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映画『おだやかな革命』の広がりを受けて、出演者らと交流するイベント「おだやかな革命サミット」を開催! 渡辺智史監督に聞く、暮らしの選択というムーブメントとは

2019年9月29日(日)、イベント「おだやかな革命サミット」が東京で開催されます。このイベントは、昨年公開されたドキュメンタリー映画『おだやかな革命』に出演する地域づくりの先駆者らを招いて、交流の場をつくる企画です。現在、イベント実現のためのクラウドファンディングもはじまりました。

映画『おだやかな革命』では、福島第一原発事故の影響や、人口減少、高齢化などに悩む日本各地の農山村地域を舞台に、地域資源を活かして活性化に取り組む人々の姿がいきいきと描かれています。映画に登場する人々の生き方、暮らし方は、閉塞状況にあるこの日本社会に生きるわたしたちに、「本当の豊かさや幸せとは何か」を問いかけます。

映画は公開から約1年半の間に、全国40の劇場と約200ヶ所以上の自主上映会を通じて、およそ2万人近くの人々が視聴しました。映画に触発された人々から「自分も何か行動したい」という声も数多く聞こえています。そこで渡辺監督は、映画に出演する地域の実践者と直接交流できるイベントとして「おだやかな革命サミット」を企画しました。

映画は実際どのような反響があったのか?「おだやかな革命サミット」では何を実現しようとしているのか? 渡辺監督にお話を聞きました。

渡辺智史監督(©いでは堂)

映画からソーシャルアクションへ

ーーイベント「おだやかな革命サミット」について教えて下さい。

渡辺監督 ありがたいことに、映画『おだやかな革命』はこれまで約2万人ほどの方に観ていただきました。映画を観た方たちから「自分も何かしたい」というコメントをもらうことがとても多く、改めてそういうスイッチを入れる映画なのかなと思っています。

一方で映画を観たあとに「何かをチャレンジしたいけど、どうしたらいいかわからない」「先に進めずに悩んでいる」という声もいただきます。

そんな方たちが、映画の出演者や映画のコンセプトにつながる活動をされている先輩たち、いわば“おだやかな革命家”と呼べるような人たちと出会って交流できる機会をつくれば、化学変化が起きるんじゃないかと思いました。それが「おだやかな革命サミット」です。映画を出発点としたソーシャルアクションと呼べるかもしれません。

公開初日の映画上映とマルシェには、多くの人が詰めかけた(ポレポレ東中野にて©いでは堂)

ーー映画監督である渡辺さんが、なぜ”ソーシャルアクション”を意識するようになったのでしょうか?

渡辺監督 在来作物のタネをテーマにした前作『よみがえりのレシピ』をつくったとき、映画を観た人たちがそれぞれの地域で在来作物についての議論を盛り上げてくれました。その中から、在来作物の研究会を立ち上げてくれた地域も複数ありますし、伝統野菜を推進する部署をつくってくれた自治体もあります。

映画『よみがえりのレシピ」(渡辺智史監督)

渡辺監督 また、静岡には在来作物がほとんどないといわれていたのですが、調査をしたら中山間地域からいくつもの品種が見つかって、いまでは静岡市内の飲食店でも使われるようになりました。まさに『よみがえりのレシピ』というタイトルどおりに、在来作物の価値が見直されたのです。映画を観ただけで終わるのではなく、観客自身が自分ごととして行動してくれたことで、このような変化が起こりました。

通常の映画の興行では、劇場で何人集客したとか、どんな賞を受賞したかといった部分で評価されます。そういった評価とはまったく違う、映画を通じて自分では想像もしなかった変化が現実社会に生まれてきました。ドキュメンタリーの面白さってここにあるんだ、という手応えを感じたんです。

そのため『おだやかな革命』も製作前から、ソーシャルアクションが生まれるような映画にしたいという思いでやってきました。それが今回の「おだやかな革命サミット」につながっています。

藤沢の伝統野菜、藤沢カブ(©いでは堂)

ーーイベント当日は、どのようなことが行われ、どんなことが達成されるのでしょうか?

