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子育て支援“する側”“される側”を越えた「共同子育て」で、子どもも大人も輝く地域をつくる「南大阪子育て支援ネットワーク」の取り組みとは。

現実と理想は、異なることが多いもの。子育てもそのひとつではないでしょうか。私自身、小学1年生の男の子を育てていますが、実際の子育てはイメージをはるかに越えて大変でした。赤ちゃんを抱えるお母さんは、落ち着いてごはんを食べたり、時にはトイレに行く時間さえままならないと聞いていましたが、それは想像よりもずっと長く続きました。

近くに頼れる家族がいればいいのですが、親元を離れて暮らす人も多い近年。加えて、他の先進国と比べて日本における女性の社会的地位は圧倒的に低く、保育制度が完璧に整っていないにもかかわらず、女性が働くことが推奨される風潮も高まっています。現代のお母さんはまさに四面楚歌。こんな社会で、子育てに何が必要なのでしょう?

今日は、そんな現代の日本だからこそ、「共同子育て」をキーワードに子育ての新しい仕組みをつくり出そうと取り組む「南大阪子育て支援ネットワーク」の活動を紹介します。

企業とNPOの協働で生まれた「南大阪子育て支援ネットワーク」

「南大阪子育て支援ネットワーク」は、「大阪ガス(株)」が発起人となり、南大阪で子育て支援に取り組む「NPO法人SAKAI子育てトライアングル」(大阪府堺市)、「NPO法人えーる」(大阪府貝塚市)、「NPO法人やんちゃまファミリーwith」(大阪府松原市)の3つのNPOが集った団体です。そして、これらのNPOをつないだのが、堺市でNPOの中間支援を行う「SEIN(サイン)」。

今回の取材では、「大阪ガス近畿圏部 南部地域共創チーム」杉本浩一さん、「大阪ガス近畿圏部 ソーシャルデザイン室」南貴美子さん、「NPO法人 やんちゃまファミリーwith」理事長の田崎由佳さん・中西尚美さん、「NPO法人えーる」代表理事の朝日陽子さん、「NPO法人SAKAI子育てトライアングル」代表の奥村仁美さん、「NPO法人SEIN」代表理事の湯川まゆみさんと事務局長の宝楽陸寛さんにお話を伺いました。

左から、「大阪ガス」杉本さん・南さん、「やんちゃまファミリーwith」田崎さん・中西さん、「えーる」朝日さん、「SAKAI子育てトライアングル」奥村さん、「SEIN」湯川さん・宝楽さん。

NPO法人「SAKAI子育てトライアングル」
核家族化に伴う子育ての孤立化を防ごうと1995年任意団体として発足。2005年にNPO法人化。子育て中のお母さんや就学前の子どもが集える「堺kosodateつむぎ広場」「みはらっこわくわくルーム」などの支援施設を運営し、子育て・子育て支援のネットワークをつくる。

NPO法人「えーる」
30年の歴史を持つ「貝塚子育てネットワークの会」からスピンアウトするかたちで、2010年にNPO化。貝塚市でコミュニティスペースの運営、一時保育、体験授業、キャンプ等の活動を行う。「まちに住む誰もが輝く街になってこそ子どもが輝く」というコンセプトの下、子育て・子育ち支援とまちづくり支援の2本柱で活動する。

NPO法人「やんちゃまファミリーwith」
とある虐待事件をきっかけに、孤立しないで一緒に子育てしようと「子育てサークルやんちゃまファミリー」を設立。その後15年後に法人化。松原市を中心に、就学前の親子がつながれる「こみゅにてぃーひろばNIKOニコ」の運営、お母さんのための相談窓口、認知症や障がい者も集う「おたがいさんカフェ」の運営など幅広く活動し地域に元気な大人を増やし、子育てしやすい社会をつくることをビジョンとしている。

はじめに、「大阪ガス」の杉本さんに、なぜこのようなネットワークを立ち上げたのかについて伺いました。

杉本さん 「大阪ガス」の近畿圏部は、当社のエネルギーをいくらお使いいただけるかというよりも、地域のお客さまに当社を選んでいただけるために、社会貢献や地域活性化が業務の目的になります。地域が元気になることで、ガス会社も元気になろうよ、と。地域が元気になるお手伝いとして、子育て支援にも関わらせていただこうと考えました。

とはいえ、企業として実際の子育て支援に携わっているわけではなかったため、杉本さんらは大阪南部を中心にNPOの中間支援を行なっている「SEIN」に相談を持ちかけました。その思いを受けた「SEIN」は、南大阪の各地でそれぞれ長年子育て支援に取り組んできた、影響力のある3つの団体を選出したというわけです。「SEIN」の事務局長・宝楽陸寛さんは、それぞれの団体を次のように見立てました。

