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目の前の勝利より、”子どもの主体性”。昔ながらの少年野球をアップデートし続ける「NPO法人BBフューチャー」の指導法とは?

学校で人気の部活動と言えば、テニス、吹奏楽、サッカー……。
かつて、ここに続いていたのが、野球。家に帰れば、父親がお気に入りの野球チームのテレビ中継を見ていて。そんな風景が当たり前と呼べるほど、野球は日本の国民的スポーツでした。

しかし近ごろは、部活動の野球人気は下降線、お茶の間のテレビ中継も地上波で見ることは少なくなりました。

子どもたちの野球ばなれが叫ばれる中でも、年々部員数が増えている硬式野球チームがあります。そのひとつが、大阪・堺市にある「堺ビッグボーイズ」。

堺ビッグボーイズはなぜ、子どもたちや保護者に支持されているのでしょうか? その背景には、昔ながらの指導法から脱却し、子どもたちの自主性を育む新しいスポーツ教育のあり方のヒントがありました。

今回、堺ビッグボーイズを運営する「NPO法人BBフューチャー(以下、BBフューチャー)」の理事長、阪長友仁さんにお伺いしました。

阪長友仁(さかなが・ともひと)
NPO法人BBフューチャー理事長。大阪府交野市出身。新潟明訓高校に進学し、1999年の夏、甲子園に出場。その後、立教大学に進み、4年次には野球部主将を務めた。大学卒業後、大手旅行代理店に就職するが2年で退社。単身海外へ渡り、スリランカやタイのナショナルチームで指導。アフリカ・ガーナでは代表監督を務め、北京五輪予選に出場。2007年、ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100人」に選出。2014年からNPO法人BBフューチャーに参画し、少年野球の指導に当たるほか、日本各地でセミナー活動や技術指導などを行う。

日本の少年野球界変革を試みる、BBフューチャー

「堺ビッグボーイズ」は、1983年創立。大阪・堺市の少年野球チームとして産声を上げ、「硬式野球を通じて夢いっぱいの子どもたちを“強く・大きく・たくましい”ビッグボーイに育てる」をモットーに、少年野球の指導を行うほか、野球指導者へ向けた技術指導法に関する講演なども行なっています。

堺ビッグボーイズには、中学部と小学部があり、どちらもボーイズリーグ(日本少年野球連盟)に加盟、公式戦に出場しています。創部37年の歴史の中で、日本一に輝くなど輝かしい実績を残し、横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智選手(堺ビッグボーイズ22期生)や、埼玉西武ライオンズの森友哉選手(同26期生)をはじめとするプロ野球選手や日本代表選手を輩出してきました。

OBである横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智選手との交流もあるそうです。

このように長い歴史と実績を誇る堺ビッグボーイズは、2012年、チーム活動を支援するNPO法人BBフューチャーを設立。“子どもたちの未来・将来にフォーカスした指導”をすることを掲げ、スポーツ教育のあり方を変えるべく活動をはじめました。その背景には、どのような考えがあったのでしょうか?

もともと堺ビッグボーイズは、勝利至上主義。全国にある多くの野球チームと同様に、指導者の方針が絶対的である昔ながらのスパルタ指導をし、ボーイズリーグの日本一に輝いたこともあります。

しかし、昭和から平成、そして令和へと移る中で、スポーツを取り巻く環境も大きく変化してきました。これからは時代にマッチした指導をしなければならないと、2009年頃から方針を大きく変えることにしました。

日本中学校体育連盟によると、軟式野球部員の生徒数は2018年は166,800人。2008年には305,958人だったことから10年で約45%減少しています。(出典: 平成30年度、20年度 加盟校数等調査の集計)少子化により子どもの人口が減るなか、部活動で野球を選ぶ子どもが大幅に減少していることがうかがえます。一方で硬式少年野球チームの競技人口は微減〜横ばい程度と言われていますが、子どもの野球人口全体としては減少傾向にあるのが現状です。