渡辺監督 本当の豊かさとはなにか? どんなことをやったらいいのか? ということを、イベントを通じて深めたり、映画に出てき方たちと話し合う機会を持ちます。

午前中は映画『おだやかな革命』を上映して僕のトークも行うので、まだ映画を観てないという人や、もう一度観たいという人にぜひ来てもらたいたいです。午後は、多彩なゲストの皆さんを交えたパネルディスカッションを行います。映画のその後の展開や、映画で出てきたテーマを深堀りしたいと考えています。

ゲストには、映画にも登場した地域の実践者である佐藤彌右衛門(やうえもん)さん(会津電力)、平野彰秀さん(岐阜県石徹白(いとしろ)地区在住・地域再生機構)、平野馨生里(かおり)さん(石徹白洋品店)、井筒耕平さん(sonraku)、半澤彰浩さん(生活クラブエナジー)に加えて、文化人類学者の辻信一さんや、パタゴニアで環境プログラムを担当されてきた篠健司さん、SDGsなどの動きに詳しいダイベストメントコミュニケーターの松尾沙織さんらもお迎えします。

映画にも登場する辻信一さん (©いでは堂)

渡辺監督 また、これから何か始めようとしている人たちが、それぞれの地域で抱えている課題について悩みを持ち寄り、みんなで一緒に考える「交流相談会」という時間もつくる予定です。夜の交流パーティでは、オーガニックレストランのパイオニアとして知られるカフェスローさんに料理を提供してもらいながら、交流を深めてもらいます。

さらに、映画にも登場した石徹白洋品店や生活クラブなどのブースも出店してもらう予定です。そのような時間を通して、参加してくださった人それぞれの「おだやかな革命」が深まったり、新たな“おだやかな革命家”をめざす人たちが現れてくれたらと期待しています。

「おだやかな革命サミット」当日の詳しいプログラムこちらからご覧ください

ーーイベント開催のためにクラウドファンディングを行う理由は何でしょうか?

渡辺監督 今回のイベントの目的は、より多くの人にこのムーブメントに参加してもらうことです。イベントに参加する人だけでなく、クラウドファンディングを通してより多くの人に働きかけること自体が、アクションを広げることにつながると考えています。

またサミットに参加できない、あるいはまだ映画を観ていないという方も参加できるように、映画本編のオンライン視聴(10日間限定)と、当日のサミットの詳細の様子がわかる記録映像もリターン特典となっています。全国から集った人たちが学び合う場の追体験をしてもらうことができます。

石徹白洋品店の皆さん(撮影:野田雅也)

渡辺監督 さらに、現在『おだやかな革命のその後』という映像も特別編集しています。これは、映画にも出てくる地域のひとつである岐阜県郡上市の石徹白地域のその後を追った短編フィルムです。その映像制作の費用も、クラウドファンディングから充てる予定です。

イベントを開催して終わりということではなく、直接参加する方たちが語り合う中でヒントを得て、それぞれの地域に戻ったとき実践につなげてもらうことを期待しています。

なお今回は、いろいろな人に参加してもらいやすいように、東京の都心で開催します。そのため諸経費をチケット代のみでまかなおうとすると、高額になってしまいます。チケット代をなるべく抑えるためにも、クラウドファンディングで寄付を募らせていただいています。

地域資源を活かしたビジネスで循環型の経済を

ーー映画『おだやかな革命』を製作した理由は何でしょうか?

渡辺監督 『おだやかな革命』の構想を始めたのは、いまから5〜6年ほど前のことです。当時は、前作『よみがえりのレシピ』の劇場公開が一段落して、自主上映をしているときでした。

食べ物の次にどんなテーマを描くべきか?そう考えていたときに、東日本大震災と福島第一原発事故をきっかけに、「本当の豊かさとは何か」を求めて行動している人たちの姿が気になりました。

具体的には、地域の資源を使って自ら事業を起こし、地域社会を巻き込んで変化を生み出す取り組みです。その代表例として、映画では自然エネルギー事業に挑む人たちを取り上げています。ただ単に、エネルギーの話を描きたかったわけではありません。

岡山県西粟倉村(にしあわくらそん)での森林を活かす薪ボイラー事業(©いでは堂)

渡辺監督 僕はこれまでの映画製作で、ある問題意識を抱えてきました。それは、高度経済成長からバブル経済に至る時代の中、豊かさの尺度が「お金」だけになってしまったのではないかという意識です。かつては伝統的な暮らしや文化の中に、お金だけではない価値観がありました。そのような時代をただ懐かしむのではなく、現代にあった形で自分たちの生活に取り戻していくことができないかと考えていたのです。

