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惹かれるまま邁進すればいい! 多彩な暮らしの選択肢に触れながら。都心のOLが、日本各地150軒以上のゲストハウスを旅するフリーの編集者になるまで。

“薄暗い井戸の底から、額縁の丸い青空を見上げていた。
 すると、一羽の青い鳥が、気持ちよさそうに横切って。
 「飛んでみたら?」そう聞こえた気がして、ジャンプ。”

これが、私とgreenz.jpとの出会いです。
……いや、失礼。ドリーミーな着色料を多く入れ過ぎました。

安野モヨコ先生の漫画「働きマン」を地でいくようなOLだった私は、都心の大企業勤めが正解という固定概念の中に勝手に入り込んでいました。ひょんなことから多彩な生き方に触れたことで、自分の生き方を見直そうと、行き先も定まらぬまま退職。

ちょうどその頃、友人が青い鳥のロゴマークのサイトでリツイートしたgreenz.jpのライター募集を偶然見かけて。よくわからないまま、未来の自分に宿題を押し付けるように応募。それが、2014年の初夏、28歳のことでした。

マニアックさと蓄積

greenz.jpに参加するまで、私は「ライター」という肩書きを名乗ったことはありませんでした。前職の業種は広告会社。でも、それは営業から原稿制作まで一連の流れを担うもので、営業の時間は多く、原稿の文字数は多くはなく。

ただ、アウトプットすることは昔から好きでした。年の離れた兄姉のいる影響で、日記の書き先は、小学5年生には自由帳からブログへ。今や懐かしいジオシティーズでホームページをつくってフリー素材屋をしたり、大学生のフリをしてチャットに加わったり。

その分、書籍による活字のインプットが少ない子どもでした。昔の自分に会えるなら、本を相棒にせよと教えたい。脳内で音声と映像に変換してしまい遅読。選書も下手で、内容に違和感を感じると一気にシャットアウト。お恥ずかしながら、読書が好きになったのはここ数年のことです。

なぜ、そんな私をgreenz.jpは仲間に入れてくれたのか。その答えは、マニアックさと蓄積だと思ってます。趣味ながらゲストハウス紹介サイトFootPrints(フットプリンツ)を運営し続けたことが、その証明になったのかなあと。

日本各地のゲストハウスやホステル150軒以上を、実際に旅して綴っています。ブログから転載した古い記事も多いので、年内に全面リニューアルを予定しています

クリスマスとゲストハウス

今では日本各地のゲストハウスを泊まり歩く日々を過ごす私ですが、実は、2010年24歳のクリスマスまで、ゲストハウスに泊まったことがありませんでした。

大阪で、会社と一人暮らしの家との往復生活を送っていた社会人2年目。表面張力をした仕事量に、社内の人間関係という揺れがかかり、あふれるように失敗を繰り返す日々。唯一のコミュニティで“底辺”というレッテルが貼られた気がして「このままではいけない、でもどうしたら……」と悩んでいました。

息抜きにと東京でシェアハウスをしていた友人のもとへ。そこで初対面の同居人と他愛ない話になりました。「将来何がしたい?」と、社会人になって尋ねられると思わなかった質問に、改めて自分の思いを棚卸しすることに。

以前からカフェめぐりと、ワークショップを取り入れた企画が好きだった私は、「カフェみたいに心地よい音楽と美味しいお酒やごはんがあって。でも、カフェみたいにテーブルごとに関係が分離してなくて。みんな分け隔てなく自由に交流できる。そんな空間がそばにある暮らしを送りたい」と伝えました。

京都で過ごした大学時代、鞄の中にはいつもカフェ本。あちこちめぐっては思い出にショップカードを集めていました。時々ラーメン屋めぐりも

数ヶ月後、その友人から「あなたのイメージに近い場所を見つけたよ」と連絡が来ました。お年頃にも関わらず空白だった12月25日土曜の予約を抑え、教えてもらったゲストハウスという場所に行くべく、初の国内一人旅をすることになります。

夢と地元

向かったのは、下町情緒あふれる東京の入谷。そこに、友人に教えてもらった「ゲストハウスtoco.(トコ)」がありました。自分より1歳上の人たちが、思い描いた空間を実現している。遠くない未来の選択肢を示唆された気がして、一目惚れのように感銘を受けました。

「ゲストハウスtoco.」のリビング&バー。初めて宿泊したのは、オープンして3ヶ月目の時でした


とはいえ、すぐに会社を辞めて開業準備をするのは、現状の逃げでしかない。そう思って「3年間で結果を出し、惜しまれるように辞めて、ゲストハウスをつくる!」と、妙な目標を掲げました。

