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起業したからってみんなが幸せなわけじゃない。熱海でまちづくりを担う市来広一郎さんがたどり着いた、多様な人たちが共に育ちながら進む組織のつくり方

市来広一郎さんと言えば、「熱海の再生」や「まちづくり」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか?

greenz.jpでも、2012年と2016年の2度に渡り、熱海のまちづくりを手がける市来さんのインタビュー記事を掲載。(記事はこちらおよびこちら

NPO「atamista」の立ち上げからはじまり、今では熱海のホットスポットとも言える「guest house MARUYA」の取り組みまで、主に地方都市再生という視点でお話を伺ってきました。

今回は、熱海で10年以上に渡りまちづくりを手がけてきた市来さんと、グリーンズのビジネスアドバイザー・小野裕之の対談の模様をお届けします。

ただし、まちの再生のお話ではありません。ソーシャル領域のビジネスにおける継続や組織づくりのノウハウを探る連載「ソーシャルな会社のつくりかた」への登場ということで、ビジネスの視点からこれまでの歩みのリアルと現在地を伺いました。

まちの再生のために立ち上がり、さまざまな課題を乗り越えてきた今、市来さんが見えている風景とは。ぜひお楽しみください。

市来広一郎(いちき・こういちろう)
1979年静岡県熱海生まれ、熱海育ち。IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)勤務を経て、2007年に熱海にUターン。ゼロから地域づくりを熱海市などと協働で開始、プロデュース。2011年、熱海の中心市街地再生のための民間まちづくり会社、株式会社machimoriを設立。2012年、空き店舗を再生しカフェCAFE RoCA、2015年、ゲストハウス「guest house MARUYA」をオープン。2013年より、静岡県、熱海市などと共同でリノベーションスクール@熱海も開催している。2018年6月発売の著書『熱海の奇跡』が第9回「不動産協会賞」を受賞。一般社団法人熱海市観光協会理事。一般社団法人ジャパン・オンパク理事。

同じ熱量の人たちと組織をつくる

小野 僕は熱海には創業支援プロジェクトなどで関わっていて、市来さんをそばで見てきたんですよね。で、個人的にこの3年くらい、市来さんがワントップだった状態からだんだんリーダーが増えてきているのを感じていて興味深いな、と。

実際に、ひとりでずっと風当たりの強いところに立ち続ける大変さとか、手放していく大変さ、まわりにも変わってもらわなきゃいけない大変さ。そのあたりを伺えると、市来さんを目指して自分の地元で何かやり始めて、ある程度軌道に乗った人が、おそらくこの3年くらいで体験するであろう「リーダーを増やさないとこの先に地域は盛り上がっていかない」みたいなものに直面した時の道しるべになるのかな、と。

市来 なるほど。今、メインの事業machimoriが8期目。主に飲食業と宿泊事業、最近は熱海視察や企業の研修の受け入れもしています。あとは創業支援。「マチモリ不動産」という会社もできて不動産の管理もようやく増えてきてるので事業としても活発になりつつあるな、という感じですね。

小野 最初の頃の話を聞いてもいいですか? コンサルタント出身で地元に帰ってきて、NPO的に委託事業とかやりながら、カフェ、ゲストハウス、実業をやるのってぶっちゃけどうでした?

市来 大変でした(笑) まず、僕の経歴として、大学時代にファミレスを1ヶ月半でクビに近い状態で辞めていて。絶対サービス業には就かないって言っていたのに、自分の店となるとオープン当初はやっぱり自分が立たないとってなって、それがなかなか辛かったです。

ちゃんとやってないとお客さんもスタッフも離れていくし、店長は突然いなくなるし、ぶっちゃけ最初のころは悪循環でどうしていいかわからないみたいな感じでしたね。

小野 そのあと、ゲストハウスMARUYAを始めたんですよね。当初のバタバタ期からだいぶ変わってきたんでしょうか?

