市民の「やってみたい」が、まちの新しい文化をつくる。「南海電鉄」水野俊介さんと「NPO法人SEIN」甚田知世さんに聞く、いつも楽しくチャレンジできるまちのつくり方。

ここは大阪府堺市にある泉北高速鉄道「泉ケ丘駅」。ミナミの中心地「難波駅」から約25分という便利な立地から、高度経済成長期に堺市と和泉市にまたがるエリアの宅地開発が行われ、1967年「泉北ニュータウン」が誕生しました。

現在「泉北ニュータウン」には約12万人が暮らし、その中で「泉ケ丘駅」は今も昔も変わらず、まちの中心駅として市民を見守り続けています。

私が訪れた日、ちょうど泉ケ丘駅前では「いずみがおか広場つながるDays(以下、つながるDays)」が開催中でした。青空のもと寝転がったり、コーヒーを飲んだり。各々が気ままに過ごす風景は、駅前とは思えないほど、伸びやかで心地よく・・・

そんな雰囲気に惹かれながら、今回は「つながるDays」を主催する「南海電鉄」の水野俊介さんと「NPO法人SEIN」の甚田知世さんに、広場を起点にしたまちづくりについてお聞きしました。

話をお伺いする中で見えてきたのは、いずみがおか広場がインキュベーションの役割を担っていること!

一見どこにでもあるような駅前の広場で、なぜ人と人、人とまちがつながり、主体的にまちに関わる人が増えているのでしょうか。「つながるDays」の取り組みから、広場の新たな可能性を探ります。

左:水野さん、右:甚田さん

水野俊介(みずの・しゅんすけ)
南海電気鉄道 プロジェクト推進室 泉北事業部長。1991年南海電気鉄道入社。不動産・住宅・流通・新規事業・経営企画での業務を歴任。 2014年事業コンペに携わり、2017年より泉北ニュータウン活性化に従事している。
甚田知世(じんた・ともよ)
2015年NPO法人SEINに合流。法人の参画する南大阪子育て支援ネットワークが開催した堺市シティプロモーション認定事業「堺で見つける!子育て×はたらくフォーラム」や、「子ども食堂モデル事業」にて“子ども食堂ガイドライン”の作成に関わる。現在は、公私ともに青春時代を過ごした泉北ニ
ュータウンの活性化に携わる。

広場から多様なニュータウンの暮らしを伝える

「つながるDays」はいずみがおか広場からニュータウンに多様な暮らしをつなげる取り組みとして、2017年にスタート。2018年7月に3回目の開催を迎えました。

季節にもよりますが、期間は約5〜10日間。泉北ニュータウンに暮らす10以上の出展者が集まり、子どもからシニアまで多様な人が行き交います。

雑貨店、カフェ、DIYのお店をはじめ、地元で活動しているフラダンスのステージ発表などもあり、広場はとても賑やか! 来場者も出展者も、みんながこの場にいることを楽しんでいる様子が伝わってきます。

「いずみがおか広場つながるDays」は泉ケ丘駅前にある広場で開催されます。

1日4万人の乗降客がいる駅前とは思えないほど、来街者はのびのびと過ごしていました。

フラステージの様子。広場には子どもからシニアまで、多様な年代が集まります。

泉北ニュータウンの市民、駅に直結する専門店街などを多様な人を巻き込み盛り上がる「つながるDays」。そもそもどのような思いから生まれたのでしょうか。

水野さん 「つながるDays」を開催しているいずみがおか広場や駅の商業施設はもともと大阪府の外郭団体が所有していましたが、2014年に南海電鉄が取得し、まちのにぎわいを生み出すふれあいの場として再整備をすることになりました。もともと噴水があった場所を芝生の築山に変えるなど全面改修して、コミュニティ型の広場へ生まれ変わらせよう、と。

でも私たちのノウハウには限界があるので。そこで堺市でまちづくり活動に取り組んでおられる「NPO法人SEIN」にお声がけしたんです。

甚田さん 泉ケ丘駅前のエリアマネジメント活動を活発にしたいとご相談いただいて、2017年3月から関わり始めました。その拠点としていずみがおか広場がぴったりだという話になり、広場をどのように使えばいいのか全国各地の事例を参考にしながら、たくさんの方に使っていただける仕組みを模索しました。

ハード面を担う南海電鉄、ソフト面を担うNPO法人SEIN。両者が対話する中で見えたコンセプトは、市民のみなさんを巻き込んだ広場運営でした。

甚田さん 市民のみなさんに自由に使ってもらえるよう広場を開放した取り組みをしたいね、と。私たちのNPOはコミュニティカフェを開いているので、そのノウハウを活かしながら市民のみなさんも運営に関わってもらえる形を考えました。

水野さん いずみがおか広場にはステージもあるので、市民のみなさんが日頃取り組んでいることや好きなこと、得意なことを発表できる場にしたらいいのではと思って。この場所を拠点に市民の方々の活躍の場になればと考え、スタートしたのが「つながるDays」です。

