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出会いをつくる。私自身に浸る。双方が変わる。都市と地方の共創に必要なことって? 平野彰秀さん・信岡良亮さん・岡野春樹さんが考えた。

「より多くの資源を使って、より多くのものを生産し消費することが幸せ」とされた価値観は、今や過去のものになりつつあります。

私たちが生きているのは、古い価値観から脱却して、それぞれに生き方や働き方を模索しながら進む時代。誰も見たことのない世界に向かって、私たちは何をどうすればよいのかわからないところから、手さぐりで進んでいかなければなりません。

そんなとき、志を同じくする人たちが集まり、ともに可能性を探り、一緒に行動を起こして、解決策を生み出していくのが共創です。

数ある共創の事例の中には、発案者に宿った種火がいろんな人の心に火をつけて、発案者の手を離れても続いているものがあります。その一方で、せっかく灯った種火がいつの間にか立ち消えてしまうものもあります。

持続可能な共創はどうすればつくれるのでしょう。
共創できる人材はどのように育っていくのでしょう。
そして、”都市と地方との共創”を成功させるポイントとは何なのでしょうか。

そんな疑問を解決すべく、今回は”共創”というキーワードで集まっていただいた3人の鼎談でお届けします。

1人目は、岐阜県郡上市石徹白で小水力発電を成功させた平野彰秀さん。その様子はgreenz.jpでも紹介しました。また、こちらの記事で紹介した「郡上カンパニー」は、2018年4月から本格始動し、共創によって事業を生み出しています。

2人目は、「地域共創カレッジ」で共創できる人材を育くむ場をつくっている信岡良亮さん。詳しくは、こちらの記事で語っていただいています。

そして3人目は、広告会社で自治体のブランディングなどに携わりながら、旅をつくる社団法人を経営している岡野春樹さん。昨年は平野さんと一緒に、郡上カンパニーのディレクターとして、事業全体と、共創ワークショップの設計を行ってきました。

石徹白の平野さんの自宅で、ちゃぶ台を囲みながらリラックスした雰囲気で始まった鼎談。3人のこれまでの共創の経験に基づいたお話から、共創するうえでのマインドの核となるような概念的なお話まで、これから共創に取り組む人にぜひお伝えしたい内容がたくさん飛び出しました。

平野彰秀(ひらの・あきひで)写真中央
1975年岐阜市生まれ。東京大学工学部都市工学科卒、同大学院環境学修士。外資系経営戦略コンサルティング会社等を経て、2008年春、岐阜にUターン。NPO法人地域再生機構副理事長として、自然エネルギー導入と地域づくりに取り組む。2011年秋より、郡上市白鳥町石徹白在住。2014年春、石徹白農業用水農業協同組合を設立し、集落100世帯のほぼ全戸出資による小水力発電事業を立ち上げた。その模様は、映画『おだやかな革命』(2018年2月公開)で取り上げられた。
信岡良亮(のぶおか・りょうすけ)写真左
1982年生まれ。関西で生まれ育ち同志社大学卒業後、東京でITベンチャー企業に就職。 Webのディレクターとして働きながら大きすぎる経済の成長の先に幸せな未来があるイメージが湧かなくなり、2007年6月に退社。小さな経済でこそ持続可能な未来が見えるのではないかと、島根県隠岐諸島の中ノ島・海士町という人口2400人弱の島に移住し、2008年に株式会社巡の環を仲間と共に企業(現在は非常勤取締役)。6年半の島生活を経て、地域活性というワードではなく、過疎を地方側だけの問題ではなく全てのつながりの関係性を良くしていくという次のステップに進むため、2014年5月より東京に活動拠点を移し、 都市と農村の新しい関係を創るために2015年、株式会社アスノオト創業。
岡野春樹(おかの・はるき)写真右
1989年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、広告会社に入社。自治体のブランディングや、地方創生を中心とした官公庁の国内外の広報に携わる。また、日本を愉しむ関係性をつくる編集チーム「Deep Japan Lab」を立ち上げ、2017年に法人化。若者が日常で抱いた素直な問いを深掘る旅「日本みっけ旅」の運営を中心に、林業経営者の事業開発、地域の学校づくりなど、様々な学びと挑戦の場の編集を行う。2018年1月に第二子が誕生し、6月から家族4人で岐阜県郡上市に移住。逆算しすぎない直観的な生きかたを自ら実践している。慶應義塾大学SFC研究所 所員。

