち日本人も太陽、つまり日の出や日の入りを基準に生活してきました。

テッドさんはこう続けます。

多くの文化は、グリニッジの時計と国際タイムゾーンによって決定されるものとは異なる時間意識を持っています。時間を問い直すことで、私たちは「時間」という概念の中に埋め込まれた、多様で毒性の強い妄想を認識し始めることができます。

確かに私たちは日々時間に追われ、心苦しい生活を強いられているのかもしれません。それを人間中心主義的な「毒性の強い妄想」と彼は表現します。

私たちの生活の中に昼夜サイクルとサーカディアンリズムを改めて採用することで、自然の一部であると考え始めることができるかもしれない。

このようにテッドさんは考えました。

そこで、本来生き物としてのリズムである「サーカディアンリズム」を時計としてわかりやすく視覚化。人間も自然の一部だということを認識し、生き物として大切なリズムを日常にもたらしてくれるものをつくろうという思いから「Circa Solar」を開発しました。

私たちは確かに「標準化された時間」という人間にとって都合の良い指標から、たくさんの恵みを受けてきました。しかし一方で、時間に追われしんどくなってしまうこともたくさんあります。

今回テッドさんが開発した「Circa Solar」は、そんな状況から解き放ち、もう一度、自然と共に生きる選択肢を提案してくれます。

現代において、時計なしで生活するのは難しいかもしれません。ただ、休日を「サーカディアンリズム」で太陽と一緒に過ごしてみると、何か新しい発見があるかもしれませんね。

[Via FASTCOMPANY,KICKSTARTER,Core77

(Text: 田中絃正)