甚田さん 私たちと一緒に広場を運営してくれる人がいたらと思い、広場を使いこなす”広場使用者募集”という形で第1回目の出展者を募りました。すると集まってこられた方が、想像以上に色々な思いを持たれて活動されていることがわかって。そこで”ひろばプランナー”と呼び名を変え、広場がどうなったらいいか、どういう文化をつくっていきたいかというところから一緒に考えています。

”ひろばプランナー”として消費者からまちづくりの主体者へ

「つながるDays」のチラシに書かれた、”広場を通じてヒト・モノ・コトがつながる”。「この言葉に惹かれてひろばプランナーに応募してきた人も多い」と、甚田さんは振り返ります。

甚田さん チラシに載せる言葉選びはすごくこだわりました。集まってくださった方は、コンセプトや「楽しいことを自分たちの手でつくっていく文化を育んでいきませんか?」という問いに反応してくれています。

ニュータウンという土地柄か、消費者として生きる側面がすごく大きいと感じていて。お金を払って買うだけではなく、生産に関わる人が増えていく方がまちにとって活力になるんじゃないかと思うんです。一部の人だけがまちづくりをしているのではなく、多くの人がまちづくりに関われる状態をつくりたいなと思い、こうした言葉を選びました。

甚田さんがディレクションしたパンフレット。人柄や思いがあふれる出展者の紹介文を読むと、実際に会いに行きたくなる。

そう語る甚田さんの思いは、ひろばプランナーに応募してきた方へのきめ細やかな対応にも見て取れます。

甚田さん 一番時間を使っているのは、ひろばプランナーさんとの面談です。イベント出展で、面談があるって珍しいと思うんですけど(笑) 1団体につき1時間ほどお時間を頂いて、南海さんとこの事業を始めた経緯から話しています。

南海さんがどういう思いで広場を運営されているかとか、「つながるDays」がどのような場になればいいかと考えているかとか。

面談では、プランナーさんに自身が広場を使ってどういうことをやりたいのかや活動をはじめたきっかけもお聞きしています。そこでお伺いした思いをパンフレットに掲載すると、活動や商品紹介だけを載せるよりも反応してくれる人が増えて、そのプランナーさんに会いに「つながるDays」に来てくれるところから、新たなつながりも生まれています。

水野さん 「つながるDays」はひろばプランナーさんへの単なる場所貸しではないんですよね。甚田さんが面談で、広場のコンセプトなどをお話頂いて、共感が生まれているからこそ、主体的に関わる方が増え、人と人がつながりやすい環境が生まれていると思います。

面談の他にもひろばプランナーさんと甚田さん、そして南海のスタッフのみんなでランチを食べながらの交流会も開催したり。広場オフィスと名付けて、出展に関わる相談日を設けたり。

お互いに顔の見える関係性を築こうと取り組む一つひとつの仕掛けが、「つながるDays」から人と人、人とまちがどんどんつながる循環を生み出しているようです。

二人三脚で「発表したい」気持ちを形にするお手伝い

ひろばプランナーさんの中には、はじめてのイベント出展で右も左も分からないという方もいらっしゃいます。大好きな雑貨のお店をはじめて出す方、いつかお店を持ちたいと願いその一歩を踏み出す方、様々な方の夢を実現する伴走者として甚田さんと水野さんは寄り添っています。

水野さん 甚田さんがされていることは、プランナー育てですよね。「こんなことがやりたい」とざっくりした内容で申し込まれてくる方が多いので、甚田さんがじっくり話を聞いて、ひろばプランナーさんと相談しながら一つずつ企画にされています。

甚田さん そこは私一人ではできなくて、南海のみなさんがいつもそばにいてアドバイスをくださるからこそできるんです。できる限り「NO」と言わない体制でいてくださるので、すごくありがたいですね。

例えば「子どもたちにだんじりを引かせてあげたい」という思いをもった男性から相談があった際には、こんな対応をしたのだとか。

甚田さん 3回目の「つながるDays」のひろばプランナーを募集した際に「広場で子どもたちにだんじりを曳かせたい」と問い合わせがありました。

堺市はだんじり祭りが盛んな地域が多く、子どもから大人までお祭りを楽しみにしています。しかしニュータウンにはだんじりを曳く文化がないため、子どもたちに体験させてあげたいという思いをお伺いしました。

そこで南海さんに相談したら、「南海そして運営事務局もサポートに加わり、つながるDaysとの共催事業にして打ち出しましょう」と即決してくださって。出展ではなく共催という形で実施できたので、無料で子どもたちにだんじりを体験してもらうことができました。

そんな甚田さんの言葉を受けて、水野さんは「祭りなんやからみんなで一緒につくったらいいやんってだけのこと。難しい話じゃありません」と笑い飛ばします。

水野さん イベント名が「つながるDays」なのにね、うちは遠目で見てますわっておかしいですよね。自分はつながることを拒んでいるのに、SEINさんつなげてよって(笑) 遠目から見てたら、人と人がつながっているかもわからないですから。

広場がインキュベーションの役割を担う!?