市来 この2年くらいでちゃんと組織になってきたっていう感じがしてますね。2年前は本当にひどかった。スタッフが精神的に辛くなってしまっていたりmachimoriは好きだけど仕事としては合わない、みたいなこととかもあったり。みんな苦しみながら仕事してる感じがありました。

だからこの2年は自分の会社の組織づくりに一番力を入れて取り組んできたんです。社内のコミュニケーションの在り方や採用の方法などを変えたことでかなり会社にコミットして働いてくれるスタッフが入ってきていて。この1年はすごく安定したし、現場を預けられるようになりましたね。

guest house MARUYA (C)Hamatsu Waki

小野 採用大事ですよね。具体的にはどう変えたんですか?

市来 これまでは基本的には僕が面接してたんですけど、今は3段階面接するんです。

そもそも応募してくる人たちが変わってきていて、金融機関出身の若い子とか、まちづくり会社がやってるゲストハウスだからこそ働きたいっていう異業種の人が増えたというか。そこをこちらもフィルタリングするようになった。あとはキャリアカウンセラーの方にも関わってもらって、適性も見てもらってます。

その上で僕が会社の方向性とかビジョンとかを合わせて、会社と一緒に成長していく気持ちを持ってやってもらえるかってところを見て。そんな風に変えたことで入ってくる人も変わったなっていう感じですかね。そこからチームとしてうまく機能するようになってるというか、同じような熱量を持って仕事してくれてるなって思えますよね。

小野 採用にコストかけるってこういうことか、みたいな感じですよね。

プレイヤーを育てるために会社を大きくする

小野 プレイヤー、リーダーを増やすっていう視点も変化していますか? 

市来 変わったと思います。プレイヤーっておのっち(小野の愛称)にも関わってもらってる創業支援とかでも出てくるんだけど、その人がある程度のことをできるようになるまで時間がかかる。それ待ってるとまちの課題は解決しないって気づいたんです。

長期的に育てていくことも大事なんだけど、もっとスピードを求められるとなると、自分たちの会社で人を育てていくことが大事だなって思うようになって。一緒にやってる役員もそうだし、スタッフもそう。そういう人たちが育って、自分で子会社やってもいいし、独立してもいい。

やっぱり事業の経験は一緒に積んでいかないとなかなか難しいし、ひとりではそんなリスクもとれないんじゃないかなと思って。だから最近は、ちゃんと会社としても大きくなってちゃんと人育てられるようになりたいなって思うようになってるんですよね。それは前は考えてなかった。

小野 なるほど。

市来 2年前くらいにどういう方向に行くのか悩んでいて。単純に、大赤字出したり、組織がガタガタだったり、これじゃあ続かない、と。目の前に地域の課題があって、事業とかやりたいことのイメージは浮かんでるけど、なんにも進まない。問題は山積みなのに、自分のやることはたくさんありすぎて手もつけられないっていう状況だったんです。

小野 そういう中でひとつ、マチモリ不動産の誕生は変化だったんじゃないですか?

市来 そうですね。これまで一緒にやってきた三好明(現: 株式会社マチモリ不動産 代表取締役)と戸井田雄(現: 混流温泉株式会社 代表)がそれぞれ会社をつくって、事業として立ったのは変化でしたね。

ふたりとずっと話してきたのは、どこに自分の力を集中していくのかはっきり決めようってことです。そんな中で、ほかの仕事はなくしていいから、それぞれ自分の事業に集中しようって話になっていったんです。

小野 それは意図的にそうしていったんですか?