前作『よみがえりのレシピ」の撮影を通じて、そのような課題へのひとつの答えを感じることができました。それは顔の見える関係性の中で、地域資源を使ったビジネスを起こしていくことでした。そこでは、お金だけでなく志も含めて地域の中で循環させ、手触りのある経済が生まれていました。『おだやかな革命』では、そのあたりをさらに深めていきたいという思いがありました。

ーー映画のテーマのひとつ「自然エネルギーとまちづくり」とはどのようにして出会ったのでしょうか?

渡辺監督 2013年に、全国で地域の自然エネルギープロジェクトを手がけたり、これから手がけようとする人たちが集まるシンポジウムにたまたま参加したことがきっかけです。食べ物と違って、エネルギーはハードルが高いと考えていたので、当時はまさかそんなテーマで映画を撮ろうなんて思いもしませんでした。

しかし、全国から集まった人たちの人柄やお話がとても魅力的で、どんどん引き込まれていきました。登壇した人たちは、エネルギー事業とは直接関係のない仕事に従事してきたのですが、人口減少などの地域課題や原発事故をきっかけに、覚悟を持ってエネルギー事業に挑むようになりました。

会津電力の太陽光発電所と佐藤彌右衛門さん(撮影: 高橋真樹)

渡辺監督 その代表例が、映画でも取り上げた佐藤彌右衛門さんです。彼は福島県会津地方で江戸時代から続く造り酒屋を営む社長さんでしたが、原発事故で福島が被害にあったことを受けて、会津電力という小さな電力会社を設立します。

福島で発電された電気は首都圏へ送電され、利益も東京の電力会社にもたらされていました。彌右衛門さんは、その構造に疑問を投げかけます。そして、「福島は、元々は地域資源が豊かなのだから、自分たちのエネルギーを自分たちの手に取り戻して自立すべき」という理念を掲げるようになります。

地域の酒屋さんが電力会社をつくって地域の自立をめざすこのような動きは、僕にとってかなり衝撃的でした。このような人たちが集まったシンポジウムで、いままさに社会がドラスティックに動いていることを体感したんです。

この動きは、外部に豊かさを流してしまわずに地域内での循環を高めて利益につなげるという意味で、『よみがえりのレシピ』とつながるテーマだとも感じました。そこで、2014年から本格的な取材と撮影を始めたのです。

豊かな水や食料を生産する会津盆地

山村でも都市部でも同じ。
足元から変える「エシカル消費」のきっかけに

ーー映画を観た人たちの反応はどのようなものだったのでしょうか?

渡辺監督 映画では、福島第一原発事故で全村避難となった飯舘村の人々の取り組みから、岐阜県の石徹白地区にある小さな洋品店(石徹白洋品店)の話まで描いているので、かなり間口の広い作品になりました。一見すると取り組みも背景もバラバラな地域なので、必ずしもテレビ的にわかりやすい作品ではないかもしれません。

でも不思議なことに、実践している人たち同士、内面での価値観の変容はじわじわと重なっていて、ひとつの物語として見えてくる構成にすることができました。

それだけに、映画を観た人は関心を持つポイントが皆さんそれぞれ違っていているようです。僕としてはこの映画を観て、いろいろ考えて、その考えたことを周りの人たちと話し会う場を増やしてもらえればいいというスタンスで製作しました。「自分でも何か行動につなげたい」という反応をいただくことが多い理由は、そういうことなのかもしれません。

(©いでは堂)

ーー映画では農山村のシーンが多く登場しますが、都市部で暮らす人々にもできることはあるでしょうか?

