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正しさだけじゃ社会課題は解決できない。別の答えも見つけよう。 世界中から痛快なグッドアイデアが届く「カンヌライオンズ」から学べること。

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思わずタイトルに驚いてしまう、昨年のこの記事、みなさん読んでいただきましたか?

FacebookとInstagramの規約では、胸があらわになった女性の写真は削除対象になっていますが、こちらはそれを逆手にとったドイツの乳がん撲滅キャンペーンを紹介した記事です。

17人のモデル女性が胸をあらわにした写真と共に、乳がんのセルフチェック動画へのリンクを貼った「CHECK IT BEFORE IT’S REMOVED.(削除される前にチェックして!)」というメッセージを投稿。FacebookとInstagramはすぐに削除を開始しましたが、瞬く間に拡散されたため、逆に注目が高まることになりました。

このユニークなキャンペーンは、「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(以下、カンヌライオンズ)」の2016年受賞作です。

カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルって?

「カンヌライオンズ」は、毎年6月、カンヌ国際映画祭の後に、フランスのビーチリゾート、カンヌで開かれる世界最大規模の広告・コミュニケーションの祭典です。大衆向けの娯楽として映画が全盛だった時代に、映画と共に放映される劇場コマーシャルのコンクールとして生まれ、1954年からは「カンヌ国際広告祭」として独立して開催されるようになりました。

やがて、企業のコミュニケーション活動が広告だけにとどまらなくなったことを反映し、2011年からは、「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」に名称が変更。現在では、全21部門、40,000点を超える作品が応募される一大グローバルイベントとなり、広告業界を超えて、さまざまな業界から注目されています。

たとえば、みなさんもテレビCMでおなじみのJR東日本「行くぜ、東北。」は、東日本大震災の復興支援キャンペーンとして生まれた、2015年のカンヌライオンズ金賞受賞作品です。

そんなカンヌライオンズを受賞した、社会に対して問いを投げかける作品を連載しているのが、「カンヌで発見!世界のGOOD IDEA」。2009年より、シニアライター丸原孝紀さんが続けてきた人気企画です。これまで96本もの記事を発信し続けてきた一方で、カンヌライオンズを紹介・発信していく意義や、そもそもの話についてじっくり紹介する機会がありませんでした。

そこで今回は丸原さんと、連載をサポートしてきたgreenz.jp副編集長スズキコウタが、改めてカンヌライオンズとは何なのか、そして、greenz.jpがカンヌライオンズの連載を読者のみなさんにお届けする想いについて語り合いました。

丸原孝紀さん(左)とスズキコウタ(右)

丸原孝紀(まるはら・たかのり)
greenz.jpシニアライター
1976年京都生まれ。コピーライター(東京コピーライターズクラブ会員)。企業に社会貢献型のコミュニケーションを提案するとともに、NGO/NPOのクリエイティブを積極的にサポートしている。社会課題を解決するアイデアを提案するプランニング・ユニット「POZI」のプランナーとしても活動中。
・POZI http://pozi.jp
・東京コピーライターズクラブ http://www.tcc.gr.jp
・SOW!政治 https://www.facebook.com/sow.seiji/
スズキコウタ
greenz.jp副編集長、ミュージシャン
1985年生まれ。greenz.jpの記事企画・マネージメントの責任者をつとめる一方、ライターインターンを数多く育成。現在は、自らのビジョンを表現し波及させていける人びとを育成するため、「作文の学校」の講師を日本各地でつとめる。「2kai Productions」のメンバーとして、ミュージシャン・選曲家・フリーランスエディターとしても活動中。

重たい社会課題を楽しく解決!ブラジルのキャンペーン「地下鉄の缶ビール改札」

コウタ greenz.jpで初めてカンヌライオンズの受賞作を紹介したのは、2009年7月2日でしたね。

当時の代表的な記事には、ネットオークションのeBayでたくさんの女性をダミーで出品し、人身売買を訴える「EBAY ATTACK」や、スタジアムの座席など男性の股間があたる場所に、そっと手を添えるようなビジュアルを描いた、睾丸ガンのセルフチェックの普及を目指した「CHECK THEM」などがありました。