市来 そうですね。創業支援のプログラムに参加してもらったり、そういう場でおのっちみたいな人からガツンと言われることで変わることもあるし。

小野 飲み会で語るみたいなね(笑)

市来 一歩一歩覚悟を決めるみたいなね。

共感力をもったコミュニケーション

小野 ぶっちゃけ、僕、最近、「覚悟を決める」みたいなこと、共感できるようになりました。多分、市来さんもそうなんですけど、僕らって覚悟とかじゃなくて淡々とやれちゃうんですよ。ちょっとネジ外れてるんですよ、ぼくらみたいなタイプって。

市来 それはそうかも。淡々とやってるつもりはなくてもまわりから見ると淡々とやってるようにしか見えないっていう。

これは最近気づいたんですけど、自分の中で何かやるとか、前に進む、続けるって別に疑うことがなくて。やるつもりで前に進んじゃうんで、例えば「なんでうまくいってない状況の中で前に進もうとするんですか?」って言われて、ちょっとその質問の意味がわからないっていう感じなんですよね。

そもそもやる前提でどうしようかって考えるから、カフェがうまくいかなかったときも辞めようとは全然思わなかった。事業的に判断して辞めたけど気持ち的にしんどいから辞めようってことはないんです。

小野 やるかやらないかはあんまり迷わないってことですよね。でも、その次のリーダーを見つけていくためにはやるかやらないか迷う人とも共感力をもってコミュニケーションしないと孤独なリーダーになりすぎちゃって、結局できることが少なくなるみたいなところがありませんか?

市来 そこは本当にここ2年くらいすごい気づかされたことですね。それでまわりの人たちとのコミュニケーションの取り方が僕自身これまでと大きく変わったんだと思います。気持ちとか感情を表したりすることがほぼなかったんで。

だからまわりからもこの人は本当に気持ちもあんまりぶれずに淡々とやってて強い人なんだろうなとか思われたけど、本当はめっちゃ弱いんです、僕は。すぐへこたれるし。そういう部分を今は普通にスタッフにさらけ出す様になったかな。

小野 それ以前はあえて出してなかったんですか?

市来 気づいてなかった。辛いことも自分で抱えて酒に逃げるみたいな(笑) でも、まずは人の気持ちを受け止める前にちゃんと自分の気持ちを受け止めよう、自分自身が把握しよう、と。それはキャリアコンサルタントの斎藤めぐみさんという人に出会えて気づかせてもらったことで。

小野 僕も最近は自分とは違う、一歩を悩んじゃう人ともやっていけるチームをつくらないとって思うようになりました。自分はネジが外れてるからわからないんだけど、防御策は打たないといけないな、と。

全員理性的な人だけではチームはつくれないので、共感力が高くて北風と太陽的な役割をもってチームをつくることは意識してます。

市来 僕は共感力はあると思うんですけど(笑)

小野 あれー?(笑)

市来 それもコーチングの中で気づいたんです。僕は共感力ないって思ってたんですけど、意外と話聞いてるよね、とか、共感してるよね、って言われて、ああ、人間的な人間だったんだなって気づいてちょっと楽になった。
どうしても、自分のこととなると感情とか置いておいて、目的に対してどうするかとかロジックで考えてしまう。だから、ちゃんと気持ち側にいく時間をとることが大事だなって気づいたんです。

小野 鋼の心の溶かし方、大事ですよね。

市来 いまだにへこむこといっぱいありますからね。メディアに出てたりするとなんだあいつはみたいな、そんな声を身近から聞くこともあるし、鋼の心じゃないですからね(笑)

でも、へこんだって言うことも大事なんだなって最近知って。それでスタッフが安心する。ああ、市来さんでもへこむんですね、みたいな。

小野 僕はまだできないですねー。弱みを見せないというか不安にさせちゃいけないってことの裏返しでもあるかな。

市来 でも、意外と言えることは言っちゃったほうが安心されるんだなって。

会社の方向と個人の思いを紐付けする

小野 組織改革ですが具体的にどうしたのか聞いてもいいですか?

市来 先ほどもお話ししたキャリアコンサルタントの方に社内の研修をやってもらって、体感として性質の違う人がいるんだってことを理解するっていうことをしました。

小野 コンサルが入ったことでやっぱり違いましたか?

市来 そうですね。一番大変だったときにいてくれて本当によかったと思います。

小野 当初、どういうフィードバックを受けたんですか?

