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誰かに任せるのでなく、自分の「やってみたい」の種を育てる。 わたしらしく暮らせるまちを、みんなでつくる「としまぐらし会議」とは?

自分の暮らす街で、やりたいことを実現する。
当たり前のことのようですが、実は意外と実践している人って少ないのではないでしょうか。

たとえば、子どもの遊び場をつくったり、空き家を活用してみたり…。もちろん友だちと取り組むのも楽しいですが、同じ街に住む人たちとできたら、住み心地がよくなり、安心感にもつながるはず。

でも、何から始めたらいいか分からない。そんなあなたのヒントになりそうな会議が、東京都豊島区で開かれました。その名も「としまぐらし会議」。チームを組み、4か月でプロジェクトを立ち上げて形にしていくというもの。どんな会議だったのか、さっそく見ていきましょう。

コンセプトは「わたしらしく暮らせるまちを、みんなでつくる」。

「としまぐらし会議」は、豊島区で暮らす人や働く人、行政や企業、学校など、さまざまな立場の人たちが集まり、「わたしらしく、暮らせるまち。」を実現するために話し合う場です。ワークショップ形式の会議で2017年11月から2018年2月まで月に1度、全部で4回開かれました。

今と10年後の未来を重ねて、アイデアを練る。

2017年11月におこなわれた第1回目は、30人の定員に対して55人もの参加者が集まりました。豊島区に住んでいる人、働いている人、通学している人など、肩書も世代もバラバラ。多様なメンバーで賑やかな場となりました。

とは言え、いきなりプロジェクトを立ち上げるのは難しいので、まずはすでに豊島区で活動している4人をゲストに迎えて話を聞くことに。

ゲストとして参加したのは、シェアハウス「Ryozan Park巣鴨」と託児所つきシェアオフィス「Ryozan Park大塚」を運営する竹沢徳剛さん、椎名町で世代・福祉の出会う場「長崎二丁目家庭科室」を営む藤岡聡子さん、NPO法人「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」理事長の栗林知絵子さん、「としま会議」発起人で「都電テーブル」などを運営する青木純さん。

4人が今取り組んでいることを聞いた後は、今の自分を見つめなおすとともに、10年後に見たい街の風景・未来を考えました。

年齢や住まい、家族・世帯、仕事、そして豊島区での活動や関わりについて、今の自分を振り返り、さらに10年後の未来を想像してみます。「公園がきれいだったらいいな」「道で挨拶できたらいいな」「大きな図書館があったらいいな」「街のなかに畑があったらいいな」。10年後に豊島区で実現したいと願う、たくさんのアイデアが上がりました。

街の未来像が見えてきたら、今度は「ほしい未来を実現するために、豊島区で自分が取り組んでみたいこと・やってみたいこと」を考えていきます。「花壇をつくりたい」「フラッシュモブをやってみたい」「子どもと一緒に仕事をしたい」。街の未来と自分の未来を重ねることで、より具体的な意見が出てきました。

もともと参加者の中に「やってみたい」「こうなったらいいな」という思いがあったものの、なかなか実際に「やってみよう」と思える場や機会はありません。まずは声に出してみることで、実現に一歩近づいていくのだと気づきました。

グループに分かれて、お互いの思いを共有。

「わたし」から「わたしたち」へ。

こうして「わたし」を見つめたところで、次は「わたしたち」に視野を広げていきます。第2回目ではいよいよチームを結成。「としまぐらし会議」はそのチームづくりが少しユニークでした。

というのも、あらかじめ主催側がテーマやチームの人数、メンバーを決めることもありますが、今回は参加者が自らチームを決めることにこだわったそうです。

その方法は、まず参加者全員、一人ひとりが取り組んでみたいテーマを発表。そして自分のテーマと似ているなと思ったらその人に近づいていき、最終的に近くにいる人たちと確認し合ってチームを結成する、という流れ。