面談や交流会など地道でかつ丁寧な取り組みを続けてきた水野さんと甚田さん。「つながるDays」をきっかけに、会社を辞めて起業した方、泉北ニュータウン内に実店舗をオープンした方などが現れ始めています。

甚田さん もともと会社員で趣味としてギャザリング(寄せ植え)の教室をされていた方が、出展を機にお店をオープンすることが決まって起業されました。「つながるDays」に出て、たくさんの方が来店してくれたり、喜んでくれたりしたことがお店を出す後押しになったっと言ってくれましたね。

水野さん そうした声を聞くのは、嬉しいですよね。僕たちは起業する人を増やそうとしているわけではないんですけど、自分の夢を実現するはじまりの場として「つながるDays」があればと。

ここをきっかけに、有名な絵描きさんが生まれるかもしれないし、人気店が誕生するかもしれません。そうした積み重ねが、ニュータウンに新しい文化をもたらすのではないでしょうか。

また「つながるDays」をきっかけにチャレンジが増えるだけではなく、つながりの循環も生まれているようです。

甚田さん 来場者として楽しんでいた人が出展者の姿を見て、「自分にもできるかも」と次の開催ではひろばプランナーに応募してきてくれたり。ひろばプランナーが紹介してくれた方が、ひろばプランナーになったり。そうしたつながりが、どんどん生まれています。

水野さん 僕たちはまず出展者さんに楽しんでいただくことを一番に考えています。そうじゃないと来場してくれた方も楽しくないと思うので。だからこそ、楽しむ人(来場者)から楽しませる人(ひろばプランナー)に変わる人が出てくるんだと思います。今は僕たちが機会を設定してひろばプランナーを募集していますが、将来的にはどんどん「やりたい」と手をあげる人が出てきてくれるといいですね。

共に文化を育み、誇りに思えるまちをつくろう

夕暮れ時の泉ケ丘駅

一昔前、鉄道会社のエリアマネジメントといえば、遊園地やデパートを建て、そこに交通網を敷くという手法が一般的でした。しかし時代は移り変わり、大衆を対象にしたイベントやエンターテイメントは受け入れられづらくなっています。

きっとこれからは、そのまちで暮らす人に会いたい、彼らが仕掛ける物事に触れたいということが目的となって人が移動する時代にますます向かっていくのではないでしょうか。

そんな未来を予測した時、南海電鉄の取り組みは、遠回りなように見えて本質を突いているのではと感じます。

しかしすぐに成果が見えず、数値化できない取り組みゆえ、苦労もあるのだとか。

水野さん 「つながるDays」のような取り組みが、ある時とない時でまちがどう変わるのか? と聞かれても一つのまちで同じ時期に効果測定はできません。だから「つながるDays」を実施しなければどうなる? と聞かれても答えられないんです。

今、ひろばプランナーが152名います。その方々が消費者から一歩進んで、まちをつくる側になった。僕たちが自信を持って言えることはそれだけです。

水野さん 「つながるDays」に来て、広場で2時間楽しんでくれたら、それは人が2時間居られる場所があるということ。1000人通過したという事実よりも、意味はあると思うんです。人の心は測れませんが、出展者の方や来場者の方が満足してくれて、泉北ニュータウンが好きやという気持ちになってくれたらそれで十分ですよね。

新しい分野なので、理解しづらい人がいるのは仕方ありません。社内に理解者を増やしていくことも私たちのミッションです。会社から成果について何か聞かれたら「ええ感じですよ」「大丈夫ですよ」って言ってますわ(笑)

甚田さん 泉北ニュータウンはベッドタウンとしてつくられたまちなので、大阪市内に働きに行って、ここは寝に帰ってくる場所だと思っている人がたくさんいます。遊ぶ場所がないという声も聞きます。私も、この仕事をするまでは同じように思っていました。

でも視点を変えてみると、おもしろい暮らしをしている人がいることに気づくはず。「つながるDays」を通して自分の手で物事を起こしていく人が増えて、泉北が好きという気持ちが芽生えたり、このまちでずっと生きていきたいと思ったりしてもらえたら嬉しいですね。

水野さん 泉ケ丘駅は、泉北ニュータウンのへその部分ですから。誰かと出会えたり、新しい発見ができたり、思い出をつくったり、一歩を踏み出したり、そういう場所になればいいですね。これからも「いつも楽しい泉ヶ丘。チャレンジできる泉ヶ丘」をアピールしていきます。

一見どこにでもあるような駅前の広場から、人と人、人とまちがつながり、主体的にまちに関わる人が増えている理由。それは、自分が暮らすまちを好きになってほしいと願い、場を提供する南海電鉄と、その思いに共感したNPO法人SEINが市民の思いを丁寧に汲み取って広場をチャレンジできる場にしているからでした。

広場から始まる新しいニュータウンの暮らし。これからどのような文化が生まれるのか楽しみですね。

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