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目標は、2020年までに電力消費量100%を再生可能エネルギーでまかなうこと。スコットランドの市民による市民のためのエネルギー転換の様子を取材してきました!

この記事はグリーンズで発信したい思いがある方々からのご寄稿を、そのままの内容で掲載しています。寄稿にご興味のある方は、こちらをご覧ください。

カラっと晴れた青空の下、丘の稜線に立つ無数の風車。そのシルエットは自然が美しいスコットランドの風景の一部となっています。北海の石油や天然ガスという化石燃料の恩恵を受けて豊かになったこの国では今自然と人々にやさしいエネルギー転換が加速しています。その先頭に立つ4人のスコッツマンをインタビューして見えてきたのは、保有権の重要性でした。

スコットランドはイギリスを構成する4つの国のうちの一つで、グレートブリテン島北部に位置しています。この国は北海油田などの地下資源だけでなく、風力を中心とした再生可能エネルギーの資源も豊富な国です。スコットランド政府は2020年までに電力消費量100%を再生可能エネルギーでまかなうというターゲットを掲げており、2019年4月現在、実に74.6%の電力が再生可能エネルギーで供給されているそうです。

さらに、スコットランド政府は再生可能エネルギーの発電容量を市民が保有することも推進しており、2020年までに1ギガワットの発電容量が市民によって保有されることを目指しています。これは約11万世帯が1日に消費する電気の量と同じです。

一般的に発電設備は電力会社などの大きな民間企業が保有しています。そのため発電が生み出す莫大な利益のほとんどは発電設備がある地元には落ちず、設備を保有している事業者のもとに流れていきます。しかし、市民がそれを保有すれば電源が生み出す金銭的な利益が市民のもとに流れるだけでなく、その利益を使ってコミュニティーの活性化や環境教育の推進などさまざまな効果を期待できます。

Force 9 Energyが手掛けたAlltwalis風力発電所の風景(写真提供:Force 9 Energy)

毎年1.5億円が地域経済に流れる風力発電

近年、急速に進むスコットランドにおける再生可能エネルギー開発は、主に民間企業が主体となって進められています。グラスゴーでお会いしたNick MackayさんはForce 9 Energyという陸上風力に特化したデベロッパーで働く弁護士です。この会社は従業員4人ながらスコットランド北部のMorayで、イギリスで最大級の風力発電プロジェクトClash Gour風力発電所を完成させたプロ中のプロの集団です。

48機の風車が約19万世帯の電力需要に相当する量の発電をするこのプロジェクトでは、売電利益の4%である約1.6 億円が30年間に渡ってさまざまなコミュニティープロジェクトを通じて地元地域に還元される仕組みになっています。日本の地方自治体と同様に厳しい台所事情のスコットランドの地方自治体にとっては大きな経済効果と言えます。

スコットランド政府は、発電設備を新設する際デベロッパーに1メガワット当たり5000ポンドの利益を地域住民に支払うように推奨しています。例えば前出のClash Gour風力発電所の場合、250MWの出力があるので225MW×£5000=£1,125,000(約1.6億円)となります。

こうしたスコットランド政府の支援はありますが、スコットランドのエネルギー転換に詳しいRobert Gordon University AberdeenのLeslie Mabon准教授は、石油産業と同様に再エネ産業も地元に十分な利益をもたらす構造にはなっていないのではないかと指摘します。

多くのスコットランドにある大規模な再エネ開発プロジェクトはデンマークやスウェーデンといった外国資本が保有しています。Clash Gour風力発電所もフランスの多国籍電力会社EDF社の子会社EDF Renewablesの保有になっています。スコットランド政府は地域住民がこのような大きな規模の再エネプロジェクトに投資し、利益のシェアの一部を得られるようにデベロッパーに働きかける政策をとっており、EDF Renewablesはこの発電所に対する地域住民の投資、保有を許しています。

しかし、根本的にこうした大規模なプロジェクトには、利益の大半が地域の外に流れていく構造が存在します。Mabon准教授は、これではスコットランド経済を十分に潤せず、再エネ産業が石油産業に取って代わりスコットランド経済を支える産業にはなれないのではないか、そして石油産業と同レベルの雇用を生み出せないのではないかと危惧します。

