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ポートランド発、ホームレスによるホームレスのためにつくられた尊厳の村「Dignity Village」に行ってきた!

全米で住みたい街の上位に選ばれたり、日本でも注目を集めているポートランド。しかし、CITY Journalの記事によると、ポートランド市を含むマルトノマ郡でホームレス状態にある人々は2015年1月時点で約3,800人いるとされ、うち約1,800人以上が橋の下や公園、歩道などで寝泊まりしているといいます。

そんなホームレス問題をタイニーハウスで解決しようと取り組むコミュニティを見つけました。それが、今回ご紹介する「Dignity Village」。

ホームレス状態に陥り、路上に寝床を構える人々が“普通”の暮らしを取り戻す場所として2004年に開設された「Dignity Village」では、住人たちはお互いを親しみを込めて“村人”と呼び合っているといいます。

家賃は月35ドル(約3,900円)。住居と食事の提供に加えて、携帯電話やラップトップの充電ステーション、共同台所やシャワー、ポータブルトイレも完備。

主な管理運営は、村人の中から民主的に選ばれた9人が担当。村では暴力や窃盗、迷惑行為、アルコールやドラッグなどは禁止です。また、週10時間以上の奉仕活動が義務付けられ、芝刈りや薪切り、パソコン修理など、それぞれが村の運営に貢献します。

「Dignity Village」の基本的ルール
1)自分と他人への暴力の禁止(武器を見せる行為も含む)
2)盗みの禁止
3)アルコールの摂取、違法なドラッグの摂取、または器具を使用することは敷地内および半径1ブロックの範囲で禁止
4)村の平和や健全性を乱す、破壊的な行為の禁止
5)学校に行っている人、仕事がある人を除き、全員がコミュニティの一員として週に10時間の労働を行うこと
※この5つのどれかに違反した場合、コミュニティが提供するさまざまなサービスとコミュニティから除外します

規則を破ったり、3カ月連続で家賃を滞納すると、強制退去を余儀なくされます。村人は支援される存在ではなく、自立性と主体性が求められる「Dignity Village」メンバーの一員なのです。

ポートランド市からは、土地の助成の他、ソーシャルワーカーが週3回、村に派遣されています。村人の仕事探しや履歴書の書き方のアドバイス、医療機関への移動など、彼らの自立につなげるサポートをしているのです。

現在は、ポートランド市からの助成を得ることで維持している非営利の「Dignity Village」ですが、将来的には運営面でも資金面でも自立したコミュニティを目指しています。

同時に、ホームレス問題に悩むアメリカの他都市にも「Dignity Village」のモデルは波及し、オレゴン州ユージーンの「Square One Villages」、ワシントン州オリンピアの「Quixote Village」、ウィスコンシン州マディソンの「OM Village」などでコミュニティづくりが進んでいるそうです。

今回は、2014年夏に実際に「Dignity Village」に足を運んだgreenz.jp編集長の鈴木菜央のレポートをお届けします!

鈴木菜央による現地レポート!

「Dignity Village」が位置しているのは、ポートランド空港の近く、ダウンタウンから車で15分くらいの場所です。敷地は、「Portland Leaf Composting Facility(ポートランド市コンポスト施設)」の中にあります。

ちなみにポートランド市では、ゴミの分別に「コンポスト」があって、こんな「Green compost roll cart」に台所から出た生ごみ、庭から出た有機物をゴミに出すことができます。日本では生ごみを収集している自治体もあるようですが、感覚的には、まだ一般的になっていないかもしれませんね。

入り口の様子。フェンスで囲まれていて、尋ねる人は、入り口でチェックインする必要があります。

「Dignity Village」は経済困窮者のために、自主的に運営している非営利コミュニティとして、2004年にはじまって、僕が訪れた2014年当時は43戸に52人が住んでいました。

「Dignity Village」の前身は、2000年のクリスマスの前日、ホームレスのグループがポートランド市内ダウンタウン近郊に占拠して設営したテント村「Camp Dignity」です。この動きをサポートする議員を含む賛成派と反対派の議論を巻き起こしたそうですが、組織化されたために行政は交渉をせざるを得ず、話し合いの結果、ポートランド市が認定する形で現在の場所に移ってきたとか。

行政に認定された、はじめてのコミュニティであり、アメリカでもっとも長く続いているそうです。ホームレス自身が自治を行っているのもすごい。

「Dignity Village」の前身、スクワッティング(占拠)したテント村だったころの写真。はじめのテント村は警察に追い出されたが、サポーターと共にねばり強く交渉して、現在の場所を勝ち取ったそうです。”Dignity”とは、尊厳という意味。尊厳をもう一度取り戻すために、村をつくったのでしょう。考えさせられます。

敷地はざっと10分で一周りできるくらいの大きさ。各自の家は10x12ft(3×3.6m=10.8㎡)と決まっていて、みんなで協力して建てたそうです。つまり、セルフビルドのタイニーハウスですね。地元のアーティストとも協力しながら、家を塗ったりしているそう。

こちらは緑もたくさんで、暮らしやすそう。トイレ、シャワーは共同で設置しているので、個別にはありません。

アメリカ国旗。言ってみれば「アメリカンドリーム」に破れた人たちなんだと思うんだけど、どんな気持ちで国旗を掲げているんだろう。今回は聞くチャンスがなかったけど、次に行った時は、聞いてみたい。

ソーラーパネルがついた家も4〜5戸見かけました。戸別の家に電気が引かれていないので、少しでもお金がある人はパネルを買うのだとか。

こちらが共同シャワーがある小屋。今はプロパンガスでお湯をつくっているけど、お金がかかって大変なので、ゆくゆくは太陽熱温水器をDIYしたいそうです。

壁の絵がかわいい!