市来 僕自身がコーチングしてもらったときに、苦しさっていうか、頼れる人はいるかもしれないけど、最終的には自分ひとりで抱えこむことを指摘されて。自分の感情とか気持ちに気づかされた時になんか楽になった。

そういう体験をする中で、そもそも組織を立て直していくときにこういうことも必要なんじゃないかなって。組織を変えようって思ったからこそファシリテーターの存在は必要だと思えたんですよね。

小野 外部の力を借りて組織が変容するのもありってことですよね。スタッフとの関係も変わりましたか?

市来 変わったと思います。スタッフ一人ひとりと定期的に面談するようになりました。結果としてそれで辞めたスタッフもいるけど、それは、コミュニケーションの中で違う関わり方の方がいいよねってなったわけで。辞めたスタッフとも今も関係は良好だし、別の形で関わってくれるようになったりしてます。

小野 なかなかチームや法人の健康状態に目を向けるってしないことかもしれないですね。

市来 スタッフ対マネージャーの1対1でやるようになって組織に血が流れるようになったというか。そういう場があるので、ある場でロジックだけで議論が白熱しても、ちゃんと別の場で話せたりする。すると、見違えるように物事が進むようになりました。スタッフが自ら動くようになったので結果が出る、みたいな。

ひとつ事例をいうと、MARUYAの片隅でやってるMARUYA Terraceという飲食店が、ある時から倍の売り上げが立つようになった。以前のカフェに比べて広さは5分の1くらいなのに売り上げも毎月記録を更新する。それは、メニュー開発とか、スタッフの工夫のおかげなんですよね。

組織として血が流れるようになっただけじゃなくてチームとしてもバランスがよくなったというか。それぞれ全然違う個性とスキルを持ってる人たちがチームになっていて、うまくまわりはじめたなって感じですかね。

MARUYA入り口で営業するカフェ&バー「MARUYA Terrace」。静岡の地酒や地ビールなどローカルにこだわった商品のほか、玄米ごはんとお味噌汁のセットやサバサンドなども楽しめる。

小野 任せ方も大事だし、難しいですよね。現場がまわってるからって全然口出さないのも違うし、口出し過ぎても成果が出なかったり。

市来 そうですね。僕もスタッフと1対1で話すことをやってるんですけど、僕は個人のスキルをどう伸ばしてどう目標に達成するかっていうのをサポートする。最終的にやることはスタッフで決めればいいんだけど、その成長を支援するっていうところが僕の役割かなと今は思ってます。

小野 市来さんの場合、現場から始まり、現場に口を出した時期もあり、うまい引き際をみつけたっていう感じなんですね。これがいきなり、僕経営者だから引いたところからみるんだよね、ってところからだったら、はじまらなかった気がします。

市来 ようやくいい関わり方を見つけてきたみたいなところはあります。今、社員バイト含め17名の組織なんですけど、月1で集まってミーティングをしたりしてます。会社の方向と個人の思いを紐付けする場を意識してやってる。

小野 そういう流れがあって、ずっと風当たりの強いところにいた市来さんが次のフェーズにきたってことですよね。勉強になりました。

僕も今はいろんな会社に関わってるけど自分の会社で社員をたくさん雇っていこうって風に完全に気持ちが変わっているので。創業支援のプログラムはあくまでカンフル剤なだけで。

市来 そうですね。まあ、改めて気づいたのは、当たり前ですけどみんな創業するわけじゃないし、起業するわけじゃない。起業したからってみんな幸せなわけじゃない。チームで動ける場をつくる、会社として組織をつくっていくことも大事だなと思います。

(対談ここまで)

おふたりの対談、いかがでしたか?

私は、市来さんの最後の言葉、「起業したからってみんな幸せなわけじゃない。」がとても印象に残りました。その人の個性やスキルに寄り添いながら、成長していける会社をつくる。そんな会社がもっと大きくなって、増えたら、地域はもっと魅力的になっていくのかもしれませんね。

市来さんの次のフェーズも目が離せません。

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