この方法でチームができるのか、地域課題や区の政策と大きく離れたテーマが出るのでは、と思われるかもしれませんが、結果は実に個性豊かな9つのチームが誕生しました。

取り組んでみたいテーマを書いた紙を掲げて発表し、自分と近いテーマの人とつながっていく。

チームを組んだらさっそくプロジェクトの名前と概要を決め、大枠をつくっていきます。プロジェクト内容を詰めていくときに鍵となったのは、「自分たちの周りに、または豊島区にどのようなよい影響を与えるのか」「どんな課題につながり、どのように解決していけるのか」という2つの問い。

「わたし」のまわりには「わたしたち」があり、その先には「豊島区」という街がある。さらに「東京」や「日本」へと広がる。そうした視野の広がりを意識することも、プロジェクトを立ち上げるときには大切です。

そのヒントとして、豊島区の現状について学ぶ時間がありました。豊島区は人口密度が日本で一番高いこと、東京23区のなかで一人あたりの公園面積が最も少ないことなど、豊島区が抱える課題や未来に向けたまちづくりなどを学び、プロジェクトに活かしていきます。

最後にプロジェクト名と内容を発表し、第3回目は話し合いを通してさらにプロジェクトを深め、形にしていきました。

チームに分かれてプロジェクトをつくっていく。

みんながやりたいことを「邪魔しない」。

「としまぐらし会議」のファシリテーターを務めた「古瀬ワークショップデザイン事務所」の古瀬正也さんは、ワークショップをつくる上で「邪魔しないこと」を意識したと言います。

古瀬さん これまでも街について考えるワークショップを担当したことがありますが、行政主導だと一方的に決めてしまうことが多いなと感じていました。「子育てについて考えましょう」とか「5人ずつの4グループに分かれましょう」とか。参加者一人ひとりの中にはすでに種があり、それが育つようにサポートすることが理想的なのでは、と思っています。

「古瀬ワークショップデザイン事務所」の古瀬正也さん。

プロジェクトの概要については、2月に開かれたピッチイベントで発表されました。会場には豊島区長をはじめ、区役所や区内企業関係者、また住民も聞きに来ていました。

ピッチイベントは池袋にある「自由学園明日館」で開催された。

今回は特に共感を得ていた2つのプロジェクトを紹介しましょう。

池袋はブルックリンに似ている? 「池ブルックリン」

まず一つ目は、「池袋」と「ブルックリン」をかけ合わせた造語「池ブルックリン」を合言葉に、冊子を製作するプロジェクト。

杉江美樹さん 池袋は外国人など多様な人が集まり、ニューヨークのブルックリンに似ているなと思いました。はじめは「豊島区に集まる多様な人」に注目していたのですが、チームで話しているときに、住んでいるのに知らなかったことが多いと気づいて、「豊島区に暮らす、普通の人の普通の暮らしこそが多様でおもしろいのでは?」という話になりました。

また、チームのメンバーに漫画家や編集者、広報のプロフェッショナルなどが集まっていたことから、冊子をつくることになり、さっそく0号を作成してみました。今後は創刊号をつくったりウェブでも展開したりしていきたいと考えています。

プレゼンを受けた後、豊島区役所の職員からは「冊子の配布をぜひ協力させていただきたい」といった声が上がり、心強い連携が生まれそうです。

「池ブルックリン」チームでは、すでに冊子のプロット版を作成。

現在は創刊号の作成も進めていて、クラウドファンディングで製作費を募っています。

街の人とつながる鍵は味噌?「みそのわ」

もう一つは、「街の人とつながる場がほしい」という意見から生まれたプロジェクト「みそのわ」。

メンバーのひとり、藤田奈津子さんは「豊島区が最近おもしろそうだと思って引越した」のだそう。

藤田さん 「としま会議」とかやっているのを知って興味を持ち、豊島区に住むことにしたのですが、なかなかプロジェクトをする側になる機会がありませんでした。そんなときにこの「としまぐらし会議」を知って、「これだ!」と参加を決めました。