宝楽さん 子育て支援は現場の声が一番大事なんです。しかし、市を越えたつながりは生まれにくく、せっかくの工夫やノウハウが共有されにくいという課題もあります。

お声掛けした「SAKAI子育てトライアングル」はひとりで子育てをしている人に寄り添い、描くビジョンを示してくれる団体。
「えーる」は子育てからまちづくり、多世代につながりの輪を広げるという視点で、当事者の声をぶつけてくれる団体。
「やんちゃまファミリーwith」は、子どもとお母さんだけでなく、幅広い層に向けたコミュニティの場を運営しているので、課題と突破力を併せ持っている。

それぞれ活躍する地域も得意分野も違っていて、だからこそこの3つの団体にお声かけしたのです。

まずは、目指す方向をひとつに

それぞれに子育て支援のノウハウと経験を持つNPOが集ったこともあり、当初はなかなか足並みが揃わなかったこともあったそう。しかし何度も会議を重ね、自分たちが目指す方向を煮詰めていったところ、「共同子育て」というキーワードが見えてきました。

子育てを当事者だけに任せるのではなく、地域全体で1人の子どもを見ていく方法を考える。その考え方が地域をまたいで広がることで、子育てしやすい社会を実現しようという活動の芯が見えてきたのです。

奥村さん 子育て支援って、どうしても“支援する側”と“される側”に分かれてしまう。すると、子育て当事者がサービスの受け手になってしまい、お母さんの力が弱くなっていってしまうんです。

サービスの受け手となると、在宅で子育てをする人、働きながら子育てをする人の間でも環境の差があったり、お父さんとお母さんの間で対立があったりする。でも本来子育てって、そういうものではないですよね。こうしたさまざまな立場を超えて、みんなで考えていく子育てのかたちを「共同子育て」と呼んでいます。

団体の方向性が見えてきた奥村さんたちは次に、お互いの強みを生かしたイベントを開こうと考え、「はっぴー子育てフェスタ」を松原市で開催しました。2014年のことです。

会場や周辺への根回しは「やんちゃまファミリーwith」が、当日の運営ボランティアの手配は「SAKAI子育てトライアングル」が、外遊びなどのコンテンツ企画は「えーる」が担当しました。イベントは会場が位置する「トレビアン天美商店街」を巻き込んで、スタンプラリーを開催したり、盛りだくさんな内容で大盛況でした。しかし、イベントをしてみて発見もありました。

「やんちゃまファミリーwith」の拠点「こみゅにてぃーひろばNIKOニコ」にて。ママも楽しい、癒しと手づくり体験や雑貨販売などのブースを設けました。

宝楽さん 「共同子育て」の理念が伝わるようにとイベントを開催し、改めてお互いに得意分野もわかったのですが、でも本当にすべきことって、「イベントじゃないよね。社会に届きにくい当事者の声を届けることだよね」ということがわかったんです。

イベントだけで根本の生活は変わらないですから。

またこのイベントの反省会では、「子育て当事者と支援する自分たちにはまだ溝があって、当事者の声をしっかり拾えていなくて、思いを理解できていないかもしれない」という話も出ました。

子育て世代のリアルな声を聞く

「南大阪子育て支援ネットワーク」を形成する3つの団体は歴史も長く、それぞれスタッフも大勢いるのですが、逆に最も手のかかる未就学児を抱えたお母さんとは少し世代が離れているのも事実。社会情勢や暮らしの変化がダイレクトに反映されるのが子育て事情ですから、各団体も改めて、多くのママのリアルな現状を知る必要がありました。

そこで「はっぴー子育てフェスタ」開催の翌年2015年には、子育て当事者と子育て支援者がお互いに話し合う「子育てトークカフェ」を南大阪の各地で開催することになりました。

トークカフェは子育て真っ只中の当事者と、ボランティアやNPOなど子育て支援に関わる層が交わって、お互いの本音が出せるように工夫しました。

出てきた本音の中には、実にさまざまな意見があります。写真真ん中のふせんに見える「保育園に任せっぱなし」は、筆者も激しく共感するところ。

この「トークカフェ」は1年間で堺、貝塚、松原などの各地で計5回開催し、計219名が参加しました。そこで出た声を分類し総括してみると、今の子育て層を取り巻く三重苦が見えてきました。

その3つとは、
1.経済的しんどさ、
2.子育てに関して夫や周りからの理解がないこと、
3.社会からの孤立。

「子育てはお母さんがするものでしょ」と言葉にするでもなく刷り込まれてきたイメージは、今の日本社会に蔓延したまま払拭しがたく、お母さんはどんどん社会の経済活動から疎外され、子どもの命を育むという人間の大仕事をずしりと乗せられる現状が浮き彫りに。