翌年元旦から現サイトの前身となるブログを始め、平日は仕事に明け暮れ、週末は各地のゲストハウスをめぐり、将来のためにと訪問記録を書き溜めました。旅先で出会う人たちが価値観を広げてくれたおかげで、業績が伸び、2012年に東京へ栄転。そのタイミングで友人の協力を受け、ブログをサイト化しました。

東京へ異動すると同時に、“ゲストハウスのリビングみたいなシェアハウス”「noie(ノイエ)」を友だち4名とスタート。ちなみに、数年後フリーランスとなって付けた屋号は、シェアハウス時代の思い出を忘れないよう、パートIIだという気持ちを込めて「noiie(ノイエ)」にしています。

noieオープニングイベントの様子。入れ替わり立ち替わり、たくさんの友だちが遊びに来てくれました

ゲストハウスの存在を広める重要性を感じ始め、「つくりたい」から「伝えたい」へ思いがシフト。次第に、自分の働き方に違和感を覚え、退職。転職先を探す前に、地元の和歌山で気持ちをリセットすることにしました。それは偶然にも、あのクリスマスから約3年後、2014年のことでした。

一時的な帰省のつもりが、街の変化に惹かれ、そのまま根が生えてしまって。4年経った今でも、和歌山に軸足を置き、年間3分の1ほど県外へ出張するような暮らし方をしています。

和歌山に根を生やすきっかけをくれた、フードユニット「ブレンド感覚」の小泉博史さん(右奥)と長戸千紘さん(左奥)。だし茶漬けバーの様子

モラトリアムと開始の合図

私にとってゲストハウスは、暮らしの選択肢を広げてくれる場所です。年齢も職業も国籍も異なる多彩な価値観の人々が、フラットに交流する空間。そこに触れるたび、固定概念の外に連れ出してもらっている気持ちになります。

あの日の自分へ手紙を送るように、最初のきっかけを届けられたら。

そんな思いを抱えながら、“東京OL”から、“和歌山モラトリアム”になった私は「ゲストハウスの情報発信を仕事にできないだろうか。いや、きっと無理。このまま普通に大阪あたりで転職か……」と半ば消極的に考えていました。

しかし、2015年5月。渋谷ヒカリエの8F/COURTで3日間にわたる大規模なイベント「地域と生きるゲストハウスサミット」が開催され、登壇者であるgreenz.jp編集長の鈴木菜央さんの言葉に心を動かされます。

菜央さん 表面的な欲でなく、自分の中から湧き上がってくるような欲って、必然的に人のためになっていくと思うんです。

利己的な欲も極めれば、いつのまにか利他的な欲になっていく。突き動かされるほどの欲を実現させたら、社会性を持たないわけがないんです。分野だってなんでも良い。社会全体つながっているんだから。安心して好きなことへ邁進すればいい。

原点と星

以来、その言葉に背中を押されるように、ゲストハウスを専門分野とするフリーランスとして、greenz.jpだけでなくさまざまなプロジェクトで、執筆・編集・企画を担うようになっていきます。

2016年7月には、初の全国版ガイドとなる『ゲストハウスガイド100 -Japan Hostel & Guesthouse Guide-』をワニブックスから出版。実際訪れた中から100宿を厳選し、「アート・建築好きにおすすめ」や「子連れ家族におすすめ」など12のカテゴリーに分けて紹介。日本語のほか中国語と韓国語にも翻訳されました。

通称「赤本」。ゲストハウス初心者を読者イメージに、チェックインからチェックアウトまでの解説や基本情報のQAページも設けました

2017年8月から、東京にある大正大学の地域構想研究所による月刊誌『地域人』でゲストハウス紹介コラムを連載。2018年2月からは、クラウドファンディングのプラットフォームMotionGalleryとの共同企画をスタート。友人とユニットを組み、日本各地のゲストハウスを月1ペースで旅しながら、イベントを企画し、レポートと動画を作成する仕事をしています。


レポート動画。これまで、兵庫・広島・山梨・和歌山・神奈川・京都・北海道で開催しています。 ※動画一覧はこちら

こう書くとトントンと進んだように見えますが、氷山の一角でしかなく。水面下には、自分の気持ちを見失いそうになったことや、試しても上手くいかず苦しんだこと、伝え方に不足があり誤解や軋轢を生んでしまったことなど、反省エピソードが山ほど潜んでいます。そして今でもよく悩みます。

それでも、自分の原点を認識することで、星を読んで航海するように、迷子になっても進むべき航路に戻れる気がしています。

あの日の自分に宛てた手紙を綴りながら、ときおり星を見上げ、気付かされることの繰り返し。
そうやって結果的に「書く」が、私の仕事の一部になっています。

というわけで、こんな私で恐縮なのですが
よろしければ作文の学校でお会いしましょう。

– INFORMATION –

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