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タネの多様性は、いのちの多様性なんだ。タネという希望を未来につなぐ人びとを描く映画『シード~生命の糧~』

小学生のときに撒いたアサガオのタネ。
スイカの切り口に並んだ黒いタネ。
カボチャの中心にぎっしり詰まったタネ。

タネを目にする機会は少なくありませんが、20世紀の間にアメリカでは野菜のタネが94パーセントも失われてしまったことはあまり知られていません。それはもちろん、人間の手によって起きたことです。

ドキュメンタリー映画『シード~生命の糧~』は、そんなタネの危機を救おうと世界中で活動しているタネの守り人、シードキーパーたちと、タネの多様性が失われている背景を描いた作品です。

映画でまず描かれるのは、多様性に満ちたタネの美しさ。黒、白、茶、黄、赤など、さまざまな色や模様、そして形があります。命そのものであるという価値だけでなく、まさに宝石のような美しさと輝きを放ち、目を奪われるのです。

さまざまな種類のタネを映し出すだけでなく、色とりどりのタネを使ってつくり出された色彩豊かなアートワークは、多様な命を寿ぐように命の豊かさを表現し、観客の目を楽しませませてくれるでしょう。

さらに、94パーセントものタネが失われている、タネが直面する危機やその原因が描かれます。

モンサントのような農薬を扱う世界的化学企業10社は、世界の種子市場の3分の2を独占し、莫大な利益を得ているのです。効率よく利益を得るために、わずかな種類のタネを大量生産した結果、タネの多様性は失われてしまいました。グローバル経済は、利益というひとつの価値のもとに、豊かな世界を滅ぼそうとしているのです。

特許をとられたタネは農家の人が自ら採ることが許されないため、一握りの大企業からタネを購入せざるをえません。

その結果、自殺に追い込まれるインドの農家の人たち。
そして、遺伝子組み換え作物の実験に使用される農薬の被害に遭う人たち。

農業ビジネスで利益を求める大企業に苦しめられている人たちの厳しい現実は、豊かで美しいタネがもたらす世界とはまるで真逆で、映画の中で強い印象を残します。

映画では、日本におけるタネを取り巻く問題は取り上げられていませんが、日本でも2018年3月に種子法が廃止され、米や麦、大豆といった主要農作物の種子を生産するための公的な支えがなくなりました。今後、種子の値上がりや品種の多様性の減少などの可能性があり、声をあげている人も多くいますが、自分たちの食に直結することでありながら国民的な関心事にはいたっていません。

けれども、このような危機的状況の中、タネに魅せられ、守ろうとする人たちが世界中にたくさん存在しているのです。彼らは多様な方法で、タネを未来へ手渡そうとしています。登場するのは、自分たちの子孫としてトウモロコシのタネを守り続けるアメリカの先住民や、人類の終末にそなえて永久凍土に最大300万種のタネを貯蔵し保存する世界種子貯蔵庫の人たち。世界中でタネを収集して回る植物探求者たち。

タネの危機を憂いつつも、ある人は淡々と、ある人は使命を全うするように強い意志を帯びて、そしてある人はタネの多様性に目を輝かせながら、それぞれのやり方でタネを守り続けています。その生き様は、タネといういのちを守る人らしく、力強さに満ちていることが伝わってきました。

世界中、地球全体で、タネを取り巻く状況は深刻です。けれども、『シード~生命の糧~』は、タネの美しさや、タネを守ろうとする人の信念に満ちた生き方を描き出し、悲壮感を訴えるのではなく、私たちが生きる豊穣な世界を色鮮やかに見せてくれます。

世界各地に保存されたタネが、私たちの子孫を救うときがくるかもしれません。今すぐ私たちはそのことに気づき、タネが直面している危機に声を上げ、一種類でも多くのタネを残さなければなりません。希望に満ちたタネを未来へと受け継ぐことは、希望そのものを手渡すことにほかならないのですから。

配給会社・ユナイテッドピープル代表の関根健次さんからのコメント

タネの多様性がここまで失われていることは知りませんでした。日本も他人事ではなく、遺伝子組換え作物の世界最大級の輸入国です。

また、種苗法の改正により、現在では356種の品種が自家増殖禁止として指定されています。在来種や固定種は問題ないとされているものの、農家が禁止品目の自家増殖をすると最大罰金1,000万円、10年の懲役(併科可、法人なら3億円)が課せられる可能性があるのです。

このように日本の農業を取り巻く環境が大きく変化しつつあります。映画『シード ~生命の糧~』では、世界で起きているタネを巡る問題や、タネの多様性を守るために活動する様々な活動や人々が紹介されています。ぜひ、私たちの生存に欠かせない糧や衣服となるタネについて目を向けていただきたいです。

– INFORMATION –

映画『シード~生命の糧~』は、2019年6月29日(土)から、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!


監督: タガート・シーゲル、ジョン・ベッツ
配給: ユナイテッドピープル
2016年/アメリカ/94分
http://unitedpeople.jp/seed/

公開初日 堤未果さん(国際ジャーナリスト)トークショー

『シード~生命の糧~』公開初日トークショー 
堤未果さん(国際ジャーナリスト)
日時: 6月29日 15:00~上映後(20分程度)
場所: シアター・イメージフォーラム
tel. 03-5766-0114
渋谷区渋谷2-10-2