女性を買うことは簡単なことです。そして、何かのかたちでそれに反対の意志を示すこともまた簡単なこと。アムネスティのウェブサイトで署名しましょう”というメッセージが書かれた人身売買の禁止を訴えるアムネスティの広告。

マケドニアで実施された睾丸ガンの啓発広告。“かんたんな自己検診で、睾丸のがんを見つけることができます。勇気を出して、アソコをチェックしよう”というメッセージが書かれています。

丸原さん 当時はせっかくgreenz.jpで紹介するなら、エッジが効いていて、正しいことでも面白くできるんだという事例の発信に意義を感じていたので、あえてやばいものを出してましたね。

コウタ 過去のカンヌライオンズの作品で、現在の丸原さんに影響を与えているような受賞作はありますか?

丸原さん いつも思い出すのは、2013年の「地下鉄の缶ビール改札」ですね。ブラジルの人たちが熱狂するリオのカーニバルで、期間中の交通事故の増加が問題になっていて、飲酒運転をなくすために、ビールの空き缶が地下鉄の切符代わりになったというブラジルのキャンペーンです。

飲酒運転に楽しくサヨナラ!リオのカーニバルで活躍した、地下鉄の「缶ビール改札」[Cannes Lions2013]。写真の右が缶ビール改札。

丸原さん 飲酒運転から人の死につながる事故を防ぐことができるし、空き缶が切符になるのでゴミも減るし、ビールメーカーのPRにもなる。

コウタ そんな素敵な取り組みをしてると、そのブランドのビールを飲もう! と思いますよね。それにすごく手が込んでいて、Suicaみたいに空き缶で地下鉄のゲートが開く仕組みまでつくっちゃったんですよね。

丸原さん そうそう。ビールを飲んで無料で帰れるし、いろんな意味でみんなハッピーになるよね。社会課題に底抜けに明るく取り組みながら、飲酒運転の防止という重たいテーマを楽しく解決した、ひとつの象徴的な事例ですね。

NPOだけでなく、行政も電鉄会社もビールメーカーも協力して、いろんなセクターが一緒になって取り組んでいるところもいいなと。思い切った表現には法律的な問題が立ちはだかることが多いんですけど、南米は受賞作を見る限りゆるい印象がありますね。

ほしい未来をつくるためのヒントを見つける

−− おっぱいシェアから缶ビール改札まで、思わず唸ってしまうほどのアイデアが詰まったカンヌライオンズ。ところで、カンヌライオンズでは、毎年1,000を超える受賞作が選ばれています。その中から、丸原さんは、どのようにgreenz.jpで紹介する作品を選んでいるのでしょうか?

丸原さん greenz.jpの読者や草の根で活動している方にとって、何かヒントになればというのは考えていますね。これだけお金と人を使ったらそりゃメディア動くよねとか、こんなハイテクノロジーがあればなんとかなるわーみたいな受賞作もいっぱいあるわけですが、そういうのはgreenz.jpっぽくない。

コウタ greenz.jpのコンセプトは「ほしい未来は、つくろう」なので。自分が身近な社会課題を見つけて、それを自分のキャパシティで良くしていこう、という感覚なんですよね。だから、あまりにドラスティックな変化を生み出そうとしていることや、「これは真似できない手法だな」と思われてしまいそうなものは、ふたりで「これは違うかもね」ってリストから外しますね。

自分でも思い浮かべられるか。なんか楽しくいいことやってみよう、と思ってもらえるような読後感を残すのは大事にしています。

丸原さん 読者がカンヌライオンズの作品に出会って、現実に絶望するのではなく、自分ならこうすると動き始めてほしい。そして記事がそのヒントになったらいいなと意識してgreenz.jpの記事を書くようになりました。正しいことでも、斜め上からのアイデアがあった方がやっぱりこれからっぽいし。「睾丸ガン撲滅のために募金しましょう」という活動を否定するつもりはないですが、なにかクリエイティビティがあったほうがいい。

あまり恐怖を与えちゃうと、人は見たくない、考えたくないという心理がはたらいちゃうんですよね。たとえば、車の免許更新に行くと、いつも事故を起こして大変なことになっちゃいました、という怖い映像を見せられるでしょう? あれをみると、あまり車の運転をしない方がいいのかな、と後向きな気持ちになります。

