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「農業×地域づくり」で、農村にイノベーションを!岩手県紫波町で地域商社の立上げに取り組む、「ローカルカンパニープロデューサー」という仕事 #求人あり

グリーンズ 求人での募集期間は終了しました。募集状況は紫波町にお問い合わせください。

岩手県のほぼ中央に位置し、東部には北上山地、西部には奥羽山脈が連なる紫波町(しわちょう)。町の真ん中に北上川が流れる、緑豊かな人口3万3千人のまちです。

紫波町といえば、公民連携事業である「オガールプロジェクト」を連想する方も多いのではないでしょうか。JR紫波中央駅前の町有地において、フットボールセンター、図書館や飲食店等が入居する官民複合施設、バレーボール専用体育館やビジネスホテル等が入居する民間複合施設、役場庁舎及び民設民営保育所などの施設を一体的に整備し、年間約96万人の交流人口を生み出したことで、地方創生の成功事例として全国的に注目を集めている取り組みです。

オガールプロジェクトにより生まれた中心市街地の様子。

2017年4月に「オガールセンター」がオープンしたことをもって、10年間にわたる「オガールプロジェクト」での駅前都市整備は終了となり、全国のどこにもない市街地の風景が生まれました。しかし、紫波町を象徴する風景はオガールだけではありません。町の基幹産業は農業であり、中心部を少し離れれば緑豊かな風景を目にすることができます。

紫波町ではもち米、ぶどう、りんごなどの農産物の生産が盛んで、農村部には田園風景が広がります。

しかし現在、高齢化や人口減少の影響を受けて、農業の担い手不足が深刻化。オガールプロジェクトや商店街の空き家を活用したリノベーションまちづくりなど中心部での取組みに続いて、農村部を活性化させる活動に取り組もうと、想いとアイデアを持った若手農家の方たちが立ち上がりました。

今回の求人ではそんな紫波町で、地域おこし協力隊「紫波タウンイノベーターズ」 の一員として、県内屈指の果樹産地である赤沢地区を拠点に、地元の若手農家の方たちとタッグを組んで地域商社を設立する「ローカルカンパニープロデューサー」を募集します。

欲しい暮らしは自分で作ろう

『欲しい暮らしは自分で作ろう』

紫波町は『想いを形にできる町』です。だから、紫波町には想いを持った人が集まります。そして、想いを持った人たちだからこそ、想いを持った仲間を『同志』として迎え入れ、全力で応援し、互いに切磋琢磨します。さあ、今こそ、もう一度人生を選び直すときです。私たちと一緒に、自らの人生に果敢にチャレンジしましょう。

紫波タウンイノベーターズの募集ページには、このように書かれています。各地の地域おこし協力隊のなかには、行政が取り組む業務のサポートが主な活動になる事例もあると聞きます。しかし、「仲間」「同志」という言葉にあらわれているように、紫波タウンイノベーターズはどうやらそんな存在ではないよう。

「紫波タウンイノベーターズ」として現在活動中の4人。

紫波タウンイノベーターズとはどのような存在なのか。紫波町役場で地域おこし協力隊の受け入れを担当する須川翔太さんにお話を聞きました。

紫波町は、町全体の人口はさほど落ち込んでいないものの、盛岡市など近隣に通勤する人が多いベッドタウンの町。さらに、若者は大学進学や就職のタイミングで県外に出てしまうケースが多く、町内で働く若者が少なくなっていることが、「紫波タウンイノベーターズ」の取り組みの背景にあると須川さんは言います。

須川さん 今後、紫波町全体にまちづくりを展開していく上で、明らかに町内で活動するプレイヤーが不足していると感じていました。それぞれの地域で目立った活動をしている方たちはいるのですが、活動を広げるためにはさらに仲間が必要なんです。そこで、一度紫波町を出た若者が帰ってきたり、やる気のある若者が紫波町に集まってきたりする流れを生み出していくために、地域おこし協力隊の制度を活用して私たちと一緒に活動する仲間を募集しています。

若者のチャレンジにより地域で継続的にイノベーションが巻き起こる状態を目指していることから、地域おこし協力隊の仲間は「紫波タウンイノベーターズ」と名付けられました。紫波タウンイノベーターズのメンバーは、地域の方たちと連携しながら、自ら事業を起こすことに取り組みます。ただ、ここで須川さんが話す「仲間」とは、地元の方たちの考え方に同調する人たちという意味ではありません。

須川さん 仲間とはいえ、地域の外から来た人と地元の人がどちらかの考え方に染まっていくことはあまり良くないことだと思っています。自分の考えをしっかり持つ人たち同士が互いに良い影響を与え合いながら、地域の中でポジティブな化学反応が生み出される状態を目指したいと考えています。