また、「子育てがひと段落して社会復帰できるのか」といった、子育てする人の働き方をめぐる声が意外にも多くあがったといいます。それはつまり、女性の生き方の問題。そして働き手として女性を見つめた場合、子育てしながら働く女性を受け入れる企業側の問題でもあります。

このように子育てを取り囲む困難さは、働き方、暮らし方、家族や地域社会との関係性などの問題と深く絡んでいるため、ひと筋縄ではいきません。社会の仕組み(ハード)が変わっていかなければ、その中に暮らす私たちもなかなか変われないものです。

そこで、この声を行政に届けるべく、団体として「堺市シティプロモーション認定事業平成27年度」に手をあげました。そこで「子育てするママたちにも、それぞれ自分らしい働き方がある」と気づいてもらうために、「堺で見つける!子育て×はたらくフォーラム 〜私らしいはたらき方と出会う一日〜」を開催。堺をフィールドに活躍する3人の女性をパネラーに迎えたパネルディスカッション、全員参加のトークなど充実したフォーラムとなりました。

ボランティアで託児などを行う岡真由美さん、伝統の染めの手ぬぐい「にじゆら」の広報・藤浦泉さん、太鼓を通してノーマライゼーションを考える田林久子さんらが登壇しました。写真はパネルディスカッション後に行われた全員参加の「子育ていいたい放題!!」の様子。

宝楽さん フォーラムを開いた経緯は、「共同子育て」の理解を広めようということでしたが、働くって何だろうと考えたときに、「はたらく=(傍 はた・周囲)を(楽:らく)にすること」だよね、となったんです。

子どもを持つお母さんが働くことに関していろんな選択肢があったほうがいい。そこで働くことのロールモデルとして、いろんな方や多様な働き方を実践する皆さんに登壇していただきました。

子育て層のリアルな声を行政に届ける

こうした諸々の活動が評価され、「南大阪子育て支援ネットワーク」は、堺市が2018年から新たに創設した「さかいNPO協働大賞」を受賞しました。これは堺市において、市民活動団体と企業、大学などが協働し地域課題解決のモデルとなる事業を提案した団体を表彰するもの。「大阪ガス」、3つの子育て支援NPO、そしてそれをつなぐ「SEIN」が対等につながりあった結果が成果となったものです。

宝楽さん 堺市でこのような賞をいただきましたが、子育てにまつわる問題はどの地域でも同じだと思うんです。これからは子育て当事者の声に耳を傾けた、地域で総力を結集して取り組めるような事業が生まれる政策提言につなげていけたらと思っています。

子育てのリアルな声は、なかなか行政にはとどきません。このような政策提言はとても意義があること。行政と現場の持つ温度差について、奥村さんは実体験を交えて教えてくれました。

実は奥村さんらの世代も子育ては孤独だったそう。こうした孤独に悩むお母さんたちが、子育てしやすい世の中を目指して立ち上げたサークルが、実はとてもたくさんあるのです。自ら立ち上がったお母さんたちは、サービスの受け手としてではなく、主体的に子育てしながら社会と関わることができました。

しかし、こうした地道なお母さんたちの力を少し弱めてしまう流れがありました。少子化対策の一環で1994年に策定された「エンゼルプラン」と1999年に改められた「新エンゼルプラン」です。具体的には保育園や幼稚園の低年齢時の受け入れ枠の拡大、延長保育や休日保育の推進、育休普及率のアップ、短時間勤務制度の拡充などが盛り込まれました。

子育て実情の変遷を語る奥村さん。

奥村さん この頃から、小さな子とお母さんが集うサークル活動をしていてもお母さんたちがやって来なくなって。「みんなどこに行ってるの?」と思ったら保育園などの園庭開放に行ってたんですね。

園庭開放とは、就学前の小さな子どもとお母さんらに、近隣の幼稚園・保育園の園庭や一部施設を定期的に開放するもの。無料で遊具が使えたり、園によっては先生が一緒に遊んでくれたり、と孤独な子育てママには一見嬉しい制度です。しかし、そこがちょっとした盲点でもあります。

こうした行政主体の支援は、自主的に手弁当で運営を続けてきた子育てサークルの力を奪うことにもなったのです。

奥村さん 私たちはこの頃、場所代などは運営側も参加者もみんなで出し合ってたんです。あそこもタダ、ここもタダとなったら太刀打ちできなくなります。そこから先はずっとそんな状態でしたね。

宝楽さん 無料なのはありがたいけれど、じゃあ子育てしやすくなっているかというとそうでもない。

田崎さん ほかにも地域のお年寄りや子どもの身近な相談員、ボランティアが主催するサロンが増えていく中、ママたちが受け身になってきたと感じていました。

たとえば、サロンに行って、何かをつくるとなっても、ちょっとシールを貼っただけで簡単にできてしまうようなものが提供されていたりするんです。さらに追い打ちをかけるように100均のお店が増えてきました。簡単な工作キットが安く買えるようになり、ママたちの手づくりの場が少なくなっていきました。時代が本当に変わったなと思いましたね。

子育てに、一番足りないものって?