“コミュニケーションデザイン”が評価される時代へ。

2000年頃から、カンヌライオンズに注目するようになった丸原さん。広告制作者として新しい表現を学びたいという思いからチェックしはじめ、次第に社会的意義を意識するように丸原さん自身のまなざしが変わり始めたのと同時期に、カンヌライオンズもまた変わり始めます。

インターネットやSNSなどインタラクティブなメディアが生活に定着するにつれて、イベントやPRのコミュニケーション手法も拡大しました。それまでは、EBAY ATTACKやCHECK THEMなどの作品に見られるように、“市民に気づきを与える”啓発を目的としたキャンペーンが中心でしたが、2010年代からは、カンヌライオンズの受賞作の評価軸が啓発や気づきから、“いかに人を巻き込むか、コミュニケーションをどうデザインするか”といった方向にシフトしていったのです。

たとえば、この頃の代表的な受賞作が「ブーブーでリンリンってあぶないもん! 子どもたちの歌声で運転中の通話をやめさせる「VROOM RING BOOM」」。

グアテマラの通信会社が行った自動車運転中の携帯電話使用の危険性を訴えるキャンペーンです。「VROOM RING BOOM(ブーブーでリンリンって危ないもん!)」という振り付きの子どもたち向けの楽曲をつくり、学校やテレビ番組に提供。カワイイ! とSNSでも拡散され、やがてグアテマラのすべての公立学校のプログラムとして採用されました。こんなにかわいい声で子どもたちに歌われたら、親も安全運転しなきゃ! と思わざるをえませんね。

コウタ ちょっと想像力を発揮して、アイデアと人の巻き込み方を工夫することで、社会課題と向き合ってみようよ、という成功事例ですよね。

丸原さん こんなんで社会は変わらないよ! というと、もちろんそうで。これで制度や仕組みを変えるのは難しい。でも、人の心理をうまく使った仕掛けのつくり方が重要で、身近なところでたくさんの人の行動を変えていくこともどちらも大事ですよね。

カンヌライオンズでも、2010年代には、「ソーシャルグッド」や「ソーシャルチェンジ」が提唱されるようになりました。やっぱりそうやって社会課題を広めていくことがクリエイティビティのひとつの役割なんじゃないかな。

コウタ たしかに、そういうシフトが進んでいる実感はありますね。

丸原さん たとえば、病気を治すためには薬がいるし手術も必要。それはすごく大事で否定しないけど、一方で、生活習慣や心の持ちようで病気にならないようにすることも大事ですよね。社会課題の解決でも、制度を変えたりすることも大事ですが、表現やクリエイティビティで人の気持ちや行動を変えたりすることで、前に進むところがあるんじゃないかと思いますね。

普段エンターテインメントを楽しむのと同じように、社会課題に触れる。そんな接点がもっとあるべきだなあと。それに、思い切ったアイデアによるブレイクスルーの事例は、思考停止しないヒントにもなります。なるほど、こういう意外な解決策があるのか! という驚きが、刺激になるんですよ。

クリエイティビティ=想像力。正しいだけじゃない、別の答えを見つけてみよう。

現在は、コピーライターだけではなく、社会課題を解決するアイデアを提案するプランニング・ユニット「POZI」のプランナーや、ソーセージをつまみながらゆるく政治を語り合うイベント「SOW!政治」など、さまざまな社会活動に取り組む丸原さん。どの活動にも、ちょっとした“クリエイティビティ”を意識しているといいます。

丸原さん 社会的なコミュニケーションの場合でいう“クリエイティビティ”って、無理やりやらせるのではなく、「自分からやらなきゃ」「やりたいな」と思う気持ちを起こさせるものだと思うんですよ。ものを売る広告もそうですが、「これ買って!」じゃなくて、「買いたい、買わなきゃ」という気持ちにさせるためのアイデアが形になったものが理想的なコミュニケーション。