これは、ある女性アーティストの作品で、ホームレスのためのモバイルタイニーハウス。ホームレスたちの現状を知ってもらうことを目的に、ホームレスの一人がこれを公共の駐車場に停めて、数日ごとに移動を繰り返しながら住むというアートプロジェクトは、警察や多数のメディアが取材にやってきて、大変な議論を巻き起こしました。

アートを活用して、法律的にグレーな領域で活動することで世論を喚起することを、彼らは得意としているようです。日本ではなかなかむずかしそうですが、興味深いですね。

共同トイレ。イベントとか工事現場用のトイレがずらっと並んでいます。トイレも処理費用にお金がかかるので、コンポストトイレにしたいそうですが、まだ実現していないそう。

そしてこちらがコモンズ。共同のスペースです。

娯楽、交流、話し合いなどを行うコモンルームの中の様子。ソファ、大きなテレビ、DVD、本棚、PC、電子レンジ、Wi-Fi、薪ストーブなどがありました。グリッドの電気が来ているのは、コモンルームのみ。村の話し合いなどがここでされるそうです。

コモンルーム内にあった共同の本棚。

尊厳を取り戻すために村をつくった

今回案内をしてくれたのは、「Dignity Village」のリーダーであるMitch Grubic(以下、ミッチさん)。彼自身も元ホームレスです。敷地をひと通り見て回った後、お話を伺いました。

普通のホームレスシェルターはホームレスを保護するためにあるので、カップルで生き延びてきたとしても男女が別れなくては入れなかったり、ペットを飼うことを諦めなくてはいけないそうですが、「Dignity Village」では、そうではないとのこと。

むしろ、周辺で捨てられた犬や猫を引き取って育てていて、尊厳を守ることを大事にしているそうです。ちょうど訪ねた日は、動物の健康をチェックするNPOがボランティアで実施する定期検診日で、村中の猫、犬が集められて、不安そうな顔をしていました。

村の年間予算は24,000ドル。住民は一人あたり35ドルを自治会に払いますが、連邦政府、州政府からも一切の助成は受けておらず、薪を切ったり、鉄くずを集めたり、苗を育てて、無料で利用できるオンラインのローカル売買サービス「Craigslist」で販売したりして、自ら暮らしを立てています。財政的には本当にギリギリで運営しているとか。さまざまなNPOと、衣食住の分野で協力体制をつくっているそうです。

今では家電、家具、鉄くずが持ち込まれることも増えて、それらを分類、修理した上で「Craigslist(クレイグスリスト)」で販売しているそうです。村の貴重な外貨獲得の一つ。

こちらは育苗施設。天井が透明になっている温室です。ここでさまざまな種類の苗を育てて、近隣のファーマーズマーケットなどで売るそうです。こちらも貴重な外貨獲得源。

こちらは薪割り場。冬の暖房用。地域の資源を有効活用することで、コストをかけずに暮らしを成り立たせます。

ここは自治区で、行政サービスなどは受けていないので、全員に仕事があるのだとか。ちなみに、ミッチさんは「Outreach(渉外担当)」。僕たちのようなツアーの受け入れ、メディア対応、新しく村に入った人への教育を担当しています。新人に、村のミッションを理解してもらって、「エキサイトしてもらうことが大事なんだ」とのこと。

ミッチさん自身は、「Dignity Village」と地元の大学とのつながりに力を入れてきたそうです。かつては車で暮らしていたミッチさんですが、この村のリーダーになって3年だった取材当時、そろそろ次のリーダーに引き継ぎたいと話していました。

Outreach(渉外担当)のミッチさん。他の仕事の役割には「House Keeping(そうじ係かな?)」「セキュリティ」「薪」「ガーデニング」「鉄くず担当」「Bean Counter(豆数え役)=みんなの労働管理者」「家電担当」などがあるそう。

「Dignity Village」の将来について聞いてみました。ここは市から借りている土地なので、いつどんな形で終わるかわからない不安の中で暮らしているので、ゆくゆくは、自分たちの土地がほしいそうです。

最後に、ミッチさんは

ポートランドはCoolな街さ。こういう「Dignity Village」みたいなことが起きるのは、ポートランドならでは。ポートランドを楽しんでね!

と言ってくれました。

今回「Dignity Village」を訪ねて、ホームレス・アクティビズムという考え方を知りました。

バラバラになっているホームレス/生活困窮者たちを組織し「Camp Dignity」を立ちあげて、行政と交渉することがなかったら、今の「Dignity Village」はなかったでしょう。

組織になっているから、さまざまなNPOがビレッジと共同でプロジェクトを行うことも、大学などと連携して、ホームレス・アクティビズムのあり方を研究したりすることも、アーティストがつくったモバイルタイニーホーム・プロジェクトのように、さまざまな領域の人がホームレス/生活困窮者の問題に関わることができるようになったのです。

もうひとつ感じたのは、恵みを活かす暮らしの可能性です。

みんなで協力して薪を集めて、薪ストーブで暖を取る。
みんなで余った鉄くずを集めて売る。
温室で苗を育てて、売る。
みんなの食べ物をつくる。
NGO、宗教団体や学校と協力して、教育の場にもしてもらう。

自然からの恵みだけでなく、都市には都市の恵みもあります。そういう恵みを最大限収穫して、暮らしに活かしている。「Dignity Village」から学べることは多いと思いました。

「Dignity Village」には、日本のホームレス/生活困窮者問題の解決のヒントがいろいろありそうです。

(Text: デラベキア牧枝鈴木菜央

[via YES! Magazine, The Seattle Times, City Journal, Tent City Urbanism]

[この記事は、2014年12月に「鈴木菜央のブログ」に掲載した投稿を再構成したものです。]