7月16日、greenz.jpのタグラインは「いかしあうつながり」に変わりました。

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不安いっぱいの大学生、クルミドコーヒーで“聞く”。 お互いをいかしあいながら働くために、いま私ができること。

「あなたはこのお店(会社)をいかして、どんなことを表現してみたいと思う?」

もしあなたが職場の上司にこう聞かれたら、どう答えますか?
実はこの質問、西国分寺にある小さなカフェ「クルミドコーヒー」で、オーナーの影山知明さんが、チームに加わる新しいメンバーに、最初に必ず問いかけているもの。

私は当初、この質問にはっきりと答えることはできませんでしたし、どうしてこの質問をされるのかもわかりませんでした。しかし実際にお店で働いた今、「あなたはお店や会社にどんな貢献ができる?」ではなくて、「あなたはお店をいかして、どんなことを表現してみたい?」。というこの問いかけにこそ、クルミドコーヒーの大切にしたいメッセージが詰まっていると感じています。

私、森野日菜子は、約1年前の就職活動中にクルミドコーヒーと出会い、アルバイトを始めました。“贈る”ことからはじめるクルミドコーヒーでの毎日の中で、“私らしさ”に出会ったことは前回お話しましたが、今回は、この問いかけを起点に、“その人らしさ”が表れる環境をつくるためのヒントを、探ってみたいと思います。

ご登場いただくのは、クルミドコーヒーで働く4人のスタッフのみなさん。この一つの問いかけから、いったいどんな働く環境が生み出されているのでしょうか。

はじめは、言葉にならない小さな想いだった。

今回お話を聞いたのは、店長の高井智之さん(左から2番目)、7年間クルミドコーヒーで働く沖居未佳子さん(右)、去年から新入社員として働いている本塩彩衣さん(右から2番目)、そしてアルバイトスタッフで大学4年生の木村理菜子さん(左)の4人。

みなさんはお店で働き始める時、オーナーである影山さんに「あなたはこのお店をいかして、どんなことを表現してみたいと思う?」と聞かれ、どのように答えたのでしょうか。

沖居さん はじめは、そこまで明確に表現したいことはなかったので、はっきりとは答えてなかったと思います。「あなたがお店で表現したいことは何?」と聞かれてはじめて、「なにか表現していいんだ。このお店を私の表現の場所にしていいんだ」と思いました。お店と私が、同じ目線に立っているのだなと感じましたね。

お店の中に佇む植栽の手入れや用意をしている沖居さん。「ふとした瞬間の香りだったり光だったり、クルミドコーヒーで過ごしたことで、日常の中にあるきらめきを感じてもらえたら」と話してくれました。

続けて、店長の高井さんはこう答えてくれました。

高井さん 明確に言葉にできることはなかったけれど、僕の心の中には何か種のようなものがあったのだと思います。きっとそれはみんなにあるもので。「表現していいよ」と言ってもらえたことで、その種が少しずつ育っていくことができたのだと思っています。

はじめは本当に小さな想いで、言葉にさえできない。けれど、そこにまわりから関心を持ってもらえることで自分自身の意識も向き始める。少しずつ、でもしっかりと、植物が土の中で根を張り地上に芽を出したりして、ゆっくりと育っていく。ふたりの言葉から、そんなイメージが湧きました。

コーヒーは、自分を表現するツール

先ほど「心の中に種のようなものがあった」と話してくださった高井さんは、現在、クルミドコーヒーのメニューの中で「季節の珈琲」を担当。季節のイメージからコンセプトを練り、飲むとその世界に引き込まれるような深い味わいのオリジナルブレンドをつくっています。

どんなきっかけで、オリジナルのコーヒーをお店で提供することになったのでしょうか。

水出しコーヒーを淹れる高井さん

高井さん 正直、このお店で働き始めた時は自分がコーヒーを焙煎するなんて思っていませんでした。入社した時も特別表現したいこともなかったし、コーヒーも人並みに好きだったくらいでした。ただ、コーヒーについて興味やできることも増えてきて、どこかで表現してみたい気持ちが出てきた頃に、他のスタッフやオーナーの影山さんに「お店で高井くんのコーヒーを出してみたら?」と言われて、やってみようと思ったんです。

僕が植物だとしたら、自分なりに表現することができてお店にも貢献できる機会として、コーヒー焙煎やブレンドづくりが芽を伸ばしたのだと思います。僕にとってコーヒーは、人と人がつながったり、まちとつながれたり、その人を受けとめるためのツールなのです。

「まだ土の中で、お店と地域がつながることをしたいという想いがある」と高井さんは教えてくださいました。きっとその想いも、これから芽となって成長していくのではないでしょうか。

ひとりがつくったきっかけが、まわりの人の表現の舞台に。

店長の高井さんだけではありません。クルミドコーヒーでは、社員もアルバイトも関係なく、それぞれの持ち味を表現することをお互いに支援しています。

アルバイトスタッフの木村理菜子さんと私は、大学3年生と4年生だった当時、月に1回クルミドコーヒーの定休日である木曜日の夜に「ろうそくの夜」といういつもと少し違った夜の時間を過ごしてもらう企画を始めました。企画を始めて3ヶ月。「ろうそくがあるだけで、こんなに時間が変わるなんて」と毎回お客さんに喜んでいただけています。

木村さんは、企画を通してどんなことを思ったのでしょうか。

木村さん アルバイトスタッフであるのに、お店で何かを表現してもいいと言われることや、実際に企画を持っていけばきちんと実現まで支援してくれることは、雇われているスタッフというより、人として見てもらえているような感覚で、ありがたいと思いました。