コウタ BeGood Café(*)の「素敵ないいこと、はじめよう」みたいに、社会や地球にとって素敵なこと、ソーシャルグッドなことが楽しいからやりたくなっちゃう仕掛けをつくったり、発信する。そうしてムーブメントが大きくなっていく感じですよね。丸原さんの活動には、そんなスピリットの伝承を感じますし。
(*)1999年にgreenz.jpファウンダーのシキタ純が始めた「もっと素敵な社会と生き方」について共に考える”コミュニティ・カフェ”イベント。食・農・環境・貧困・平和など、さまざまなテーマでこれまで99回のトークイベントを開催。3/25には、100回目のイベントを開催予定。

丸原さん BeGood Caféのスタンスからは私も大いに刺激を受けました。今まで「反対反対!」というシュプレヒコールでなんか変革は起きたのだろうか。むしろ「YES!」と言うことで変わっていこうよ、という考えは今に至るベースになっています。

連載を始めた当時、菜央さん(greenz.jp編集長)やYOSH(元greenz.jp編集長)とも、そうしたスタンスというか目指すところについて話したのを覚えていますが、その思いは今も変わっていません。社会活動をはじめた原点でもありますね。やっぱり正しいことを伝えるにしても、肩の力を抜いて受け取ってもらえたら、というのはいつも考えています。

コウタ まあまあ肩の力を抜いて、視点を変えてみようと。こんな考え方、答えの導き方もあるんだね、と思わせるアイデアがありますよね。カンヌの受賞作には。

丸原さん カンヌは出品料がすごく高いんですよ。定量的に測りづらいクリエイティビティのショーケースとして、広告代理店が高いお金を使って賞狙いの作品をつくって出品することも多々あります。でも、お金をかけて目立つものが、必ずしも優れたものだとは限らないですよね。

たとえば音楽の世界でいうと、必ずしもバカ売れしているものがクリエイティビティが高いかというとそうではなくて。チャートにはランクインしてないけどみんな歌ってる曲みたいなのもあるじゃないですか。そういう、カンヌでは取り上げられなかったけど、世の中的にはこれの方がいけてるよね、みたいな事例がいっぱい出て、greenz.jpで紹介できるといいですよね。

コウタ たしかに。それが僕らのこの連載の次の役目かもしれないです。そしてゆくゆくは、greenz.jpのカンヌライオンズの連載を読んで、こんな企画を考えてみました! という声が届くと嬉しいですよね、僕らは。

(対談ここまで)

来年、連載10年目を迎える節目を目前に、あらためてカンヌライオンズの受賞作を読者に届ける想いについて語り合った丸原さんとコウタ副編集長。

私たちが毎日見聞きするニュースや情報、そして、世間の空気感。実は、それは誰かの意図や仕掛けによってデザインされていることもあります。

押し付けではなく、自然に心や身体が動き出したくなるようなグッドアイデアは、社会課題の解決においてはとくに重要です。コミュニケーションデザインやクリエイティビティというと、難しく聞こえるかもしれませんが、その心はちょっとした“想像力”。答えはひとつとは限らないし、もうひとつの別の答えを見つけてみるのもいいかもしれません。

全国の書店員さんが選ぶ「本屋大賞」が出版業界に新しい流れを生み出したように、私たち自身が選ぶ“ソーシャルグッド版カンヌライオンズ”がいつか実現できたら嬉しいですね。

(写真: 杉本有紀、中野洸也、佐藤庸子)
(編集協力: 中野洸也、佐藤庸子)

– INFORMATION –

4/7(土)スタート! 丸原さんもゲスト講師として参加! 書くことを学べば、ほしい未来の実現に近づく。文章力アップゼミ「グリーンズ作文の学校・第4期」

月間30万人が訪れるgreenz.jpの副編集長スズキコウタによる「グリーンズ作文の学校」。greenz.jpに掲載する全記事の校正に関わる副編集長と、編集デスク・向晴香が講師をつとめる本ゼミクラスは、これまで全期満員御礼、総受講者数100名突破、地方から開催要請もある人気ぶり。この度、豪華ゲスト講師を迎えて、第4期の申し込みをスタートします! お申込みはお早めに!
https://greenz.jp/event/sakubun_zemi_04/

– INFORMATION –

斜め上の面白アイデアが集まった!カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルの連載はこちらから。


https://greenz.jp/project/cannes_lions/