その大きな要因は、「昭和から続く指導体制にある」と阪長さんは指摘。その一つが、昔ながらの“勝利至上主義”だそう。

勝利を求めるあまり、過度な練習からケガをする選手もいます。でも、本当にそれでいいのでしょうか。野球も勉強も、人生を豊かに生きる手段の一つに過ぎません。私たち指導者は、目の前の結果だけではなく子どもたちの将来も見据えて、指導する必要があるのではないでしょうか。

2019年1月には、堺ビッグボーイズ出身で、現在横浜DeNAベイスターズで活躍する筒香嘉智選手が、「選手の将来的な活躍よりも今を勝つという、目の前の試合結果を重視した勝利至上主義に問題がある」と警鐘を鳴らし、話題になりました。

そんな“勝利至上主義”と並び、少年野球界の課題となっているのが、ボランティアでの指導体制だといいます。

昔から少年野球は、ボランティア中心に運営されてきました。そのため、本当は時代に合わせて指導方法をアップデートするべきところ、ボランティアスタッフが故、自分の少年時代を踏襲した指導になりがちです。

一方、水泳教室や体操教室の指導者は、みなさん仕事としてお金を稼ぎながら指導していますよね。野球も環境を変えないと、この先子どもたちや親御さんが安心して取り組めなくなってしまう。そのような危機感から、本業として野球を指導する環境をつくろうと、堺ビッグボーイズを支えるNPO法人BBフューチャーをつくりました。

子どもたちの自主性を育む指導スタイル

現在、堺ビッグボーイズには多くの指導者が関わっています。そのうちBBフューチャーとして、専属スタッフ4名を雇用。スタッフが本業として野球を指導できる環境を整えました。また朝から夜までに及ぶ長時間練習を見直し、土日祝の8:20〜14:30へ変更。平日の練習は自由参加とし、保護者の負担を減らすためにお茶当番も廃止し、子どもたちが通いやすい環境を整備しています。

さらに、主催する野球大会「フューチャーズリーグ」では、トーナメント式が主流の日本の少年野球では珍しいリーグ戦を採用。目の前の結果ではなく、選手の“将来の活躍”を第一に考え、投球数の制限や変化球の制限もルールとし、投球過多による怪我の予防を考慮したリーグ運営をしています。

こうしたさまざまな施策の根底にあるのは、「子どもたちが野球を心から楽しみ、将来世界に羽ばたく人材になってほしい」という思いです。

最大限勝利を目指しますが、勝利のために子どもたちの主体性をなくす選択肢はありません。子どもたちの怪我の予防や、未来をつぶさない投球数を考えた上で、勝利を目指します。

グランドに貼られた、チームの方針。

子どもたちの主体性を育むため、BBフューチャーでは、練習メニューを見える化しています。

練習時間を削減した分、効率よく集中した練習をしています。メニューは学年毎に貼り出しているので、子どもたちも何の練習をどのくらいの時間するのか一目でわかります。

また、練習メニューによっては、参加するかどうかを子どもたち自身が選びます。取材に訪れた日も、全体練習で行う高度な連携プレーに混じらず、「もっと基礎的な練習をしたい」と個別メニューを希望する選手が2名いました。

基礎的な練習が必要な選手にとっては、高度な連携プレーに混ざるよりも、個別に基礎練習をした方が、双方にとってメリットがあります。だから毎回、練習前に子どもたちに聞くんです。「グランドで練習したい人だけ入って。もし他の練習をしたいなら、僕以外にもコーチはいるので、遠慮なくて言ってほしい」と。

BBフューチャーでは、指導者が練習やメニューを強要したり細かい指示を出したりするのではなく、選手自身が選択することで主体性を育んでいます。

価値観を変えた、海外での出会い

練習は真剣そのもの。しかし選手も指導者も、ときに笑顔を見せながらメリハリをきかせて野球と向き合う姿が印象的でした。

阪長さんがBBフューチャーに参画したのは、2014年のこと。以前は、海外で野球を教えていました。

海外に行くまで、僕はずっと「日本の野球はすばらしくて、変える必要はない。全て子どもたちのためになるんだ」と思っていました。だから、「海外に日本の野球を教えるぞ」と張り切って渡航したんです。

