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世界の社会課題への関心を高めるにはどうしたら? 僕ができるのは料理で広めることだった。本山尚義さんがレストランを閉め、レトルトに転身した理由。

あなたが、世界の国々で起きていることに思いを馳せるのは、どんな時でしょう? ニュース記事だったり、映画や音楽を通じてだったり、さまざまなきっかけがあると思います。では、“世界の料理”を楽しみながら、その国のことを考えることはありますか?

今回ご紹介するのは、以前、神戸のレストラン「世界のごちそうパレルモ(以下、「パレルモ」)」のオーナーシェフとしてご紹介した本山尚義さん。世界30ヶ国を旅する中で現地の人から習得した、たくさんのレシピをレストランで提供し、「料理を通じて、飢餓や貧困など世界で起きていることを知ってもらう」という活動をしてきました。

そんな本山さんは、2016年4月にレストランを閉店。現在は「世界のごちそう博物館」と屋号を改め、レトルトの製造・販売をメインに、講演や本の出版なども行いながら、料理を通じて人々に世界を知ってもらうための活動をしています。

直接お客さんと対面してメッセージを伝えてきたレストランではなく、レトルト専門に切り替えた背景には、本山さんのどんな思いがあるのでしょうか? 最近の活動内容とあわせて、うかがってきました。

本山尚義(もとやま・なおよし)
「世界のごちそう博物館」オーナー。フランス料理を7年間修行後、世界30ヶ国(アジア、西ヨーロッパ、北アメリカ、中近東)を味修行した経験から、様々な国のスパイスやハーブ料理を日本人テイストにアレンジし、主にレトルトで販売を行っている。2016年4月まで神戸市東灘区でレストラン「世界のごちそうパレルモ」を運営。著書「全世界196ヶ国おうちで作れる世界のレシピ」(ライツ社)が好評販売中。

転身の理由は、「もっと広めたい」という思いと、
自身の“働き方改革”だった

店舗を持たずにやってきた人が実店舗をオープンする、という話はよく聞きますが、本山さんの場合はその逆。約20年もの間ライフワークとして続けてきた人気のレストランを閉店し、レトルト専門に切り替えた背景には、どんないきさつがあったのでしょうか。

本山さん もっとも大きな理由は、「レストランのお客さん以外の人たちにも、料理を通じて世界のことを知ってもらいたい」という思いが強くなったためです。特に、2012年に「パレルモ」で行った、2年間かけて195ヶ国の料理を提供するイベント「世界のごちそうアースマラソン」での手応えが大きなきっかけでした。

「アースマラソン」をやってみて、「料理を通じていろんな国の歴史や文化、情勢を知り、思いを馳せ、その先の問題解決まで視野に入るきっかけになる」という手応えがあったんです。寄付金つきメニューで飢餓や難民の支援も行ってきましたが、もっと実践していきたくて。お店に来るお客さんにはすごく納得してもらったんですけど、「もっと深く広く伝えたい」という思いが強くなりました。

「パレルモ」営業中から販売していたレトルト商品は、プレゼントに活用されることも多かったことから、「レトルトなら、より多くの人に思いを伝えられるのではないか」と考えるようになったそうです。

工房内に並ぶ「世界のごちそう博物館」のレトルト

本山さんの転身の背景には、それだけではなく、「働き方を変えたい」という思いも強くありました。具体的には「フードロスをなくすこと」、そして「家族との時間をつくること」という2点。

本山さん かなり努力していたのですが、レストランの頃はどうしても食材が余ってしまい、仕方なく廃棄していました。だから、「飢餓や貧困の支援」と言っている自分にずっと矛盾を感じていて。レトルトだったら必要な分だけを調達し予定どおりにつくるのでほとんどロスが出ないんですね。だから今はそのストレスがありません。

また、ランチとディナーの営業をしていたレストランの頃は、毎日早朝から深夜まで忙しく、「子どもとの時間がなかなか取れなくて辛かった」という本山さん。レトルトのみに切り替えたことでスケジュールをマイペースに調整できるようになったそう。

本山さん 夕食のときは家にいて、夜中に仕事をすることも(笑) 働く時間はそんなに変わっていないのですが、1日の時間の使い方を調整できるようになりましたね。子どもの行事がある日に休みを取ることもあります。

現在は、神戸市内の工房で一人でレトルトを仕込む日々。

自身の信念のままに追求した結果、事業の転換だけでなく、働き方までストレスフリーに改革してしまった本山さん。新たな方向性が定まり、ますます活動に精が出ているようです。