「としまぐらし会議」は、「街で何か取り組みたい」と思っている人にとって、始めるきっかけや仲間を見つける場となっているようです。

藤田さん 豊島区は日本一、人口密度の高い街ですが、地域の人とつながる機会がなく、世代を越えて集まれる場をつくりたいと思いました。そこで思いついたのが、味噌づくりワークショップです。味噌は世代を越えて楽しめるし、1年を通して育むことができるので、ぴったりだと思ったからです。

3月にワークショップを開き味噌を仕込んだら、7月に天地返し(味噌の上部と下部を入れ替えて均一に発酵させること)をおこない、10月に試食会を開こうと考えています。それに、一緒にワークショップをした人と街で会ったときに「お宅の味噌、最近どうですか?」という会話の糸口にもなれば、と思っています。

プレゼンを聞いた人からは「レンタルスペースを運営しているので、場所が必要なときは貸しますよ!」といった応援の声が上がりました。

「みそのわ」チームによる、プレゼンテーションの様子。

各チームへ、発表を聞いた人からたくさんの意見・感想が出た。

ほかにも、豊島区内にある公園の空いたスペースに小さな農園をつくり野菜を育てるプロジェクトや、子育てに関わる人・関わりたい人すべてを対象にした、子育てに関する情報共有の場をつくるプロジェクト、経験を通して豊島区のファン「としまっこ」を増やすプロジェクト、街中にベンチを設置し、アーティストにデザインをしてもらうプロジェクトなど、さまざまなテーマのプロジェクトが生まれました。

プロジェクトが継続していくために。

ピッチイベントの帰り際、発表を終えて達成感に満ちた表情を浮かべる参加者に対して、発起人であり豊島区の「わたしらしく、暮らせるまち。」推進室長の宮田麻子さんは「出しきった感があるけど、実現に向けてこれから一緒にやっていこう」と声をかけていました。

宮田さん 今日は思い描いていたものが回を重ねて実現できてうれしい半面、達成感に浸っていてはだめだ、とも思っています。提案から先が重要なんですよね。

かつて外資系メーカーやマイクロソフトに勤めていた宮田さん。企業と行政の両方を経験しているからこそ、見えている景色や実現への難しさを感じているようです。

豊島区「わたしらしく、暮らせるまち。」推進室長の宮田麻子さん。

宮田さん 住民と行政や企業や大学など異なる立場の人々が垣根を越えてフラットに交わることは、今まであまりなかったように感じています。やってみて分かったのですが、それは大変だからだと思います(笑) 住民目線でみても、企業目線でみても、行政目線でみても、新たなチャレンジ。

その際に、どこまで用意して、場をつくりこまないかを意識しました。参加者を信じて委ねようと。その分、プロジェクトが形にならないかもしれないとか、政策とかけ離れたプロジェクトができるかもしれないとか、どうなるか分からないという不安もありますよね。でも押しつけでなく、自発的に生まれるものの方が、実現性や持続性が高いと思うのです。

今日はみなさんのパッションをとても感じました。そして何よりこの会議を通じて生まれた参加者同士のつながりも大きな成果の一つかと思います。今後これらの輪が広がり、実現に向けて育つように、その役割を果たしていきたいと思います。

「としまぐらし会議」の参加者とスタッフ。発表を終えて、みんな晴れ晴れとした表情。

「『としまぐらし会議』は今日で最後ですが、『としまぐらし』は今日がスタートです」と宮田さんが言うように、まさにこれからがプロジェクトのはじまり。植物が育つように、プロジェクトもみんなで水を与えて育てていかなければ芽は伸びていきません。なかには行政や企業のサポートで大きく育つ芽もあるでしょう。

もし豊島区を訪れたときに「なんだか暮らしやすそうな街だな」と感じたら、それは「としまぐらし会議」で生まれた種が育っているからかもしれません。そして、その種は、どの街でも育てることができます。まずは今の自分を見つめることから始めてみませんか?

(写真: 栗原論)