「根っこのある生き方を、つくる。」郡上カンパニーとは

今回の鼎談のテーマとなるのは、”都市と地方の共創”です。まさにそれに取り組んでいるのが、平野さんたちが始めた「郡上カンパニー」。石徹白がある郡上市と都市部をつないで共創を生み出しています。

平野さん “カンパニー”という言葉から会社を連想されることもあるのですが、郡上カンパニーは会社ではなく、「根っこのある生きかたを、つくる。」というコンセプトのコミュニティのことです。

もともと郡上に住んでいる人たちと、今は都会に住んでいて郡上と関わり合う人たちとが、ともにプロジェクトをつくって、これからの仕事や暮らしや生き方をつくっていけるような大きなコミュニティを「郡上カンパニー」と呼んでいます。

具体的な取り組みでいうと3段階あります。

1つめはローカルアイデア会議。地元の人たちが何か事業をつくりたいというアイデアを生み出す場です。

2つめは共創ワークショップ。都市の人がそこに参加して、その事業のアイデアが育っていく場ですね。

3つめが未来事業プロジェクト。郡上で何か始めたい人と、都会から飛び込んできて共同創業したい人とが、3年かけて二人三脚で事業をつくっていくというものです。

共創のプロジェクトを加速させるのは双方の絶妙なバランス

平野さん 昨年、郡上カンパニーの共創ワークショップで、事業をつくって提案することをしたのですが、その中のひとつに、“事業”ではなくて“授業”をつくるという提案をしたチームがありました。

当初は、桜の苗木を育てて販売する事業をどうつくるかという話だったんです。それが、郡上の中心にある八幡小学校の桜の木が枯れそうで、校長先生がなんとかしたいと言っているという話をたまたま聞いたことをきっかけに、最終的には八幡小学校の子どもたちのために、桜を通じた命の巡りとか自然の恵みについて考えるような授業をつくろうという提案に至りました。

その授業は小学校の根幹プログラムに導入されて、プロジェクトの期間が終了してからも、チームのメンバーは地域の人と関わりながら事業づくりをしています。

最終プレゼンでは、郡上市や郡上市民に向けて発表を行った

信岡さん そのメンバーだからこそ、生まれたプロジェクトってことですよね?

平野さん そうですね。そのチームのメンバーと、郡上側のプロジェクトパートナーの組み合わせでなければ生まれなかったと思います。

都市側としては、アーティスト、ジャーナリスト、広告代理店の人がいて、郡上側としては、地元で桜を守る活動を長く続けてきた建設会社の役員が参加しました。

岡野さん 通常、教育系のNPOなどが、どこかの地域の小学校に「教育プログラムを提供したいのでやらせてください」と提案しても、学校との関係づくりから始まって、導入までに数年かかると思うのですが、このプロジェクトがすんなり実現したのは、改めて考えると、何が違ったのでしょうね。

平野さん 郡上側の人と都市側の人のバランスがよかったのかな、と思っていて。

郡上の人に学びに行くという方が主になると、都会の人は郡上の人にお世話になって終わりになるだろうし、逆に都会の人たちが自分たちでいろいろやってみようというのが主になると、郡上の人たちはそれに振り回されてしまう。

桜プロジェクトは、お互いが個として尊重し、学び合っていく中で、一緒に物事を進めていくパートナーになることができたからこそ、新たなものが生まれました。

岡野さん なるほど。確かにそうかもしれませんね。

そのためには、お互いに肩書きとかではなく、一個人として浸りきってみるというのが大事なことかもしれないですね。

平野さん そのとおりですね。

”都市と地域をつなぐ”とか”関係人口”って、悪い言葉で言うと安易な考えだという見方もあって。どこでもやろうと思えばできるんだけれども、多くの場合、残念ながら一過性で終わったりとか、あまり実にならなかったりすることも多いですよね。

本当に共創が起きるためには何をすべきか、常に考えながら運営しています。その1つが「マイプロシート」。自分がどういうふうに育ってきて、将来何をやりたいかをシートにまとめ、共有し合います。参加者もスタッフも市役所の人まで全員が、自分の肩書きを外して共有するんです。

そうやって知り合うと、安心できる仲間になれる。それを郡上カンパニーでは「自分自身に根ざす」「仲間に根ざす」という言い方をしています。

理想的な共創とは何か

岡野さん お互いに尊重し合えるような関係に根ざした共創は、場の設計者の手から離れても勝手に続いていくもので、設計者のぬくもりというか、魂が入っている感覚がします。共創ワークショップから生まれた桜の授業のプロジェクトなどは、まさにそういう感じでした。

信岡さんは「地域共創カレッジ」という、まさに”共創”という言葉の入ったカレッジをやってこられたわけですよね。信岡さんにとって理想的な共創とはどんなものですか?