須川さんの言葉通り、紫波タウンイノベーターズの大きな特徴は、「夢や人生の目標に向けた活動を最大限尊重する」と打ち出していること。一方で、メンバーも地域の方の想いを尊重しながら活動していくことになります。移住した若者が、地域の方たちと連携しながら自分のやりたいことを実現できてこそ、地域にイノベーションが生まれていく。そんな考えが、紫波タウンイノベーターズの背景にはあるようです。

地域の方と丁寧に関わりながら、まちにイノベーションを起こす

現在紫波町には、移住定住促進を担当する「UIJターンコーディネーター」やアウトドアに関する事業に取り組む「アウトドアビジネスプランナー」、食と農の魅力化を担当する「ローカルフードコーディネーター」という4名のタウンイノベーターズが在籍。それぞれの分野ごとに、地域の方と丁寧に関わりながら自らの活動に取り組んでいます。(4名の活動の様子は、Facebookページ で詳しく知ることができます。)

とはいえ、「地域の方と丁寧に関わりながら…」と聞いてもなかなかイメージしづらいのではないでしょうか。そこで、デザイナーとしての職能を生かして活動している「ローカルフードコーディネーター」の佐々木由美子さんに、その取り組みについて話を聞いてみましょう。

紫波町出身の佐々木さんは、京都市の内装建材メーカーでデザインや商品開発、ブランディングを手がけてきました。そんな佐々木さんは、ちょうど独立を考えていた時期に紫波タウンイノベーターズの募集を見つけ、地元でデザイナーとして独立したいと考え、応募を決意。2018年に着任して以来、農産物の首都圏への販促活動や町内にある事業者の広告制作などに取り組んでいます。着任してすぐ、紫波中央駅前にオープンしたジェラート店「クラフトクラフト」の店名やコンセプトづくり、フライヤーの制作を手がけるなど、着任1年目ながら着実に成果を積み重ねてきました。

生産者のもとを訪問し、町の特産品であるぶどうづくりを学ぶ佐々木さん。

佐々木さんが活動をするなかで意識していることのひとつが、デザインの意義を地域の方々に伝えること。

佐々木さん これまでまちで出会った方たちの中には「デザインってあまり価値を感じていないんだよね。モノをおしゃれに見せるだけのものでしょ?」という方もいらっしゃいました。そういった方たちに、デザインはただ単に「おしゃれに見せる」ためのものなのではなく、商品の意図を形にしたり、モノを売るための大事な経営資源の一つであることを伝えられるように意識して仕事をしています

「デザインの意義を伝えること」は、都会ではあまり必要とされないかもしれません。これから活動することになる紫波タウンイノベーターズの仲間も、自らの取り組みの意義を地域の方々に伝えることは必要になってくるでしょう。そうした丁寧なコミュニケーションを厭わず、むしろやりがいを感じながらできることは、紫波タウンイノベーターズの適性のひとつかもしれません。

また、そのように丁寧に地域の方々と関わるうえで、地域おこし協力隊であることのメリットは大きいと感じているそう。

佐々木さん 今は一人ひとりの事業者さんと丁寧に向き合って仕事をすることを大切にしたいと思っていて。その点、今は地域おこし協力隊として活動費をいただいていることもあって、収入のことは強く意識せず活動することができているのは大きいですね

まちの風景を守るための地域商社を

さて、今回募集するタウンイノベーターズは「ローカルカンパニープロデューサー」。県内有数の果樹産地である赤沢地区で、想いを持ったぶどう農家の方たちとともに地域商社の設立を担います。

赤沢地区がある紫波町の東部は、県内一のぶどうの生産量を誇っています。

赤沢地区で農業を営んでいる仲間と話していると、あんなこともしたい、こんなこともしたいってどんどんアイデアが上がってくるんですよ。その一つが、『地域商社をつくる』ということなんです

そう語るのは、赤沢地区でぶどう栽培を営んでいる吉田貴浩さん。JAの職員としてぶどう農家の営農指導、ワイナリーや体験農園などがある観光施設「紫波フルーツパーク」の立ち上げに参画した後、現在は実家のぶどう園をお父さんと共同経営しています。

長年、赤沢地区でぶどう栽培に取り組んできた吉田さんだからこそ、地域の現状に課題意識を抱いているそう。

吉田さん 20歳の頃から赤沢の農家さんたち全員と知り合いですが、私が仕事を始めた頃と今の農家さんたちの顔ぶれがほとんど変わっていないんです。もちろんそれは嬉しいことでもあるんですが、この方たちが引退した後のことを考えると、「これからこの地域でのぶどう栽培はどうなっていくのだろう」と不安に感じています