水力発電機のオープニングセレモニーに参加した子ども達 写真提供:Arrocher Community Hydro Society

市民による市民のための発電

こうしたビジネス主導の開発とは対照的なのが市民電力と呼ばれるものです。市民電力のプロジェクトは市民団体によって計画、設置、保有され、その売電収入を様々なコミュニティープロジェクトを通して地域に還元するというものです。民間企業による開発と比べると規模としては小さく、経済効果は限定的ではありますが、市民の環境教育やコミュニティーの活性化といった社会的効果を生み出すことが特徴です。

スコットランドではこの市民電力組合が次々と設立されています。このムーブメントを支えるのがEnergy4Allという団体です。Energy4Allは市民電力組合設立の計画、法的手続き、ステークホルダーとの交渉、資金調達、系統への接続など市民電力プロジェクトを総合的にサポートします。

特に資金調達の面で市民電力組合設立を目指す市民グループは、Energy4Allに加盟することでLocal Community Investorsと言われる市民電力プロジェクトを支援する投資家ネットワークを利用して迅速にリスクの低い出資を集めることができます。

Energy4Allがサポートし昨年5月に設立されたArrocher Community Hydro Societyは、2週間で260人の投資家から合計9400万円集めたそうです。この市民電力プロジェクトでは小型の水力発電機で約40年間にわたって発電をし、その電気を売電して得られる利益は村の公民館の運営に活用されます。この公民館は地元企業が会議のために利用したり、地元のバトミントンクラブが練習場として使用したりと村民の様々な活動のプラットホームになっています。

この市民電力組合の設立メンバーであるMartin Sempleさんは、小さなコミュニティーにはそのサイズに見合った地域に確実に利益をもたらす小さなプロジェクトが必要だと考えます。

私たちは、この小さな取り組みによって、スコットランドに豊富にあるクリーンな再生可能エネルギーを利用して、地域全体の利益のために必要な資金を生み出せる仕組みを作りました。

大きなコミュニティーではなく小さなコミュニティーだからこそ自分達の活動が生み出す地域への利益が目に見えてわかり、それが地域の繋がりを強くしている。また、自分自身にとっても成果を実感できることは地域に貢献するモチベーションになります。

とSempleさんは話していました。

自慢の水力発電機とSempleさん(写真:筆者撮影)

本当の意味で持続可能なエネルギー転換を

3年前からEnergy4Allで働きArrocher Community Hydro Society の設立にも関わったJim Leeさんはこう言います。

Ownership is Power

発電設備を保有することが地元住民の土地権、利益を享受する権利、資産の所有権などを保証する最も確実な方法です。Energy4Allは市民が発電設備保有することで、これまで大手電力会社に握られていたエネルギーに関する様々な権利を市民が取り返し、人にも自然にもやさしいエネルギー転換をこれからも目指していくそうです。

2018年国連のIPCCは、このままのペースでいけば産業革命以来の世界の気温上昇は2030年頃には1.5度を超えるであろうと発表しました。総発電量における再生可能エネルギーの割合が16%の日本では、この緊急性にせかされるように地方で都市のデベロッパーによる大規模な再エネ電源開発が行われており、それに対する地元住民の反対運動が起こっています。CO2排出量を減らすことと再エネを早く増やすことだけが目的になって、社会的に持続可能なエネルギー転換を見失ってしまってはいないでしょうか。

スコットランドのパイオニア達の取り組みに、人と自然にやさしい理想的なエネルギー転換のヒントを見たような気がしました。

(Text: 吉岡大地)

吉岡大地

ドイツの環境先進都市であるフライブルクの大学で正規生としてリベラルアーツを学ぶ、サッカーと自然が大好きな大学生。現在はイギリスのUniversity of Warwickに交換留学生として留学し、ドイツとイギリスを中心とした欧州のエネルギー転換について学んでいる。

References

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自然エネルギー財団(2018)2017年度の発電量内訳https://www.renewable-ei.org/statistics/electricity/