まず野球がメジャーではない国を訪れたのですが、子どもたちは決して上手いわけではないのに、日本の子どもたち以上に楽しそうに野球をしていて。その時ふと、「なんで僕たちはあんなに苦しい顔をして野球をしていたんだろう……」と思ったんですよね。

それから阪長さんは、「なぜ好きではじめた野球をすることが苦しくなったのか」、「誰のために野球をやるのか」など自問自答していったそう。

スポーツである以上、もちろん勝利は目指します。でも、勝利を目指すことに注力しすぎて、日本は子どものための野球ではなくて、指導者のための野球になってしまっているのではないかと気づかされました。

その後も、阪長さんはドミニカ共和国やベネズエラ、ガーナ、グアテマラなどさまざまな国を訪れ、海外の野球指導法を調査・研究していきました。

日本は、目の前の野球大会の結果にすごくこだわります。しかし、ラテンアメリカのような野球の強豪国に行くと、今年や来年の試合結果をまったく気にしていません。子どもたちは「25歳になったとき、どんなメジャーリーガーになるか」を考えながら練習していますし、指導者もそれに合わせた指導をしています。

一方、阪長さんは、日本の野球の良さにも気づいたそう。

日本は道具を大切にしたりグラウンドを綺麗にしたり、そうした整理整頓や掃除をきちんとしています。また、たとえ自分がベンチに入れなかったり試合に出られなかったりしても、周りのメンバーを応援しようという姿勢がありますよね。

阪長さんは基本的に選手を怒ることはないそう。できたことを褒めながら選手の自主性を育んでいます。

2014年、阪長さんはBBフューチャーに参画すると、国際事業部を設立。ラテンアメリカに滞在して学んだ、子どもたちの可能性を最大限に引き出す選手育成システムや指導方法を全国の指導者に伝えるため、積極的に講演活動を行ってきました。

日本の野球の良いところは残しつつ、そこに海外の良いところを足していく必要があるかなと思い、僕は日本に戻ってきました。技術的な指導や選手と監督の関係性などは見直しながら、楽しく野球をつづけられる環境をつくっていきたいです。

「BBフューチャーから日本の少年野球界を変えたい」。今、そんな阪長さんの考えに共感する指導者やチームは、着実に日本全国に増えつつあります。

野球をすることで、社会を生きぬく力を身につけてほしい

どこまでも子どもたちの主体性を大切にする阪長さん。どのような希望をもって、子どもたちに接しているのでしょうか。

もちろん野球はうまくなってほしいです。その上で、好きな野球を通じて、社会のさまざまなことに立ち向かう力を養ってほしいです。

この先、人前で話さないといけないとき、緊張するけどやらないといけないときが訪れるでしょう。その時、勇気を持って発言できるようになってくれたら。また、誰かのために何かをしたい気持ちを持ったり、みんなが困っているときに必要とされる行動をしたりできる人に育ってくれたら嬉しいですね。

野球の現役は最高でも40歳くらいまで。でも、人生はずっと続きますから。

メニューボードを見て、次の練習内容や目的を確認する阪長さんと選手のみなさん

最後に、「阪長さんにとって良い指導者とは?」と聞いてみました。

「僕は知らないことがたくさんあるから、勉強し続けよう」と考えて、変化していける人が良い指導者だと思います。指導にゴールはないので、完璧な指導者はいません。だから、「自分は指導者として、わかっている、知っている」と思っている時点で指導者失格です。

これは指導者だけではなく、親と子、上司と部下、学校の先生と生徒の関係にも当てはまります。わかってないことをわかること。わかっていると思い込まない心を持ち続けること、学び続ける姿勢が大切なのではないでしょうか。

学校の部活動や地元のスポーツチームなど、子どもたちがスポーツに関わる機会は身近にあります。競技レベルに違いはあっても、指導者として、目の前の勝利をとるか選手の将来をとるか、難しい選択を迫られる場面もあるでしょう。そんな時、私たち大人は健全な選択をできるでしょうか。

子どもたちの将来を育み、日本のスポーツ教育をより良いものにしていくために、指導者のみならず、スポーツをする人も、応援する人も、子どもを持つ親も、皆がそれぞれの立場で考えていきたいテーマだと思いました。