さまざまなアプローチから学べる、
約50種類のレトルトシリーズ

「世界のごちそう博物館」のレトルトは、現在約50種類。すべて本山さんが工房で手づくりしたもので、その品揃えはとてもバラエティに富んでいます。

メインとなるのは、「世界のごちそうシリーズ」。「パレルモ」の頃から愛されてきた看板メニューから、兵庫県内に暮らすシリア難民のお母さんに「ムスリムの子どもたちが食べられるものを」と依頼されつくったものまで、さまざまな国の料理が揃っています。

「世界のごちそうシリーズ」の一部。例えばミャンマーの「チェッタアールヒン」は、売上金の一部がMeal for Refugee(食を通じた難民支援プロジェクト)に寄付され、日本に流れ着いた難民の方の支援になるなど、支援活動につながるメニューもあります。

シリアからの難民のお母さんの味を再現したレトルト。売上金の一部は、シリアからの難民支援に活用されます。

このシリーズには、「この国の問題や歴史背景を知ってほしい」という思いを込めたメニューが多いそう。開封すると、包装紙の裏面には、その国の歴史背景や情勢などが、イラストを使ってわかりやすく説明されています。小難しく訴えかけるのではなく、あくまで料理を楽しむ延長線上で「この国ではこんなことが起きてるのか」と、気づいてもらうための工夫です。

レトルトの包み紙の裏面は、商品ごとに、その国の歴史や情勢、その料理が生まれた背景などについてイラストを使って説明されています。(写真は、アメリカの料理「ガンボ」のもの)

本山さんが料理を通して伝えたいことは、戦争や飢餓などの情勢の話だけではありません。なじみのない食文化を伝えるための「珍食材シリーズ」は、レストランを閉じてからつくり始めた、ユニークな食材を使ったメニューがたくさん。博物館の売店がおもしろがって取り扱うなど、「世界のごちそうシリーズ」とは、別のアプローチで学べるシリーズとなっています。

本山さん 「なんでこんな食材を食べるの?」という疑問が気づきにつながります。例えばオーストラリアではカンガルーの肉はスーパーに並ぶほどポピュラーであることや、兵庫の丹波で鹿が殺されているのは「増えすぎると生態系を壊してしまう」という問題が背景にあることなども、こういった食材を通じて学べます。

「珍食材シリーズ」の一部。扱いに苦戦した食材もあったそうですが、「大手にはできないことです」と、本山さんは誇らしげ。

そのほかにも、外国人向けの「日本のごちそうシリーズ」など、新シリーズも続々と展開。ど直球に問題提起をする「食べて知るシリーズ」は、講演の時など、本山さんの「根本の思い」を伝えるときに販売することが多いそうです。

世界で起きる問題をまっすぐに投げかける「食べて知るシリーズ」。

本山さん 僕の思いを心に刻んでもらうためのシリーズです。「なんであのひげのおっちゃんは、この『飢餓問題』をつくったんだろう?」と包装を開けたときに「あ、飢餓が多い地方の料理なんや」「なるほどな」と読んで納得してもらえたらいいなと。

「“世界の”とうたうからには、できるだけたくさんの国のメニューをつくりたい」と、これからも新メニューが登場する予定。取り扱い店舗も日々増え続け、全国に店舗をかまえるバラエティショップなどでも販売されるように。「広く、深く知ってもらいたい」という本山さんの願いどおり、多くの人が今日もレトルトを手にし、世界の国々に関心を抱くきっかけとなっています。

全国各地のいろんな店に呼ばれ、トークショーとあわせてレトルトの販売を行うことも。

世界をもっと身近に感じてもらうため、
お家でつくれるレシピ集を出版

レトルト事業を中心としている「世界のごちそう博物館」ですが、本山さんの“思いを伝えること”を活動の軸とし、講演やイベント出店なども頻繁に行っています。そして、大きな試みとして、2017年12月、本山さんにとっては2冊目となる著書『全196ヶ国おうちで作れる世界のレシピ(ライツ社)』を出版しました。

2017年12月に発売した本山さん2冊目の著書『全196ヶ国おうちで作れる世界のレシピ』(ライツ社)。2018年9月には、みごと「料理レシピ本大賞in Japan」特別選考委員賞を受賞しました。

この本にはタイトルのとおり、196の国々のレシピが掲載されています。一般の人がスーパーで入手できる食材でつくれるような、簡単な材料と手順のレシピばかり。もちろんすべて、本山さんが世界の料理をアレンジしたものです。

レシピは、「アメリカ大陸」「ヨーロッパ」「オセアニア」「アフリカ」「アジア」と大きく分かれていて、それぞれ簡単な手順で説明されています。

美味しそうな完成品の写真とキャッチフレーズ、手順が並ぶこの本は、レトルトのように料理とその国の背景を直接つなげて何かを訴える形ではありません。今回、本山さんがこの本を通じてねらったのは、「積極的に世界の料理を身近に感じてもらうこと」でした。