問題は、施策を決定する行政や国に当事者がいないことだと「SEIN」の宝楽さんは語ります。しかし子育ては「これでいいのかな?」あるいは「これでよかったのかな?」と、答えのない問いかけの連続。

当事者ですら、子どもの成長に応じて悩みの質や深さが変化します。必要なサポートもバラバラ。ここで、取材に集まってくださったみなさんに、「子育てで今、一番必要なもの。あるいは子育てで足りていないものは何でしょう?」と問いかけてみました。その答えが示唆に富んでいたので、読者のみなさんにもシェアしたいと思います。

口火を切ったのは、自身も5歳の女の子を育てる「SEIN」理事長の湯川まゆみさん。

湯川さん 子どもと過ごす時間です。朝8時〜9時の間に保育園に預けて19時か20時頃まで仕事をしています。延長保育で20時まで見てくれるものの、迎えに行ったら子どもはすっかり遊び疲れて車で寝てしまい、朝まで眠ることもしばしば。親子の時間がまったくないです。

宝楽さん 対話ですね。住んでいる地域で子ども会がなくなったから復活させようという動きがありますが、当事者負担が大きかったからなくなってしまったはずなのに、実際に現役の子育て世代との対話があまりなくて、今の時代で働く人も、子育てがひと段落した人も、子どもがいない人にも関わりやすい仕組みや体制を対話しながらバージョンアップすることが大事。それが伝わっていないようなんです。

奥村さん 人手です。私は堺市で病児保育のNPO運営にも関わっていますが、そこでも人手が足りない。ちょっと見てくれるだけでも子育てって楽になるんですよね。自分自身の子育てを振り返っても、家族という枠にとらわれすぎて、「しんどいから、誰かみて」ということもできなかったですね。

中西さん お母さんたちは社会的に孤立してると感じるから働くけど、働いたら子どもと話したり過ごしたりする時間が減る。あとは、「旦那が子どもをみてくれない!」という声はよく聞きます。

田崎さん ボランティア精神と近所付き合いの希薄ですかね。以前は近隣のおっちゃんやおばちゃんが、言わなくても「ちょっと見ておいてあげるよ」ていうのがあったんですけど。最近はボランティアを募集しても有償ボランティアだったら応募が殺到するけど、無償だと本当に応募が少ないです。

南さん 他者への理解と思いやり。相手を理解して、できるときにできることを、ちょっとやることができればいいと思うんです。個人としても企業の一員としても、社会と双方向にコミュニケーションしていけたらと思います。

杉本さん 各所から反感を買ってしまうかもしれませんが、“母親の愛情”かなと思います。諸々事情はおありでしょうが、もうちょっと子どもに声かけてあげてほしいな、と思ってしまいますね。

実に深く、多様なキーワードが出てきました。そしてここで改めて、「南大阪子育て支援ネットワーク」として、どんな未来がほしいかを尋ねました。

田崎さん 子育て中もそうですが、子育てが終わったときに「ここで育ててよかったな」と思ってもらえる未来。そのために子育てだけじゃない人と人がつながる地域づくりをしていきたいです。

奥村さん いろんな親が子どもと関わり、育てる社会です。今って、子育ては主に母親がするじゃないですか。私は事情があって親と暮らせない子を預かることもあるのですが、周囲がかわいがったら親がそこにいなくても、表情が生き生きしてくるんですよ。だから家族という枠にとらわれずに、いろんな人に愛情を注いでもらえる社会がほしいですね。

奥村さんは、最後に「でもそのためには、革命を起こさないといけないかな」と付け足したのが印象的でした。
改めて振り返ると、家族や地域社会のあり形はこの20世紀で大きく様変わりしました。その中で最適な子育ての方法を、私たちは手探りで探している気がします。

奥村さんが言うように、家族という枠にとらわれないことも、ひとつのあり方。みなさんはどんな子育てのかたちがほしいですか? その子育てのかたちは今の社会で実現できているでしょうか?もしノーと答えるならば、奥村さんが言ったように革命が必要です。

社会を大きく変える革命はひとりでは起こせません。けれども何万、何十万もの声がうねりとなれば、やがてあらゆる困難の壁は崩れます。この記事が、その声なき声を、読者のみなさんと一緒につくっていく一歩になりますように。