信岡さん 僕の中での共創は、お互いの花を咲かせやすい状態になるよう、土ができあがっていくっていうことだと思っているんです。

そう考えたとき、これさえすれば共創できるとか、これが共創のベストな事例ですということよりも、「その生態系の中でいつも同じ存在としている」っていうことの方が難しいと思っていて。

岡野さん 「生態系の中でいつも同じ存在としている」とはどういうことでしょうか。

信岡さん 「植物が自生する」っていう言葉があるじゃないですか。たとえば、ヒマワリが自生するとき、ヒマワリの種からはヒマワリの花が育ちますよね。

でも、人間って何にでもなれそうな気がして、自分以外のものになろうとするというのが結構あるな、と思っていて。共創するときには、自分のほどよい分のところにおさまっていくのが大事なんじゃないかと。

岡野さん なるほど。“自生する”っていう言葉がいろんな意味をはらんでいて面白いなと思うんですけど、自生することだけを考えるなら、一番効率のよいやり方は、もしかすると、手をかけず放っておくことなのかなという気もするんです。

でも、郡上カンパニーは決して放っておかない。僕らの共創ワークショップのようなことが“自生しやすい環境づくり”なのだとしたら、一体僕らは何に基づいてやっているんでしょうね。

信岡さん 自生というのは、関係性の網の目のなかでしかできないんですよ。種が土に落ちて、表面の皮が剥がれて、成長するにしたがって、土を介して水や栄養を得たり日の光を浴びたりしながら、植物は育っていきますよね。

それでいくと人間の場合も、最初の“個人”としての境目は必要なんだけど、途中からは、よりたくさんの関係性のなかでやりとりをしていくことで、初めて自生できるということになる。

平野さん 関係づくりということでいうと、郡上カンパニーでは「自分自身に根ざす」「仲間に根ざす」に加えて、「文化に根ざす」「自然に根ざす」ということも大切にしています。郡上で生きてきた人と関わったり、郡上の自然に身を置いたりすることによって、自分自身が解放されて、オープンになることができる。そこから、自分の心や直感に従った挑戦が生まれると思います。

岡野さん 都会の時間軸で考えると、どうしてもワークショップの最終発表でよいプレゼンをするために逆算し、川に入って自然と触れ合う時間などは必要ない、ということになると思うんです。

これは昨年の共創ワークショップのときに平野さんがおっしゃったことなんですけど、「ワークショップの目的は事業をつくることではなくて、人生を変える出会いをつくることです」と。

その関係性の中から何が生まれるかが大事だというお話で、それに納得して、あれこれ考えず、まずは郡上の川に飛び込んでみる人と、ずっと逆算を捨てきれず、自分に、仲間に、フィールドに浸りきれない人がいたような印象があります。

まず“私自身になる”ことが共創人材の第一歩

平野さん 僕らって、日々変わっていく。こうやって話していても、新たな気づきが生まれて、どんどんアップデートされていきますよね。

茂木健一郎さんが、「最高の創造性とは自分自身が変わることである」ということを言っています。

それでいくと、最高の共創は”双方が変わること”なのかもしれません。都市から来る人も郡上の人も、共創を通じて新たな世界が開かれるということなんじゃないでしょうか。

信岡さん そうですね。僕がなぜ「地域共創カレッジ」をやっているのかといえば、自分がアップデートされるからだと思っていて。

「地域共創カレッジ」は、都会と田舎がどうやったら素敵な関係をつくっていけるのか、双方が仲間として考えられるようにならないと物事が進まないな、という考えがベースになっています。

地域共創カレッジの様子。今後は、各地域と連携しつつ、オンラインで全国の受講生同士をつないだり、オフラインで各地域での実学をおこなったりするハイブリッド型の大学をめざす「さとのば大学構想」というのを進めている

信岡さん そのためには、都市と田舎をつなげられる“共創人材”が不可欠です。

岡野さん 共創人材を育てるにはどうすればよいのでしょうか。

信岡さん  まず“私自身になる”ということが大事です。

“お互いに自立した私たち”をつくるためには、“私”がいないと“私たち”になれないんですね。「なりたい私」がある人に対して、「あなたのための私」しかない人が支援者として外側から関わるという構図で、“支援する側”と“支援される側”になってしまう。だから、私が私でいることによって、あなたがあなたでいられる場所を確保する。