本山さん 今までは、レストランやレトルトで世界の料理を食べてもらいながら、そこに込めたメッセージに対していろいろと考えてもらう、というお客さんにとっては受動的なものでした。今回の本をきっかけに、今度は自分で手を動かして食べてもらって、もっと世界を身近に感じてもらいたいと思ったんです。

「現地でもこんなにおいがするのかな」「本当にこの料理食べてるんかな」と、実際につくりながら五感で感じてもらうことは、「こんな国、聞いたことないわ」という国のことすら身近に感じてもらえるひとつの方法だと思って。もう少し専門的な本にする案もあったのですが、出版社の方と相談し、「世界の料理をみんなに知ってもらうにはこれが一番いい」と。

ジャマイカの料理「ジャークチキン」は、オレンジジュースに漬けたローストチキン。漬けて焼くだけで現地の味を再現できます。

キプロスの料理「カラマリア・ゲミスタ」は、地中海版のイカめし。シナモン風味のごはんを詰め、トマトと赤ワインで煮込みます。

思い入れの強い国にだけ、少しエピソードを入れているものの、「説教臭くならないようにしました」と本山さん。あくまで、「料理を楽しむことでその国を身近に感じてもらう」ことに注力したそう。

資金集めにはクラウドファンディングを活用。レストラン時代からの支援者も多い本山さんですが、「もっとファンが増えてほしい」という思いも。最終的には425人もの支援者が集まり目標の300万円を大きく上回る金額になりました。

出版して半年が経ち、全然料理をしなかった人から「これなら私にもつくれた」と画像が送られてきたり、プロの人から「これ、すごい再現性あるよ」「この手順でできるってすごい」と連絡がきたり。あちこちからうれしい声が届いているそう。早速、たくさんの人が積極的に世界の料理を楽しんでいるようです。

また、全国の多くの書店で、本とレトルトが並べて販売されるなど、本への取り組みがレトルトの販売にもつながるようになってきました。デパートなどでの出張販売の際にも、本があることでお客さんに活動内容が伝わりやすくなったそうです。

本とレトルトを並べて販売する、全国チェーンの大型書店も。

次なる目標は、海外のシェフと
思いを分かち合い、コラボ商品をつくること。

本も好評で、現在の状況を「当初のイメージ以上にいい感じ」と話す本山さん。先日、忙しい合間を縫って、ひさびさにカンボジアへ4日間の旅に出かけたそうです。そのうち2日間は、かつて旅をしていた頃のように、現地の人と仲良くなり、料理を教わったのだとか。

本山さん すごく楽しい旅で、「自分の原点ってここやな」と実感しました。最近は全然海外へ行けていなくて。「世界のごちそう」という名前をつけているのだから、やっぱり年に1度くらいは行きたいなと思いました。

最近は、海外で活動する日本人からコラボレーションのお誘いもあるそう。今はまだ実現していませんが、いつかは現地のシェフと思いを分かち合い、一緒に取り組むことも目標のひとつです。

本山さん 現地のシェフとのコラボ商品をつくれたら楽しそうですよね。ぼくの思いをぶつけて、それに対する向こうの意見を記事にするのもよさそう。今よりもう少し読み物的にして、タイムリーな現状も交えながら、料理人ならではの目線で伝えられたらいいですね。

工房の壁には、原点となる20年前に30ヶ国を旅したときの写真が。

レストランを閉じた後、その勢いを止めることなく、レトルトの開発、本の出版と、やりたいことを次々と形にしてきた本山さん。すべての活動の背景には、「世界の料理を楽しみながら、世界に目を向けてもらいたい」という熱い思いがあります。

本山さんの活動を見ていて心強く感じるのは、実に多くのファンが温かく見守り、支えていること。みんな、本山さんの料理をきっかけに「こんな国にこんな料理があったんだ」「料理を楽しみながら世界に目を向けることができた」と、これまでになかった気づきをもらった人ばかりです。

そんな、多くの人を魅了してしまう不思議な料理を、あなたも味わい、その向こうの国々に思いを馳せてみませんか。本を見て自らつくってみてもいいでしょう。遠い国の、自分には関係がないように思っていたニュースも、ぐっと身近に感じることができるはず。そして、新たな関心ごとや、自分にもできる支援の形を見つけられたら、素敵なことだと思いませんか。

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こちらの記事は「greenz people(グリーンズ会員)」のみなさんからいただいた寄付をもとに制作しています。2013年に始まった「greenz people」という仕組み。現在では全国の「ほしい未来のつくり手」が集まるコミュニティに育っています!グリーンズもみなさんの活動をサポートしますよ。気になる方はこちらをご覧ください > https://people.greenz.jp/