近年、赤沢地区ではぶどう農家の高齢化が進み、うまく世代交代が行われないまま生産者が減少しています。ある時引退する方から「後継者がいなければ、このぶどうの木は切ろうと思っている」と相談を受けた吉田さんは、ぶどう畑を引き継いで、管理する栽培面積を増やしていきました。

しかし、その分売上は増えるものの、それまでに比べて多大な労力がかかることから、次第に吉田さんが以前まで管理していたぶどう畑の経営状況にも影響が出はじめてきました。個人がぶどう畑を引き継いでいくことでは地域の根本的な課題は解決しないことがわかってきたのです。

ツアーで来た県外の学生に、赤沢地区とぶどうについて説明している吉田さん。

より良い取り組みを模索する中で吉田さんが出合ったのが、農産物などの地域資源を活用し、生産から加工、販売までを一貫して行う「地域商社」という考え方です。

吉田さん 地域商社を設立して、ぶどう農家が儲かる仕組みをつくることができれば、後継者を育てていくことにもつながるのではないかと思っています。地域商社が赤沢のぶどう農家や行政、地域内外の企業や個人の連携を促進する役割を担いながら、地域で統一した品質のぶどうを生産し、加工・販売していく。そうすることで、「ここのぶどうがおいしい」と、地域外の人たちに赤沢を認識してもらえるようなブランドづくりを目指していきたいんです

このように吉田さんが赤沢で農業を変えようと行動し続けるのは、自分が生まれ育った地域、そして果樹への強い思いがあるからこそ。

吉田さん 赤沢は昔から果樹の産地です。私はぶどうやりんごの木々が所々で広がるこの景色の中で育ってきました。地域の産業を維持するということももちろんですが、この風景を失わないためにも、農業で稼げる仕組みを整えて、この地域を“果樹がなくなっては困る地域“にしたいんです

地域の風景を残していくためにも、「ローカルカンパニープロデューサー」にはビジネス経験・スキルが求められます。吉田さんをはじめとする農家の方たちと一緒に事業計画を立てたり、地域内外のステークホルダーと調整をしたり、販路を開拓したりと、地域商社の設立のために必要な企画を考え、自ら取り組む。簡単ではない仕事ですが、その取り組みの結果が直接、地域の人々の暮らしを豊かにすることにつながるため、都市の企業では得ることができないやりがいを感じることができるはずです。

しかし、「前向きなビジョンはあるんだけど、気をつけなればいけないこともあって」と吉田さんは続けます。

吉田さん この地域の大きな特徴として、農業と暮らしが密接に結びついているということがあります。なので、あまりに急に農業の仕組みを変えようとしてしまうと、住んでいる方々の暮らしにも影響を与えてしまうので、反発が起こることも。だから地域商社の取り組みも、既存のコミュニティを尊重しながら、地域の方々と足並みを揃えて活動するとうまくいくのではないかと思っています

フラットに、柔軟に、お互いが支え合う関係性

ローカルカンパニープロデューサーの活動には、地域課題の解決と地域全体のブランディングのため地域商社を設立するという目標が設定されていますが、その具体的な方法が定められているわけではありません。その人それぞれの経験やスキルに応じて、自分を活かす活動をすることができます。

その活動をサポートしてくれるのが須川さん。須川さんは、紫波タウンイノベーターズが着任した後の活動支援にも携わり、できる限りメンバーが自ら事業を起こすことを意識してもらえるように、「困ったことがあったときにだけ、手を差し伸べる」ことを心がけていると言います。

須川さん 紫波タウンイノベーターズはもともと行政が担っていた業務を行うのではなくて、新しい事業を起こすために紫波町に来てもらっています。なので、私が日々指示をしながら活動する、という状態にはしたくありません。まずはなんでも自分で考えて、それでも答えが出ないときに手を差し伸べることが、メンバーが自ら事業を起こす上での適切なサポートだと思うんです。基本的には「少し助けが足りないな」と感じてもらうくらいの距離感を意識しています

須川さんと紫波タウンイノベーターズのみなさん。

また、紫波タウンイノベーターズにとってのもうひとつのサポート役が、岩手県で地域おこし協力隊の活動サポートなどに取り組むNPO法人wiz。活動期間中、定期的にwizのコーディネーターと紫波タウンイノベーターズに着任した方が面談する機会を持ちながら、活動や暮らしの不安を取り除けるような仕組みが設けられています。