そのために、私というものは何なのか、私はどういうことが好きなのか、なぜそこにいるのか、ちゃんと出せる状態をつくるのがベースになります。

組み合わせで生まれる化学変化を楽しむ

信岡さん 共創は目的ではない。だけど、プロセスの間にずっと存在しているというか。土と果実の関係に似ています。

土はずっとあるもので、果実は瞬間ごとに実るものですよね。その土を耕したり肥料を足したりすることで、果実が実るための手助けをする。同じように、共創することで、成果を上げる助けとなる。

平野さん そうそう。共創という言葉を主眼に置いているけど、必ずしも共創を目的にしているわけではないんですよね。僕としては“化学変化を楽しむ”という言い方をしているんだけど、その組み合わせだから生まれるものがあるという可能性を信じているところがある。

平野さん 共創の結果はいろいろな形があるじゃないですか。人生が変わる人もいるかもしれないし、挫折する人もいるかもしれない。大きなものを得る人もいるかもしれないし、自分はこうじゃないと思う人もいるかもしれない。人によっていろいろだと思うんですけど、そういう化学変化が起きる場を期待しているのかな、という気がしますね。

新しい何かが生まれやすい場づくりのために

平野さん 僕らは場を用意する立場なので、郡上から参加する人と都市から参加する人が出会ったときに、何かが生まれやすい場づくりをしたいと思っています。

そのために、大切にしているのが”一人ひとりが素に戻れるようにすること”です。肩書きではなくて自分の意見や気持ちに基づいて語れるように工夫すること。

あとは、ワークショップを通じて仲良くなるだけじゃなくて、川で遊ぶなどして自然に浸ることで、よりよい関係性とか新しい化学変化とかが起きやすい場づくりにつながると思います。

郡上の自然・文化・ひとに浸ることが、感覚を研ぎ澄ます機会になる

信岡さん 参加者のパフォーマンスをあげるためには、“見守る”ということも大事にしています。”見張られている”感覚と”見守られている”感覚とはすごく違うと思っていて。あの人が会議に来ると参加者が発言しなくなるということってあるじゃないですか。

見守られているときの活動性ってとても高い。逆に、見張られているときは相当低い。いかに空気として“見守られている”という感覚を参加者が得られるようにしていくかというのは大事だという気がしています。

平野さん ワークショップでは、事務局としてもその人がどういうことを考えていてどういう人なのかということに、なるべく向き合いたいし、参加した人たちそれぞれがお互いのことを大事にできるような場づくりをしていきたいと思っています。そういう場づくりこそが、共創ワークショップなのかもしれないですね。

(鼎談ここまで)

鼎談の最中、「これは、今、○○さんの話に影響を受けて、考えながら話しているんだけれど……」という場面が多くあり、この鼎談そのものが共創的でした。三者三様に“化学変化“を楽しんでいらっしゃったのではないでしょうか。

このように化学変化を楽しめるのは、自分自身が外に向かって開いているからこそ。

共創ワークショップをきっかけとして、郡上の自然に身を浸し、安心できる仲間に出会えたら、心と感覚が開いて、自分の心に正直な選択ができそうな気がします。
それが、共創を通じて新たな世界に踏み出す第一歩なのかもしれません。

(写真: 逸見菜々子)

– INFORMATION –

共創ワークショップ2期生の募集スタート!

この記事で紹介した郡上カンパニーの共創ワークショップの2期生の募集が6月1日からはじまりました。
出会いが数多く生まれ、さまざまな化学変化が起こっているこのワークショップ。
昨年に比べてバージョンアップしたことをうかがったところ、今年は「遊ぶDay」という日をつくったのだそう。事業のことは一切考えないで、夜の川に入ったり、お祭りの輪に入って踊ったりと1泊2日で郡上の「遊ぶ」に全力で浸る贅沢な日なのだとか。

都市と地方をつないだ共創に興味がある人は、ぜひ飛び込んでみてください! 人生が変わる出会いが待っているかもしれません。

・説明会日程
6/20(水) 19:00-21:30 SHIBAURA HOUSE 5F(東京港区)
6/21(木) 19:00-21:30 なごのや(名古屋)
6/27(水) 20:30-22:00 オンライン説明会
6/29(金) 18:30-21:00 移住交流情報ガーデン(東京八重洲)

・WS日程(全5回)
第1回 7/14(土)- 16(月) 郡上
第2回 7/28(土)- 29(日) 東京
第3回 8/25(土)- 26(日) 郡上
第4回 9/29(土)- 30(日) 郡上
第5回 10/13(土)- 14(日) 郡上

・申し込み先:第2期 共創ワークショップ プレエントリーフォーム&説明会申込み
詳細はこちらからご確認ください。

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