でもそれ以上に大きいのは、私たちの企画の中で他のスタッフが新しい挑戦をできたり、これから先の「ろうそくの夜」の中でこんなことをしてみたい、という声を聞けたりしたこと。私の企画から生まれた舞台で他の人が表現すること、それはクルミドコーヒーのおもしろさを引き出すことにつながると思っています。

こんにちは、と迎えてくれる木村さん。まっすぐな笑顔で、いつもお客さんやスタッフを和ませてくれています。

クルミドコーヒーでは毎月のスタッフ全体のミーティングや毎週の社員ミーティング、そして日々の営業の中でのコミュニケーションを通して、お互いの心の中にある想いに耳を傾けることを大切にしています。

一緒に働く仲間がどんな未来を見つめているのか、どんなことを幸せに思うのかを一つ一つ丁寧に知っていくこと。その中で、お店を舞台にして、小さな表現を始めてみることを支援していくこと。そしてスタッフ自身が、自分の持ち味をいかせるような仕事を見つけていくことの可能性を、店長の高井さんは感じているんだそう。

高井さん その人に任せることで、何が生まれるのかわからない。それが圧倒的に、おもしろいんです。

先ほどから私は、「支援」という言葉を使ってきました。「応援」でなく、「支援」。辞書を引くと、「応援」は精神的な、「支援」は労力や金銭的な援助とあり、オーナーの影山知明さんは著者の中で、「支援しあう」関係性をつくっていきたいと語っています。

その人の心を大切にして、どうにか力になろうとすること。それは、精神的な援助から一歩踏み込んで、心と体を使っての援助ではないでしょうか。クルミドコーヒーで働いて感じたのは、スタッフ間やお店とお客さんの間において、自分から「支援」することで相手の「支援」する姿勢まで引き出されているということ。その繰り返しが、やがて自分自身やお店に還り、お互いの持ち味をいかすような関係をつくっているのです。

その意味で、「いかしあう」関係性は、「応援」よりも「支援」から始まるのだと私は感じています。

私から、“まわりといかしあう関係”をつくる

こんなふうに、クルミドコーヒーではオーナーの影山さんの「このお店をいかして何を表現したい?」という問いかけから、スタッフそれぞれが自分の持ち味や想いを自由に表現し、互いに支援していく風土が育ってきました。

「クルミドコーヒー以外の場所でも、そんな関係をつくりたい」。

就職を前に、私はそんなことを考えるようになりました。そして、クルミドコーヒーで行われていることの本質である、「その人に関心を持って、聞くこと」を大学キャンパスのある中野のまちで始めてみました。

中野のまちで活動する47人の方々のまちへの想いを、リレー形式で聞いていくインタビュープロジェクト。その人の内面に関心を寄せ、聞き、受け止める。お一人お一人の目と発せられる言葉に向き合う日々の中で私の中に生まれたのは、「もっとその人のためにできることを探したい」という気持ちでした。

さらにインタビューを進めていくうちに、「話を聞いてもらって、背中を押してもらった。言葉にしてみて、改めて自分の心の中の気持ちに気がつくことができたよ」という言葉をもらえるようになりました。

私はこのプロジェクトを通じてより周りの人への関心が高まり、家族やパートナー、身近な友達が何を想い何を見つめているのかを聞くようにもなったのです。

そして今回、7年間お店で働いている沖居さんと、新入社員の本塩さんにインタビューをしていく中で、ふたりの中にもまだ芽生えていない種があることに気づかされました。

「日常の中にある小さなきらめきを、クルミドコーヒーで時間を過ごすことによって見つけてほしい」と願う沖居さん。お菓子やパンを食べてほしいという気持ちの前に、そのお客さんにとってクルミドコーヒーで過ごす時間の中で一つでも心に残る瞬間があればと、店内のお花や空間そのものを彩ることに気持ちを込めています。

そして、「お店に来てくれた人を、一度でも笑顔にしてお見送りしたい」と、接客にささやかな工夫をする本塩さん。人が成長したり学んだりする場面に興味がある彼女は、いつもお客さんやスタッフに温かい眼差しを送ってくれます。

インタビューを通してより深くふたりのあり方を知り、私はふたりをどんなふうに支援できるだろうと、自然に考えるようになりました。

クルミドコーヒーでは、伝票の代わりに小さな木の動物たちが席に置かれます。「この子、私のお気に入りなんです」と言ってお客さんに手渡すという本塩さん。コーヒーやお菓子と一緒に、ちょっと嬉しくなる瞬間を届けたいという想いが表れています。

「聞くこと」。

私は今回のインタビューを通して、最初の面接では答えられなかった「お店をいかして、何を表現してみたい?」の答えを見つけました。そしてそれは同時に、「お互いをいかしあいながら働くために、いま私ができること」の答えでもあります。

誰にでもできること、かもしれません。でもたったそれだけのことで、自分の周りにいる誰かの心は、ほっとしたり未来に向けてワクワクしたりするかもしれない。置かれている環境がどんなものだとしても、自分からはじめられる、まわりの人と共にいかしあいながら生きていくための一歩なのかもしれません。

これなら、何だか私にもできる気がしています。

さて最後に、あなたにもこの問いかけを。

「あなたが今ある環境をいかして、表現したいことは何ですか?」

答えが見つかったら、いえ、はっきりとは見つからなくても、ぜひ私に聞かせてくださいね。

(Text: 森野日菜子)