佐々木さん 私は活動についての相談をする時は、直接行政の方にお話することもあれば、wizのコーディネーターを通して話をすることもあります。行政の方とのコミュニケーションだけでは、お互いがベストだと考える意見を譲らずに、話し合いが平行線をたどることになってしまいがちです。その間に第三者が入ってくれることで、お互いの意見を汲み取った着地点に調整してもらえるのは助かりますね

移住する側、受け入れ側のコミュニケーションを大事にしている背景には、過去に地域おこし協力隊として紫波町で活動していた方が、任期途中で活動を終了したという出来事があったそう。

須川さん 任期中の活動を通して、本人の考え方が変化していくことは決して悪いことではありません。結果として別々の道を歩むことになっても、最後は本人の判断を尊重したいと思っています。ただ、もしかしたら行政としてもっと良いサポートの方法があったのではないかとも感じています。

サポートの重要性を痛感した須川さん。その出来事を踏まえ、メンバーが着任当初と考え方が変わっても、柔軟に活動していけるような体制を整えています。

須川さん 着任してからは直接、もしくはwizのコーディネーターを通して、行政側に意見したいことが出てきたらどんどん伝えてほしいなと思っています。活動する中で感じた違和感が、私たち行政側に伝えられてこないと、きっと私たちも「今の関わり方で大丈夫」だと勘違いしてしまう。町がより良くなるためには行政が変わっていく必要があると思うので、私たちも「現状が全てではない」ということに気づけるように、紫波タウンイノベーターズのメンバーが感じたことを意見しやすい環境を整えていきたいです。こちらもそういった意見に柔軟に対応しながら、お互いに高め合っていけるといいですね

移住した土地で地域商社を立ち上げることは、簡単なことではないはず。しかし、須川さんたち行政の方々や佐々木さんたち紫波タウンイノベーターズのメンバー、吉田さんたち農家の方々など、お互いが尊重し合う仲間と支えあいながらチャレンジすることは、ローカルカンパニープロデューサーとなる方の人生にとってもかけがえのない経験になるはずです。

吉田さんのアイデアに対して「いいねいいね、こうしたら実現できるかも!」と意見する須川さんと佐々木さん。取材では、3人でこれからの赤沢について考えながら、構想がますます広がっていくような話が続きました。

取材中印象に残ったのが、これからの赤沢地区について話すみなさんの、明るく楽しげな様子。

吉田さん 地域の課題をネガティブに捉えて「ここが嫌だな」と思いながら過ごすのはもったいないと思うんです。不自由なこともひっくるめて、「赤沢で楽しく生活をするにはどうしたらいいだろう」と考えながら過ごしていきたい。たとえば地域商社を立ち上げるプロジェクトのほかにも、学童保育を始めることで子育て世代のお母さんたちがより住みやすい地域にするアイデアなど、実現したいことはたくさんあるんです

須川さん うん、この地域で楽しい暮らしをつくりたいんですよね。私は「赤沢地区にマイクロワイナリーを作りたい! 」というのが大きな夢です。農業はこの地域の人たちの誇り。それは絶対なくしてはいけないし、農業を通じて地域の課題を解決できたら、地域の暮らしもより楽しくなっていくと思います

オガールプロジェクトにより「公民連携のまちづくり」というイノベーションが起きた紫波町。次は、農村部でイノベーションが起きる兆しが見え始めています。その兆しとは、想いとアイデアを持った地域の方たちと、魅力的な地域資源、そしてイノベーションの担い手となる人、つまりイノベーターへのサポートの存在です。そこに、ビジネスの経験を持ったイノベーターが加われば、面白い化学反応が起こるはず。

でもおそらくそのイノベーターは、独創的なアイデアと圧倒的なスピードで事業を進めていくカリスマのような方というよりも、地域の方たちの目線に立ちながら自分のスキルを生かしていく、やさしいイノベーターなのだと思います。もしかしたら自分がそんな存在になれるかもしれない、と思った方は、紫波町や、都内で開催される説明会に足を運んでみてください。みなさんの欲しい暮らしや働き方へのヒントが見つかるかもしれません。

text by 宮本拓海(COKAGESTUDIO)
photo by 川島佳輔(COKAGESTUDIO)

– INFORMATION –

『地域をプロデュースする仕事』ほしい未来をつくる仕事の説明会

グリーンズ求人は、1/31(木)に都内で合同説明会を開催します!今回記事で紹介したローカルカンパニープロデューサーの仕事についてもご紹介する予定です。興味を持った方は、ぜひお越しください!

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