渡辺監督 もちろんあります。都市や住宅地に暮らすサラリーマンや主婦の方から、「自分も何かしたいけどどうしたらいいか?」と質問を受けますが、僕はちょっとしたことから始めていいと思うんです。

大切なことは、「顔の見える関係同士でお金をやり取りすること」です。現代はテクノロジーが発達しているので、「顔の見える関係」といっても必ずしもご近所さんとは限りません。

例えば電力の小売自由化が始まったことで、どんな電力と契約するかを選べるようになりました。会津の佐藤彌右衛門さんがつくった電気を、新電力会社を通して、東京の人が購入できるようになったのです。

コンセントの先にある発電所がどういう理念で始まり、どのような環境で運営しているのか? さらにその電気を売買している新電力会社はどういうコンセプトで事業をしているのか? といった背景を知って購入することが大切になってきます。こういったことは「エシカル消費」と呼ばれています。

電気だけではありません。映画を観た人が、遠くから映画の舞台となった岐阜県の石徹白地区や岡山県の西粟倉村(にしあわくらそん)に訪れたということもよく聞きます。石徹白洋品店では、古くから伝わる野良着をアレンジしたファッションブランドを立ち上げています。また西粟倉村では、自立のための森林再生事業を行い、そこから生まれた木工製品を販売しています。

石徹白洋品店の平野馨生里さんと伝統的な野良着「たつけ」(撮影:野田雅也)

渡辺監督 顔の見える製品や、ストーリーに共感できる製品を購入するようになるだけでも、世界の見え方は確実に変わってきます。『おだやかな革命」とは、そのように普段なにげなく買っているモノへの眼差しが変化していくことではないでしょうか。

もちろん日常生活の中で使う製品のすべてをそのようにそろえるわけにはいきません。それでも、3%とか5%でいいから、少しずつでも選択の基準を変えていければ、社会はいい方向に変わっていくはずです。

企業だって、変わってきていますよね。SDGs(国連持続可能な開発目標)を掲げて、経済活動をするにも環境とか倫理的なものを重視するのが常識になってきている。僕たち消費者には、ものを買うことを通じて未来を選択する力があるということなのです。

タネの交換会のような、それぞれの物語を持ちよるサミット

ーー最後に「おだやかな革命サミット」を開催する意義について教えてもらえますか?
 
渡辺監督 「おだやかな革命サミット」をやりたいと思った理由は、映画のテーマに共鳴する各地域の実践者の思いを持ち寄る場があったらいいのでは? と考えたからです。映画のメッセージを受け取って触発された方たちが思いを持ち寄り、交流して刺激しあって、またそれぞれの実践の場に戻っていくと、すごくいいんじゃないかと考えました。

山形県鶴岡市の伝統作物、宝谷かぶのタネ(©いでは堂)

渡辺監督 例えると作物のタネの交換会のような感じです。それぞれの物語が詰まったタネを交換しあって、それぞれの“おだやかな革命の物語”を豊かなものにしていく。自分の地域にはこういう発想はなかった、とか、悩んでいる部分のヒントをもらうとか、何らかの発見や気づきがあるはずです。それが次の実践に活きてくる。

もちろん、「自分はそんなたいそうな物語なんてもっていない」という人もいるかもしれません。でもこの映画の中の実践者たちを観て、何かを感じ取ってくれる人の中には、きっとおだやかなタネが育まれているはずなんです。

「おだやかな革命サミット」に参加している数時間のうちに自分の中のタネを発見できるかもしれないし、すてきな人たちと意見交換をすること自体がかけがえのない経験になることでしょう。

ぜひイベントやクラウドファンディングへの応援、参加を通じて、それぞれの「おだやかな革命」の物語をつむいでいく機会が生まれたらと願っています。どうもありがとうございました。

(インタビューここまで)

このインタビューで特に印象に残ったことは、映画を上映するだけでなく、そこから現実社会を変えていきたいという渡辺監督の思いのこもったメッセージでした。

この映画は、すでに200ヶ所を越える場で自主上映会が開催され、現在も多くの人々に共感の輪を広げています。小さな上映会としては聴衆が20〜30人といった場所もありますが、映画を見た人が何らかの行動につなげているとすれば、とても大きな価値を生んでいるはずです。

映画を通じて何かしたい、と考えた人々が直接触れ合う今回のイベントからは、どんな出会いや新しいアクションが生まれるのか。僕自身も今からとても楽しみです。

– INFORMATION –

映画「おだやかな革命」の公式サイトはこちら

8月30日(金)午後11:00まで開催中のクラウドファンディングサイトは8月30日(金)午後11:00まで開催中のクラウドファンディングサイトはこちら。(目標金額に達成した場合のみ支援が実現するAll or nothing形式です)
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